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受付嬢のうたた寝  作者: 雲丹猫
第1期
25/33

第8話ー聖女ー

「やぁ、ミランダ」


受付にやって来たのはグレイだった。


「グレイ、また来たの? 騎士団の人は暇なのね」


最近、グレイはよくギルドに来ては、雑談をして帰っていた。


「いや、今日は緊急で陛下からの呼び出しがあって、迎えに来たんだ」


「そうだったんだ。待ってて! マスターを呼んでくるから」


「ああ。待っているよ」


そう言うと、ミランダはライデンを呼びに行った。


しばらくして、ミランダとライデンが奥から戻ってきた。


「やぁ、ライデン」


「……ああ」


「陛下からの呼び出しだ。だから借りていくよ」


そう言ったグレイは、ミランダの肩にポンと手を置いた。


「え!? 私!?」


陛下に呼び出されたのはミランダだったようで、本人は驚いていた。


「……構わん。だが夜には帰せ」


「もちろん護衛は俺がするから安心してくれ。夜に帰れるかどうかは……わからないがな?」


グレイがニッと微笑むと、ライデンはグレイを睨んだ。


「……支度しろ」


「……うん」


ライデンにそう言われ、ミランダは支度をするため、その場を離れた。


(……一体何があったの……?)


ミランダがいなくなると、ライデンはグレイに尋ねた。


「……何があった」


「事情は知らないんだ。ただ、あまり良くないことなのは間違いない。噂で聞いたのは、国の存亡に関わるとか……言っていた」


「……必要なのか」


「そうみたいだね。心配する必要はない。俺が命に代えても彼女を守ることを約束する」


「……頼んだぞ」


話している間に、支度を終えたミランダが戻ってきた。


「……準備できたよ」


ミランダは少し不安そうな顔をしていた。


ライデンはミランダに近寄ると、その手を取り、そっと人差し指に指輪をはめた。


「……マスター? これは……?」


「……通信の取れる魔法具だ。些細なことでも構わない」


幅の広い銀色の指輪には、魔法が付与された黄色い宝石が付いていた。


指輪をはめると、ミランダの指に合わせるように、少しずつ形が変わっていった。


ミランダはその指輪を見ると、不安がすっと消えていくのを感じた。


「マスターありがとう。私、これがあれば無敵だよ!」


「……そうか」


さっきまで不安そうだったミランダが笑顔になり、ライデンも少し安心したようだった。


「さぁ、行こうか」


グレイがそう言うと、二人は城へ向かった。


「王様に会うのは久しぶりだから、ちょっと嬉しいな」


「……ふっ、王様……か」


グレイが笑っている。


「何よ! 王様でしょう?」


「陛下のことを王様と呼んでいるのは子供だけだからな」


ミランダは、別にいいじゃない……と言わんばかりの顔をしていた。


そんな話をしているうちに、国王のいる部屋までたどり着いた。


「すまないが、ここまでだ。用が終わったら迎えに来る」


「え、グレイと一緒じゃないの?」


ミランダがそう言うと、グレイがニヤッと笑った。


「寂しいか? どうやら秘密事項らしくてな。一緒にいられなくてすまない」


グレイはミランダの頭をそっと撫でた。


「もう! 子供扱いしないで!」


(グレイったら、本当にこういうところがキザよね……)


グレイは笑った後、コンコン……とドアをノックした。


「陛下。お連れしました」


「おお、入ってよいぞ」


国王が返事をすると、グレイは「じゃあな」と手を振っていた。


「王様! お久しぶりです!」


「おお! ミランダ、久しいな! 元気にしておるか!」


国王はミランダに会えて嬉しそうだった。


「もちろん元気です!」


「急に呼び出してすまんかったな。ミランダにしか頼めんくてなぁ……」


国王は申し訳なさそうに話した。


「何があったんですか?」


「最近、聖女の様子がおかしくてな。心が乱れると、国の結界も弱くなってしまうのだ」


「もしかして、病気にでもなったんですか!?」


そう聞くと、国王は首を振った。


「病気ではない。何かに悩んでいるようだった。聞いても答えてくれないのだ。私が聞いても話しづらいかと思ってな。ここにいる私の側近のロシアンブルーに聞いてもらったが、それもだめだったんだ」


国王の横には公爵が立っており、ミランダに会釈をした。


「こうして挨拶するのは初めてですね。ミランダ嬢。私は国王の側近のリオン・ロシアンブルーと申します」


「はじめまして」


ミランダも軽く会釈をした。


「私は国王の側近もしていますが、聖女様の護衛をすることもあり、よく話をしています。私としては、かなり親しくなっていると思っていました……」


リオンは少し悲しげな顔をした。


(聖女様と仲良くしてくれていたんだ……! いい人なのね!)


