第1.5話 ノラの噂ー可愛い受付嬢ー
「はぁぁ〜……やっと帰ってこれたな」
数週間ぶりにニャオーン国へ戻ってきた中級冒険者のノラは、疲れた様子でギルドへ向かっていた。
この国では、一般人の名前には「ノラ」という名が付く。
ノラが冒険者ギルドの扉を開けると、今までとは何か違う雰囲気が漂っていた。
「あら、おかえりなさい」
受付には見たことのない可愛らしい女性が立っており、突然声をかけられたノラは思わず戸惑った。
「あ……え、えっと……」
ノラが言葉に詰まっていると、女性は笑顔で自己紹介をした。
「初めまして、ミランダと申します」
ノラは挨拶を返そうとしたが、いつも受付にいるママの姿が見当たらないことに気づき、辺りを見回した。
「初めまして、ノラです。あの、ママは……?」
「ママは非番になったんです。今は私がメイン受付なんですよ」
(新しい人を雇ったんだ……! ママだけじゃ大変だもんな……)
以前からママのことを心配していたノラは、その言葉を聞いてほっと胸をなで下ろした。
「そうですか。じゃあ依頼の報告を……」
「はい。お願いします! まだ日が浅いので至らない所があるかもしれませんが、お手柔らかにお願いしますね」
ミランダがまだ仕事に慣れていないことを知り、ノラはいつもより少し丁寧に依頼の報告をした。
「はい。ありがとうございました! お疲れさまでした。ゆっくり休んでくださいね!」
(ミランダさん、笑顔が可愛いな……)
以前よりもギルドの雰囲気が温かく、どこか安心できるような心地よさに、ノラは疲れが和らぐのを感じていた。
改めてギルドを見渡すと、以前よりもきちんと整理され、埃っぽさもなくなっているようだった。
(あれ、ギルドちょっと綺麗になった……?)
「明日、また来ます」
「はい! お待ちしております」
ミランダは笑顔で手を振り、ノラを見送った。
翌日、ノラが再びギルドを訪れると、ミランダはすぐに気づいて声をかけた。
「ノラさん、おはようございます。朝早いんですね」
「ミランダさん、おはようございます。今日はライデンさんに相談したいことがあって……」
ノラはミランダの可愛らしい笑顔に少し照れながら答えた。
「わかりました! マスターを呼んできますからお待ちください!」
そう言うと、ミランダは二階へ上がっていった。
ノラがミランダの笑顔を思い返していると、周りにいた冒険者たちが何やら騒ぎ始めた。
「おい……あいつ、ギルドマスターを呼びやがったぞ……!」
「平穏な空気だったのに……!」
「知らないのか……?」
周囲から聞こえてくる小声の会話に、ノラは何が起きたのかわからず、戸惑いながらライデンを待っていた。
(な、なんだ……??)
やがて奥の方から、ミランダとライデンがこちらへ向かってくる姿が見えた。
「あ、ライデンさ……ん!?」
ミランダの温かな雰囲気とは対照的に、隣を歩くライデンの威厳ある姿が目に入った途端、ギルドの空気が一変した。
ノラは思わず息をのみ、その場で体を固くした。
「……どうした」
ライデンが問いかけるが、恐怖で固まったノラは返事をすることができなかった。
「ノラさん!? もしかしたら具合が悪いのかも……!」
ミランダは心配そうにノラへ近づいたが、反応はない。
(……こ、怖すぎて体が動かない……前はこんな事なかったのに……)
何も答えないノラを不思議に思ったライデンは、様子を確かめるように目を細めた。
その表情を見たノラはさらに怖くなり、すっかり力が抜けてしまった。
「……客間で休ませる」
ライデンはそう言うと、ノラを肩に担ぎ、片手で支えながら客間へ向かって歩き出した。
担がれたノラは、ふと顔を上げて受付の方へ振り返った。
そこで目にしたのは、こちらを見ながら静かに手を合わせている冒険者たちの姿だった。
(な……なるほど……皆が言っていたのはこういう事だったんだな……)
その向こうでは、ミランダだけが心配そうにこちらを見つめていた。




