殿下とお忍びデートのようです 2
*********
「着いたな。エレノア、行きたいところは決まったか?」
「あ、ええと…。先日お兄様に教えて頂いたお店に行ってみたいな、と思って。…カイゼル様は甘いものはお好きですか?デザートプレートというものがあるらしく…。最近人気なんだそうです。」
「ああ…。ちょうど誘おうと思っていたんだ。俺も、エレノアが喜ぶかと思って…。」
「まあ!じゃあそこに行きたいです!お兄様がお土産で買ってきたマカロンというお菓子がとても美味しかったんです。ケーキも美味しいと聞きました。」
「そうか。じゃあそうしよう。」
少し歩いたところで聞いた店の名前を見つけた。
店先に置かれた看板に、デザートプレートの紹介がある。きっとここだろう。
「私は店の前で待ってますので、ゆっくりしてきたらいいですからね。」
「イヴァン様もご一緒すればいいのに…。」
待ってもらうのも申し訳なくて、思わず声をかけてしまった。
「必要ない。エレノア、今日は俺と君のデートだ。イヴァンは待たせておけば大丈夫だ。」
「お気持ちは嬉しいけど、殿下が怖いので。デート楽しんでくださいね。」
店先でイヴァン様と別れ、席に案内された。
メニューには色とりどりのデザート達の絵が添えられており、どれを頼むか悩んでしまう。
「イヴァンの事は気にしなくていい。…馬車でも楽しそうに話していたろう?」
「…あ、ごめんなさい…。私も、カイゼル様ともたくさんお話したいです…。」
「謝らなくていい。…気を遣わなくていいということだ。」
少しホッとする。少し構えていたのかもしれない、と気づいた。
「…ありがとうございます。…カイゼル様とお話できるの、楽しみにしていたんです。前回のデートからずっと、楽しかったことが思い出されて、侍女にも兄にも…妹にも心配されてしまって。」
「そうか…。俺も今日のために早めに公務を終わらせたんだ。ゆっくり過ごそう。」
カイゼル様に微笑まれると、なんだか胸がくすぐったい。けれど嬉しい。
「やっぱり私はデザートプレートにします。カイゼル様はどうします?」
「そうだな…。アップルパイとコーヒーにしよう。」
思ったよりもずっと可愛らしいケーキを選んだので、クスリと笑みがこぼれた。
「…どうした?」
「いえ…カイゼル様もアップルパイがお好きなんですね。ふふ、イメージがあまりできなくて。ごめんなさい」
「昔よく祖母が作ってくれたんだ。たまに甘いものも食べたくなるし、アップルパイも好きだし、君が思うより普通の男なんだよ。」
「…そうなんですね、私も、アップルパイ好きです。」
注文を終えて、アップルパイとデザートプレートが登場する。見覚えのあるケーキや、初めて見るお菓子等が一皿に盛られていて、見ただけでわくわくする。しかし、それ以上に目を引くものがある。なんとアップルパイにはアイスクリームが添えられている。
「まあ、アップルパイにアイス?暖かいのに溶けてしまわないのですか?」
思わず給仕の女性に問うと
「帝国では今流行なんだそうですよ。溶けかけのアイスが温かいアップルパイとよく合います。」
「そうなのね…ありがとう。」
ごゆっくり、と一言添えて給仕は離れる。
「カイゼル様はご存じでしたか?」
「…いや、すまない。俺も初めて聞いたんだ。…俺もこういった女性向けの流行には疎くてな。」
きょとんと戸惑いを隠せないカイゼル殿下に、今日は知らない顔をたくさん見られるな、と内心嬉しく思う。カイゼル様は上品な仕草でアップルパイを一口サイズにナイフで切り、ほどよく溶けたアイスクリームをそのうえに乗せた。そのまま食べるのかと思いきや、私の顔の前に持ってくる。
「ほら」
「え!」
向けられたアップルパイに、戸惑う。まさかそんな、カイゼル様が?
「ほら、早く食べないとアイスが落ちてしまう」
「あ、え!はい!」
戸惑いながら口を開けると、先ほどのアップルパイが放り込まれた。
「!…すごくおいしいです!」
「そうか」
カイゼル様は満足そうに微笑んでいるが、私の心の中はいっぱいいっぱいだ。
「…本当だ、うまいな。」
「こんな食べ方初めてしました。…とっても美味しいですね。」
「そうだな。…エレノア、それも美味そうだな。」
カイゼル様の目線は、私のデザートプレートに向けられた。
先ほどカイゼル様のアップルパイを一口もらってしまったから、これは私のお皿から一口食べさせるのが正解なのだろうか…。そんな恥ずかしいことできるだろうか。
「か、カイゼル様もどうぞ…」
プレートの中のガトーショコラを選んで一口分フォークで取り、恐る恐るカイゼル様に向かって差し出す。
「……!あ、いや、食べたいという意味では……ん、そ、そうだな、一口、頂こうか。」
カイゼル様は焦ったようで、少し耳が赤い。
「先ほどのお返しです。ふふ、どうぞ。」
さっきまであんなに恥ずかしかったのに、焦った様子のカイゼル様を見ると、なんだかかわいらしく見えてしまった。
しかし、ゆっくりとこちらに近づいて口を開くカイゼル様に、一瞬で胸がドキドキと高鳴った。目は伏せられて、睫毛の長さがよくわかる。
「ん、うまいな」
「…よ、よかったです。」
先ほどまでの余裕はどこへ行ったのか、思いのほかカイゼル様の顔が近づいてしまい、熱が顔に集中する。きっと今私の顔は赤いのだろう。
*********




