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008 その座に居たくて

 昼過ぎ、食事にしようとアスディルが2人を連れて行ったのはパン屋の横に出ている屋台だった。


「シャル。卵と蒸し鶏のパン3つ頼む」

「アス、みっつ?」

「ちょっと用事で昨日から滞在することになったんだ。レイエルと、(けん)

「ども」

「よろしくお願いいたします」

「シャルロッテ・ロータスよ。よろしく」


 茶髪の彼女は笑いながらパンに卵と蒸し鶏、野菜を挟みアスディルに渡す。端にあるベンチに座りかぶりつけばレイエルでも目を輝かせた。


「美味い」

「シャルの挟みパンはどれも美味しいけど俺はこれが一番好き」

「へぇ……あぁでも割包に似ているな。あっちは蒸したパンに角煮を挟んだモノでしたが」

「え、美味しそうっ作れる?」

「材料さえあれば」

「お前ほんと何でも作るのな」

「おや、台所作業は実験の基本が詰まっているのですよ」

「それは同意する」


 そんなモノかとレイエルはパンにかぶりつく。予想通りパン屋にも買い物に行くようでカランとドアを開けた。


「アス。今日はまた大荷物だね」

「用事で昨日から滞在することになったレイエルと柑」

「アントン・ロータスです。外の屋台のシャルロッテは姉です」

「とりあえず黒パン6つと……」

「俺が持てる範囲にしてくれよなアスディル」


 ギリギリ持てる範囲で買い物を終え、薬局の裏に向かうとゲオルクが馬に人参を与えていた。


「コイツ本当によく食うよな……」

「まぁな。とりあえず乗せてっと」

「そういやアス。パウルの奴、怒鳴り込んで来たぞ?アスのばっかりおススメしてるんだろってな。んな訳ねぇだろって言っておいたが」

「さっきも絡まれた。まぁ適当にあしらうよ」

「それが良い。レイエルさんも柑さんも、コイツの事よろしくお願いするわ」

「あぁ」

「わかっています」


 馬車に荷物を載せアスディルの家へ帰る。荷物を下ろし、食糧庫に入る。そこは、氷か水の精霊が常駐しているのかひんやりしていた。


「氷と水の妖精の好きな物、まぁ水晶片なんだけど、それ置いておくと居続けてくれるから」

「便利だねぇ……」

「でも妖精が水晶片ぽりぽり食べている姿はちょっと怖い」

「それはわかるかもしれない……え、食うの??」

「食べる。だから定期的に買いに行かないといけないけどさっき言ってた大都市にしかないから。多分1ケ月後ぐらいに行く羽目になる」

「一緒行こうか?柑留守番……あ、駄目だ、あの興味本位が服着て歩いてる奴が面白い場所に行かない訳が無かった」

「だろうな。大丈夫。ヤバい品の配分表は持ち歩いて居るし、3人で行こうな」

「あぁ」


 食糧庫に荷物を置き、母屋に帰る。そして改めて3人で会議と相成った。


「とりあえず俺達の目的はアスディルの力の事。その力がどうしてアスディルに与えられているのか、それを調べる」

「あ~それは俺も知りたかった。一応妖精たちにも聞いてみるな」

「頼む。んで、色々調べる見返りに、俺達の居た場所の情報と、労働力の提供か」

「うん。頼む。特に重い物持つときレイエル居ると助かる」

「一応鍛えているからな。こいつもだが」

「まぁ、レイエルに比べると細身に見えますけどね」

「へぇ……まぁでも、助かるのは事実」

「だな」


 目的を改めて確認し、夕飯を食べて眠りにつく、その前にレイエルは寝台に沈み込んだ。


「……大丈夫ですか?」

「あ……あげもの……胃にくる……」

「……揚げ物2人で食べよっか」

「ですね。完全に胃腸虚弱の発言ですし」

「う、うるせぇ……」

「ベッド、今日は使わせてあげますけど」

「た……たの、む」