「そこでな、似た境遇のミランダなら話してくれるかと思ってな。頼めんか?」


「ええ! もちろん構いませんよ」


(もっと怖いことかと思ってたけど……聖女様と話すだけなら全然大したことない。むしろ、話してみたかったから楽しみ!)


「本日の聖女の業務は休ませてあります。広場で待機していただいていますので、ご案内します」


「ミランダ……頼んだぞ」


「王様! 任せてください!」


リオンとミランダは、聖女のいる広場へ向かった。


「どうかお願いします。私はずっと彼女を見てきました。真面目で優しく、綺麗ですが可愛らしさもある方です。信頼されていると思っていたので、悔しさもあります」


(……リオンさん、聖女様のことが好きなのね)


「心配なのですね」


ミランダがニコッと笑った。


「当たり前です! ……すみません」


少し大きな声になってしまい、リオンは恥ずかしくなったようだ。


広場にはお茶を楽しめるような東屋があり、そこに聖女が座っていた。


「サオリ様。お待たせしました」


「公爵様……今日、私とお茶をする方って……」


「こんにちは!」


ミランダが笑顔で挨拶すると、聖女は驚いた顔をした。


「ミランダさん!?」


「私はこれで失礼します」


そう言うと、リオンは去っていった。


テーブルにはたくさんのお菓子とお茶が用意されており、聖女とミランダの二人だけの空間になった。


「わぁ! 美味しそう……!」


ミランダはお菓子を見て喜んでいた。


「ミランダさん。初めまして、聖女のサオリと申します。陛下からよくお話は聞いています」


サオリは丁寧にお辞儀をした。


「堅苦しいのは無しにしない? 歳もそんなに変わらないだろうし! 気楽に話してくれる方が私は嬉しいよ」


「噂通りなのですね……ありがとう、ミランダ」


サオリは少し嬉しそうに微笑むと、お茶を一口飲んだ。


「すごい綺麗に飲むね!」


「失礼のない程度の作法を教えられたの。思ってたより簡単なのよ?」


「へぇ! そういうのも習うんだ! さすが貴族の世界……私は多分できないから……サオリはすごいね!」


ミランダはパクパクとクッキーを食べていた。


「聖女の仕事はどう?」


「やっと慣れてきたところなの。魔法なんて使ったことがないから難しくって……」


「そうだよね。聞いてるだけで難しいのが伝わってくるよ……」


「あの……ミランダ……日本に帰りたいと思ったことはある?」


サオリは真剣で、どこか儚げな表情をしていた。


「ないよ! 私は日本ではいい思い出なんてないんだぁ……小さい頃から……ずっと……でもね! 今すっごい幸せなの!」


ミランダは一瞬暗い顔をしたものの、すぐにいつもの笑顔に戻った。


「ごめんね。辛い過去を思い出させて……」


サオリは悲しそうな顔をした。


「帰りたい?」


ミランダがそう聞くと、サオリは思い詰めた表情で話し始めた。


「……実は転移したあの時、もう生きていたくないと思うほど追い詰められていたの。毎日会社でいじめられていたから……。だから、転移して聖女だなんてね。そんな私が国を守るなんて、最悪って思ったわ。でも、いろんな人と関わっていくうちに、必要とされていることが嬉しくて……ここに来て、こうやって聖女としていられることが、今ではありがたいと思っているの」


