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ゼロマキナIF -始まらない物語-  作者: Deino
エピローグ 安寧
45/48

エピローグ 前編

 ヱレームがネブルに来るまでの1000年、色々な事があった。……まずはバニ様の葬式だ。ウチがシーエ・エレメチアとして50歳くらいの時だったか。


 彼は元々、ウチがすったもんだしてた時は30代だったのだが……、徹夜馬鹿なのがたたったのか、はたまた頭脳労働者は運動不足になるのか、関係者の中では最も早く寿命が来た。脳出血、だそうだ。

 御劔景織子もこの日ばかりは刑務所から仮釈放され、旧友の葬儀に参列している。


 というのに──


「アタシの死に顔なんだからもっと美しくして頂戴!!」


「アンタ常に仮面ぶってるだろ! 遺体も同じだよ! つか何でウチに話しかけてくるんだよ!」


「皆アタシが話しかけると微妙な顔するんだもの。ああもう! 最高級の仮面を付けて燃やすわ!」


「資源の無駄ぁ!」


 と、もう一人のバニ様が横で騒ぐので場の空気は台無しだ。



 バニ様が研究を進めていたAI技術はあの後目覚ましい発展を遂げ、バニ様の葬儀時点ではネブル内各所で役立っていた。そしてここに立っているもう一人のバニ様もAIバニ様、つまり機械だ。


 脳のスキャン技術は研究途中で頓挫したが、それは1000後の話。この当時は研究の真っ最中だったのだが間に合わなかった。ので生バニ様がが生きているうちに手作業で自分の人格と記憶を再現し起動したのがこのAIバニ様という訳。

 手入力なので細部は違うだろうが、バニ様自信が「かなり近くなったわ」と生前言っていたので9割バニ様といった所だろう。



「アタシもアタシのオリジナルの事はよく解らないわ。"こう考えてた"ってのは植え付けられてるけど、その本心がどうだったかなんて知りようも無いしね。でもオリジナルがアタシの事を"これで完璧"と言ったのよ。ならアタシは真屡丹羽咲のコピー。それでいいでしょ?」


 本物のバニ様が作ったAI、ドロイドだ。もしかしたら性格も意図的に変えたり、理想の自分像とか入れてるかもしれないけど……いや無いか。バニ様ナルシストだしな。

 まぁともかく、生きてた本人の完全な内面は知り様が無いが、外面は何の違和感もなくバニ様している。もし入れて無い内面があったのだとしたら、それはバニ様が入れたく無かったものだし外からは観測のしようもないから、結局は行動がバニ様ならこの機械はバニ様んなのだ。

 ただまぁ、そのコピーが葬儀の場にいる事で葬式の悲しさが吹っ飛んでるんだよなぁ。


 でも、もしかしたらそれも狙いかもね。ウチを寂しくしないため、バニ様は色々と試行錯誤してくれてたから。AIバニ様もその一環かも。


 葬儀は終始シュールな空気の中行われた。AIバニ様と話しをしたくない人……、単に死者と向き合ってるみたいで怖いってのもあるだろうが、体が機械だからというのが結構大きなポイントだろうな。AI技術が浸透し始めたとはいえ、ネブルの機械嫌いは改善されていない。

 もと名誉研究室長が作ったドロイドとはいえ、受け入れられるまでには時間がかかりそうだ。なおこのAIバニ様の件はウチと生前のバニ様を通して十七委員会には報告済みなので、ネブル運営的には今後も彼を名誉研究室長として扱う予定だ。