 胃もたれで重症なレイエルを見て柑とアスディルは笑い合う。なるべくあっさりメニューを心掛けねばと思いながらそれぞれ眠りについた。




 その日、柑とアスディルは調薬室に篭り、何かを行っていた。レイエルも料理を覚えて早半月。昼食当番のレイエルが顔を出せば色とりどりの瓶が並んでいた。


「飯出来たぞ?今日は何作ってんだよ」

「化粧水っ」

「ちょっと成分調べたら不穏な成分を見つけたのでもっとお肌に優しいものがあればなと」


 思い返す。梓翠(しすい)も似たようなことを言っていた。男女の違いあれ、研究者と言うのは同じ所に着目するのかと感心しながら瓶を覗き込む。


「それにしてはやけに色が」

「成分ごとに色変えたから。後は俺と柑で実験」

「レイエルも考えたのですが、どこまで人間の肌に寄っているかと」

「あ~……それは、無難」

「それよりご飯~っと」

「慣れましたか?」

「中々に難解な物がこの世には多々あるな」


 食後、とりあえず自分たちの肌で試すアスディルと柑を見ながら今回の配合を見せてもらっていた。梓翠が配合した成分は無い。そもそもアスディルの配合を見る限りこの辺りには生息していないであろう薬草が梓翠の元にはあった。流石王女と感心しながら、レイエルは調合表を机に置いた。この記述ならとっくに読み切ったこの部屋の本棚にも合ったのだから。


「アスディル。ここ、この薬草、こっちの薬液と相性悪い。多分成分出てないぜ?っと、確かこの本の……ここだな」

「え、うわっよく覚えてたなぁ」

「記憶は得意でね。んで、どうせならこっちの成分持ってくるのはどうだろう」

「……あぁ。掛け合わせても問題ないですからね」

「そうすると……あ~……レームス半島行きたい」

「レームス半島?」

「フェーヤ帝国の更に東にある半島で、薬草の一大産地なんだ。一応南端の貿易港とレームス半島の南側国家と交易はあるけどそこまで仲がいい訳じゃない」

「へぇ……僕も行ってみたいですね」


 少なくとも柑は行くことになるだろう。アスディルが行くかどうかは調査次第。内心笑いながら新たな本を取った。


「行けないモノは仕方ない。代替品ならコレは?」

「あ、これなら手に入るっ」

「良かったです。でもそうするとこの成分邪魔ですねぇ……蒸留の方法変えますか」


 調薬談義は長く続く。アスディルの周りに居た妖精が何かを喋った。もちろん天使と言う同族のレイエルであってもそこに何かいる程度にしか見えない。


「げっもう夜だって」

「……ここ半地下だからな」

「やばっご飯俺じゃんっすぐ作るっ」

「……通りでお腹が減りました」

「だな」


 火を消し、階段で上に上がる。言われた通り夏の夜空が広がっていて、2人溜息を吐いた。


「コレは悪癖、ですね」

「だな。しかもおそらくフォルエルの奴にバレた」

「怒られちゃいますねぇ」


 レイエルと柑が開発談議で昼から夜を越えて朝などこの5年で数えるのも億劫になるほどある。呼び出し前日にはやらないようにしているがうっかり夜通し議論して、徹夜明けに討伐を重ねたこともあった。フォルエルにバレたのならば大目玉な事案だった。


「ま、なるようになるな」

「ですね」


 数日後の定時報告会で、フォルエル、ではなくティミエルからの説教が入るのだが今のレイエルと柑には知らない話だった。




 レイエル達が降り立って3週目。少し早いがとアスディルと共に辻馬車の乗り場に居た。


「とは言え朝昼晩に来るかもって感じの辻馬車だけどな」

「そんなものですよ」


 やはり地理的に近いからか、梓翠との思い出が蘇る。まだだと蓋をして、彼女はまだこの世に居ないのだと蓋をして、やってきた辻馬車に乗り込んだ。目的地は西の大都市モナールフ。昼の馬車に乗って1泊して帰ってくる予定の馬車旅。


