第8.5話 ノラの噂ー不機嫌なギルドー
ミランダとグレイはギルドから出ていった。
(おいおい……! 国王がミランダさんを呼び出し!? 大丈夫なのか!?)
(…………ミランダ…………)
(何かしたらただじゃおかないぞ……!!)
ギルドにいたノラ達は、出ていったミランダ達の姿を思い浮かべているのか、ドアをじっと眺めていた。
ふと我に返ったノラ達は、今の状況に背筋が凍った。
ドカッとライデンが受付に座ると、いつものギルドとは明らかに違う雰囲気が漂い始めた。
(……待ってくれ。ライデンさんが受付をするのか!?)
(生きて帰れるのか……わからなくなったぞ……)
(……気配を消して逃げるか……)
ノラ達がライデンの方を見ると、ライデンは険しい顔をしており、殺気を放っていた。
((……明らかに不機嫌……!!!))
ノラ達が固まっていると、ライデンが口を開いた。
「……お前達、今日の依頼は無しだ」
(……え? 本当に!?)
(窮地を逃れた……!!)
ノラ達はほっとしていた。
「ライデンさん、じゃあまた明日……」
一人のノラがそう言い出すと、ライデンは立ち上がった。
「……待て。依頼は無しと言ったが、帰っていいとは言っていない」
「……はい?」
ノラはポカンとしている。
「……全員、腕立て、上体起こし、素振りをそれぞれ10回。それを10セット繰り返せ」
(…………はい??)
「え、えっと……な、何故でしょうか……」
ノラが恐る恐るライデンに聞くと、今まで見たことがないほど恐ろしい殺気に、思わず心臓が止まりそうになる。
「……出来ないのか?」
「……デキマス」
ノラは咄嗟に答えてしまっていた。
((……こ、こぇ〜〜〜……!!!))
ギルドの受付周辺では、邪魔な物が退けられ、それぞれが筋トレを始めていた。
(……ふっ、俺は隠密が得意なんだ……今のうちに逃げるぞ!)
「……どこへ行く」
ライデンは逃げ出そうとしていたノラの首根っこを掴み、持ち上げた。
「……シュミマセン……」
「……100回追加だ」
逃げ出そうとしていたノラは、しくしくと泣きながら筋トレを始めた。
(……馬鹿だろ……あいつ)
(……逃げられるわけがないだろ!)
(大人しく従っていればいいものを……)
ノラ達は哀れみの目でそのノラを見ていた。
(……なんとかこの地獄の雰囲気を変えられないのか……)
雰囲気を変えたいと思ったノラがライデンを見ると、珍しいものが目に入った。
「ライデンさん。指輪なんて前からしてましたっけ? 綺麗ですね」
ノラがそう言うと、ライデンは指輪に目を落とした。
(……お? ……おお!???)
ライデンは指輪を眺め、何かを考えているようだったが、次第に殺気が強くなっていった。
「……100回追加だ」
(えええーーーー!? なんで!?)
ノラ達が苦しみながら筋トレをしていると、誰かがやって来た。
「よう! なにしてんだ?? お前ら!!」
笑顔のガドーだった。
(……助かったか)
ノラ達の目に希望の光が宿った。
「筋トレか! 筋トレってのはな! 軽くやっても意味がねぇんだ! こうだ! ほら! 真似してみろ!!」
ガドーがノラ達に指導し始めた。
(……鬼だ……)
(指導はいいからライデンさんをどうにかしてくれよ!!)
(もうだめだ……今日で俺は空に行くかもしれない……)
ノラ達は文句と諦めの気持ちでいっぱいになっていた。
そんなことを思っていると、ギルドのドアが開いた。
「あら〜♡ 何してるのかしら〜?♡」
ニコニコとしたローザがギルドにやって来た。
「ふふっ♡ 汗くさいわね〜♡ ここにミランダが戻ってきたら大変だわぁ♡ はいはい! あんた達! さっさと銭湯に入ってきなさい♡」
ローザがそう言うと、ノラ達の目からは自然と涙が溢れていた。
(……神はこっちだったか……)
(ローザさん……大好きです……)
解放されたことに安堵したノラ達は、ワラワラと銭湯へ向かっていった。
「ったく! 今いい所だったのによぉ!!」
ガドーは名残惜しそうにしていた。
「あんたは馬鹿ね〜♡」
ローザはくすくすと笑っていた。
銭湯では、ノラ達が湯船に浸かり、疲れを癒していた。
「……なんで急に筋トレなんか……」
ノラはぼやいていた。
「ははは! 遠回しでわからねぇよな! ギルドマスターは!」
古参のノラが笑っていた。
「わかるんですか?」
「まぁ、なんとなくな。要は力をつけろってことだな!!」
古参のノラは何かを察しているようだった。
「……だが、あんなに殺気があると、さすがの俺でも背筋が凍ったぜ……」
「……僕、死んじゃうかと思いましたよ!!」
二人はライデンの殺気を思い出し、ぞわっとしていた。
「なぁ。知ってるか? ギルドマスターは騎士団長より強いんだぜ」
「え!? そうなんですか!? ……でも今日の迫力を見たら納得できますね……」
ノラは初めて聞く事実に驚いたが、妙に納得していた。
「ニャオーン国随一の剣士だからなぁ。そんな人に指導してもらえるなら、ありがてぇもんよ……」
「ライデンさん……すごいですね……僕、冒険者になって本当によかった」
二人のノラはしみじみとしていた。




