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受付嬢のうたた寝  作者: 雲丹猫
第1期
15/33

第5話ー望みー

「久しぶりに来たな」


彼はニャオーン国の騎士団長、グレイ・メインクーン。


(前とは随分変わったな……)


チリンチリン……


グレイがギルドに入ると、受付には猫がいた。


「にゃー」


(受付に……猫?)


グレイが不思議そうに猫を見ていると、ギルドの奥からミランダがやって来た。


「あら? こんにちは…………あなたは……騎士様ですか?」


ミランダはグレイの格好を見て言った。


「あぁ」


(この女性が例の……? まぁいい)


「ライデンはいるか?」


「ええ、奥にいます。ご案内しますね」


そう言ってミランダはライデンの部屋へ向かった。


コンコン……


「マスター、ミランダです! 騎士様がお見えですよ」


「……入れ」


ドアを開けると、少し嫌そうな顔をしたライデンがいた。


「お茶を用意しますね」


ミランダはそう言って、お茶の用意をしに行った。


「……何だ」


「いや、ライデンの雰囲気が前とは違うような気がしてね」


グレイがライデンをまじまじと眺める。


「……気のせいだ。早く話せ」


「あぁ、そうだった。彼女が戻ったら話すよ」


ミランダにも用があるとわかると、ライデンはさらに嫌な顔をした。


やがて部屋に戻ったミランダが、ライデンとグレイの前にお茶を置いた。


「お前もここにいろ……」


ライデンにそう言われ、ミランダは少し不思議そうな顔をした。


「陛下は忙しいから、代わりに俺が来たんだ。冒険者ギルドの繁栄を陛下は高く評価していてね。二人に爵位を与えたいそうだよ」


グレイは誇らしげに言った。


ミランダは驚いていた。


「……断っておけ」


ライデンが呆れたように言った。


「すみません、私も断っておいてください」


二人の答えに、グレイは驚いて困った表情をした。


「だが、それでは陛下は納得されないと思う」


「…………」


ライデンが小さくため息をつく。


「では、ギルドの横に大きな宿屋を作っていただけないですか?」


「ほう?」


グレイはミランダの提案に興味を示した。


「冒険者さん達の中には、ギルドから家まで遠いという方が結構多いようで……」


ミランダが「いい?」とでも言うようにライデンを見る。


「……あぁ、宿屋があれば助かるやつも多いだろう」


「わかった! 陛下に伝えておこう!」


(あのライデンが、ここまで心を開いているとは驚いたな……それにしても……自分のためには、何も望まないのか)


そして、もう一度ミランダを見た。


「俺はこの辺で失礼するよ」


グレイはそう言って立ち上がった。


「送りますね」


ミランダとグレイはライデンの部屋を後にした。


廊下を歩いていると、グレイがミランダに話しかけた。


「地位や名誉、宝石。そういうものを欲しがるやつはたくさんいるんだ。君には欲がないのか?」


「欲ならありますよ……マスターと一緒にいることです」


グレイが目を丸くした。


「あのライデンと!? 君は変わっているな!」


ミランダの頬がぷくっと膨らむ。


「マスターより優しくてかっこいい人は、私は見たことがありません!!」


「すまない。それほどとは思っていなくてな!」


グレイは笑った。


そんなグレイを、ミランダはむーっとした顔で見ている。


グレイはしばらくその顔を見つめていた。


「そうだ。君の名前を聞いていなかったな」


「ミランダです」


ミランダはふいっと顔をそらした。


「ミランダか! 俺はグレイ・メインクーンだ」


ミランダは、そうですか。という顔をしている。


「また来るよ」


そう言ってグレイはギルドを去った。


ギルドにいた冒険者たちは、まだ少し怒っているミランダを心配そうに見ていた。


その中から、小柄な女性冒険者がそっとミランダのそばへやって来た。


「……ミランダ……大丈夫……?」


「あの人はマスターの良さをわかっていないみたいなの!」


「……さっきの騎士団長が言ったの……?」


「え……さっきの人って騎士団長だったの!?」


ミランダの顔から怒りが消えた。


「やだ、私ったら失礼な態度をしてしまったわ……また今度会えたら謝らなくちゃ……」


小柄な女性冒険者は黙ってミランダを見つめた。


(……ミランダは何も悪くないのに……)


やがて、他の冒険者たちと視線を合わせる。


何やら、無言で合図を送り合っていた。


それから王都では、グレイが国王と話していた。


「陛下、ライデンとミランダは爵位はいらないとのことです……」


「……やはりそうか」


国王は困ったような顔をした。


「その代わりに、冒険者ギルドの横に大きな宿屋が欲しいと言っておりました」


「なるほど。良かろう。やはり爵位は選ばんのだな」


どうやら国王は、なんとなく断るだろうと察していたようだ。


「陛下はご存知だったのですか?」


「ミランダはここに誤召喚された時からそういう奴だった。ライデンも、今までの活動を見ていれば断るのは想像がつく」


グレイは国王の言葉に納得した。


「ミランダは元気だったか?」


「元気でしたよ。あんなに可愛らしいとは思っていませんでしたが……」


「ほう? ミランダはな、たまに感謝やギルドの取り組みなどを書いた手紙を私に送ってくるんだ。自身が作った菓子を添えてな」


(陛下がそこまでミランダのことを好いているのも納得だな……)


グレイはミランダのことを思い浮かべていた。


「私は健気なミランダが好きでな。何かしてやりたいと思って、今回こういう形をとったのだ」


「そうでしたか」


「気になるか?」


国王はニヤリとしながらグレイを見る。


その言葉に、グレイが少しビクッとした。


「国民のあちこちからミランダの噂を聞いている。難しいぞ」


「……私はそんなのでは……」


グレイが静かに言った。


「そうか」


(時間の問題だろうな)


国王は笑いながら髭を撫でていた。


それから数日後――


冒険者ギルドの横では、宿屋の建設作業が始まっていた。

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