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ゼロマキナIF -始まらない物語-  作者: Deino
エピローグ 安寧
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エピローグ 中編

「ハ~イ♪ やっと見つけたシ追い詰めたヨ♪ もう一人のゼロマキナ」


 研究室に入って来た特異個体ヱレームはそう告げ、ウチに銃を構える。ヱレームの大襲撃によって半壊した研究室は、さながらクロムシェルの様だ。……ここがウチの墓場か。

 件の特異個体は発言と同時にそのまま発砲。ウチとバニ様は脚を破壊され、動けなくなる。


「これデもう逃げられる心配はないネ。やっと終わっタ。やっと勝てタ。これで安心できる」


「Zn, why don't you kill her?(ズンコよ、何故とどめを刺さないのじゃ?)」


「Because I haven't seen her in a long time, and I'd love to talk to her.(そりゃ久しぶりに会ったんだモン、お話したいヨ)」


 遅れて入って来た部下らしきヱレームと特異個体が会話をしているが……久しぶり?

 そもそもコイツはウチの事をもう一人のゼロマキナと呼称した。ゼロマキナとは何だ? ゼロはそのままの意味なら英語で零。マキナは……何語だったか、確か機械という意味だったはずだ。デウスエクスマキナ──機械仕掛けの神という単語をウチは知っている。

 それらを組み合わせるなら、ゼロマキナとは零の機械という事になるが……もう一人とはどういう事だろうか。


 ……考えてもしかたないか、もうすぐ死ぬんだし。ただ目の前の特異個体は話がしたいと言っていた。死ぬ前に色々聞けるかもしれない。聞いてどうするんだとも思うが、ウチも知識欲の権化。気になる事は多々ある。

 それは横にいるバニ様も同じ様で……


「いま彼女? とりあえず発音が女性っぽかったからそう仮に呼ぶけど、アタシ達と話したいみたいなこと言って無かった?」


「言ってた。どういう事だろうね」


 小声で話す二人。重ね重ね、死ぬ際に一人じゃなくて良かった。バニ様が側にいるというだけで寂しさは感じない。あ、バニ様に英語教えたのはウチね。ウチが知ってる限りの英語は伝えたから、ヱレーム達の会話も理解出来る様になった訳だ。

 なお目の前で会話するヱレーム二体は両方とも女性っぽい声を発している。特に後から入って来た個体は何というか艶のある、色っぽい女性の声だ。

 と、二人でこそこそ話して居たら特異個体の方がウチに話しかけて来た。


「久しぶりなのにリアクション薄いネ! まぁワタシ達戦ってるワケだししょうがないけド」


「……?」


「……もしかしテ、ワタシの事忘れちゃっタ??」


 特異個体から、少しだけ怒りを帯びた空気が出される。先ほどの口調からも推測で来たがこのヱレーム、感情がある。そしてウチが彼女を覚えてないことに腹を立てている様だ。



「ワタシと戦った事、ワタシの友達を沢山壊した事、忘れちゃっタ?」



 彼女はもう一度質問する。友達を壊した……あぁ、そうか。そうだよな。ウチも恐らく元ヱレームで、感情がある。目の前の特異個体も感情がある。なら、ウチが自身や集落を守るために戦う際に、壊した相手は……


 何を、していたのかなウチは。何故、戦っていたのかな。そりゃ襲われるからだろうけど……互いに愛があるのに、何故ウチらは、戦わなくてはいけなかったのかな。


「ってアレ? エムジちゃんはドコ?」


 などとウチが感傷的思考にふけっていると、特異個体からとんでもない名前が飛び出す。


「……! エムジの事知ってるのか!!」


「やっと口を開いてくれたネ、シーエちゃん。知ってるヨー。二人にはずっと苦しめられて来たんだカラ」


 ウチはこの特異個体と戦っていたらしい。……エムジと共に。ウチの名前も知っている様だ。ゼロマキナというのはウチの識別名称か?



「……エムジは、壊れた」



 ウチが力なく見た先には、未だ修理する事が出来て無いエムジの残骸が、いまだ散らばっている。


「アー、まぁ色々あったからネー。ワタシ達。シーエちゃんも記憶失っちゃうシ、エムジちゃん壊れちゃうシ、時の流れは残酷ネ」


「……ヱレームに、アンタらに壊されたんだよ」


「……そっか。ごめんネ」


 本当に申し訳なさそうに謝る特異個体。何なんだコイツ? さっきは仲間を壊したウチに対し怒りの感情を向けていたのに。


「チョット待っててネ」


 そう言ってエムジの躰に触れる特異個体。ウチは脚を破壊されてるから見る事しか出来ないが……


「Zn! What do you think you're doing?(ズンコ! 何をしてるのじゃ?!)」


「I'm going to go in the filamenta and see what's going on with Mg. I'm going to go inside the filamenta and look at things.(エムジちゃんどうなってるかフィラメンタ入って見て見るんだヨー。フィラメンタ上であーやってこうやってー)」


「What did you say? Meanwhile, you will be left unprotected!(な?! その間おぬし無防備になるじゃろ!)」