サオリは転移した頃の話を終えると、暗かった表情が少し明るくなった。


「……辛かったね。話してくれてありがとう」


ミランダは少し目を潤ませていた。


「ふふっ、ミランダは優しいね。この話をしたのは初めてだから、話せてスッキリしたわ」


サオリは微笑んでいた。


「ミランダは冒険者ギルドにいるのよね? 不自由はないの?」


「うん。すごく良くしてもらってて……楽しい! 夢はマスターと結婚することよ!」


その言葉を聞いて、サオリは飲んでいたお茶でむせた。


「……けほっ、けほっ……ギルドマスターのことが好きなの?」


「大丈夫? そうだよ! 私のまさに理想の顔! 知っていけばいくほど優しくて……もう本当に好き!!」


ミランダはキラキラとした顔で話していた。


「告白しないの?」


サオリが聞くと、ミランダはもじもじとしていた。


「……まだ……だって! 告白したことないんだもん」


「勇気がいるよね。ミランダ、私の話も聞いてくれる?」


サオリは少し恥ずかしそうにしていた。


「……最近ね……好きな人ができたの……」


「それって……王様が心配してたこと!?」


サオリがコクリと頷いた。


「考えれば考えるほど悩んじゃって……仕事が手につかないの……」


「みんなすごい心配してたよ!?」


「も……申し訳ないとは思ってるのよ!」


サオリは周りに心配をかけているとわかっているだけに、大人げない自分が恥ずかしくなったようだ。


「誰なの? 好きな人って」


「さっき一緒に来てた方……リオン様」


(……ん? 待って、リオン様ってサオリのこと好きそうだったけど……そう考えると両想いじゃない……?)


「転移した時から優しく接してくれて、気にかけてもらってて……話してるうちに好きってことに気付いたの」


「そうだったんだぁ! 公爵様は少し話してわかったけど、サオリのことを一番心配してたから、優しいんだろうなってすぐにわかったよ」


「リオン様が私のことを……!?」


サオリは照れた後、少しため息をついた。


「実は……リオン様に縁談の話がかなり来てるって聞いたの。それをリオン様が了承してしまったらって思ってたら……何もできなくて……」


ミランダは少しだけ驚いた顔をした。


(……まぁ、公爵様はサオリのことが好きだから自分から断りそうだけど、応援したいし、保険として王様にお願いしたら縁談の話もなくなるよね)


「大丈夫だと思う!!」


ミランダは自信満々に言った。


「……もしかして、ミランダ何か知っているのね?」


あまりにも自信ありげなミランダを見て、サオリは疑わしそうな目を向けた。


「知ってるような……知らないような〜」


ミランダは必死に誤魔化そうとするが、顔に出てしまっていた。


「おーしーえーなーさーいー!」


ミランダの様子を見て、サオリはどこか安心したようだった。


二人はそれからも楽しそうに話し続けた。


「二人とも、楽しそうな笑い声が遠くからでも聞こえたよ」


そこにはグレイが立っていた。


話に夢中になっていた二人は、すっかり辺りが暗くなっていることに気付いた。


「グレイ! 迎えに来てくれたの? あれ? もうこんなに暗かったんだ」


「あまりに遅いから心配で来たんだ。もう夜も更けている」


グレイはミランダを見つめていた。


「気付かなかったわ。こんなにも日が経つのは早いのね……」


サオリは少し寂しそうな顔をした。


「そうだ! 私、サオリに手紙を送るよ! まだ話し足りないし! たまに会いにも来るね!」


「嬉しいわ! 一つ楽しみができたから、また明日から頑張れそうだわ!」


サオリはすっかり元気になっていた。


「楽しかった! じゃあまたね! サオリ!」


ミランダはサオリに手を振り、グレイとその場を後にした。


「いい友達ができてよかったな」


「うん! グレイもありがとう!」


ミランダが微笑むと、グレイもとても嬉しそうに微笑んだ。


サオリは二人を見送っていた。


(……グレイ様、ミランダのことが好きなのね……好きになる相手が悪いわね……でも、陰ながら応援させていただきます)


「サオリ様……! はぁ、はぁ……迎えが遅くなって申し訳ありません!」


リオンが慌てた様子で駆けつけてきた。


「いいえ、とても感謝しております」


サオリがニコリと笑うと、リオンはその顔をじっと見つめた。


「……いつものあなたに戻っていますね。やはりあなたは笑顔が似合う」


リオンの言葉に、サオリは嬉しそうに微笑んだ。


(……ミランダ、ありがとう……)


(……ミランダ嬢、ありがとうございます……)


二人はそれぞれ、ミランダに感謝していた。

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