第2話ー冒険者ギルドのお仕事ー
「さぁ! 今日も頑張りますか!」
あれからミランダは、ライデンの母親であるママから受付の仕事を教えてもらい、今では一人で受付を任されるようになっていた。
「おう、ミランダ! おはよう!」
元気よく挨拶してきたのは、冒険者ギルドに併設されている解体場で働くガドーだった。
ガドーはライデンの幼なじみで、かつて一緒に冒険をしていた仲間の一人でもある。
ミランダがガドーに顔を向けると、今日も綺麗に光る頭が目に入った。
「おはよう、ガドー」
(今日も絶好調ね……)
ギルドでの暮らしにもすっかり慣れたミランダは、ガドーとも気軽に話せるようになっていた。
「今日も頼むな!」
「うん!」
ミランダの主な仕事は、新しく冒険者になりたい人の登録や、持ち込まれた依頼を掲示板に貼ること、冒険者への依頼内容の説明など。他にも細かい仕事がいろいろあった。
働き始めてから、もう一ヶ月ほどが経っている。
ミランダは仕事の覚えが早く、今では手際よくこなせるようになったものの、最近は暇な時間が増えてきていた。
(少し手が余るのよねぇ……)
空いた時間にはギルドの掃除をしていたが、受付から見えるギルドの様子を眺めながら、あることが気になっていた。
(一日に来る冒険者さん、少ししかいないんだよね……)
この冒険者ギルドは、それほど大きくなく、建物も古くなっていた。
今は亡き先代ギルドマスターは、ライデンの父親だった。ギルドの仕組みはしっかりしており、設備も整っているものの、建物には傷んでいるところが多かった。
しかし、聖女が亡くなってから国の経済状況が悪くなり、ギルドを大きくすることができなかったようだ。
(どうにかできないかなぁ……)
ミランダがそんなことを考えていると、ギルドの扉が開いた。
「ミランダさん、ただいま」
「あら、ノラさん! おかえりなさい」
このニャオーン国では、名前の後ろに猫の血統を表す名前が付いている。
王族や貴族、役職を持つ者にはそれぞれの血統名があり、一般人には「ノラ」という名前が付く。
冒険者ギルドの職員には、役職を持つ者として全員に「ラグドール」という名が与えられている。そのため、ライデンやママだけでなく、ガドーもラグドールの名を持っていた。
一般人のことを呼ぶときは「ノラさん」でだいたい通じると、ミランダは以前ライデンから教えてもらっていた。
一方、ミランダと聖女は異世界から来た者として、国王から「ミヌエット」という名前を与えられていた。
ミランダの正式な名前は――
ミランダ・ミヌエット。
ただし、ミヌエットという名前は特別な意味を持つため、ライデンからはむやみに名乗らない方がいいと言われており、普段はミランダとだけ名乗っていた。
「今日は依頼達成の報告をしに来ました。これ、採取した薬草です」
ノラがカウンターに束ねた薬草を置いた。
「ノラさんは薬草採取の依頼でしたね! 確認しますね」
ミランダは薬草を手元に寄せると、種類と数を一つずつ確認した。
「はい、確かに! こちらは報酬のニャ銅貨五枚です」
ミランダが報酬を差し出すと、ノラは何かを思い出したように口を開いた。
「そういえば、薬草を採っていた近くの森にゴブリンがいて、少し活発に動いていたよ」
「あら、有力な情報ですね! とても助かります!」
ミランダは受け取った情報について少し考え込んだ。
その間、なぜかノラは額に汗を浮かべていた。
「う〜ん……もう少し情報が必要ですね。モンスターが増えているのかどうか、確かめる必要がありそうです。マスターに相談してみますね!」
「よろしくお願いします……ふぅ」
ノラはほっとしたように息をついた。
(どうしたんだろう……?)
ミランダは不思議そうに首を傾げたものの、軽くお辞儀をしてノラを見送った。
その後、ミランダはライデンの仕事部屋へ向かい、扉を優しく叩いた。
「マスター、ミランダです」
「……入れ」
返事を聞いて部屋に入ったミランダは、ライデンの机の近くまで歩いて報告を始めた。
「失礼します。マスター、どうやらまたたびの森のゴブリンが、少し活発になっているようです。もしかしたら、集落ができている可能性もあるかもしれません」
「……そうか。確認が必要だな」
「では、またたびの森のゴブリンの調査依頼を出して、討伐できた場合は追加報酬を出す形にしますか?」
「……ああ」
「はい、わかりました!」
ミランダは返事をしたものの、机に向かって書類に目を通しているライデンの姿が気になり、つい見つめてしまった。
(書類とにらめっこしてるマスターもかっこいいなぁ……)
しばらくすると、ライデンはその視線に気づいて顔を上げた。
「……何だ」
「いえ、マスターは今日もかっこいいですね」
ミランダが笑顔で答えると、ライデンは視線をそらした。
「……馬鹿だな。もう行け」
そう言って再び書類に目を向けるライデンを見て、ミランダは嬉しそうに笑った。
「ふふっ……失礼しますね」
ミランダは軽く頭を下げて部屋を出ると、受付に戻って椅子に腰を下ろし、先ほど相談した内容をもとに依頼書を作り始めた。
(ゴブリンの調査依頼、場所はまたたびの森。調査報告でニャ銅貨十枚、討伐できた場合は追加でニャ銀貨五枚。討伐の証拠品はゴブリンの左耳……っと)
必要な内容を書き終えると、ミランダは依頼書を眺めながら、ふと思いついた。
(あとは……わかりやすくゴブリンの絵でも描こうかな?)