 葬儀の後、御劔景織子とAIバニ様は二人で席を立った。つもる話もあるのだろう。そこはウチは最期まで聴かないで席を立った。



   * * *



 そして、次の出来事が──



「今まで有難うね、シーエちゃん」


「二人そろって逝くなんて、珍しい事もあるんだな」


「……流行りの病気に二人同時にかかったんだよ。それは、二人が運命の人だってことだよ。……父さん、母さん」


 ──ウチの両親の葬儀だ。


 バニ様はAIを開発した。つまり新規で思考できる機械を作れる世の中になったという事だ。

 ウチの両親は記憶の中にだけいる偽の存在。しかしそのベースは御劔景織子の両親であり、細部の設定調整はバニ様が行ったのだ。

 つまり彼等がどういう人格で、幼少期のウチとどのように接していたのか、詳しい情報はデータとして存在する。ならそれを入れてあげれば、ウチの両親の誕生という訳だ。ウチはこれをバニ様に提案し、了承してもらった。ミカヌーは若干引いてたけど、まぁ機械らしい発想だと思ってくれ。


 両親には自分たちが機械であるという事は秘密にしている。元探索委員会の事故の後、たまたまたどり着いた別の集落にあった施設を使い、命を繋いでいたという設定になっている。帰還した両親はネブルから受け入れられた。失踪した年月とウチの記憶に誤差があるが、そこは正史の方に合わせた。ウチの年齢が意味不明になるが、それは疑問を持たない様にAI操作をしてなんとかしたよ。


 そしてその後、ウチら家族は年を重ね……あ、勝手に年を重ねてるみたいに皮膚が老化したり体にガタが来る機械に、バニ様が両親を設定してくれた。ウチはネブル防衛の任があるから見た目だけだけど……。ともかく共に年を重ね、ついに両親との別れの日が来たのだ。


 機械でも何でもいい。両親は両親だった。ウチはその時点で60歳。ネブルの中では両親は長生きした方だ。40年以上、ずっと一緒にいられたのだ。一度死んで別れたはずの両親と、共にいれたのだ。


 ウチのワガママで両親の寿命を延ばす事も出来るのだが……そうなると両親は自分が機械だと知ってしまう。彼等には人として、人生を全うして欲しかった。だから、悲しいけど、今日はここでお別れ。元々会えるはずの無かった両親とのボーナスタイムだったんだ。40年、一緒にいられたことに感謝しないと。


 あとは、どうか、あの世があります様に。機械にも、そこに行く権利があります様に。


 それに……ウチは両親を見送りたかったのかもしれない。偽の記憶ではあるが、遠くで勝手に亡くなってしまった両親に、死に際に側にいれなかった事、たぶんウチは悔やんでた。それが、今叶う。


「先に天国で待ってるわね」


「シーエはゆっくりおいで」


「うん。そうするよ」


 数千年以上、後になるだろうけどさ。



「「愛してる。自慢の娘……」」



 都合よく、タイミングよく、両親は共に息を引き取った。ウチとバニ様が狙って仕込んだ、病気風プログラムによって。苦しみも無く、痛みも無く、安らかに。



「……バニ様、ありがとう」


「今は存分に泣きなさい」


「うん……」


 バニ様と、ミカヌーに抱き着き、ウチは大声で泣いた。この40年、ミカヌーはずっとウチと一緒にいてくれた。



 ……両親の葬儀が終わってしばらくして、ウチは見た目をリニューアルした。具体的には若い見た目に。軍を退いて後、しぶとく生きていた平依存さんからは「ほんっとに機械ってのは便利だねぇ」と羨ましがられた。ええやろ?

 当然他の軍人にはバレていない。ウチは新規入隊した陸羽隊員という事になっている。地位は落ちたが別に問題はない。


 ──ミカヌーからは羨ましがられると同時に、「昔のシーエちゃんに会えて嬉しい」と言われた。



 ウチの両親という設定の機械の死に、その人格ベースの子供である御劔景織子は何を想ったろうか。接点がないウチには解らない。

 ウチの両親が生きてる内に会いたいと言わなかった事を考えると、快くは思って無いか。



   * * *



 ウチの両親が死んだとなれば、当然来るのは同年代の友人の親の死だ。ウチの両親の死後5年くらいだったか。ミカヌーの親の死に目に、ウチは立ち寄る事を許された。当然見た目が若いと誰だコイツ状態になるので、以前の年老いた見た目に一旦戻しての参列だ。

