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007 妖精と少年

 その件でアルトに呼び出されたのは柑が天界に来て5年の月日が流れた頃だった。あと25年。それでもレイエルは焦っていなかった。少なくとも最高戦力になりうる(けん)と言う存在を、こちらがほぼ一方的だが信用できているのだから。どれぐらいの人数が必要なのか分からない。それでも1人居る。それだけでレイエルは安心できていた。


 最高神の間を開く。そこに居たのはフォルエル、ティミエル、アレクエルの補佐組と、リスエル、スパスィエル、ビアへエル、アナラエルの中枢4天使。相変わらず揃うと錚々(そうそう)たる顔ぶれだなと思いながら中に入る。少しだけ、あの梓翠(しすい)の件で呼ばれたことを思い出し胸が痛む。だが今回は違うだろう。何せ梓翠が生まれるのはあと7年後。絶対ビアへエルの水鏡で見てやると誓うレイエルの心情を他所にアルトは口を開いた。


「精霊の耳、と言うのを聞いたことがあるか?」

「……特級図書館に記述があります。下級天使や森羅万象に宿る存在、それ等の声を聴き届ける人間、ですね。確か存在を確認次第排除か保護とありましたが」

「あぁ。だが、今回は厄介な案件なのだ……精霊の言葉を聴く耳だけではない、精霊を見る目も、精霊と言葉を交わす口も、精霊に触れる事すらできる存在。もはや人間だろうか?」

「……厳しいですね……と言うことは?」

「ビアへエル」

「御意に」


 水鏡が展開される。そこに映っているのは水辺に居る1人の少年。黒髪に海の青の瞳の少年はその瞳の色と同じ海の先を見続けていた。


「対象の名前はアスディル・ファーレット。アルト様の仰せの通り、精霊の声を聴き、精霊を視、精霊と話し、精霊と触れることのできる存在です。現在25歳」

「……え、コレで??」

「随分とまぁ、お若く見られる存在で」

「柑が言うか??」

「精霊の耳だけでも貴重なのにもかかわらず、目も口も触れることも叶う存在。果たしてそれが人間の為すことなのか、そして、それが本当に天然で存在した者なのか。調べる必要があり、この2年ほど調査を行ってきた。だが調査はうまく行かず、希少な存在が人間界に居続ける影響を考えるにこれ以上の時間は掛けられない」

「……つまり」


 言わずとも、嫌な予感はしていた。何故なら入った時からフォルエルが半泣きだったから。そしてアルトはいつも通り、レイエルに無茶ぶりを言うのだった。


「柑の枷は外そう。2人で行き、アスディル・ファーレットが真実人間なのか、そしてその存在が自然と身に付いた存在なのか。調べてこい」

「…………もし、人間であり、自然に身に付いた技能であれば?」

「それが自然。そのまま人間界に留め置こう。だが」

「人間でない存在、あるいはその技能が故意に植え付けられた場合は……排除、ですか?」

「いや、植え付けられた、あるいは人間外であってもその技能は稀有だ。保護にする」

「承知いたしました。いつから」

「明日、出立せよ」

「柑も良いか?」

「えぇ。任務、承りました」


 最高神の間を辞した2人。顔を見合わせて笑う。


「な?あの最高神サマ、無茶ぶりしかしてこねぇ」

「本当ですね。巻き込まれるこちらの気持ちにもなって欲しいものです」


 2人は揃って帰宅。柑は片付けを行い、レイエルは梓翠の時並みの長期任務も覚悟の上で2階の片付けに入った。


「長期任務、慣れていらっしゃると?」

「……いや?人間界に降りるクラスの長期任務はほとんどこれが初めてだよ」


 そう、梓翠の時が最初。だがまだ言えない。信用していないから言えないわけでは無い。信用しているからこそ、この重みを乗せてはならないと思うのだった。


 翌日、神殿に向かい、着替えて門から降り立とうとした2人をアルトは最高神の間に呼び寄せた。


「……降り立つのは門からの筈では?」

「なに、今回はレイエルも人間として降り立ってもらおうと思ってな。まだこちらの研究が進んでいないため対象の国しか降り立てないのだがな。まぁ対象の暮らす国は東の大帝国フェーヤ帝国。問題はあるまい」


