⑮ エピローグ 彼の返事
終電をとうに逃してしまったわたしたちは、なんとか小さなホテルを見つけて、もう一晩泊まることにしたんだ。
みんなもうくたくたで、倒れ込むように寝ちゃった。
でもわたしは寝れなくて、ホテルのベランダに出て星を見てたんだ。
わたしのために、今回一緒に旅行したみんな、一人残らずすごく頑張ってくれたんだよね……。
わたしって、やっぱり幸せだな……。
目を閉じて、夏の夜風にひたっていると、隣のべランダから声がした。
「夢ちゃん」
あ……。
「そっちも、みんな寝た?」
わたしは頷く。
「はい。あの、星崎さん」
「ん?」
「浴衣もいいけど、やっぱり、王子様の服、すごくすてきでした……」
言っちゃった。
星崎さんは、困ったように笑う。
「柄にもなく必死になってね。あんまりいじめないでくれるかな」
「そんな。いじめてるわけじゃ」
星崎さんが笑う。
「知ってるよ」
しんと、静かな風が吹く。
「夢ちゃん」
星崎さんの、少し切なそうな声がする。
「はい」
「お父さんと、また暮らしたいかな」
わたしは、正直に答えた。
「たまに、夢を見るんです。お父さんとお母さんと、前みたく、普通に暮らしてる」
「……そう」
「でも、こういう夢も見るの。お父さんにまた殴られたり、酷いことを言われる」
「うん」
「だから、わからないんです。わたしお父さんのこと好きなのか、怖いのか。この先、どうしていきたいのかも」
だけど。
一つだけ、わかってることがあるんだ。
「今日と明日と明後日は、栞町のマンションで、星崎さんといたいって思うんです」
そして、ぽつんと、ついでのほんとのことも、口からこぼれる。
「わたしが、星崎さんの、失くした家族になれたらいいのにな」
なんてことないことのように、星崎さんは答えた。
「ばれちゃったみたいだね。十三年前の悲劇の子どもがオレだって」
さっぱりした口調が、余計切ない。
「ずっと一人でいたからかな。大切な人がいて、その人と一緒に暮らすっていう感覚がよくわからなかったんだ。でも、最近、少し変わった」
わたしはびっくりして、じっと横を見た。
星崎さん、自分のことを話してくれてる……?
「夢ちゃんが悲しんでると、心の奥の方でなにかがうずいて、どうしようもなくなる。
とっくの昔に反応するのをやめた部分がまた、動き出してる気がするんだ」
星崎さんは、じっと夜空を見ていたけど、ふいにわたしの方を見た。
「夢ちゃんは、オレにとって、なにをおいてでも、幸せになってほしい女の子だよ」
そしてふっと微笑んで。
「これが今の、精一杯の返事かな」
わたしは、ベランダの隅に駆け寄って、星崎さんの目をじっと見つめた。
両想いかどうかわからない。そういう返事だったけど。
でも、彼にそう言ってもらえて感じた今の気持ちを明日、帰りの電車の中でももちゃんとせいらちゃんに報告するんだ。
だって、そこに映ってるわたしは、とっても、幸せそうな顔をしていたの――。
このあと次回予告とおまけもあります!
次回は番外編です(*´▽`*)




