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恋せよ文学乙女  作者: ほか
第3話 恋に悲劇はお呼びじゃないわ!
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④ カレの部屋で

急に降り出した雨。

せいらはかみやんに抱えられ……。

かみやんの車に乗って、しばらく走っているうちにわたしは眠ってしまったみたい。

 目覚めたとき、知らない部屋にいた。

 広い部屋。奥にはピアノ。果物の絵画とか、お皿やグラスが飾ってある家具なんかが置いてある。

 ここ、どこ?

 もしかして……。

「かみやんのおうち?」

 独り言のつもりで出した声に返事が返って来た。

「実家が近くだったから寄ったんだ」

 声のする方を見て、ひっと声をあげそうになって、あわてて布団を被った。

 かみやんは、シャツを着替えてるところだったの。

 そ、そうよね。大分濡れたはずだし。

 新しくボタンを閉めてるシャツからかすかに見えた胸元に、どきっとしたのが、決まりが悪すぎて。

 どうしよう。もう彼のこと見れない。

 あたしが恥ずかしがっているのを、かみやんは別のことととったらしい。

「着替えさせたのは、母親だから」

 え?

 布団の中であたしは自分の服が楽なルームウェアに変わっていることに気が付いた。

「サイズあってるかわかんなかったけど、帰る途中で間に合わせに買ったんだ」

「……ごめんなさい。迷惑かけちゃった」

 あたしは顔を出して、心から言った。

「そんなことはどうでもいい。調子悪いときはすぐ言わないとだめだろ」

「……まさか雨が降ってくるなんて思わなかったんだもの」

「海辺の天気は変わりやすいんだよ」

 あたしはもう一度、言った。

 頭を下げて。

「ごめんなさい……」

 シャツの襟を整えたかみやんが目を見開く。

「珍しく素直だな」

「だって……悪いことしちゃった。生徒を、部屋に拉致する、なんて、教師としての評判がたおちじゃない……。あたしは、かみやんには、重荷な女ね」

 ずるっと、かみやんの足が床に敷かれたカーペットを滑る。

「安心したぜ。根っこは変わってねーらしいな」

 かみやんはベッドの横に椅子を持ってきて、腰掛けた。

 じっと、あたしを見てくれる。

「いきなり土砂降りの雨がふってきて、かみやんが車まで運んでくれたとき、咳がではじめて。風邪うつしちゃったらどうしようって……思ったの。心も、身体も風邪なんて……最悪だもの」

 するすると、彼の静かな目線に誘われるように言葉が出てくる。

「かみやん、最近なんか苦しそうだった。授業中はばかな冗談言うし、あたしたちにはいつも笑ってるけど。ふっと黙ったときの顔がね、なんか違うの。心に風邪ひいてる人の顔だった……」

 ぽんと頭にあったかい感触がする。

 彼の手だった。

「せいらはそんなこと考えなくたっていい。風邪の二、三種類、大人には治す体力くらいあるんだ」

 心地よくて、あたしはそのまま目を瞑る。

「うそよ。大人だって風邪のときには休みが必要よ……」

 真っ暗になった視界の中に、囁くような声がする。

「そんなに言うなら証明してやろうか。お前の風邪、今ここでもらって、あっと言う間に直してやる」

 熱のせいかしら。彼がなにを言ってるのかわからない。

 風邪をわざと貰うなんて、できるわけないわ。

 そんなのキスでもしないかぎり無理。

 ……。

「えぇぇぇ!?」

 ぱっと布団をからげて、目を開ける。

「だから寝てろって。ったく予想以上の反応しやがって。生徒にそんなことするわけないだろ」

 そ、そうよね。

 でもひどくない?

 あたしがあなたのこと好きなの知ってて、冗談でそういうこと言うかってのよ。 

 かみやんの顔が少しだけきまり悪そうだったのは、きっと。

 気のせいね――。



 それからどのくらい眠ったかしら。

 部屋の外の声で目を覚ました。

「珍しく顔を出す気になったか」

 知らない男の人の声。

 力強くて厳しそうな感じ。

「まぁ、そんなとこだな」

 と、これはかみやんの声だわ。

「親父こそ珍しいじゃないか。今シーズンはずっとアメリカじゃなかったのか」

「いい具合に先方と共同での映画製作権がとれてな。仕事が一つ順調に片付きそうだ。つまり、引継ぎには適した時期と言える」

 アメリカ? 映画製作?

 なんだか、すごい話がでてきたわ。

「お前、今、泉さんとはどうなってる」

 どきっと、心臓が音を立てる。

 かみやんと泉先生との婚約のことだわ……。

「今どうこうって話じゃない」

 答えるかみやんの声からは、感情が読み取れない。

「遅すぎるくらいだ。龍介。いい加減身を固めろ。早く正式な跡継ぎになって安心させてくれ」

 ……。

 なんとなく、読めちゃった。

 かみやんが『親父』って呼んでたことや、跡継ぎになれっていう口ぶり。

 彼が話してたのはお父さんだわ。

 かみやんのお父さんも、彼に泉先生と結婚してほしいと思ってるのね――。

 部屋に入ってきた彼が驚いた顔をした。

「悪かったな。起こしたか」

「かみやん、あのね」

 彼が幸せを掴もうとしてるなら。

「泉先生と、結婚してもいいわよ」

 邪魔だけは、したくない。

 それがあたしの恋の決着なんだ。

 でもなんで。

 涙が出てくるの。

 かみやんはたっぷり二、三分は黙ってたと思う。

 そうして、こめかみをかいた。

 そして、なにかを決心したように言ったの。

「オレの負けだ。せいら」

 その顔はさっぱりした、いつもの笑顔だった。

「ほんとはこんなこと話す気はなかった。けどお前に泣かれてどうにも、黙ってらんなくなった」

 へ……?

 なんのこと?

「オレと泉先生は、確かに婚約してる」

 かみやんの笑顔の中に、ふっと疲れたような影がさした。

「けどそれは、周りの目をごまかすため。偽装の婚約なんだ」

 思考が停止する。

 小雨になった雨が止んで、部屋に太陽の光が射し込んできたことにも、あたしは気が付かなかった。


次回は、神谷先生の婚約の真相が明らかに!

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