 ピクリと、その帝国の名にレイエルは誰にも気付かれない程度に反応した。皇帝は今35歳。まだ、その時ではない。梓翠が生まれるまでは、このままにしなくてはならない。


「どうやって降り立つと」

「簡単だ」


 指が鳴らされる。瞬間、レイエルと柑の足元が海の上に変わった。あの日と違い荒れた海。よく見れば周りも暗い。遠くには雨雲も見える。どう考えても嵐の海だった。


「レイエル。仙界入りするにあたって1つ技能を譲り渡すと言うのがありまして」

「そのオチは?」

「僕、水への耐性ゼロなので、あと頼みました」

「はぁぁ!?」


 着水。沈む柑を引き上げ、幸いにもそこまで遠くない岸まで必死に泳ぐ。


「デルフィーニスっ」


 声が響き渡る。柑を、そしてレイエルを水面へ持ち上げる存在が居た。この際なんでも良いとレイエルはその背びれに捕まり、岸に近付く。急カーブを描き、それ等はレイエル達を乱暴に岸に投げつける。改めて、その存在とレイエルは向き合った。書物に記されていた記述と全く同じ。海に存在する哺乳類の1種。


「……イルカ?でもなんで」

「ありがとうなっっと」


 小魚が配布され、イルカたちは沖合へと戻っていく。振り返ると、そこにはやはり直接対峙しても少年としか思えない青年が立っていた。


「ようやく来たみたいだな。薄紫の君」

「……遅くなり申し訳なかったな?アスディル・ファーレット」

「とりあえず家に来いよ。そっちの人の介抱もあるし」

「頼む」


 柑を背負い、アスディルの案内でレイエルは岸辺から小高い丘へ登る。そこに合ったのは小さな家。中に入った瞬間、壁に雨粒が叩き付けられた。


「……あっぶね」

「2人が落っこちてきたのが分かったから雨の精霊にしばらく足止め頼んでたんだ。はいタオル」

「おう、悪いな」


 とりあえず拭いて柑を案内された2階の部屋にあるベッドに寝かせる。そう言うのは早く言えと、レイエルが思う以上にアルトも思っているのだろうか。少しだけ、愉快な気持ちになった。


「天使ってお茶飲める?」

「茶ならな。酒も飲めるには飲めるが、上にないから耐性が分からない」

「そっか。んじゃ新たな選択肢。コーヒーをば」

「こーひー?」

「まぁ豆から淹れる茶の親戚。苦いけど美味しいよ」


 1階に降り、リビングでレイエルはその黒い液体に対峙する。香りは良い。飲んで、顔をほころばせた。


「美味いじゃん」

「お、いける口か」

「マナの実って言うくっそマズい上に苦い実の原液飲み慣れてるから、これぐらいなら全然」

「良かった。さてと」


 座ったアスディルの周りにふわりと精霊、下級天使や妖精たちが浮く。皆一様にレイエルを警戒していた。


「ごめんな。みんな薄紫の君が来る~って騒ぎまくって警戒してるんだ」

「なんだよその薄紫の君って」

「常日頃から魔物を屠り続ける脅威の存在って。名前知らないから髪色で呼んでるらしい」

「……レイエル・ラージレットだ」

「レイエルね。了解。で、俺は天使が来る事しかみんなから聞けていない。ご用件は?」

「その能力、だな」


 真実アスディルは声を聴き、彼らを見て、彼らと会話し、彼らに触れている。カタカタと窓ガラスが揺れる音だけが2人の間に落ちる。


「……俺も、よく判んないんだ」

「だろうな」

「俺さ、両親の記憶も無いんだ。近くの街にある銅像の下に、秋から冬になりそうな頃、バスケットに入って捨てられていたのを当時の町長が拾ってくれて、でも、この力が不気味に見えたのかこの家に今は1人で暮らしている」

「……人って言うのは恐れで排除対象を決めるからな」

「あぁ……それでも俺の作るモノ、大体は評価されるから結構な金銭になるんだ。だからここで普通に暮らせているんだけどな」

「作るモノ?」

「小さな機械とか、後は薬品。後者の方がウケは良いけど」

「そりゃ、精霊がそれだけいりゃ、良い薬作れるだろ」

「ご名答」


 年齢に見合わない笑顔でアスディルは笑う。本当に25歳なのか疑いたかったがおそらく本人は気にしているだろうから触れないでおく。その程度の優しさならばレイエルは持ち合わせていた。