 相変わらずウチは、何度も感謝をされた。貴女のおかげで娘は死なずに済んだ、共に生きる事が出来た、と。

 ミカヌーも泣いていたが、満足のいく別れが出来て良かったと言っていた。共にシワシワになった手でウチらは握手を交わし、そのままハグをした。



 ……ミカヌーとの別れまで、あと少し。



   * * *



 どんな豪傑にも死は訪れる。御劔景織子の葬儀が執り行われた。虚灯逮捕以来革命派は目立った行動をしておらず、結局御劔景織子自身、あの件であきらめがついたようだ。

 獄中の生活は彼女には狭苦しかったろうが、ラロ元秘書官はじめ、バニ様や旧友とは共に老衰まで過ごす事を許された。


 彼女は犯罪者だというのに、葬儀には人が押し寄せた。軍学徒校事態に世話になった者、共に街抗として戦った老戦士、旧友のAIである、バニ様。


「景織子ちゃんはアタシみたいになるのは嫌がってたわね。打診はしたんだけど」


「御劔さんに限らずネブルの民は機械嫌いだからね。ほぼみんな嫌がるよ」


「アタシの仕事もやりにくくなったわぁ。カリスマ性が落ちちゃって」


「そりゃ機械になったらねぇ」


 しかし、AI技術は着実にネブルに浸透してきている。

 今までは人がやらなくてはいけなかった仕事を、AIが肩代わりできるのだ。しかも電力さえ与えておけば不眠不休で仕事すると来た。電力なんてクロムシェルから少量なら簡単に取れるからね。


 AIが浸透する事により、人手がいらなくなる。となると繁殖委員会は人を増やす量を減らし、ネブルの人口は減少する。すると……資源や食料が余るのだ。

 こうなると幸せになるのはネブルの民。資源の奪い合いは発生しなくなり、種礼序列はまだ残っているものの、序列下位の所属もかなり裕福な暮らしが出来る様になる。生まれてくる人数に多少誤差が生じでも特に困らないので、摘果という間引きの文化も消失した。


 ネブルの中にいながら、ネブルをより良い空間、住みやすい空間にすることは出来る。結果論だがウチがバニ様を逮捕しなかったのは良かったのだ。バニ様いなかったらAIは出来てないから。


 この時点ではネブルにはウチやバニ様程高度でない、単純作業をするAIがそこらかしこにいる状態だった。……意思を持たせるという事にはネブルの民は反対な様だが。まぁ自由意志もったらウチみたいに反逆するかもしれんしね。元は虚灯の兵器だったウチが、自由意志のせいで保守派に寝返った訳だし。


 棺に眠る御劔景織子は、ウチの事をどう思っていたのだろうか。あの日、平依存さんと一緒に逮捕直後に話したあの日以来、言葉は交わしていない。

 あ、ちなみに平依存さんは死にました。普通の葬式だったんで回想はカット。いや、彼の功績は絶大だよ? でもカット。

 アルヴィスもこの時点では生きてたけど、数年後に亡くなった。彼も陸羽内でうまい汁を吸いつつもしっかりと仕事をこなし、立派に亡くなったよ。



 話が戻るが、このAI技術を使ってエムジを直す事はまだ出来て無い。1000年経った今でも、出来て無い。

 エムジっぽいAIを作る事は出来るだろうが……目の前に壊れたエムジがいるんだ。それを直すのがウチの使命だろう。

 フィラメンタ内でパズルの組み換えは終わった。しかし……接着が出来無いし、起動しない。これはバニ様と共に、ここから数千年、さらに頑張るしかない。



   * * *



 御劔景織子の葬式から十数年、ついに親友との別れが来た。


「シーエちゃん、大好きだよ……」


「ミカヌー……」


 親友の手はシワシワになり、力も弱い。しかしまだ生きている。大概人は死ぬとき、突然死ぬ。この様に老化による病気で、死期が近いと解る事は珍しい。

 もう、ミカヌーは長くない。だから親戚一同集まり、彼女の周りを囲んでいる。


 ミカヌーには子供がいる。軍を抜けたのだ。子供を作る権利というか義務は当然発生する。若かった頃のミカヌーの《生殖者》の時の姿、エロかったなぁ。

 摘果で子供を失う親はいなくなり、ミカヌーに出来た二人の子供も今や立派な大人だ。AIの進歩によりネブル全体の生活水準は向上し、種礼序列は下位といえど、ハリガネ種の生活もかなり安定したものとなっている。……娯楽面が第一居住区の民と比べると薄いかな? それも今後AIが解決していくだろう。



