帝国皇太子殿下とデートをするようです 3
「こうやって芝生に敷物を敷いてピクニックなんて、初めてかもしれません。」
「…そうなのか?」
「父と来た時はこんな風にゆっくりはしませんでしたし…。記憶の中では、初めてだと思います。」
もっと幼い、小さな時にはあるかもしれないが。
「ピクニックに行きますと伝えたら、料理長がすごく張りきってくれて。…とってもおいしそうでしたよ。」
セレナが先にイヴァン様にサンドイッチを手渡す。
「ん、大丈夫です。殿下、どうぞ。」
「ああ。ん、美味いな。」
続いて私も一口食べる。ハムと卵のサンドイッチ。セレナが暖かいお茶も用意してくれており、外とは思えないほど充実している。
「そういえば、エレノアは王子と婚約している時はどんなデートを?」
「…デート、ですか」
ルイ王子との婚約中、デートというデートはあっただろうか。ルイ王子は定期的に我が家へ寄って、私とお茶をして帰っていく。…帰ったふりをして実はシャーロットとお茶をしていたのだけれど。
「私とルイ王子はお茶をするくらいで、そういえばデートというデートはしたことがありません。」
「な、…」
「あ、いえ。定期的にお茶はしていましたし、お話もして、パーティーがあれば一緒に出席して…婚約者として蔑ろにされていたわけではないのです。決して。ただこういう、デートというのはしたことがないような…。」
「………そうか。」
複雑そうな顔をするカイゼル様に、何かまずいことを言ったかと不安になる。そもそも政略で婚約していただけなので、デートというものが必要なのだろうか。
「…じゃあ、次のデートは街にでも出かけるか。城下の様子も気になるし、君とデートらしいデートがしてみたい。」
「カイゼル様と街に?…あの、護衛とか大丈夫でしょうか…。街となると大がかりなことに…。」
「それは大丈夫だろう、優秀な側近がいるから。なあ、イヴァン。」
「…お忍びで行くんですね。…どうにかしますよ。」
はあ、とため息をつくイヴァン様は、残りのサンドイッチを一口で平らげた。
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「今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです。」
「俺のほうこそ楽しかった。…ドレス姿とは違った魅力も知れたことだし、先日とは違ってゆっくり話ができてよかった。」
行きは向かい合わせのはずだったのに、帰りの馬車ではカイゼル様は隣に座っている。少し近い距離に再び胸が逸るが、カイゼル様の暖かさに少し瞼が重くなる。
「街も、楽しみです。」
「そうだな。……?エレノア?―――ふ、楽しかったんだな。」
優しく微笑む声が遠くで聞こえた気がして、ふと意識が途切れた。
「ああああの、申し訳ありませんでした!」
「いいや、俺は楽しかったよ。寝顔もかわいらしくて。」
今の状況に気づいたのは、「着いたぞ」と声を掛けられた時だった。
「そんな!…カイゼル様の肩をお借りするなんて…!私寝てしまうなんて…!」
カイゼル様の肩に寄りかかって寝てしまっていて、カイゼル様は何も言わずにそっと寝かせておいてくれたのだ。
「次のデートも楽しみにしてる。」
カイゼル様は私の手を取り、指先に口づける。
「は、はい…私も…楽しみにしております。」
「エレノア様がまさか殿下の肩を借りて寝てしまうなんて…!」
「セレナ、もう言わないで…思い出させないで…!」
やっとの思いで部屋まで戻り、思わずベッドに腰掛ける。
「いいじゃないですか!殿下はまったく気にしてらっしゃらないようでしたし…。」
「相手は帝国の皇太子よ。…ちゃんとお話していたはずなのに…なんで寝ちゃったのかしら…。恥ずかしい…。」
「いいと思いますけどねえ。…あ、街のデート、どの服で行きますか?思い切って髪をアップにしちゃうのも素敵だと思うんですよ。お忍びだったらいつもと雰囲気を変えた方がいいと思いますし。」
「…セレナ、その話はまた明日にして…。」
明日以降もきっと今日のことを思い出しては恥ずかしくなるのだろう。
それでも、またカイゼル様とデートできることに、ほんのり胸が高まっている。




