↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【脱力怪談】恐怖の澱   作者: 夏の月 すいか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/45

月夜の出来事

 妖艶(ようえん)な月の夜だった。

 まだ冷たい夜風が黄色い花のついた野草を揺らし、水が張った田んぼからは蛙(かえる)の鳴き声が聞こえる。

 夜を歩くことの愉(たの)しみ方は、昼間には見えないものを見ようとすることだ。

 どこまでも遠くまで続く田んぼは、鏡のような水面(みなも)に夜空の雲と真っ白い月を映していた。

 俺は二つの世界の境界線のような畦道(あぜみち)を再び歩き出した。


 田んぼに浮かんだ夜空を眺めながら歩いていると、月のように白い二本の腕が雲の間を泳ぐように現れた。

 この腕はどちらの世界のものだろうかと顔を上げると、俺の少し先に腕は漂っていた。

 それは肘から先しかなかったが、とても美しい女性の腕だろうということが分かった。

 腕はしなやかな動きで月をなぞり、ピアノを弾くような軽やかさで空をすべった。

 俺は腕の虜(とりこ)になった。恍惚(こうこつ)とした気持ちで腕のあとを追った。

 あの腕に触れたい。

 腕も俺に追いかけられているのが分かるのだろう。俺が触れようとすると、いたずらっぽい動きで逃げた。

 それは恋人同士の追いかけっこのようだった。

 いや、その瞬間の俺と腕は想いが通じ合った恋人同士だった。

 この甘美な時間が永遠に続けばいいと思った。


 突然、腕は二つの掌(てのひら)を俺に向けて、止まった。

 それは制止――ストップのジェスチャーだった。

 これ以上近づいてはいけないと俺に訴えている。


 俺は腕に触れたい。できることならその腕を抱いて愛したい。

 君にもっと近づきたい。それが許されないものだとしても。


 ………俺は一歩ずつ、少しずつ腕に近づいた。

 腕はなおも俺を止めようとする。前に突き出した両手を振るし(・)ぐ(・)さ(・)は焦っているように見える。

 さっきまであんなに分かり合えていた二人なのに……俺は悲しい気持ちで、また一歩、前に出た。



 ずるっ。



 ………ずるっ?

 足の裏に、土を踏んだときとは違う、やわらかい感触があった。

 俺は足元を見た。


 俺は顔を上げた。


 目の前に広げられた二つの掌(てのひら)の、指のかたちが変わっていく。

 細く白い美しい人差し指に、中指が絡まって交差していく…。

 これは…。

 不浄(ふじょう)な穢(けが)れが己(おのれ)に感染(うつ)らぬよう防ぐ、魔除けの指印結界………。



 俺はえんがちょ切られてしまった。




 俺が何を踏んだのか。それを言う必要があるだろうか。

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。