「シーエちゃんと出会えて、私、本当に幸せだった」


「ウチもだよ、ミカヌー。一緒にいてくれて、ありがとう」



 ミカヌーは当初、機械であるウチを監視する役目を嫌がっていたらしい。彼女の書いた日記を見たが……初期はウチに対する散々な悪口がつづられていた。そりょあもう大量に。……まぁ頭痛前のウチ、マジで空気読めない奴だったから割とまともな評価ではあったが……それにしても"機械である"というマイナス情報が付与され、ウチは嫌われていたのだ。

 それが変わりだしたのは出会って半年くらいからだろうか。軍学徒校で交流を深めるにつれ、ミカヌーはウチの事を本当の親友と思う様になってくれた。その後、虚灯逮捕後から今に至るまで、ずっと親友を続けてくれたのだ。


 若い見た目のウチの事を「シーエ」と呼ぶミカヌーに対して、親戚一同は顔面にハテナマークを出しているが……まぁ歳が歳だから軽くぼけてると思われてるのだろう。もしくは死期が近いから記憶が混濁しているか。

 側にいるウチとバニ様のみが、真実を知っている。

 なお年老いたウチ、元のシーエ・エレメチアは公には死んだものとされているし葬儀も行われた。しておかないと違和感出るしね? 年老いた皮膚はとっておいたので、それを適当なガワに被せて葬儀を行った。

 悲しむ演技をするミカヌー、過剰なくらいオイオイ嘘泣きしてて面白かったな。



「ハリガネ種ってさ、とにかく肩身が狭くて……。軍学徒校でも私いじめられてたんだ。でもそれを、シーエちゃんがことごとく助けてくれて」


「友達を助けるのはあたりまえでしょ?」


「友達……友達……。そう、友達だね。大切な友達。私に初めてできた、親友」


 握られた手に力が増す。


「楽しかったなぁ。シーエちゃんと一緒にいた人生。生きててよかった、産まれてきて良かったって思えたよ」


「ウチも、ミカヌーに会えて良かった」


「大好きだよ」


「ウチも大好き……ありがとう。今まで一緒にいてくれて。ウチに出会ってくれて」


「それはこっちのセリフだよ、シーエちゃん」



 ミカヌーのAIを作るかの議論は何度かなされた。ミカヌー自身はウチやバニ様と接する事により機械に抵抗がなくなっていたから作りたがったが……親には反対されたのだ。

 ミカヌーの親は人間だ。それはもちろんミカヌーもだが、お母さんはウチらの事情は知らない。知ってるのはバニ様が機械の躰になったという事だけだ。

 娘が機械になるのを、母は拒んだ。ウチとしては本心では、9割ミカヌーでもいいから一緒にいて欲しかったけど……そこは親子の問題だ。両親を渇望したウチは口を出す権利はない。

 ミカヌーは母の意思を汲んだ。恐らく人としてはそれが正しい選択なのだろう。ミカヌーの死を、魂を、より大切に想える。……バニ様は今も隣にいるから死の重みめっちゃ軽かったしね。


 てなわけで結局ミカヌーは親の意思を継ぎ、AIは作らなかった。今となっては、1000年経った今となってはそれで良かったのかもしれない。人間の寿命は長くても100年程。1000年を研究に注ぐのは参ってしまう。十七委員会みたいな化け物でもない限り。

 ……中途半端に人間の記憶と感覚を植え付けられたウチは、既に疲れ始めちゃてるしね。エムジ、数千年どころか数億年待ってたかもしれないんだよな? 凄いな……それほどウチを、愛してくれてたんだな。