「とりあえず、こちらはその能力に関して色々調べたい。滞在しても?」

「構わないよ。部屋は、あの部屋雑魚寝だけど」

「良いよ。アレの寝相は悪くなさそうだしな」

「どちらかと言えば貴方の寝相が心配ですよレイエル」


 柑が降りてくる。アスディルは3杯目のコーヒーを淹れる為に席を立った。柑はレイエルの横に座り少し申し訳なさげにしていた。


「すみませんでした。海の上と分かっていたならばもう少し対処法が合ったのですが」

「あの体勢じゃ足場の魔法陣も使えなかったしなぁ……」

「えぇ。改良が必要ですね」

「そこじゃないと思うんだけど……はいコーヒー」

「わぁ……懐かしい。皇帝からの献上品を山分けした時全員ぶちのめして手に入れて以来です」

「いやお前は何やってんだよ」

「皇帝?」

「皇帝は皇帝でも、西の大国、華国の皇帝ですよ。申し遅れました、玲鵬(れいほう)柑と申します。柑が名前ですよ」

「へぇっ俺フェーヤ帝国出た事無いから本でしか見た事無いやっ」

「かなり距離ありますからね。確か東の果ての方でしたっけ」

「そ。華国となら交易あるよっ……まぁ、帝都の港が貿易港で、そこと大都市ぐらいしか流通はしていないんだけど」

「えぇ。フェーヤ帝国ならばよく貿易港に薬草や装飾品など見に行きました」


 交易国ならではの話題に花が咲くアスディルと柑。仙境に引きこもる生活ばかりと思っていたが意外と出掛けているようで、華国から見たフェーヤ帝国に詳しかった。


「げっ禁止薬草送りつけてたんだ」

「えぇ。イラついたので全破棄してやりましたけどね」

「……お前、たまによく判んない方向に行動的だよな」

「よく言われます」

「でも華国の柑がなんで天使のレイエルと一緒に?」

「ちょっと怒りに任せて殺戮していたら最高神殿に目を付けられて天界に連れて行かれまして問答無用で」

「んで、ほぼ実力均衡の俺が見張り役」

「へぇ……えっ色々知りたいっ」

「まぁ、良いぜ?こっちはお前さんの事調べるんだから。取引だな」

「そうですね」


 こうして、3人での生活は始まった。その日の夜、一応と水鏡の通信を立ち上げる。


「業務連絡。一応対象とは接触、協力を取り付けた」

『お疲れ様。えっと、あと』

『例の件、アルト様が、絞り出すような声で『すまない』って言ってた』

「把握した。結果アスディルと会えたし、言ってない柑も悪いしって事で」

「大変申し訳ございませんでした……」

『うん、伝えておく。一応こちらで交代に水鏡で状況を確認するから、10日に1度で連絡は構わないってさ』

「わかった。忘れたらそっちから声かけてくれ」

『レイエルならあり得るからな、りょーかい』

「じゃあ」

『うん、気を付けてね』


 通信を切り、平等にという事で床に敷布を敷いて眠りにつく。


「寝相、大丈夫なのですか?」

「自信無い。踏んでても斬るなよ?」

「善処いたします」


 一応、レイエルの寝相は悪くなかった。




 翌日、朝起きて、腹の減りを訴えた身体に違和感を覚えるレイエル。そう言えば人間として降り立つと言っていたことを思い出し、おもむろに水鏡に通信を立ち上げる。


『あ、丁度良かった。食事の件ですね?アルト様そちらも忘れていらっしゃって』