「So, in the meantime, I need the Mikado to watch over me.(だからミカドが守ってヨ)」


「You always talk recklessly.(いつもいつも無茶振りばかりしおって……)」


 と、ミカドと呼ばれたサソリ式に似た小型ヱレームがこちらを向き


「ズンコは今作業中じゃ。少しでも妙な動きをしようものなら、ワラワが主らを射抜いてくれようぞ」


 と日本語で話しかけてくる。……日本語操れる小型もいるのか。いや、ズンコと呼ばれた特異個体も、恐らく元特異個体だったウチも小型ではあるが……人っぽくない見た目のヱレームが喋ると違和感を覚えるな。

 しかしこのミカドと呼ばれたヱレーム、サイズはサソリ式相当で見た目も虫だが、サソリ式とはデザインが異なる……どこかで見たような……ああ、これホタルの幼虫だわ。よく見るとズンコと呼ばれた特異個体の頭にもホタルの幼虫のアクセサリー? が着いてる。

 何かこれ、ウチとエムジのアクセサリーに似てないか? 頭に虫を付ける機械達……どういう事だろうか。


 ズンコはフィラメンタに入ってるからか、動きが停止している。それを必死に守る形でこちらに銃口を向けるミカド。ウチは純粋に気になった事を聞いた。


「……大切な人なのか? そのズンコってヤツ」


「人では無いわ! ワラワ達はヱレーム。人などと一緒にするでない!」


「ヱレームにも愛情があるのね。驚きだわ。その言い方だとプライドもあるのかしら。人を嫌ってる感じ?」


「あたりまえじゃろうウサギ型のドロイド。ヱレーム全体では無いが……ある程度知能を発達させた個体は感情を持つ。愛情もその一つじゃ。人に負けなどしない」


「人と比較してるとアルビちゃんに怒られちゃうヨー? アルビちゃんそういうの大っ嫌いだから。あ、今の話外の仲間にはヒミツネ♪ 見つかって報告されたらあの娘に怒られちゃう」


 と、作業を終えたのかズンコが再び起動しつつ会話に参入してくる。


「なら話すでない……。それにズンコ……お主いい加減君主の名前をちゃん付けで呼ぶのはよさぬか? アルビ様じゃろう」


「ミカドとアルビちゃんの前だけヨー♪ これでもワタシ、アルビちゃんとは付き合い長いんだから」


「主に信用されてるのは嬉しいが、他の者にこのような会話を聞かれないかとワラワは毎度ヒヤヒヤしておるぞ……」


「アハハハハ」


 と、笑いながらズンコはウチに何かを投げ飛ばした。これは──エムジ?!

 バラバラになっていたエムジが、上半身だけ雑ではあるが結合され、ウチの胸の中に納まっている。


「シーエちゃん、データ修復頑張ったんだネ! あれだけバラバラなデータをよくぞしっかりと整理できたモノだヨ!」


「エムジちゃんに、何したの……」


「怖い顔しないデ、ウサギちゃん。データをつなげただけダヨ」


「つな……げた? つまりエムジは──」


「ソウ! ワタシが直しちゃった!! これでもフィラメンタいじりは得意分野だからネ~♪ ワタシの電子汚染、濃度が高いからシーエちゃんが解除するにも時間かかるだろうけド、もうそろそろ目覚めるんじゃなイ? まぁその能力がねぇ、ホント厄介だったんだけド」


 何もかもが信じられない。意味が解らない。だってこいつらは、ヱレームは敵で、ウチだってコイツらの敵で、お互いが破壊しあった奴ら……なのにエムジを直す?? 何が……




 そう、混乱を、していたら、腕の中で、エムジが、動いた。


挿絵(By みてみん)




「……シーエ?」




「……え?」


「おい、どうしたシーエ? そんな不思議そうな目で俺を見て。気色悪い」


「エ、エムジ、エムジなのか? エムジ! エムジ!!」


「何だそんなに慌てて……いや、俺も変だな、記憶が妙に鮮明で、でも曖昧で………………。あれ、確か俺は、天馬で電子汚染されて………… !!!! シーエ無事か! 怪我は無いか!」


 目覚めて一番にウチを心配するエムジ。あぁ。あぁ。やっと、やっと会えた。やっと、エムジの声を聞けた。


「無事だよ。ウチは、無事だよ……」


 泣きながら抱き着くウチ。


「ずっと、ずっと会いたかった。声が聴きたかった。温もりを感じたかった」


「きっしょいな何だぬくもりって。あーもう離れろ!!! 無事なら良い! つか何で俺の髪飾りお前が付けてんだよ! ……いや、待て? お前今ずっとって……」


 エムジが疑問を発する前に、バニ様も加わる。重なる抱擁。


「エムジちゃん!!!!」


「真屡丹?! 何でお前まで」


「アタシがいちゃ悪いって言うの?! 感動の再開なんだからアタシにも味合わせなさいよ!! どれだけ長い間、アタシ達がエムジちゃんの目覚めを待ってたと思うの?!」


「長い……間? お、おい真屡丹、今はいつだ? 俺はどれくらい寝てた? シーエの計画は、どうなった?」


「計画は、全部潰れたよ。ウチが潰した。……今はエムジが故障してから、1500年くらい、経った後」


「な?!」


 バニ様の代わりに答えたウチに、絶句するエムジ。そりゃ目覚めていきなりそんな状況なら驚きもするわな。ごめんな、お前のやりたがってた計画、ウチ潰しちゃった。でも、もうあれ以上死者を出したくなかったんだ。

