第9話ー儚い想いー
「はぁぁ〜、なんだか充実した一日だったなぁ」
ミランダは満足そうにしていた。
「楽しそうだったな。遅いから陛下がずっとそわそわしていたぞ」
「……ごめんね。こんなに遅くまで付き合わせちゃった」
ミランダは少し申し訳なさそうにした。
「俺は構わないさ。ミランダが無事ならな」
「ありがとう」
そんな話をしているうちに、国王の部屋の前に着いた。
「俺は外で待ってる」
ミランダはグレイに頷くと、ドアをノックした。
「王様〜! 入りますよ〜!」
ミランダが部屋に入ると、国王の顔がぱっと明るくなった。
「おお! ミランダ! 待っとったぞ! 遅いから心配してたんだ」
「ごめんなさい。でも大丈夫でしたよ!」
ミランダは軽く謝ると、笑顔を向けた。
「……そうかそうか。それはよかった。して、何だったのか……」
国王はほっとした様子だった。
「王様には言えなかったんだと思います。サオリは恋! してるんです!」
「……恋? そうだったのか……ならば私には話さんだろうな……ミランダよ、助かった。礼をさせてくれないか」
思わぬ答えに、国王は少し驚いていた。
「王様がそう言うかもと思って、決めてあるんです!」
「ほう? ミランダにしては珍しいな。何でも言うがよいぞ」
「ロシアンブルー公爵様の縁談を全て無くしてください」
「……なるほど。そうだったか。容易いことだが、ミランダはそれでいいのだな?」
ミランダの願いを聞き、国王は事情を察した。
「ええ! もちろん!」
ミランダは嬉しそうに答えた。
「……はぁ、わかった」
国王はまたかと言わんばかりにため息をついた。
どうやら国王は、ミランダ自身に何か褒美を与えたいようだった。
「やった! ありがとうございます! 王様!」
「……だがな! 今回はそれだけでは納得せんぞ! ミランダのための願いを叶えたいのだ」
ミランダは少し困った顔をしたあと、答えた。
「う〜〜ん。じゃあ、王様とお茶する機会をください!」
(それは誰が得をするんだ? 私ではないか!)
国王は心の中でツッコミを入れながらも、渋々ミランダの願いを受け入れた。
「……仕方がない。今回はそれでよい。ミランダの好きな菓子を揃えよう。また詳細を伝える」
「ふふっ、楽しみにしてます! 王様!」
ミランダは呆れている国王を見て微笑んだ。
「ミランダよ。今日は泊まっていきなさい。いくら護衛がいるとはいえ、何があるかわからないからな。外にグレイもおるのだろう? 隣の部屋にしておこう」
「ええ! 帰れますよ!?」
「駄目だ! 泊まるのだ!!」
国王は、久しぶりに実家へ帰ってきた娘を引き止めるかのように、ミランダに接していた。
そうこう話しているうちに、使いの執事がやって来た。
「ミランダ様。ご案内いたします」
(王様ったら! 強制連行じゃない!)
国王はニヤッと笑っていた。
「じゃあ、おやすみなさい。王様」
「ゆっくり休むのだぞ」
執事とミランダが部屋を出ると、グレイが待っていた。
「泊まることになっちゃった……」
ミランダがそう言うと、グレイは何か思いついたようだった。
「そうか。ならちょうどいい。明日は騎士団を見学していかないか? 前に言っていただろう?」
「見てみたい!」
ミランダは目を輝かせた。
そして、案内されるままに部屋へと向かった。
(……今日はもうマスターに会えないんだ……寂しいな……)
道中、ミランダは指輪を見つめた。
(……貰ったはいいものの、使い方知らない……!)
「ねぇ、グレイ。これってどうやって使うかわかる? マスターと話したいの」
「通信用の魔法具だな。手をかざすと光り出す。そしたら話せるようになる。通信を切るときは、また手をかざせばいい」
「ありがとう!」
話しているうちに、部屋の前に着いた。
「ミランダ様はこちらの部屋をお使いください。グレイ様は奥の部屋になります。他に何かございましたら、近くの使用人にお申し付けください」
そう言うと、執事は去っていった。
「ミランダ。城とはいえ、確実に安心とは言えない。だから何かあれば、すぐに呼んでほしい」
「グレイは心配性なのね! 大丈夫よ!」
「鍵は閉めるんだぞ! ちなみに俺の部屋は鍵を開けておくから、ノックせずに入ってきて構わない」
ミランダはそんなことするわけないと言わんばかりに、クスクスと笑っていた。
「わかった! じゃあ、おやすみ! グレイ!」
「あ……ああ」
そう言うと、ミランダは部屋に入っていった。
(……あれは、わかっていないな……)
寝る準備を終えたミランダは、ベッドの上に座り、指輪を眺めていた。
(マスター……心配してるよね……)
ミランダが指輪に手をかざすと、宝石が光り出した。
「これでもう話せるのかな? マスター! マスター! 聞こえるー?」
『……ああ』
ライデンから返事があり、ミランダはその声に安心した。
「泊まることになっちゃったの」
『……そうか。無事なんだな』
「うん! 問題は解決したから!」
『……よくやった』
褒められたミランダは嬉しそうだった。
「明日はグレイの騎士団を見たら帰るね!」
『……見るだけだ』
「わかってる! 見るだけ!」
『……迎えに行く』
「え!! マスター迎えに来てくれるの!?」
ミランダは驚いた。
『……ああ』
「……会いたかったから嬉しい」
『……もう寝ろ』
「ねぇ、マスター……私ね。今日すごく楽しかった……。でも、マスターがいないと私、やっぱりダメみたい。なんか寂しくて…………あ、はは! 私ったら何言ってるんだろう?! おやすみ! マスター!」
恥ずかしくなったミランダは、咄嗟に指輪に手をかざして通信を切った。
(……なんであんなこと言っちゃったの!?)
