閑話――侍女と副団長のひそひそ話――
「…今のって、バラの話でした?」
「どうだろうね〜?」
後ろからこっそり見守っていたセレナとイヴァンには、エレノアとカイゼルが完全に2人の世界に入ってしまったように見えていた。
「お嬢様も、あれ本当に気づいてないんですよ…」
「そうだねえ。…殿下は花なんて見てないよね。エレノア嬢しか見えてない。」
堅物で有名なカイゼルだったが、今はどうだ。自分のプレゼントした髪飾りを付ける初恋の女性相手に、なんとだらしがない顔をしているか。おそらく隣の侍女にも、エレノア嬢にも分からないだろうが、自分には分かってしまう。王たるもの、と表情を顔に出さないで来た男の顔は緩んでいる。
10年越しの片想いを拗らせるというのは本当に厄介だ。若者のデートというからには、観劇に行ったり、街で買い物をしたりするのではなかろうか。
そのうえエレノア嬢も楽しそうにしているのだから、結局似たもの同士なのだろう。
堅物で有名なカイゼルだったが、今はどうだ。自分のプレゼントした髪飾りを付ける初恋の女性相手に、なんとだらしがない顔をしているか。
「デートで平民にも学びをなんて言う?…まあ、殿下らしいけどなあ。」
「でも、お嬢様があんなに楽しそうになさっているのは久しぶりです。いつも忙しくされてましたから…」
セレナの瞳は少し潤んでいる。サンドイッチを持たせたという料理長といい、エレノア嬢は使用人たちには信頼されているのだろう。本当に幼いころから相当の努力をしてきたようだ。話し方も立ち振る舞いもしっかりしている。
「もう少しわがままでもいいんじゃないかな。」
「私もずっとそう思ってきました。お嬢様はいつも何か我慢していて。でも、カイゼル殿下とデートの話が出てから、初めてご自分でお洋服を選ばれたんです。それが殿下のお色で!…すみません、私如きがイヴァン様にこのような口を…。」
「なに急に…、ペットは飼い主に似るっていうけれど、あなたたちはよく似てるね。…俺は全く気にしてないよ。むしろ未来の王妃を一番近くで見てきた人間から話を聞けて有意義なのでお気になさらず。」
「…ペット扱いは辞めていただきたいですわ…。」
飄々としたイヴァンの様子に、先ほどの言葉をそっくりそのまま返したくなる。
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「ふふ」
料理長の作ったサンドイッチをぎこちなく食べるエレノア様に思わず微笑んでしまう。
お茶会に出る時間もなく、ずっと厳しい教育を受けていたことを知っている。のんびり芝生に敷物を敷いてサンドイッチを食べるなんて、エレノア様にとっては初めての経験だ。
横にいるのは帝国の皇太子。少し前まではこんなことが起こるなんて考えもしなかった。
けれど、カイゼル殿下の側にいるエレノア様は、ルイ王子の横にいた時では見られなかった素敵な表情をしている。悔しいような、嬉しいような複雑な気持ちだ。
「私も付いてこられてよかったです。あんなお嬢様を見られる日が来るなんて」
「あなたは本当にエレノア嬢が好きなんだね。」
「もちろんです!お嬢様の幸せを1番に願っていますから」
「早く帝国にきてくれないかなあ。」
「…お嬢様がもしこの話を断ったら、どうなさるおつもりでしょうか…」
「…どうすると思う?……頷くまで諦めないと思うよ。エレノア嬢が良いと言ってくれるその日まで、俺は殿下のお忍びデートに付き合わされるのさ。」
「…イヴァン様も、お茶とサンドイッチのおかわりどうぞ…。」
「いただくよ。」
帝国の皇太子に対して言うのは憚られる。決して口には出せないが、カイゼルの気持ちの重さにほんの少しエレノアの行く末を案じるセレナであった。




