人形の家
夫婦がドアを開けると、一体の女の子の人形が玄関に座っていた。
内見に訪れた郊外の中古住宅。
家具も何もない家の、玄関の真ん中に人形だけが置いてある光景は明らかに異様だった。
「この人形は何ですか?」と同行の不動産会社の社員に訊くと「きっとお客様をお出迎えしてくれたんですよ」と、引き攣った顔で答えにならない答えを返して来た。
そのようなことがあったが、夫婦は中古住宅を購入した。
夫婦にとってマイホームは念願だったし、日当たりや立地の利便性も良かった。
小中学校がすぐ近にあり、子供がいないこの夫婦にとって賑やかな声が聴けるのも決め手の一つだった。
異変が起こり始めたのは夫婦が引っ越してからひと月が過ぎた頃だった。
内見のときの人形が現れるようになったのだ。
最初に現れたのは夕飯の支度をしているときだった。
気が付くと人形がダイニングチェアに座っていた。
次に人形が現れたのはそれから数週間後。
夕方、うたた寝から目を覚ますと目の前に人形が座っていた。
人形は何をするでもなく、じっと座っているだけだった。
人形自体に意思があるのか、誰かがそこに置いたのかは分からない。
リビングのソファ、クローゼット、トイレ、脱衣所、ベランダ。
人形は度々、家の中に現れた。
最初の頃こそ人形が現れることに不気味さを感じ怖がっていた夫婦だったが、人間とは慣れるものである。
やがて夫婦は人形が現れると、落ちているチリ紙を拾うように人形をつまみ、押し入れの中に放り込むようになった。
だが……放り込んでも放り込んでも人形は家の中に現れる。
……ただしそれは、放り込まれた人形が押し入れから出てくるのではない。
そう。
人形は、一体…ではない。
押し入れの段ボール箱の中には、満員電車の如く人形がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。