 ……結局は疫病で全てが終わっちゃったけどさ。


「1500年て……お前、そんな長い間、俺の事を……?」


「お前がウチを抱きしめて待ってた時間よりはずっと短いよ。それにバニ様も一緒に直そうとしてくれてたし」


「待て待て。真屡丹は人間のはず……。寿命はそんなには……」


「今のアタシは機械よ。AI技術が発達して、生前のアタシがこの躰を作ったの」


「んじゃ何か?! ふたりで1500年もの間、俺を、直そうと?」


「当たり前「でしょ」「だろ」」


 ハモるウチとバニ様。どれだけ、お前に会いたかったと思ってる。


「ずっとずっと会いたかったんだよ。エムジがいない人生なんて、ウチ、耐えられないから」


 その想いが、今叶った。ずっと胸に開いていた穴が、大きな穴が、塞がって──


「アタシもよエムジちゃん。アナタとの出会いがアタシの人生を変えたの。それにエムジちゃんが壊れた原因はアタシにもあるからね……計画に巻き込んだし、天馬に護衛として積んだのもアタシだから……」


「だからって……」


「バカだネ~エムジちゃん。解んない? 愛だヨ愛!」


 感動の再開にズンコが割り込む。



「1500年? そんな時間エムジちゃんは寝てたんだ。そりゃ大切な者なら心配するヨー? ワタシ達ヱレームにはそんな長い時間じゃないケド、話聞く限り、マシバニ?? アナタ元人間だって? 凄い時間だネ!」


 話に入り込んできたズンコに対し、エムジは即座に反応する。そして自分が武器を持っておらず、かつ下半身が無い事に気が付いた。


「お前は! ズンコ……てめぇ……!」


「エムジちゃんワタシの事覚えててくれたんダ! 嬉しいネ!!!」


「エムジちゃん、このヱレームの事知ってるの?」


「あぁ真屡丹。ずっと忘れてたが、何でか知らんが今は思い出せるよ……」


「ソレはシーエちゃんがエムジちゃんの記憶を丁寧に配置しなおしたおかげダネ♪ シーエちゃんには忘れられてタけど、エムジちゃんが覚えててくれて嬉しいヨ」


 エムジはクロムシェルで発見された際、記憶を大きく損壊していた。ウチが修理の為にパズルのピースを集める作業をしたことで、その時以上の記憶を取り戻しているのか。


「何しに来やがった!! いやそんな事は解りきってるか……クッソ武器が無い」


「抵抗する姿勢を見せたら撃ち殺すぞ、ズンコに何かあってはワラワも困るのでな」


 再度ミカドが銃口を向け、威嚇に入る。


「ミカドが心配してくれてワタシ嬉しいヨ~♪」


「それもあるがズンコよ、お主が四機議会の一員であること忘れるでないぞ? ワラワ達と違いお主の特異性は群を抜いている。変えはきかない」


「……ミカドにだって、変えはきかないヨ。ワタシが四機議会とか関係無イ。一度失ったらもう、取り戻せなイ」


「……そうだったな。すまぬ」


 少し低い声で話すズンコ。やはり、彼女らには愛情が……



「エムジちゃん落ち着いて。アタシも状況は良く解らないけど、アナタを修理してくれたのは目の前のズンコちゃんってヱレームなのよ」


「ワタシをズンコちゃんって呼んでくれるノ?! 嬉しいネー! マシバニちゃんって呼んでも良い?」


「アタシの事は敬意を表してバニ様と呼びなさい」


「解ったヨ! バニ様!」


「「順応早……」」


 ハモるウチとミカド。何だろう、敵なのに、ヱレームなのに、ズンコ達と話してると気が緩むというか何というか……



「茶番はいい、ズンコ。何で俺を直した。俺に何をさせる気だ?」


「特にそんなの決まって無いヨー? シーエちゃんとバニ様が必死に直しかけてたエムジちゃんがそこにいたカラ、ワタシが最後の一押しをしただけだヨ」


「だからそれは何で──!」




「最期は、大切なモノと、共にいたいデショ?」




 ズンコはエムジの言葉を遮り、そうつぶやいた。



「ワタシはこれからシーエちゃんを壊す。ようやく追い詰めた天敵なんダ。アルビちゃんのためにモ、ワタシ達の安寧の為にモ、もう、これ以上大切な友達を失わないためにも、此処で壊す」


 その目は決意に満ちていて──


「だから、最期の時間を大切なエムジちゃんと共に過ごさせてあげるノ。これは、ワタシからの、ずっとずっと戦ってきた天敵からの、最期の贈り物」


 その言葉は優しさに満ちていた。

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