第3話ーギルドの大改造ー
ミランダはギルドの外に立ち、建物をじっと眺めていた。
(う〜〜〜ん……)
何やら悩んでいる。
ミランダが冒険者ギルドで働き始めてから、かれこれ半年ほどが経っていた――。
(最近思ったことは……冒険者達が臭い!!!)
長旅をする冒険者達が、毎日お風呂に入れるはずもなく、臭くなってしまうのは仕方がないことである。
(お風呂……温泉? ……銭湯! 建てたいな!)
ジリッ……と何かが近づいてくる。
「あ……あの……」
突然、少しガタイのいい男が話しかけてきた。
「あら? どうしまし……」
そのとき、風に乗ってふわ〜っと獣臭がミランダの鼻を通過する。
(クサッ!!!!)
「あの! あなただけは! あなただけは他とは違う!!」
男は今にも泣き出しそうな顔をしている。
(あら? この黒い瞳に、この体格……)
「ワオーン国の冒険者のノラさん?」
ミランダがワオーン国の人間を見るのは初めてだったが、その特徴は知っていた。
ワオーン国はニャオーン国の隣国。
ニャオーン国と同じく、一般の国民は『ノラ』と呼ばれている。
「そうです!! 護送依頼でニャオーン国まで来たんだ……!! うぅ……なんだかこの国に来てから、みんな目が光っているんだ……!!」
(猫の目のことを言っているのね……)
「でも、あなただけは違う! あの恐ろしい光がない……!」
(私が異世界人だとバレてしまった……?)
「とりあえず、中に入りませんか?」
ワオーン国の冒険者は、泣きそうな顔のままコクコクッと頷いた。
ミランダはノラをギルドの中へ案内する。
「あなたは……どこの国の方ですか?」
ノラがおそるおそる尋ねた。
「私はニャオーン国民ですよ?」
「えっ……」
ノラの顔が固まった。
「そ……そんなわけない……!」
そのとき、ふとミランダの奥へ視線を向ける。
「…………ヒィィィィッ!!」
突然悲鳴をあげると、ノラはそのままギルドを飛び出していってしまった。
「なんだったの……」
不思議そうにミランダが振り返る。
そこには、ライデンが立っていた。
「……騒がしい……」
「マスター!」
ライデンはミランダのそばまで来ると、じっとその顔を見つめた。
「あの……マスター?」
見つめられたミランダは、少し恥ずかしそうにする。
「……お前の目は綺麗だ」
それだけ言うと、ライデンは何事もなかったかのように戻っていった。
(光がないって言われていたの、聞いていたのね……それにしても、綺麗だなんて……)
ミランダはしばらく、うっとりとライデンの背中を見つめていた。
「……マスターはいつもいい香りがする」
ライデンの香りに癒されていたが、ふと我に返った。
(そうだ! 明日はギルド会議があるし、銭湯のこと提案してみようかな?)
――翌日
ギルド会議では、ギルドの運営状況や近況報告などを話し合う。
今日はライデン、ミランダ、ガドー、ママが集まっていた。
「最近、冒険者が増えたってもんだぜ!」
ガドーが嬉しそうに報告した。
「……そうだ。ここ数ヶ月は黒字傾向にあって、予算にも余裕がある。だからギルドを改装しようと思っている」
どうやらライデンは、ギルドの古くなったところを直したいようだ。
「それなら、改装じゃなくて建て替えて、ギルドを大きくするのはどうですか? あと私、銭湯を建ててほしいんです!」
「……」
ライデンとガドーがぽかんとしている。
「まぁ! いいじゃない! 私も賛成だわぁ」
ママは嬉しそうだった。
「いいだろう」
ライデンも賛成してくれた。
「だが、銭湯を管理するやつはどうするんだ?」
ガドーが少し心配そうに言った。
「あ……」
ミランダはそこまで考えていなかったため、しゅんとした。
「アテならある。少々変な癖があるが……」
ライデンの言葉に、ミランダの目がキラキラと輝く。
「まさか……」
ガドーは何か察したようだった。
こうしてギルドを建て替え、併設された解体屋と、新たに銭湯を造る計画が立った。
建て替えの間、ギルドの業務は近くの宿屋を借りて行うことになった。
銭湯の設計については、例の管理人に任せてあるらしい。
(きっと凄い人なんだろうな……)
そして――
新! 冒険者ギルド完成!
「わぁぁぁ!!」
ミランダはテンションが上がり、ぴょんぴょんと跳ねている。
そんなミランダを、ライデンは黙って見ていた。
「ねぇねぇ! 早く見に行きましょう!!」
ミランダが走り出す。
「やれやれ」と言いながら、ガドーもその後を追った。
冒険者ギルドは、見違えるほど綺麗になっていた。
「うおおおおお!!」
突然の大きな声に、ミランダがびくっとする。
皆がガドーのいる解体場へ向かった。
「すげーぞ! こりゃあ解体が捗るってもんだぜ!!」
ガドーはかなり気に入ったようだ。
前と比べ、解体がしやすいように部屋は広くなり、設備も整っていた。
「そうそう! ガドー! 今回、素材とかを保存できる冷たい部屋ができたんだよ! あと、キッチンも広くなったんだって!」
「感動したぜ……ありがとなぁ」
ガドーはうるっとしていた。
「銭湯も見に行きましょう!!」
ミランダはライデンの手を取って、銭湯の方へ向かう。
その様子を見て、ママは「ふふっ」とニコニコしていた。
「これが念願の銭湯……はぁぁ……銭湯のいい香りがする……」
ミランダは満足そうだ。
「マスター……ありがとうございます」
「……お前のおかげだ」
そう言って、ライデンはミランダの頭を撫でた。
(私、マスターが好き……私がここで暮らせるようにしてくれて、こんなお願いまで聞いてくれるんだもん……)
ミランダはライデンを見つめていた。
「遅くなってごめんなさ〜い♡」
艶のある白銀のロングヘアをした美形が、手を振りながらこちらへ向かってくる。
(女の人!? ……いや、あれは色っぽい美形のオネエだ!!)
「……紹介する。銭湯の管理人をするローザだ」
ライデンが少し困った顔をしている。
その横でローザは、顔の横で小さく手を振りながらニコニコしていた。
「ローザよ。仲良くしてねぇ♡」
「ミランダです。ローザさん、よろしくお願いします!」
ミランダは嬉しそうに挨拶した。
「畏まらなくていいのよ〜♡ 気軽にローザって呼んでちょうだい♡」
「うん! ローザ!」
ミランダは嬉しそうに微笑んでいる。
ローザは、ミランダの顔をじっと見つめた。
(ふぅん?)
ローザは何か察したようだった。
「おう! ローザ! 久しいな! 今までどこにいたんだ?」
「ガドー、あなた相変わらずねぇ。あたし、隣国のピヨピヨ国にある大都市ホーホーで、魔法学校の教授をしてたのよぉ」
(教授……!? そんな偉い人がなんで……!?)
「教授はもう、すっごぉい疲れるのよぉ。ここでまぁったり働かせてもらうわぁ♡」
「しっかり働け……」
ライデンは呆れている。
「ふふっ、いいじゃなぁい♡ これからよろしくねぇ♡」
こうして、新しくなった冒険者ギルドでの日々が始まった。