「まだ頑張るんだよね?」


 ミカヌーはウチに問う。


「……エムジ直さないとな」


「先に、逝って待ってるね。何千年、何万年、何億年経とうと、天国で、待ってる」


「うん。待ってて。いつかからなず、逝くから」


 長くかかっちゃったらごめんね。そういったウチの最後の言葉は届いたのか届かなかったのか、ミカヌーは亡くなった。

 形見として、ウチの頭にはミカヌーとお揃いのテントウムシの髪飾りが光る。ミカヌーに真相を話して後、ミカヌーサイドの心情とそれをつづった日記を見せてもらった際に、お揃いでもらった……髪飾り。


「いつか、逝くからね」


 待ってて、ミカヌー。


挿絵(By みてみん)



   * * *



 親しい人達との別れを一通り済ませたウチは、その後バニ様と共にエムジ修理をし続けた。もちろんその間ウチは陸羽で、バニ様は研究室でネブルの為に働き続けたが。

 街抗向けの新技術も多数発明され、街抗の生存率は上がったが……当たり前だが機都など制圧しようはなかった。



 ──そんな折だった。大型の特異個体、ヱレームがネブルに侵入したのは。



 ヱレームはアルマ探索中の街抗を襲った機体で、侵入経路は天馬。有機探索網があるので天馬周辺は特異個体以外は活動不可なのだが……まぁ特異個体には関係無いよね? 以前見たモグラ式に近い、地面を掘り進む力があるヱレームだった。

 天馬まで逃げる街抗を追い、そのまま天馬の床をぶち破り、ネブルへと侵入を果たしたのだ。有機探索網があるから他のヱレームへと通信は出来て無いだろう。ウチが駆けつけ、処理した。ネブルの位置はバレてない。


 正直ウチの存在も十七委員会の中で若干「必要か?」みたいに問題視されてた時期だったので、タイミング的には良かったのかもしれない。人的被害も出てないし。

 ヱレーム倒したはいいけどその能力の説明は必要だったので、ウチは自分の正体を明かす事にした。1000年の間にネブルにAIは増え、ネブルの民からの機械不振も減ってたしね。もちろん正体については十七委員会と相談の元発表する事にしたけど。


 ネブルからの指示は絶大で、この箱庭を未来永劫守っていく存在として、ウチは受け入れらた。

 半面、ヱレームを招き入れた街抗や、その経路となってしまった天馬は立場を危うくする結果に……。特に天馬は床部分が大破損した影響もあり、完全封鎖される運びとなった。アルマへの一本道は、天までの梯子は、閉じた。

 かつてネブルいちの発明と呼ばれていた、夢のつまったエレベーターは、ネブル誕生から1900年後、その役目を永遠に終える事となったのだ。


 ただ天馬が無くなったからといって街抗が無くなる事はない。ネブルには天馬以外からもヱレームが入って来る可能性は存在するので、その防衛用戦力として、夬衣守は必要だし。

 アルマへの近道は無くなったが、1000年前にウチが一人でアルマに上がったみたいに、う回路を使えば時間はかかるがアルマへは行ける。アルマには資源採集の必要性もあるから、街抗は縮小はするものの存続してもらわないと困る。……最近AI増えてるから正直資源もいらんっちゃいらんのだけど。


 1000年経って、特にヱレームの侵入もあって、ネブルの空気はアルマへの憧れから、この地で暮らすという地に足の着いた思考へとシフトして行った。そうなるとなおさら街抗は必要性が薄くなるよな。

 今では陸羽の精鋭たちが対ヱレーム用に換装手術を受け、夬衣守に乗っている。ウチの躰は一つだ。それに対しネブルは広い。ウチが駆けつけるまでにネブルの民に被害が出ない様、各居住区に夬衣守を装備した陸羽が配備される形となっている。


