閑話--副団長の休日
「で、また俺ですか」
「いいじゃないの…付き合ってよ…せっかくの休みの日だって言うのに 視察に行ってこい って凄まれた俺、かわいそうじゃない?」
いつもよりかなりラフな服装のイヴァンに、ルチアーノはため息を吐く。何が悲しくて男2人でこんな洒落たカフェで甘いものを食さねばならないのか…。自分も最近はほとんどイヴァンに付き合わされている。学生代表として帰国する際に、学園側からは大量の課題を出されているのだ。カイゼルやイヴァンは公務があるため免れているが、単なる留学生に過ぎないイヴァンにはその課題が重くのしかかっている。
「…まあ、エレノアのことですから、関係なくは無いので付き合いますけどね…」
「よし、じゃあ好きなの頼めばいいよ」
「んん…とはいえ俺も甘いものが大好きというわけでは…」
周りを見渡すと、カフェに来ている女性客はこぞって同じものを頼んでいるようだった。
「デザートプレート?いろんな種類が一皿に持ってあるんだってさ。ここの名物らしい」
「ちゃんとリサーチして来てるなら現地の視察必要ないんじゃないですか?」
「そんなことはないさ。席数やら客席の向き、店員の雰囲気なんかは実際に来ないとわからないだろ?さては君、デートしたことがない?」
「…まだ婚約者がいないので…ありませんけど」
店員に声をかけ、ルチアーノはデザートプレートを頼む。イヴァンはチョコレートケーキとスパークリングワインを頼んだようだ。また酒か、というつぶやきを飲み込む。
「それも不思議だね、エレノア嬢が王子と婚約したのはまだ子供の頃なのに、兄の君はまだ婚約者が決まってないなんて」
「…まだ未熟なので、俺はまだ女性に贈り物とかそういう事に時間を使える自信がないんですよね。まあ、最悪俺1人でも養子を迎えてもいいし、王国では女性と違って男は未婚でもなんとかなるもんですからね。父も俺にはまず領地経営を、と言っていますし。」
「ふーん。君んとこのご両親は良くも悪くもエスメラルダの貴族、って感じだね。」
「確かに…帝国では女性領主も増えてますからね。正直自分よりエレノアの方が向いているんじゃないかとすら思います。」
帝国では今の時代、男であろうと女であろうと、長女でも次女でも――優秀な者が家の跡継ぎとなるのが主流となっていた。対して王国は未だに嫡男には家を継がせ、領地を納めさせる。貴族の家に産まれた女性は結婚して家と家を繋ぐのが役割。
例え本人が全く領地経営に向かなくとも、嫡男である為に家を継ぐことを強いられる。
「もし女しか産まれなかったとしても、親族から男の養子を取るか、長女の結婚相手に跡を継がせるんだろう?王国の女性は大変だよなあ。――まあ、エレノア嬢がこちらに来てくれるのなら、俺は嬉しい限りだけどね。」
イヴァンはため息をついた。―――ただいつになったら2人の仲が進展するのか、と心配ではあるが。
「エレノアはあの環境でよく腐らず学び続けたなと感心します。王妃になるんだと思ってたのになあ…」
「王妃には、なるよ」
「……そう、ですね…」
ただでさえ何を考えているのかわからなくなるイヴァンの笑みがさらに深くなった。
きっとこの人にはもう見えているのだ、とルチアーノはため息をついた。
「それにしても君たち兄妹ってほんっと……凄まじく真面目だね。領地経営だとか親の期待だとか、そんなものに時間を使っていると、あっと間に年をとって、気づけば独りぼっちだよ。」
「…それご自分のことおっしゃってます?」
「あ~~、失礼だよね、俺もまだ未婚でもおかしくない年だからね…?まあ確かに婚約者はいないんだけど…そもそも殿下が落ち着かないと俺も結婚なんてできないでしょう…。でも、俺もたまにはデートとかしたいなあ〜帝国の女性も嫌いじゃないけど、王国の女性も可愛らしくて守ってあげたくなるよね。」
「まあ、そんなもんなんですかね…」
「そんなもんだよ。あ、きたね」
給仕が運んできたデザートプレートはルチアーノの目の前に置かれる。色とりどりの小さなケーキやゼリーなど、確かに女性が喜びそうだとルチアーノは妹たちの反応を想像する。
「シャーロット嬢なんかはすごく好きそうだよね、こういうの」
「あいつはわかりやすく可愛いものが好きですからね、エレノアも甘いものは好きなので、喜ぶと思いますよ」
良かった、とイヴァンはスパークリングワインを煽った。
「…いつも飲み過ぎじゃないですか?まだこんなに明るいのに…デザートくらい紅茶と楽しめばいいのに」
「こんなに明るいから美味しいんでしょうが…。大人ぶっちゃいるけど君もまだまだ子供だね〜。」
とは言っても4、5歳しか離れていないはずだが、美味しそうにグラスを傾ける姿にルチアーノはそっとため息をついた。
ひとくち食べると、ふわりと甘さが広がる。いかにも女性向けに見えるが、こってりとした甘さではない。一つ一つのデザートに細やかな香りや風味があり、せっかくなのだから酒で流さなければいいのに。そう思う自分はやはり子供なのだろうか、ともやもやと考えてしまう。
「まあまだ子供なんだからさ、もう少し自分のことにも気を向けたらいいんじゃない?確かに君の妹「たち」は手がかかって心配かもしれないけどね。」
じっと考え込むルチアーノの様子を感じ取ったのか、珍しく真面目な様子のイヴァンである。
「…別に、ちゃんと自分のことも考えてますよ。ちゃんと学んで、いい領主になります。」
「マジメだねえ、」
笑いながらイヴァンはチョコレートケーキを一口頬張る。
「あっまいな〜」
ぐっと喉を熱くする甘さに、イヴァンは手元のワインの残りを一気に煽ったのだった。




