自滅
内見のときに、開いていたクローゼットの隙間が妙に気になった。
いざこの部屋に引っ越して暮らすようになると、やはり、、、だった。
それは決まって毎月14日のこと。
いつものように夜遅くに帰宅すると、部屋の正面にあるクローゼットの隙間から
「おいで おいで」とゆっくり手招きをする女性の腕が伸びている。
暗い部屋の中で、白く細い腕についた無数の赤黒い切り傷は何故かはっきり視えた。
部屋の電気を点けると腕は消え、クローゼットの隙間の闇だけがそこに遺る。
それ以上のことは何も起こらない。
ただ「おいで、おいで」と手招きをされるだけのことだ。
ただ「おいで、おいで」と手招きをされるだけのことだ…が、私はそれが気に食わない。
なにが「おいでおいで」だ。
部屋の主である私に指図をしないでもらいたい。
私は翌月の14日の朝、クローゼットの前にくさやと納豆を置いてから仕事に出掛けた。
仕事から帰宅すると、クローゼットの腕は「おいでおいで」ではなく
「あっちいけ」の手振りの様に、高速で手をブンブンと振り払っていた。
くさやと納豆の臭いが充満した真っ暗な部屋の入り口で私は、「この勝負、痛み分けか…」と呟くのが精いっぱいった。