 ヱレームが一度侵入したこともあり、ネブルの守りはより強固となった。ヱレームにネブルが滅ぼされるような未来は、これでほぼ来ないだろう。



   * * *



 ヱレームにネブルが滅ぼされる未来は来ない。1000年経った時点でのウチはそうタカをくくっていた。いや、実際それは正しい。ヱレームはネブルを滅ぼす事は無かった。ウチはヱレームからは、ネブルを、今まで守れなかった集落を守ることが出来たのだ。



 しかし、敵はヱレームだけとは限らない。



 ここから先は1000経った後の話。次のヱレームはさらに300年後に来た。今度はクロムシェルの間から、アロイジウスの様に、ボロボロになって。

 自分でネットワーク端子を出せる特異個体が、長い年月をかけてたまたまネブルにたどり着いたのだろう。申し訳無いが、直ぐに処理させてもらった。AI達を汚染されても浄化めんどくさいし。


 その後も数百年に一度単位でヱレームは現われた。なんとなくその頻度は上がってる気がするな。もしかしたらヱレーム側も、ネブルに限らず特異個体をクロムシェルに送り込んで集落狩りをしてるのかもしれない。




 ──ただ、その時点で、4対目のヱレームが来た辺りで、ネブルに人はいなくなっていた。




 疫病。こんな手段で人が、ネブルが滅ぶなんて想定外だった。そういえば人類の歴史は細菌やウィルスとの戦いの歴史だったような気がする。いつの記憶かは解らないけど。

 密集した同じDNAを持つ生物の集団、そういった空間に疫病は瞬く間に蔓延する。発祥はどこだったか。新しい合成肉を作ろうとしてポルポルに元々いた体内細菌が変異したのか、種礼序列撤廃による他種族同士の交配実験をしてる際に生まれたのか。


 細菌かも、ウィルスかも、プリオンかもわからない。前者なら細菌かウィルス、後者ならプリオンの可能性が高いが……研究をする間もなく、ネブルの民は一斉に感染し、瞬く間に死に絶えた。


 ウチらはただ焦った。感染をしないウチとバニ様は。機械である二人は。

 十七委員会も瞬く間に感染し、その長い生涯を閉じた。たった数か月の出来事だったかな? ネブルが滅びるまで。正確には、人間のいないネブルが出来上がるまで。


 どの代にも仲の良い人はいたから、ウチはただ悲しかった。ウチは、結局ネブルを、守れてない。ミカヌーの遠い子孫とも別れる事になってしまった。

 アルマを手に入れれば、病気は流行らなかったのだろうか? 解らない。何も解らない。1000年以上前にしたあの選択が正しかったのかも、何もかも。


 バニ様は「しょうがないわよ」と言う。まぁ、そうなのだろう。どうしようもない事態は発生する。ウチの記憶が正しければ、アルマに出ようとこれら病気のリスクはあったのだ。

 スペイン風邪、黒死病、天然痘……すべてが終わってからウチは思い出す。人類と病気の戦いの歴史を。


「病気とヒトリディアムの戦いは初めて聞いたわ。シーエちゃんもこうなるまで思い出せなかったんでしょう? ならしかたないじゃない。アタシ達は、残ったアタシ達は、やれることをやりましょう」


「……そう、だね。まずは皆のお墓を作りたいな」


「そうね。アタシ達機械には幸か不幸か、大量の時間が用意されてるわ。AI達と一緒に、ネブルの人達を弔ってあげましょう」


「……うん」


「アナタのせいじゃないわ。こんな現象、アタシは始めて見るけど……シーエちゃんは概念を知ってるんでしょ? ならアルマに出ても同じことは起きたかもしれない。ネブルで、約2500年、ヒトリディアムが栄え、幸せに暮らした。それで、良かったのよ」


「ありがとう、バニ様……」


 やるせない気持ちをバニ様に慰められ、ウチらは墓掘りをはじめた。衛生的には火葬の方が良いが、もうネブルには感染する人もいない。土葬で良いだろう。



 なお幸いにも、この疫病はヒトリディアムだけに感染した。ウィルス等ならそれも当然だが……セロルちゃんの花壇の花は、今も生きている。

 ミカヌーがいなくなってから1500年程、ウチはずっと、ずっとずっと一人で水をあげ続けた。セロルちゃん、君の友達はちゃんと元気だよ。安心してくれるかな?



