殿下とお忍びデートのようです 3
*********
デザートを食べ終え、紅茶のお代わりを頼む。
食べなれたケーキもあれば、初めて食べるものもあり、女性に人気だというのもう頷けた。きっとシャーロットも気に入るだろう。
「――そういえば、エレノアは馬車の中でイヴァンの家の領地について詳しかったが、どこでそれを?」
紅茶のカップを持つ姿はさすがというべきか様になっており、気品が隠しきれていない。
「…元々帝国の主要な貴族とその領地は王妃教育の時に見た資料に入っていたんです。ただ、少し見た程度だったので、カイゼル様からお話をいただいた時に改めて新聞や過去の資料を勉強しました。」
「そうだったのか…。君は勤勉だな。感心するよ。」
「いえ…すべて覚えているわけではありませんし、イヴァン様のご実家は帝国でかなり大きな領地と特産をお持ちだったので…。」
「十分立派だと思う。エレノアのそういう所が、俺は好きだ。」
紅茶を置いたカイゼル様の手が、私の頬に触れた。
「あっ……新聞は兄が持ってきてくれたものでしたし…!他国の方とお話をするのにきちんと調べてお話をしなければ失礼ですから…」
「うん、そういうところだ。…こういう時は素直に褒められておけばいい。」
直接「好きだ」といわれたことに顔が沸騰しそうな熱さだ。顔の熱のせいでカイゼル様の手がひんやりと感じる。甘い空気に、どうもそわそわする。
「…ありがとう、ございます。」
「エレノアの謙虚なところはもちろん魅力だが、もっと自信を持ってもいいのにな。」
「…そうでしょうか。自信なんて、そんな。…帝国にはもっと、自信があって努力家で、美しく聡明な方々がたくさんいるでしょう。」
カイゼル様との時間はすごく楽しいし、今までにない胸の高鳴りを感じるけれど、彼の手を取ることは「帝国の王妃」になるということだ。カイゼル様は嫡男でらっしゃるから、このまま何事もなければ立派な王になるだろう。私はその横に立てるだろうか――。
「俺は君がいたから、王になる決意ができたんだ。あの時の小さなエレノアの頑張りが、今の俺を作っているといっても過言ではない。――確かに帝国には魅力的な女性も多いだろうが。…俺はエレノアがいい。…エレノアじゃないと嫌だ。」
カイゼル様の薄灰色の瞳にまっすぐ私の姿が映っている。
「…カイゼルさま…」
カイゼル様はどうして、私の欲しい言葉がわかるんだろう。
「答えは急がなくていい。ただでさえ俺はこのチャンスが来るまで10年待ったんだ。もう少しくらい待てるさ。…さ、そろそろ出ようか。他に行きたいところは?」
「あ……――そうだ、私本を、買いたくて。」
「そうか。じゃあ書店に行こう。場所はわかるか?」
「ええ、案内します。」
柔らかに微笑むカイゼル様の手を取ると、先ほどより熱を持っていたように感じた――。
*********
「本屋!本屋ですか!デートで!」
「何か言いたいことでも?エレノアが行きたいと言ってるんだ。」
「そ、それは失礼しました…。でも、何か買いたいものでも?」
イヴァン様と外で合流し、行き先を告げると何やら驚いていた。確かにデートで書店というのは、あまり一般的ではないのかも…しれない。シャーロットだったらもっとデートにふさわしい場所が思いつくだろうか。
「…えと、帝国の本の続きを…。」
「ああ、あれか。」
「ああ~…仰ってくだされば、こちらで用意しますのに。ねえ、殿下」
「いえ!自分で買いたくて…。他にもちょっと見てみたい本があるんです。デートらしくなくて…すみません。」
「謝らなくていい。俺はエレノアとならどこでも楽しい。」
「…書店でしたら、あちらの通りに大きいのがありましたね。あそこでいいですか?」
「えぇ、大丈夫です。」
街を散策しながら書店へ向かう。その間も、カイゼル様はずっと私の手に触れている。
私とカイゼル様の手元を見て、イヴァン様はにやりと微笑んだ。




