うたごえ
隣の205号室から毎日夜中に歌が聞こえてきてうるさい。音程を外した大声で歌っている。
引っ越しの挨拶の時に住人の一人が言っていた。私のこの206号室は住人が定着せずすぐに退居してしまうと。
きっと205号室のうるさい歌声が原因だったのだろう。
私は205号室に文句を言いに行った。
「夜分恐れ入りますが…」
歌声のイメージから外れた、おとなしそうな男性が出てきた。
私は事情を説明し、大きな声で歌うのは控えてくれないかと訴えた。
すると男性は怒りも謝りもせずに答えた。
男性の話をまとめるとこうだった。
『歌声は自分ではない』
『206号室(私の部屋)には何年か前に大学生の男が住んでいた』
『男は不慮の事故で部屋で亡くなってしまった』
『206号室の住人は毎回勘違いして文句を言ってくるので困っている』
つまり、歌声は私の部屋の中から聞こえてきていたのだった。
私はそれからも毎晩歌声に悩まされた。
最も私を悩ませたのは、歌声がうるさいくせに2番の途中の歌詞が曖昧なのか、急にもにょもにょと小さくなって誤魔化し、サビになるとまた大声で歌い始めることだ。
私はお札の代わりに歌詞を書いて壁に貼ってやった。
その日から私のストレスは少しだけ減った。




