第7話ーギルドのお休みー
「ご無沙汰してます。ミランダさん」
ミランダに話しかけてきたのは、長期依頼に行っていた女性冒険者だった。
「お久しぶりですね。依頼どうでしたか?」
「ええ。それはもう助かりましたわ」
(この人……苦手なのよね……)
そう思いながらも、ミランダは笑顔で対応している。
「それはよかったです」
ギルドの奥の方からライデンが受付にやってきた。
「あら! ギルドマスター♡元気でしたの??」
女性冒険者はすかさずライデンに近寄った。
「……ああ」
(……マスターと喋る時、毎回猫なで声になるのよね……腹立たしい……)
ミランダは嫉妬からくる怒りを静かに抑えていた。
「相変わらず、かっこいいですわ♡今度よければ私とお茶でも……いかがです?♡」
「……遠慮しておく」
「つれない所も素敵ですわ♡」
(……二度と来るな! それでマスターに近寄らないで! ……だめだめ。落ち着くのよ、ミランダ。この人も大事な冒険者さんなんだから……)
ミランダは大きく深呼吸をして、心を落ち着かせた。
(……今回もこれを出す時が来たようね……)
ミランダはそっと、受付の引き出しの一番下、その奥にある依頼書を取り出した。
「ノラさん。こちらを」
ミランダは女性冒険者に依頼書を渡した。
「あら? また長期ですの?」
「ええ。前回同様にはなりますが、報酬もよく、かなり安全で優遇されている依頼です。ただ、期間は長期になりますが、向かう所は景色もよく、観光も出来そうな所です」
「また優遇してくださるのね! いつも感謝しています」
女性冒険者は嬉しそうだった。
「いいえ。私は冒険者の皆さんに合った依頼を出したまでです。喜んでいただけて何よりです」
「では、家で数日休んだら向かいますわ」
そう言うと、女性冒険者はギルドを去っていった。
(ふふふ……これで数ヶ月は戻ってこない……)
ミランダはどこか満足そうにしていた。
ミランダが渡した依頼書――それは、ライデンに会わせないための「秘密兵器」だった。
ミランダはそんな長期依頼を数枚、受付の引き出しの奥にこっそりとストックしている。
(……秘密兵器、また足さなきゃね……)
いつもと様子が違うミランダを、ライデンがじっと見つめていた。
「マスター? 何?」
「……怒っているか?」
「ううん! 怒ってないよ! でもリフレッシュはしたいかも!」
ミランダはマスターに気にしてもらえて、怒りはとっくに消えていた。
「……休んでいいぞ」
「う〜ん……1人で休むより皆と休みたいかな! 最近皆忙しいから、リフレッシュするために近場でピクニックとかしたいなぁ」
「いいわねぇ!」
会話を聞いていたママが賛同してくれた。
「ママ!?」
急に現れたママに、ミランダは驚いた。
「ピクニックの準備をしましょ」
「でもママ、ギルドはどうするの?」
「閉めるのよ。今日はおしまいにして、天気もいいし今から皆で行きましょう」
いいの? と言わんばかりにミランダはライデンを見た。
「……支度しろ」
ライデンがそう言うと、ミランダは目を輝かせて支度を始めた。
ギルドを閉め、ガドーとママはお弁当を作り、ローザとミランダはピクニックに必要なものを集め、ライデンは日課の作業を終わらせていた。
「準備万端! マスター! 行くよー!」
大きな声でミランダがライデンを呼ぶと、支度を終えた皆が集まっていた。
一行は、ピクニックに持ってこいの、向日葵のような黄色い花がたくさん咲く場所へと向かった。
「きれーい!」
「さぁ、お弁当食べましょう」
ママがお弁当を広げ、皆で食べ始めた。
「今日は張り切って作ったぜ! どうだ! 美味いだろ!」
「上手に出来てるわ。さすがね」
「ガドー……天才……」
ガドーはミランダとママに褒められて嬉しそうだ。
「なにこれ、美味しそう!」
ミランダは見たことのない食べ物を口に入れた。
「辛っ!! なにこれぇぇ!」
「ハッハッハッ! ミランダ、よくそれを引いたな! 1個だけ辛くしたやつを入れといたんだ!」
ガドーがミランダの反応に大笑いしている。
「ガドー!! もう!!」
あまりの辛さに、ミランダは飲み物をガブガブと飲んでいた。
「狙いはライデンだったんだがな!!」
「……余計な事をするな」
(マスターがこれ食べても無反応だったと思うけど……その後、確実に睨まれると思う……)
「もう入ってねぇから安心して食えよ!」
「本当?」と疑うように、ミランダはガドーの顔をじっと見た。
お弁当を食べ終えた頃、ギルは近くにいた虫を追いかけていた。
「にゃ〜ん」
ギルはライデンの近くに寄った。
「……何だ?」
ギルは座っているライデンの膝に、咥えていた物をポトッと置いた。
ライデンの膝に置かれたのは、少し気持ち悪い見た目をした虫だった。
「……捕まえたのか」
「にゃ〜」
ギルが鳴くと、ライデンはギルの頭を撫でていた。
(マスター……その虫どうするつもり……)
満足そうなギルは、ローザの近くで寝そべり始めた。
ライデンはギルが離れた途端、その虫を遠くへ投げ飛ばした。
その行動に、ミランダはくすくすと笑っていた。
「あぁ〜♡こういうのもいいわねぇ♡ねぇ? ギル♡」
「にゃ〜ん」
ローザとギルは、だら〜んと気持ちよさそうに寝そべっている。
「みんなと来れてよかった。楽しい。こんな時間がずっと続いたらいいな」
「……また来ればいい」
そう言ったライデンの顔は、少し柔らかく感じた。
一方、ギルドの方では――。
「あれ! ギルド閉まってる……ドアに何か書いてあるな。え〜、なになに?」
冒険者のノラが、ギルドのドアに貼られた紙を見ると――
『ピクニックに行ってきます! 明日来てくださいね! Byミランダ』
「ピクニック……自由だな……ミランダさん……しょうがない! 今日は呑んで帰るか!」
ノラが酒場へ向かうと、そこは冒険者達で溢れていた。
「俺らもピクニックしたいぜ!!」
「ミランダさん会いたかったよ〜……」
「………今日は特別………」
「ライデンさんもミランダさんに甘いよな」
顔馴染みの冒険者達が、ギルドの話で盛り上がっていた。
「「明日も頑張るぞ!!」」




