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受付嬢のうたた寝  作者: 雲丹猫
第1期
27/33

S.epーローザの違和感ー

ガラガラと銭湯の扉が開く。


「いらっしゃ〜い♡」


ローザはニコニコと笑顔で出迎えた。


「ローザさん、こんにちは! 二人です!」


二人の冒険者が銭湯に入りに来たようだ。


ノラは二人分の料金を支払った。


「はぁい♡ ゆっくりしていってね〜♡」


ローザはニコッと微笑みながら二人を見送ると、すっと普段の表情に戻った。


そして、だらけたように椅子に腰掛け、煙管を吸い始めた。


この銭湯にはローザの魔法が施されており、どんな会話もローザの耳に届くようになっている。


ローザは日々、冒険者たちの会話を聞きながら情報収集をしているのだ。


(……さて、今日はどんな話が聞けるだろうね……)


先ほど入っていった冒険者たちの会話が、ローザの耳に届いた。


『お前、最近見たか?』


『何を?』


『ドブネズミだよ』


『ああ! 見た見た! 気味が悪いったらありゃしないよ』


どうやら、チュウチュウ国の者がニャオーン国に来ているようだ。


(ふうん? 珍しいな。よっぽどのことがないと、この国には来ないはずだけどねぇ……)


ローザは違和感を覚えた。


『コソコソしてるから怪しくて話しかけたんだ』


『なんて言ってた?』


『誰かを探しているみたいだ。なんか特殊能力を持った人らしい』


『特殊能力……? この国で特殊能力って言ったら聖女様じゃない?』


『俺もそう思ったんだ。聖女様に何かしようと思ってるなら帰れって言ったんだ』


(狙いは聖女か……? でも、わざわざコソコソする必要があるのだろうか?)


ローザはチュウチュウ国の者の行動を不審に思っていた。


『当たり前だ! あの国は何をするか分からないからな……』


チュウチュウ国は王都だけが潤い、国全体としての治安はかなり悪い。


(俺も何度か行ったけど、あの国は好きじゃないんだよねぇ……)


ローザは以前チュウチュウ国を訪れた際に見た、悲惨な光景を思い出していた。


『だが、聖女様じゃないらしい』


『ふぅん……そうなんだ? でも、他に特殊能力を持った人なんていたっけ?』


『俺は心当たりがなくてな。見つけるまで滞在するんだとよ』


『はは! いない人を探すのは無謀で馬鹿だね〜』


(特殊能力か……。もし見つけたとして、どうするつもりなんだろうねぇ……。まぁ、ろくでもないことなのは間違いないかなぁ)


ローザの脳裏には、チュウチュウ国の素行の悪さが浮かんでいた。


『俺らが知らないだけで、案外近くにいたりしてな!!』


『はは! いたら分かるよ!!』


その言葉を聞いたローザは、ハッとした。


(……まさか。彼女にそんな力があったか? でも、どうしてバレているんだろう? 国家秘密のはず……)


ローザはしばらく考え込んだ。


(……分からないことを考えても仕方ない、か)


『見かけたら、からかってやるか!』


『この国でちょこちょこされたら鬱陶しいからな! いい遊び相手だ』


ノラたちは笑っていた。


(そのまま追い払ってくれると助かるねぇ。もう少し情報を集めてみるか)


ローザはぼんやりと考えながら、煙管の灰を捨てた。


そのとき、ガラガラと別の客が銭湯にやって来た。


「いらっしゃ〜い♡」


ローザはいつも通りの笑顔で出迎えた。


「こんにちは〜! 三人お願いします!」


やって来たのは、三人の女性の平民たちだった。


「ええ♡ ゆっくりしていってね〜♡」


ローザがそう言うと、三人は女湯へと向かった。


『はぁ、ローザさんっていつ見ても素敵だわ』


『あんた、ほんと男の色気に弱いね』


『些細な気遣いもできて、私も好き』


三人の女性たちの会話が、ローザの耳に届いていた。


(馬鹿な女だねぇ……俺みたいなのはやめておいたほうがいいのに)


ローザはふっと笑った。


『あー……さっき触られたところが、なんか気持ち悪い……! いっぱい洗っておこ……!』


『ほんとびっくりしたよね!』


『さっきの人、この国の人じゃなかったよね?』


『うん、あれはチュウチュウ国の人じゃない?』


『ジロジロ見た後に、すぐどっか行ったけど……』


(なるほどねぇ……。狙いは女か。城下で探しているとなれば、さっきの話と繋がるな……)


ローザは少し考え込んだ。


(特殊能力を持った女……。やっぱり彼女の可能性が高いか。よりにもよって、面倒なのに目をつけられたな……)


ローザは厄介事にうんざりしていた。


深くため息をついていると、先ほどの冒険者たちと女性たちが戻ってきた。


「やっぱり、なんかさっきのとこ痒いかも……」


一人の女性が、掴まれた腕を見つめていた。


「思い込みじゃないの〜?」


もう一人の女性が呆れたように言った。


その様子を見たローザは、女性に向かって手招きをした。


「ローザさん? なんですか?」


女性はキョトンとしている。


「腕、見せてごらん♡」


ローザがそう言うと、女性はすっと腕を差し出した。


ローザはその腕をじっと見つめた。


(……なるほどね)


そして、そっと浄化の魔法をかけた。


「……あれ!? なんか治ったかも!? かゆくない!」


「ふふっ♡ 気をつけなさいね♡」


「ありがとうございます!」


女性たちはお礼を言うと、銭湯を後にした。


(汚染されていたな。となると、うろうろしているネズミは平民だろうねぇ……)


チュウチュウ国では、王族や貴族など血統名を持つ者たちは清潔な暮らしを送っている。


しかし、平民たちの暮らしは酷く、かなりの確率で汚染されていることが多いのが特徴だ。


(ともかく……ライデンに報告か……)


ローザは椅子から立ち上がり、ギルドへと向かった。


そして、ギルドの扉を開けると――


(うっ……くさ! 何この状況は……)


そこには、汗だくになりながら筋トレをしているノラたちの姿があった。


(……いけない。私ったら、今は一人じゃないのよ)


ローザは顔に出さないよう、にっこりと微笑んだ。


「あら〜?♡ 何してるのかしら〜?♡」


ノラたちから、何かを訴えるかのような視線が一斉に向けられた。


ローザはパパッとその状況を片付けると、ライデンがこちらを見ていた。


「……またか」


ライデンは何かを察したかのように言った。


「もっと良くないことなのよ」


ローザはそう伝えると、辺りを見回した。


しかし、ミランダの姿が見当たらない。


「ちょっと! あの子は!?」


ローザは少し慌てた様子でライデンに尋ねた。


「……陛下の呼び出しで城に行っている」


「そう……護衛はつけたんでしょうね?」


ローザはライデンを少しだけ睨んだ。


「……ああ。信頼できる奴だ」


(護衛はグレイなのね……それなら安心ね)


ローザは銭湯で聞いた情報を、ライデンに詳しく話した。


ライデンは黙って話を聞いていた。


「……数日、様子を見る」


「わかったわ。でも、ギルドに感知魔法をかけておくわね♡」


「……ああ。助かる」


(不器用な人ね……ま、俺も人のこと言えないか)


ローザは小さく微笑んだ。


それから数日間、チュウチュウ国の者たちは姿を見せなかった。

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