「……なんか、落ち着かねぇ」

「そう?」

「レイエルはとても便利な移動手段を持っていますから」

「あぁ、そっか、種族的に飛べるのか」

「ご名答。人間状態だから翼出せないがな」

「へぇ……まぁそれから比べたら馬車は落ち着かないよな」


 ガタゴトと馬車に揺られて1時間ほど、中継点の街で人が降りていく。あと2時間の馬車の旅、乗って居るのはレイエル達だけになっていた。


「……おじちゃん、なんかあった?モナールフに行くの俺等だけって」

「最近モナールフの周りは物騒でな。よっぽどの用事がない限り行かなくなっているんじゃよ」

「へぇ……」

「お前さん等も気を付けろ?って、アスディルには無用の心配か」

「強いのか?」

「一応。野党位なら」

「なるほどなるほど。鍛えたら楽しくなりそうだなぁ?」

「レイエル。程々にしませんと」

「レイエルも強いよなっ」

「程々にな」

「嘘つかないようにそこ」


 楽し気な馬車の旅、それが終わったのは1時間半後の事。周りは盗賊に囲まれ、馬車は身動きが取れなくなっていた。


「金目のモノ置いてきなぁっ」

「……どうする?」

「どうするか」

「どうしましょう」


 タンッと3人は飛び出す。レイエルと柑は腕輪から槍と剣を、アスディルは馬車の中に合った棒を手に盗賊たちに向かっていく。


 当然ながら、レイエルは強い。人間20人分に匹敵する魔物を300体以上倒せる彼の実力ではおそらく大軍が来ても対処可能だろうと柑は苦笑いを浮かべる。5分も掛からず、盗賊たちは地面で伸びていた。遠くから、先に柑が馬を外し、この伸びた盗賊たちを拾える人材、と言う名の助けを求めに向かわせた御者が甲冑の騎士たちと戻ってくる。槍と剣は収納し、馬車の中でその一団の到着を待った。


「こ、これは……もうこんな人数倒したのかアスディル」

「今日はツレも居たから。いつも通りお願いするな隊長さん」

「あぁ」


 馬を括りつけ、馬車は再び移動を開始する。騎士団の1人が並走していることにより、一行は無事西の大都市モナールフに到着した。


「つっかれたぁ……まぁ途中良い運動になったけどな」

「ですね」

「ほぼ瞬殺だったじゃん……サヴァの町の近くも最近物騒だし、レイエルに特訓してもらいたいなぁって」

「お、良いぜ?」

「程々に。さて、宿を探しますか」

「いつも使ってる宿が有るんだ。こっち」


 アスディルに案内されたのは駒鳥亭と書かれた宿。茶髪の女将はアスディルを見ると笑顔になった。


「アス。着ていたんだね?大丈夫だったかい?最近物騒だし」

「ん。まぁ大丈夫だったよ。見ての通り3人。空いてる?」

「空いているよ。それにしてもまたとんでもない美人さん連れて……皇帝陛下のお妃探しに間違って連れて行かれないようにしないとね」

「お妃探し?」

「あぁ、貴族領は大騒ぎ。ここみたいな貴族直轄領じゃない街に避難するご令嬢も居るぐらいだ」

「……へぇ……お貴族様も色々大変なんだな」

「だね。案内するよ」

「ありがとう」


 宿で一旦休憩と相成る。3時間の馬車旅は下半身に影響を及ぼしていた。主に腰。


「……辻馬車自体に改良の余地ありだな……」

「ですね。でもどこもあんな感じですよ」

「まじか……」

「うん。多分そう」

「ところでアスディルさん。何故お妃探しで貴族のご令嬢が避難するのでしょうか?」

「と言うと?」

「華国での話ですが、普通後宮、皇帝の妃の座には貴族が挙って娘を差し出す物なのですよ。地位が上がれば貴族の地位も上がりますし、子宝に恵まれてその子供が次の皇帝になったのならば絶大な権力が手に入りますからね」

「……そう言えばそんな記述が有ったな」

「ですが逆に嫌がっている節もある……ちょっと不思議だなと思いまして」

「ん~……家の町は貴族領の端も端だから貴族の機微には疎いんだが、銅像破壊して回ってるような人の所に嫁ぎたくないとか」

「まぁ、それはそうですね」


 その内容に、レイエルは心当たりが合った。彼の皇帝は50の年に梓翠を正室にと求めている。そして帰ってきた梓翠のあの状況。もしかしなくても皇帝はかなりの好色なのではと考えていた。好色な上に乱暴も辞さない皇帝、それは当たり前に嫁ぎたくないだろうとレイエルは考えていた。