「……まぁ良い。植物性のモノは良いとして、動物性のモノは?」

『食べて大丈夫だそうです。本当に人間となるように調整したそうで』

「わかった。そう言う情報は早く伝えてくれと最高神サマにお伝えしてくれ」

『解りました』


 ビアへエルとの通信を切り、1階に降りる。パンと肉の焼ける香りが立ち込めていて、不快では無い事を確認し、調理中の2人の元に向かった。


「あ、レイエル。ご飯食べられないモノとか大丈夫?」

「今問い合わせた。人間の体として降り立たせているから植物性も動物性もどちらも大丈夫だそうだ」

「良かったです。はい、朝食プレート。食後にアスディルさんの製薬手伝って、午後に納品ついでにご飯買ってと言う予定です」

「そっか、いきなり2人増えたもんな」

「賄えるから平気。むしろ製薬手伝ってくれるならありがたい」


 ことんと置かれたのはパンとサラダ、燻製肉と目玉焼きが乗ったプレート。初めての人間の食事、興味津々のレイエルはまずはとパンから口にした。


「んっ……へぇ……不思議な感覚」

「天使とか妖精は食事取らないか蜜が好きって奴等は多いけど」

「空気中に天使の生命力を底上げするマナの実の成分が漂っている。吸うだけで、食事が要らなくなるな」

「アレ便利ですが慣れるまで大変でした」

「今も朝イチ水飲んでるもんな」

「えぇ、なので久しぶりのご飯、しかも東の食事にわくわくですね」

「柑、手際よかったから助かる」

「それは良かった。ん、燻製肉美味しいですね」

「こっちじゃベーコンって言うんだ」


 楽し気に朝食を取り、レイエル主体での片付けの後、レイエルと柑は地下にある調薬室に案内された。そこには大量の薬草が保管されていて、アスディルは慣れた手つきで蒸留器と瓶を取り出した。


「コレ、今日の納品分の配合」

「ふむふむ……わかりました」

「あぁ……?」


 覚えている、その記述。梓翠のあの書庫に合った記述。でも、まだその思い出を渡せるほど、目の前の青年を信用したわけでは無い。


「了解。じゃあこれか」

「上からで、僕は下から」


 蒸留し、瓶に詰めていく。それを木屑の詰まった箱に詰め、出来上がったのは昼近く。荷馬車に箱を積み、馬車を馬に繋いだ。その馬に、その白い毛並みに、レイエルは違和感を覚えた。


「……魔法生物の馬がなんで」

「え、そうなのか?この子近くで迷子になってたところを保護してそのまま家の運搬役なんだが」

「えぇ……お前のその能力魔法生物までも範囲内かよ……」

「気付かなかった……普通の動物にも通用するから」

「気付け」


 そして馬と共に歩き出す。ふと気づいたレイエルはその長い髪を一瞬で薄紫色から薄茶色に変えた。


「あんまり居ないだろ、人間界に薄紫色」

「そうだった」

「ですね」


 居そうなレームス半島を知っているレイエルだからこそ気付けたその差異。またしても最高神がうっかりのやらかしで凹んで居そうな気配を察知しながらも、一行は近くの町、サヴァへ到着した。予想通り金髪と茶髪が主流の人間達。アスディルと柑の黒髪が若干浮くが町の人間は気に停めもしない。回り込んで、アスディルは薬局の裏手のドアを叩いた。


