第8話 番外編ー2人の距離ー
ライデンは一人、考え込んでいた。
(……ミラを守る為の手は尽くせている。……が、手段は多い方がいいか……)
しばらく考えた後、ライデンは立ち上がり、ある場所へと向かった。
向かった先は魔法具店だった。
ライデンが店に入ると、気さくな店主が出迎えた。
「いらっしゃいませ。おや、ギルドマスターではありませんか。何をお探しですか?」
店主が尋ねると、ライデンは迷わず答えた。
「……通信の取れる魔法具だ」
「ああ。以前お作りさせていただいた、ギルドの水晶ですか?」
店主は、ギルドを閉めている時に使う水晶のことを指していた。
「……いや、あれは壊れていない。別のものはあるか」
「ええ、もちろん。水晶以外ですと、アクセサリーになりますね」
店主はライデンの前に、ネックレスと指輪を出して見せた。
「ネックレスと指輪がございます。ネックレスの方は、身につけている全ての人と通信が取れるようになっています。指輪は特定の人物とのみ通信が可能ですが、危険な時などに信号を送れるようになっています。ただ、少々値は張りますが……」
店主がそう言うと、ライデンは迷うことなく答えた。
「……こっちだ」
ライデンは指輪を指していた。
「かしこまりました。サイズなどはお分かりですか?」
店主に尋ねられ、ライデンは少し考え込んだ。
「お分かりにならないのでしたら、魔法でサイズを変えられるように致しましょうか?」
困っている様子のライデンを見て、店主は気を利かせて提案した。
「……ああ。頼む」
「指輪にはめる宝石はどう致しましょうか? お好きな色の宝石をはめることが出来ますよ」
「……何でも構わん」
ライデンは店主に任せることにした。
「でしたら、ギルドマスターの瞳と同じ黄色の宝石に致しましょう。夕方には出来上がりますので、また取りに来ていただけますか?」
「……ああ」
ライデンは店を後にし、夕刻まで仕事をしていた。
(……そろそろ取りに行くか)
仕事を終わらせると、再び魔法具店へ向かった。
ライデンが店の扉を開けると、店主がすぐに気づいた。
「お待ちしておりました、ギルドマスター。出来上がっておりますよ」
店主はライデンの前に、完成した二つの指輪を並べた。
ライデンは指輪を手に取り、じっと確認した。
「……ああ。問題ない。感謝する」
「よかったです。二つでニャ金貨10枚になります」
店主がそう言うと、ライデンは何事もなかったかのようにニャ金貨10枚を置いた。
「あっ……ええ。毎度ありがとうございます」
(……大抵はここで金額が高いと渋るお客様が多いのだが……さすがギルドマスターだ)
店主は少し驚き、ライデンの顔をちらりと見た。
「……何だ」
「い、いえ! 何でもございません!」
ライデンは二つの指輪を胸のポケットにしまった。
(誰に使うんだろうか……おっと、これ以上はお客様を詮索してはいけない!)
「またお待ちしております」
店主が笑顔で見送ると、ライデンは店を後にした。
――それからというもの、ライデンは度々、指輪のことを思い出していた。
「マスター! 私、依頼を受けたいです!」
ミランダが依頼を受けて外へ行きたいと言った時、ライデンは一緒に行くことにした。
(……傍にいるなら、必要ないな)
ライデンはそっと胸のポケットに手を添えた。
――また別の日。
ギルドの皆で夕食を取っていた時のこと。
「今日ね、グレイに騎士団を見学しに来ないかって言われたの」
ミランダが少し困った様子で言った。
「あんな堅苦しい所に行ってみたいの?♡」
ローザは騎士団のような堅苦しい場所が苦手のようだ。
「……少しだけ見てみたい。国を守ってる騎士団がどんなところなのか! そういえば、そこまで堅苦しくないって言ってたよ?」
「どうかしらねぇ?」
ローザは少し呆れた様子で答えた。
(……行くなら、渡しておくか。いや、俺が一緒に行けばいい)
ライデンは胸のポケットに目を落とし、少し考えた後、黙ってミランダを見ていた。
――そして、その時はある日突然訪れた。
「陛下からの呼び出しだ。だから借りていくよ」
グレイは、国の存亡に関わる事態にミランダが必要だと告げ、王城へ連れていこうとしていた。
(……国の存亡か。何故、危険な場所にミラを連れていく必要がある。こいつは信用しているが……)
ライデンが悶々と考えていると、支度を終えたミランダが戻ってきた。
不安そうな顔をしているミランダを見て、ライデンは胸騒ぎを覚えた。
(……準備していて正解だったな)
ライデンは胸のポケットから指輪を取り出すと、ミランダの手を取り、人差し指にはめた。
「……マスター? これは……?」
「……通信の取れる魔法具だ。些細なことでも構わない」
「マスターありがとう。私、これがあれば無敵だよ!」
ライデンはミランダの安心した顔を見て、胸騒ぎが収まっていくのを感じた。
ミランダを見送ると、ライデンはそっと自分の指にも指輪をはめた。
――その夜。
ライデンとローザは話をしていた。
「浮かない顔ね。もう帰ってきてもいい時間だけれどねぇ♡」
ライデンがため息をつくと、ローザはくすくすと笑った。
「……頼めるか」
「あらぁ?♡ 久しぶりにやるのね?♡」
ローザはニヤニヤしながら、ライデンに向かって指で呪文を描いた。
ポンッ!
すると、ライデンは猫の姿に変わった。
「ふふふ♡ 可愛いわね♡」
「……黙れ」
猫の姿になったライデンは、ローザを睨んでいた。
「一時間よ♡ 早めに戻ってくることね♡」
「……ああ」
ライデンは走り出し、王城へ向かった。
王城に着くと、呆気なく中へ入り込むことが出来た。
(……警備が緩い)
呆れながら城内をうろうろしていると、グレイとミランダが歩いているのを見つけた。
(……表情は明るい……か。問題なかったようだな)
その姿を見て安心したライデンは、ギルドへ帰っていった。
ギルドに戻ったライデンは人間の姿に戻り、先ほど見た光景を思い出していた。
(……俺が傍にいてやれないとはな……)
グレイとミランダが楽しそうにしていた姿を思い出すと、苛立ちが込み上げてきた。
自分の感情を上手くコントロール出来なくなっていたライデンは、冷静になろうとため息をついた。
(……そうか。俺はお前の事が……)
ライデンは窓の外、どこか遠くを眺めていた。