 休憩の後、3人は街の中に繰り出した。上流階級らしき方々はピリついているが庶民は普段通りの営みを過ごしている。その中で1件の店にアスディルは入っていった。


「おや、アスディルじゃないか」

「おじちゃん久しぶり。いつもの水晶片と、あと琥珀石小さいので良いから有る?」

「水晶片は幾らでも。琥珀石は丁度良いサイズがあるよ。内容物が無いからカットして居たら失敗してね」

「何やってんだよおじちゃん……」


 馴染みであろう店主から水晶片と琥珀石の小さいものをもらい受ける。水晶片は格安なのか金銭はさほどかかっていない。腰から下がっているポーチに仕舞うと店を出た。


「とりあえず必要なのは、髪飾り」

「……俺の?」

「さっき言ってただろ?妃探し。その薄茶色に変えた後ろ姿だけ見ればご令嬢に間違われても仕方なし」

「一理ありますね」

「……まぁ、頼む」


 ガタイの良さで見間違うことは無いだろうという反論は一旦飲み込んでおく。市場に繰り出し、いくつか髪飾りを購入した。


「なんか悪いな」

「良いって。ここ2週の売り上げ柑とレイエルのお陰なのもあるし」

「それは何よりです。レイエル、結びますか?」

「頼む」


 噴水広場で柑は少し編み込みを入れてレイエルの髪を結ぶ。そしてパチンと筒状の髪留めを付けた。


「……あ、でも動きやすくて良いな。普段でもやっぱり結ぼうかな。戦闘の時は結紐で結ぶ時もあるんだが」

「結ぶのは大丈夫なんだ」

「切るのは殆ど禁忌レベルだな。髪に魔力が溜ってる。突然出た魔力を方向性持たせないと魔力が爆散しかねない」

「……あぶねっ」

「先を切る位なら問題ないし、切られてもすぐに方向性持たせりゃ平気だよ」

「なるほど……という事は保有魔力が多いのはレイエルという事ですか?」

「そうだな。神殿組で一番長いし。とは言え質量は長さ関係なく最高神サマが一番だろうがな」

「それはそうですね」


 身支度を整えたレイエル達は街を歩く。途中貸本屋でレイエルが動かなくなりしばらく放置したのは仕様だった。


「……なんか、その、悪かった」

「レイエルに貸本屋見せた時点で察してたから大丈夫」

「そうですね」

「お前等は何見てたんだ?」

「薬草粉末。2人と調合してたら色々試してみたくなってさっ」

「後は妖精さん達のお好きな物とかですね。火の妖精さんに辛い物などです」

「へぇ……」

「宿帰ろうっ」


 3人で宿に帰る。すると宿の前に騎士が居ることに気付き、なんとなく嫌な予感に苛まれる。ひょこりと覗き込めば貴族らしき男が騎士と共に女将に詰め寄っていた。


「頼むっ早く代わりを出さなければ家の子が後宮に行くことになるっ目を付けていた女を先代に取られたというだけで一族郎党皆刑に処した皇帝の、そんな皇帝の後宮にっ」

「そうは言っても……あぁアスっ」

「アスディル・ファーレットかっ共に……いる……ちゃぱつの……」


 愕然とした貴族の表情で何があったか3人は理解する。ポンっとアスディルと柑はレイエルの肩を叩いた。


「どこからどう見ても男にしか見えないと思うんだが??」

「僕が知るミュトロギア大陸の西側の国では髪の美しさが本人の美しさを表すと聞いたことがあります。それこそ桜の国も似たような風習があるとか」

「あぁ……そんな……」

「悪い。流石に後宮は無理だ」

「だな。俺もそう思う」

「ほかを、さがす」


 地面の下まで落ち込みかねない勢いで落ち込んだ貴族を騎士たちはなんとか立たせ宿から出ていく。3人と女将はそんな姿を見て、溜息を吐いた。


「まさか、先代様と当代様の確執がそんな理由だったとはねぇ」

「目を付けていた程度という事は自分のモノでも無かったのでしょう?それで一族郎党刑に処すとは……確かに過激な皇帝陛下ですね」

「ま、一応内緒、だね」

「だな」

「ですね」

「……あぁ」


 レイエルの瞳がうっすらと伏せられる。そんな彼の変化を気付かない程、柑もアスディルも鈍くはなかった。


 翌日、再び街に繰り出す。今度はこちらでしか手に入らない珍しい食品、そしてコーヒーの入手が目的だった。


「アレ南の大陸から来ているのですね」

「そ。嗜好品とか香辛料とか結構多いかも」

「香辛料って何に使うんだ?」

「レイエルの胃にはよろしくないけれどもカリィって言う辛いスープみたいな料理とかかな」

「前置きが余計だが事実だから何も言えない」

「ふふっあぁでも華国で使っていたモノもありますね。辛いからレイエルの胃にはよろしくありませんが」