「アス。ようやく来たな?」

「ゲオルク、え、そんなに??」

「ちょっと最近暑いだろ?バテてる奴が多いんだ」

「そっか。あ、紹介する、しばらく家に滞在することになった」

「レイエル・ラージレットだ」

「柑・玲鵬と申します」

「その名乗りにすることにしたんだ」

「いちいち説明面倒だなと思いまして」

「で、薬屋の」

「ゲオルク・アッシュフォンだ」


 金髪の青年は薬屋と言うにはガタイがいい。そしてもしかしてアスディルと同い年なのではと推察できる年齢に見えた。


「で。これ栄養剤納品分っと」

「……確かに」

「ご入用は?」

「栄養剤多めと、あと風邪薬がお前さんの方の品が品切れ始めた」

「了解。あっちにも作れって言っておいてくれ。あ、馬と馬車預かってもらっていいか?」

「おう、あぁ、代金」

「確かにっと」


 代金を受け取りアスディルは薬屋を離れる。成すがままの2人は思わず思った事を口にしていた。


「アスディル……もしかして」

「ゲオルクさんと……同い年じゃ」


 ぴたりとアスディルが止まる。ぎぎぎとさびた鉄のようにアスディルは首を回した。なお半泣きである。


「……そうだよわるいか」

「悪くは無いが……なぁ?」

「随分と見かけの年齢が離れているなと……」

「……なんか知らないけど昔からこんな感じ……背も伸びないし、顔も童顔だから」

「……若い方が、良いと思うんだが」

「お前等いくつだよっ」

「6000歳」

「仙人でしたので3000歳ですね」

「コレだから長命の種族は……」


 ポンポンとアスディルの頭を撫でるレイエル。そこまで特筆するほど低いわけでは無いのだがレイエルの鼻先ぐらいまでの身長。大体アレクエルと同じぐらいだった。


「アスディル・ファーレットっっ」


 レイエル達の前にザッと滑り込む影が合った。この町に多い金髪のその青年は一直線にアスディルに詰め寄った。


「私の風邪薬より捌けが良いのだがどうなっているんだアスディル」

「いや知らねぇよパウル。あとお前も作っといてやれよ」

「それに栄養剤もお前の方が売れ行きはいい」

「それも知らねぇし……とりあえずレイエル、柑、コイツ、パウル・フォルコメン。俺の同業」

「ふんっお前の同業と思われるのは心外だな。私の薬の方が何もかも上なのだっ」


 言い捨てて、パウルは立ち去る。いつもの事なのか、アスディルは苦笑いでその背を見送った。


「良いのか?」

「ん~プライド高いから、何を言っても無駄だし。今更だよ」

「そっか」

「それより市場っ」


 アスディルの案内で向かったのは広い市場。賑やかなその場所は上級街でもお目にかかれるがやはり違う所は大半が食料品であること。


「え~っ楽しいです。果物類が興味深いですっ」

「そういやお前、仙境での食事の大半は桃だって言ってたっけ」

「桃?」

「仙桃と言う特別な桃でして。それで寿命伸ばしていくのですよ」

「へぇ……一応不老不死には対応してないけど桃なら有ると思うよ。大体今の頃が旬だし」

「やったっ」

「とりあえず荷物持ちは居るし、柑、目利き手伝って」

「えぇ、わかりました」

「おう荷物持ちって俺の事だなわかってんだぞ」


 そうしてレイエルを荷物持ちにしてアスディルと柑は買い物に繰り出す。野菜、果物、保存の効く加工肉類など、幅広く買っていく。


「……おもい」

「おや。ちょっと買い過ぎましたかね」

「なんか荷物持ち居ると思ったらつい。ごめんごめん」

「アスディルは許す、柑、お前わかっててやってるだろ」

「バレましたか」

「バレるわ」

「仲良いのな柑とレイエル」

「そうかぁ?」

「仲がいいという感情を理解するにはレイエルはまだ早い気が……」

「ぐっ」

「……何ごと?」

「レイエル、知り合い分類していた方々全員からご友人分類されていて、親友分類の方もいらっしゃったぐらいで」

「……それは……無関心が過ぎね??」

「うるせぇ……」


 凹みながら市場の中央にある噴水に腰掛け休憩を取る。ふと、噴水から一直線の道の先に広場が見え、そこに銅像が立っているのが見えた。アレがアスディルの拾われた銅像前と思って見ているとその銅像が、何やら皇帝のような存在を模していることに気が付いた。


「あの銅像って誰なんだ?」

「あぁ。先代皇帝のユーリイ・フェーヤ・ザルツヴェル陛下のままだな」

「まま、とは?」

「現皇帝陛下、ドルストロ・フェーヤ・ザルツヴェル陛下は叔父であるユーリイ陛下の事ものっすんごく嫌っていて、国内にあるユーリイ陛下の銅像片っ端から壊して自分の銅像にしてるって話。アレももうすぐ壊されちゃうだろうな」

「…………そっか。随分過激な皇帝陛下だが御年は?」

「っと、35だったかな。即位して15年式典がこの前あったって聞いたし」


 間違いない。ドルストロ・フェーヤ・ザルツヴェルが梓翠をあんな目に合わせた皇帝だ。本当ならば任務もすっ飛ばして飛んでいき、その首を今すぐ落としたいという気持ちもある。だが、本当にそれで梓翠を未来に連れて行くことになるのかどうかという疑問も生まれる。疑問の答えを持つ原初の神は今居ない。ならば不承不承ではあるが大人しくその時が来るのを待つしかない。


「レイエル?」

「いや。その年でも先代を嫌うって何やったんだろうなって」

「俺等も知らね。でも帝都って変なんだよな。年齢によって住む場所が違ってたり、外からの交流も1ヶ所に限られてたりしてさ」

「なんだか、鎖国国家みたいですね」

「そう。だから俺等が行くのは帝都カローリじゃなくて西の大都市モナールフ。そこなら辻馬車使えば1日で行けるけど」

「いいね、行ってみようか」

「えぇ。国内であれば移動は可能ですから」

「やったっ」


 噴水の前、笑い声は響く。夏の日差しの下、穏やかな日常が広がっていた。それはレイエルにとって嫌ではない穏やかさだった。








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