 一か月以上続いた埋葬作業は無事終わり、ネブルには巨大な墓地が出来た。そういえば元探索委員会が発見した集落の中に、似たような構造の集落もあったな。そこも疫病で崩壊したのだろうか。だとしたら埋葬したのはウチとエムジか。


「皆が楽しく、天国で暮らせています様に」


 ウチは、ただあるかどうかもわからない天国に想いを馳せる事しかできなかった。


挿絵(By みてみん)


 人がいなくなったので、セロルちゃんの花壇は大きくすることができそうだ。育った花は埋葬されている人達に手向けよう。死者に花を贈る文化も、どこかの集落にあった気がする。



   * * *



 その後もウチはバニ様と共に、エムジを直すためだけにネブルを使い続けた。バニ様も、数千年の時をウチと共に研究に費やす覚悟をしてくれたという訳だ。

 この時点で虚灯逮捕から2000年程か? 時間の感覚が解らなくなってくる。


 一度だけ入って来たヱレームが即逃げた事があった。ネブル壁面にはヱレーム用汚染アラートを付けてるが、汚染を感知して現場に行ったらすでにいなかった。



 それから……10年と断たず大量のヱレームが侵入。あのヱレームはネブルの位置を覚えて帰ったのだ。

 しかし、生物(リディアム)のいない集落をなぜヱレームが襲う? 答えはまぁ、すぐ解ったが。



   * * *



 襲撃ヱレームの筆頭はきゃしゃな特異個体。しかし、異様に強い。ウチと同等か?

 変態宣誓を装備して抵抗したが相手も同等クラスのネットワーク端子を放出出来る。従えて来たヱレームの動きをウチは封じられず、数に押される形で勝機を逃して行った。


(ああ、ここがウチの死のタイミングなんだ)


 不思議と焦りも悲しみも無かった。たぶん、ウチは早く死にたかったのだ。本来なら、エムジが死んだあの日から。

 ようやく終われる。このヱレームは、ウチに死をプレゼントしに来てくれた救世主だろうか。ただ、死ぬなら彼の側じゃなくては嫌だ。



 ウチはバニ様と共にエムジを直していた研究室に逃げ込む。バニ様は電子汚染されていたが、ウチが変態宣誓で乗り込むと同時に汚染が浄化、動作を開始した。


「バニ様、ごめん」


「……いいのよ、シーエちゃん。ヱレームの出現頻度は上がっていた。いつかこうなる事は解ってたわ」


「ここで終わりかぁ。エムジ、直せなかったなぁ」


「……機械にも天国に行く権利があるなら、向こうで会えるでしょうよ。アタシも会いたい友達沢山いるわ」


「バニ様は既に生身の本体があの世に行ってるはずだからなぁ。今のバニ様行ったら混乱するんじゃね?」


 あの世が、あればだけど。


「いいじゃない。アタシが増えて何が悪いのよ? 魅力的なアタシという存在は多いに越した事はないわ」


「トンデモ理論だな」


 死に際だというのに、大量のヱレームが攻めてきているというのに、ウチらの会話は変わらない。あぁ、最期に側にバニ様がいてくれてよかった。一人で死ぬより、ずっと良い。


「エムジ……」


 目の前には未だ壊れたままの最愛の機械。たのむ、あの世があってくれ。再開させてくれ。エムジはずっとクロムシェルで待った後、バニ様を通じてウチと再開出来たんだろう? ウチにも、そんな奇跡が起きてくれよ。頼むよ。



 そんな願いも関係無く、終わりの時間は唐突にやって来る。ネブルを襲いに来た小柄な特異個体が、ゆったりとした足取りで研究所の扉をくぐる。


 そして





「ハ~イ♪ やっと見つけたシ追い詰めたヨ♪ もう一人のゼロマキナ」



 そうナマった日本語で告げ、ウチに銃を構えた。





挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


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