「でっかいお世話だ」


 仲良く会話をし、宿を引き払って荷馬車に乗る。数名の同乗者がいる帰り道はすんなりとサヴァの町まで帰り着いた。


「あっアスっ」

「シャル。どうした?」

「ゲオルクの薬屋、行けばわかるよ」


 街の入り口で待ち構えていたシャルロッテとアントンに連れられゲオルクの薬屋に向かう。その外観は、内側にひしゃげていた。


「えっゲオルクは!?」

「無事だよ、アス」


 ひょこりとゲオルクが顔を出す。友人の無事にほっとするもその惨状に目をやった。


「何が合ったんだよ……」

「パウルだよパウル。アイツお貴族様をパトロンに持ったはいいが碌な成果を上げられてなくて切られそうなんだと」

「で、私が評価されないのはアスの薬が有るからって言い張って、荷馬車をドカンと」

「……なんだそりゃ……そんな事の為に」

「警備隊の奴等が追ってるけど逃げたきり行方が分からないって。気を付けろよアス」

「……わかった」


 警戒しながら3人は家に辿り着く。もっともアスディルの家は妖精と精霊の守りをこれでもかと張り、ついでに行きがけにレイエルがその妖精と精霊の力を底上げしていった場所。並みの人間が入ることができない場所になっていた。


「ボスも無事だな。良かった」

「しばらく警戒線を張っておいた方が良いでしょうね」

「だな」

「なんか悪いな、色々俺の事情に付き合わせちゃって」

「俺等の事情に付き合わせて置いてもらっているんだ。この位はな」

「えぇ。お気になさらず」

「……うんっ」


 ひとまず買った荷物を運び、アスディルと柑は調薬室に篭り今のゲオルクでも売り出せそうな丸薬を中心に精製、レイエルは周辺見回りと結界の展開、ついでに馬型魔法生物であるボスの世話などを行っていた。


「柑……レイエルの事、どう思う?」

「と、言うと?」

「なんかさ、でっかい隠し事してて、その為なら手段を選ばないって感じがしてる」

「……そうですね……レイエル、無関心が過ぎて友達と思われていたことに気付かなかったこと、言いましたよね?」

「うん。親友分類すら気付かなかったって」

「本当に無関心で、特別を作らない。彼はそう言う人……天使?ですね」

「……そっか」


 初めて共に魔物討伐に出た日の事を柑は覚えている。願いを持つレイエル。きっと彼は本当にその為ならば命だってかけられる。だから、あの日決めたのだ。


「だから、僕は彼を支える位置に居ようと決めているのです。背中を預けてもらった見返りに、相棒で居ようと、決めています」

「相棒……っか……確かにレイエルと柑の関係性はそれが一番なのかもな」

「えぇ。まぁまだ、内緒ですけどね。気付くまで待とうかなって」

「億年かかっても気付かないんじゃないのか?」

「一理あります」


 丸薬を練りながらアスディルは思う。彼らと一緒に居るのは楽しい。出来ればずっと一緒に居たい。調査が終わらない事を祈ってしまうほど、アスディルはレイエルと柑を気に入っていた。


「……そういやさ、柑は愛称で呼ぶ風習ある?」

「ん~……それは東の文化ですから。呼ばれたいのでしょう?」

「バレた?」

「町の皆さんや女将さんにまで呼ばれているのでは気付きますよ」

「やっぱさ、レイエルの無関心さじゃないけど、友達って感覚わからなくなる時あるから、呼んでもらえると、嬉しいなって思うんだ」

「では、呼んで差し上げないといけませんね、アス」

「……へへっ」

「な~に楽しそうにしてるんだ?」

「あ、レイエル」


 調薬室に入ってくる前、レイエルには2人の会話が聞こえていた。あの日自分をレイと呼んだ若草色を思い出すが、最初は彼女だからと言い訳し、その話題に踏み込んだ。


「あのさっレイエルは愛称で呼ぶ文化ある?」

「ん~……まぁ天使全員エル付いてるし、呼べなくはないが呼んでる奴見た事無いな」

「そっか……」

「呼びたいのか?」

「うん」

「……良いよ。その代わり」

「呼んでっ」

「了解、アス」

「ありがと、レイ」

「おや、僕は除け者ですか?」

「はいはい。フォルエルに狙われるの覚悟でどうぞ」

「では、改めて、よろしくお願いしますね、レイ」

「おう、よろしくな、柑」


 そして3人は笑い合いながら作業に戻るのだった。








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