殿下とお忍びデートのようです 1
*********
「久しぶりだな。」
「とても楽しかったので、つい先日だったような気がします。…今日も楽しみに、していました。」
お忍びデートというからには、少しカジュアルな服装で来るのだろうと思っていたが、おそらくカイゼル様にとってはカジュアル、シンプルなのだろう。濃紺のシャツに黒のスラックスを纏っているが、やはり鍛えられているのだろうか、服の下にしっかりとした筋肉を感じてしまい、目のやり場に困ってしまう。一般の貴族ではないとあっという間にばれてしまうのではなかろうか。
「殿下、随分待ち遠しかったんでしょうね…。公務も爆速で終えて…。」
「イヴァン様も大変ですね…。護衛、よろしくお願いします。」
後ろでイヴァン様と兄がこそっと話をしているようだった。
「…今日もきれいだ。」
「…ありがとうございます。殿…カイゼル様も、素敵です。あ、お忍びと仰っていたので、少し控え目なものを選んでみました。髪も侍女が結ってくれて。」
今日は控え目なグレーのカラーのワンピースを着て、普段することのないアップヘアに髪をまとめてカイゼル様の贈ってくれたバレッタをつけてもらった。
普段髪をアップにすることがないので、うなじがスース―して落ち着かない。
「良いと思う。が、首元がそんなに見えると落ち着かないな。」
そう言いながらカイゼル様はうなじにふと手をやり、思わずびっくりする。
「ひゃ!」
「っと…すまない!」
あっという間に手がひっこめられた。ばつの悪そうなカイゼル様を見て、笑いがこみ上げる。
「ごめんなさい…ふふ、びっくりしてしまいました…カイゼル様もそんな顔されるのですね」
「…すまない、あまり揶揄わないでくれ…。」
「なんだか雰囲気良くなってない?」
「エレノア様も、随分柔らかく笑われるようになりましたね…。」
セレナの声が聞こえて、少し恥ずかしさを感じる。そんなに変わったかしら…。でも、前よりも素直にカイゼル様とお話してみたいと思える。
「じゃあ、行こう。」
馬車に乗るためにエスコ―トしてくれているカイゼル様の耳が赤いことに気づき、くすぐったい気持ちになった。
「お嬢様、行ってらっしゃいませ。」
「楽しんで。」
「ありがとう。お兄様にもセレナにもお土産買ってくるわね。」
人数が多いと目立ってしまうため、今日は私とカイゼル様とイヴァン様の3人で行くことになっている。
「今日は馬車も一台なんで、失礼ですがご一緒させてもらいますね。」
最後に馬車に乗り込み、カイゼル様の横に腰掛けたイヴァン様も目立たないように今日は軍服ではないのだが――黒いシャツに黒いコート、黒いスラックスと地味なもののはずなのだが、コートは足元から腰にかけてスリットが入っており裏地の鮮やかなパープルが動くたびにちらちらと見えている。ベルトもバックルに品の良い宝石があしらわれており、見る人が見れば位の高い貴族だというのがすぐ分かるだろう。イヴァン様の雰囲気も相まってか、非常に目立つ…ような気がする。
「イヴァン様、すごく素敵ですね。」
「エレノア嬢ほどでは。…あ、この宝石は今帝国で流行しているブルーサファイアでね。光の入り方できれいなブルーが見えるってやつで、きれいでしょ?」
嬉しそうに耳元の宝石の説明をしているイヴァン様はご実家が宝石を扱われていることもあってか、あまり詳しくない私でさえ高級品とわかるような宝石を身に着けている。男性ながら片耳に揺れるピアスをつけていて、揺れるたびにブルーがきらきらと光っている。初めて会った時も思ったが、中世的なお顔立ちでピアスもよく似合っていてきっと帝国でも女性から人気なのだろうと予想できてしまう。
「エレノア、お世辞は結構だ。派手だろう。」
「そんな…」
「ひどいね~。せっかくエレノア嬢が褒めてくださったのに…。エレノア嬢への贈り物の宝石だって、殿下の希望を聞いて見繕ったのは我が家ですよ?」
「お前の実家はそういう点では信頼できるが、今はイヴァンの恰好の事を言っているんだが。」
揺れるピアスは石もさほど大きくないのだが、全体的に高級品を身に着けていることが隠しきれていない。
「ふふ、でも素敵です。イヴァン様のご実家は宝石を扱ってらっしゃるんでしたね。先日カイゼル様から頂いたエメラルドは、カットの仕方が特徴的でしたよね。あれも帝国の流行なのですか?」
「そんな所まで見ていただいたとは!殿下聞きました?殿下はカットの事なんか気にしてませんでしたもんねぇ…。色味と品質ばかりで…。あ、カットはね、我が家で職人にお願いして試している新しいカット技法を使っているんですよ。石が少し小さくても輝きが増すように計算していて…。まだ始めたばかりですが、高い技術が必要なんです。」
「なるほど、細かなカットだったので明るいところで無くてもきらきら光って美しかったです。王国はどうしても宝石の大きさが重視されてしまうのですが、カットの仕方で輝きがあんなに違うなんて。」
「そう、あれなら今まで安くたたき売られてきた小さめの宝石たちも美しいアクセサリーになりますよ。原石も限られていますし、実家の領地でも取れる鉱石は減ってますので…今は技術開発に力を入れてたりします。」
いつも流暢にお話されるのだが、今日はさらに流暢だ。
「…君は本当によく見ているな。」
「そこまで見てくれている人がいると思うと嬉しいですよ。」
「とても、嬉しかったので…。毎日眺めてしまって…。」
気恥ずかしさを感じながらそう伝えてカイゼル様をちらりと見ると、驚いたような顔でこちらを見て、ふわりと柔らかに微笑んだ。
「そうか。…これからいくらでも贈る。宝石の選定はイヴァンに任せる。」
「わ~…照れてますね。…選定は任せて頂いていいですけども。」
イヴァン様はまさににやり、という言葉がぴったりくる笑い方で笑っていた。