ミランダは布団に潜り込んで眠った。
翌朝――。
ミランダが支度をしていると、ドアがノックされた。
コンコン……
「ミランダ、起きているか?」
ドア越しにグレイの声が聞こえ、ミランダはドアを開けた。
「おはよう! グレイ! 準備できてるよ!」
グレイはミランダを見ると、跳ね上がっている髪をそっと撫でた。
「寝癖がついている」
そう言われたミランダは、恥ずかしそうに両手を頭に当てた。
「ははっ! そういうところも可愛いな」
「もう〜!!」
ミランダは頬を膨らませ、笑われたことに恥ずかしがりながらもムッとした。
二人が騎士団の訓練場へ向かうと、騎士達が剣の素振りをしているのが見えた。
「軽装で練習しないんだ?」
「ああ、騎士の服は重くて頑丈だ。いざ戦いのときに軽装に慣れていると、不利になるからな」
ミランダがなるほどと納得していると、一人の騎士がグレイに気づいた。
「あれ? 騎士団長じゃないですか! 今日は別件で不在だと聞いていましたが……?」
騎士が声をかけると、周りの騎士達もグレイに気づいた。
「ああ、お前達の様子を見に来たんだ」
「そうでしたか。こちらの女性は……?」
騎士達の視線がミランダに向けられると、ミランダはニコッと笑顔で挨拶をした。
「冒険者ギルドで受付をしているミランダです。皆さんの稽古を見学しに来ました」
ミランダの笑顔を見た騎士達は、何を思ったのか、グレイに視線を集めた。
((……まさか! 団長の……))
グレイは何だ? とポカンとしていた。
「このあと対人練習ですが、見ていかれますよね?」
騎士がそう言うと、グレイは何か閃いたようだった。
「よし、俺が出よう」
その言葉に、騎士達の顔が青ざめた。
「数人でかかってきて構わない。一本取れた者は昇給してやる」
その言葉に、騎士達は燃え上がった。
「後で撤回しないでくださいよ?」
「もちろんだ」
騎士達はやる気に満ち溢れ、対人練習の準備を始めた。
「十人いれば、何とかならないか?」
一人の騎士がそう言うと、周りの騎士達も頷いていた。
「大丈夫なの?」
ミランダが少し心配そうにグレイを見ていた。
「この程度で負けては、騎士団長は名乗れないかもな?」
グレイはどこか余裕そうな顔をしていた。
騎士から呼ばれたグレイはミランダの傍を離れ、騎士達の前に立った。
グレイの周りには、十人の騎士が集まっていた。
「準備はいいですね? 本気でいきますよ!!」
騎士達は真剣な表情でグレイを見ていた。
「もちろんだ。そうでなくては困る」
グレイがそう言うと、遠くの方から声が聞こえた。
「グレイーー! 頑張ってーー!!」
笑顔のミランダが大きく手を振っていた。
それを見たグレイはふっと笑い、嬉しそうだった。
「始め!」
合図とともに、二人の騎士が先手を打とうとグレイに斬りかかった。
グレイは一人の騎士の攻撃を避け、もう一人の騎士の剣を受け止めた。
そのまま力でなぎ払うと、騎士の剣は高く弾き飛ばされ、騎士はその場に倒れ込んだ。
続けて数人の騎士が斬りかかるが、グレイは巧みに攻撃をかわし、次々と騎士達をなぎ払っていく。
気がつくと、十人の騎士達は全員倒れ込んでいた。
「もう終わりか?」
グレイが騎士達を見下ろしていると、ぐったりした騎士がぼそっと呟いた。
「もう……無理……」
グレイが少し呆れていると、ミランダが駆け寄ってきた。
「グレイ! すごいね! かっこよかったよ!!」
ミランダはキラキラした目でグレイを見つめていた。
かっこいいと言われたのが嬉しかったのか、グレイは少し照れていた。
「……あ、ああ」
「騎士の皆さんもとてもかっこよかったです! これからも頑張ってくださいね!」
騎士達はミランダの言葉に和んでいた。
((……いい人だなぁ……))
「少し休憩したら、稽古に戻れ」
グレイが指示すると、騎士達は悔しそうにしていた。
「行こうか。ミランダ」
グレイがそう言うと、二人は訓練場を後にし、ギルドへ向かおうとしていた。
「戦ってるところ、見たことなかったから、こんなに強いなんて思わなかったよ」
ミランダがそう言うと、グレイは微笑んだ。
「惚れたか?」
「ふふっ。まさか! でも本当にかっこよかったよ」
冗談のような、そうではないような意味深なやり取りをしていると、王城の入口にライデンの姿が見えた。
「マスター!!」
呼ばれたことにライデンが気づくと、ミランダは走り出し、その傍へ駆け寄った。
「……帰るぞ」
ライデンがそう言うと、グレイは少し残念そうにしていた。
「俺が送ると言っていたのに、そんなに心配なのか?」
「……ああ」
グレイはライデンの返事に少し驚いていた。
「グレイ! ありがとうね! じゃあまたね!」
ミランダが笑顔でグレイにお礼を言うと、二人は楽しそうに話しながらギルドの方へ向かっていった。
グレイはその後ろ姿を見送っていた。
(……あいつには、何度挑んでも勝てなかった)
遠ざかっていく二人の背中を、グレイは静かに見つめた。
(……だが、まだ諦めるつもりはない)
グレイはグッと拳を握り、遠くを見つめていた。