ミランダは依頼書の空いている場所にゴブリンの絵を描き加えると、満足そうに眺めた。
「よーし! 完成!」
完成した依頼書を掲示板に貼ろうと立ち上がったところで、近くにいた初級冒険者が声をかけてきた。
「ミランダさん、新しい依頼ですか?」
「ええ、これは初級冒険者の方でもできる依頼ですよ!」
「これは何ですか?」
初級冒険者は依頼書に目を落とすと、そこに描かれた絵を指差した。
「ゴブリンです!」
ミランダが自信を持って答えると、初級冒険者は少し驚いた様子で、もう一度絵を見つめた。
(……これはゴブリンなのだろうか。丸い頭に毛が三本……丸い体に、手足が棒だ……)
「依頼、受けますか?」
「はい。受けます」
「では、説明しますね! 主に書いてある通りですが、今回の依頼は調査が中心です。ゴブリンを討伐できた場合は追加報酬が出ますが、無理に戦う必要はありません。集落の発見が難しそうなら、わかった範囲の調査報告だけでも大丈夫です。ノラさんは初級冒険者さんですから、無理は禁物ですよ!」
「わかりました。あと……この依頼書、もらってもいいですか?」
初級冒険者はもう一度、依頼書の絵に目を向けた。
(いつもはライデンさんやガドーさんが書いているから、モンスターの情報もわかりやすい。でも、この絵の特別感……もらわないわけにはいかない……!)
「ええ、構いませんよ」
ミランダが不思議そうに首を傾げると、初級冒険者は嬉しそうに拳を握りしめた。
「ミランダさん、行ってきます!」
「はい、お気をつけて!」
初級冒険者が手を振ると、ミランダも笑顔で見送った。
翌日、依頼を受けた初級冒険者がギルドへ戻ってきた。
「ミランダさん、ただいま」
「ノラさん、おかえりなさい! ご無事で何よりです。どうでしたか?」
「森ではゴブリンの数が増えていたけど、集落はなかったです。僕でも倒せそうだったので、討伐してきました」
「集落はなかったんですね。安心しました。討伐もありがとうございます!」
ミランダは報告を聞いて、安心したように微笑んだ。
「これ、証拠品です」
初級冒険者がカウンターに置いたのは、布でできた巾着だった。袋には少し汚れが付いており、中からゴブリンの耳が見えていた。
それを見たミランダの表情が、わずかに引きつった。
(き……汚い……うぅ……)
ミランダは巾着の端を指先でつまんで持ち上げると、なるべく中身を見ないようにしながら鑑定魔法道具の上へ置いた。
しばらくすると、鑑定結果が表示された。
「はい、確かに! こちらは報酬です。お疲れさまでした!」
ミランダは報酬を渡し、冒険者を笑顔で見送ったあと、カウンターに残された巾着へ視線を戻した。
(これを早く処理しなきゃ……)
ミランダは嫌そうに巾着の端をつまむと、受付の横にある通路へ向かい、解体場の扉を強く叩いた。
すると、すぐにガドーが顔を出した。
「おう、ミランダか! どうした?」
「……どうしたじゃない。これ!」
ミランダはガドーに巾着を差し出した。
「おう! こりゃあゴブリンの証拠品だな! 助かるぜ! ありがとうな!」
ガドーが豪快に笑うと、ミランダは冷たい目を向けた。
証拠品はモンスターの素材としてギルドの売上にもつながるため、ガドーに処理してもらう必要があった。
すると、ガドーが何かを思い出したように口を開いた。
「そうだ! もう少ししたら飯ができるぞ! ライデンとママを呼んできてくれるか?」
「ご飯!? わかった!! すぐ呼んでくるね!」
ミランダは嬉しそうに目を輝かせると、急いでギルドを閉める準備を始めた。
その後、ライデンとママを呼びに行き、みんなで食卓を囲んだ。
「おう! いっぱい食えよ!」
テーブルには美味しそうな料理が並んでおり、ミランダは目を輝かせながら席に着いた。
(わぁぁぁ……! 今日は白身魚のフライだぁ!)
ガドーは料理がとても上手で、ミランダはガドーの作るご飯が大好きだった。
ミランダは白身魚のフライをフォークで一口分に分け、口へ運んだ。
衣は香ばしく、中の魚は柔らかい。温かい料理を味わうと、自然と笑顔がこぼれた。
「んん〜〜っ!! おいし〜〜い!!」
ガドーはミランダの反応に満足そうに笑い、ライデンとママも微笑ましそうに見ていた。
「明日も頑張ります!」




