第4話ー雨の日の出会いー
「今日は雨がすごい……」
外では、ザーザーと激しい雨が降り続いている。
(マスターに言って、今日は早めにギルドを閉めようかな?)
コンコン――
ライデンの部屋のドアをノックする。
「マスター、ミランダです」
「……ああ、何だ」
部屋では、ライデンが書類の処理をしていた。
「マスター、雨がひどいですから、今日はもうギルドを閉めてもいいですか?」
「……ああ。水晶を忘れるなよ」
ライデンが言っている水晶とは、緊急時に使う連絡用の水晶のことだ。
夜など、ギルドを閉めている間は外に置いておき、水晶に手をかざすとライデンと連絡が取れるようになっている。
「はぁい」
ミランダはライデンの部屋を後にし、ギルドを閉める作業を始めた。
(こういう雨の日って、銭湯に行く人が多いのよね! ローザさん、今日は忙しくなるだろうな……)
ゴンゴン!
ガチャ!
ガドーのいる解体屋のドアを叩き、そのまま開ける。
「おう! ミランダ! 飯にしてはちいと早いぞ?」
ガドーが笑っている。
「違うよ! 雨がひどいから、ギルドもう閉めるからね!」
ミランダはムッとしながら答えた。
「おう、そうかそうか!」
ガドーにそう伝えると、ミランダは水晶を外に置きに向かった。
「屋根ができてよかった……!」
建て替え前、ギルドの入り口には屋根が付いていなかったが、ライデンが配慮して付けてくれたのだ。
ミランダは土台に水晶を置いた。
「これでよし! ……ん? なんだろう、これ……?」
そこには、雨に濡れた黒くドロドロした丸いものがあった。
ミランダは恐る恐る近寄り、じっと見つめる。
(本当にこれ、なに……?)
ツンツン……
ミランダが指先でつついてみると、黒いドロドロした丸いものがピクッと動き、小さく震えている。
(これ……生き物だ!! 大変!! このままじゃ死んじゃう……!)
ミランダは慌ててその生き物を抱え、銭湯へ走った。
ガラガラ……!
「いらっしゃ〜〜い♡ ……ん? ミランダじゃなぁい。あらやだ! どうしたの!?」
黒いドロドロを抱えて走ってきたせいで、ミランダの服まで汚れていた。
「ローザ! これ、生き物みたいなの!」
「ふぅん?」
ローザは、ミランダが抱えている生き物をじっと見る。
「大丈夫よ♡」
そして、そっと手をかざした。
淡い光が生き物を包む。
黒いドロドロの生き物の震えが止まった。
「とりあえず、一緒に入っていらっしゃいよ。ちょうど今は誰もいないから、ね?」
「ありがとう!」
ミランダはそのまま風呂場へ向かった。
(ローザが診てくれたし……ひとまず大丈夫そう。よかった……)
ミランダは少し大きめの桶にお湯をため、そっと生き物を入れた。
「にゃー……」
小さな鳴き声が聞こえた。
青い瞳をした猫だった。
「あなた、猫さんだったのね……」
ミランダは優しく、体に付いた汚れを落としていく。
(すごく大人しい……あれ? 黒いドロドロが取れたところ、白くなってる! もしかして白猫かな?)
さらに優しく洗っていく。
「あれ? 顔の黒いのが取れないや……他にもまだ黒いところが……あ! この子、シャム猫なんだ!」
「にゃー!」
少し元気になってきたようだった。
シャム猫は桶のお湯が気持ちいいのか、その中でくつろいでいる。
(気持ちよかったんだ……かわいい)
その間にミランダも汚れた体を洗い、猫と一緒に脱衣所へ向かった。
脱衣所には、ミランダの着替えとタオルが数枚置いてあった。
(ローザが準備してくれたんだ! この子の分もある。さすがだなぁ。後でお礼言わなくちゃ!)
ミランダは体を拭いて着替えると、シャム猫の体もタオルで優しく拭いていく。
「ここで乾かそうね!」
脱衣所には水晶が置かれている。この水晶は、手をかざすと風魔法が発動するものだ。
ミランダが水晶に手をかざす。
ブワッ!!
温かな風が二人を包み、ミランダの髪もシャム猫の毛も、あっという間に乾いていく。
「これ、便利だよね〜!!」
ミランダはシャム猫にニコニコと笑いかけた。
「にゃー」
(前の世界にあったら、最高の一品だよね!)
ミランダとシャム猫は脱衣所を出た。
「ローザ! 服とタオルありがとう!」
ミランダは受付にいるローザに言った。
「いいえ〜♡ あら、その子シャム猫だったのねぇ」
「そうみたい……」
「ともかく、ご飯にしましょ♡ もちろん、その子もね」
ローザがウインクしながら言った。
「うん!」
そう言って、ミランダとローザ、そしてシャム猫はガドーのところへ向かった。
ガチャ……
ドアを開けると、ガドーとライデンとママがいた。
「おう! 出来てるぞ!」
並べられたご飯を見て、ミランダの顔がぱっと明るくなる。
「お前はこれな!」
ガドーがシャム猫の前にご飯を置いた。
スンスン……
匂いを嗅いだあと、シャム猫はガツガツと食べ始めた。
「よく食うな! うまいか? いっぱい食えよ!」
ガドーがニカッと笑う。
「にゃ〜ん」
シャム猫がガドーに返事をするように鳴いた。
「マスター、今晩この子と一緒に寝ていいですか?」
ミランダが恐る恐るライデンに聞いた。
「……好きにしろ」
ライデンがそう言うと、ミランダの顔が明るくなった。
その光景を見て、ローザがクスクスと笑っている。
みんなでご飯を食べ終わり、ミランダとシャム猫は部屋へ戻った。
ミランダがベッドに転がると、シャム猫もぴょんと飛び乗り、そばに寄ってくる。
「かわいい……今日はここで一緒に寝ようね!」
そう言うと、わかったと言うようにシャム猫が、
「にゃー」
と返事をした。
「名前がないと不便だね……ギルドで出会ったし、ギルっていうのはどう?」
ミランダがシャム猫に問いかける。
「にゃー」
ギルはミランダの顔にスリスリと頬を寄せた。
(気に入ってくれたみたい……)
その夜、ミランダとギルは静かに眠った。
それから――
ギルはずっとミランダのそばにいた。
「ギル! ちょっと買い物行ってくるから、受付よろしくね!」
「にゃーん」
わかったと返事をしたように鳴いた。
一緒に過ごしていくうちに、いつしかギルは冒険者ギルドの看板猫になっていた。




