004 友人の定義
彼と彼女を見た原初の神ピソ=霄狐は詠唱を開始する。引き離すのは辛い。もしもを信じ、相棒であるブロスタ=煌鵲が主る『未来』へ賭けようと決めていた。
「世はすべて過去、人間界は更に過去へ、時をずらせ、元に戻せ。階層は1年前、人間界は30年前へと『時間遡行』っっ」
杖から魔力風が噴き出す。外の景色が巻き戻されていく。結界に、ヒビが入った。あぁ、ついにお別れかとレイエルは腕の中の梓翠を見た。
「……またな、梓翠。その時は」
声は魔力に煽られ、消えていった。
レイエルが目を開く。そこは天界の自分の部屋。伸びをして一息。軽やかに階段を降りればコンコンとドアが鳴らされた。
「レイエルさん、お手紙です」
「あぁ、今行く」
郵便配達の仕事をしている上級天使の少女から手紙を受け取る。それはいつもの手紙、開封し、手紙を読もうとしたその時だった。
さらさらと手紙が光の粒になり消えていった。かろうじて読めたのは呼び出しが明日であることのみ。封筒だけは残った。ふっと、レイエルは笑ってその蓋を閉じる。
「さて?友達とやらを作る所からか」
梓翠を救う旅は始まった。期限は30年。天使の時間では瞬きの間。それでも1日1日を大事にして過ごさねばならない。何が彼女を救うために必要になるのか判らないのだから。
翌日、レイエルは一応と神殿へ向かった。廊下を歩いていると中枢4天使と補佐組が固まっているのが見えた。
「あれ、レイエル?なんで??」
「いやお前達こそどうしたよ。固まって」
「いや、何かの用事でアルト様に呼び出されたはずなんだが、誰一人その理由が分からなくてな」
「最終的にはアルト様まで何で呼び出したか思い出せないと来た」
なるほどそう処理したかとレイエルは理解した。ならばその話に乗ってやるのも筋と考え、ひらひらと封筒を見せる。
「似たようなもんか……昨日呼び出しの手紙が来たんだが、明日という文字を読んだところで手紙が光の粒になって消えたんだ。これ、その封筒」
「確かに呼び出しの封筒だね……でも、なんで??」
「わからんからこっちに顔を出したんだろ」
「お会いしていく?」
仰ぎ見たのは最高神の間の扉。その先に居る存在に会いたいかと言われたら特に積極的に会いたいとは思わなかった。
「いや、用が無いならばそれに越したことは無い。下の部屋ちょっとそろそろ埃凄いだろう?片付けて帰るよ」
「そうだね。レイエルが神殿に来て時間があるって滅多にない事だから」
「手伝おうか?」
「頼めるか?」
「おう」
ティミエルと共に下層に入る。そこは筒状に居住区が地下へ向かって伸びている。長い階段を降りた先、最下層にレイエルとティミエルは降り立った。
「お前もっと上に部屋貰えよ……帰りは飛べるけど行きは階段じゃないと危ない場所ってさぁ」
「仕方ないだろ、特級天使としてみれば結構な古参でね」
レイエルにあてがわれている使われていない部屋の魔力錠を開錠し、中に入る。とたん噴き出たのは埃。ティミエルも覗き込むとそこは灰色の部屋だった。
「……これ人間界なら蜘蛛とかの虫住む奴」
「だ、ろうな」
2人で必死に掃除を開始する。この階層はレイエルが言ったように古参の特級天使が多い。だがその古参は大半、己で定めた寿命で幽界に落ちていく。天使は厳密に言えば不老不死ではない。己で寿命を定めればそのように老いて死んでいく。レイエル程永く、しかも特級で生きている天使は珍しい。なのでこの階の住人は円の真反対に数名居る程度。ご近所は皆レイエルの部屋と同じく埃で埋もれていた。
「やっぱお前上層来いよっ空き部屋有るぜ?」
「ちょっと考えたくなる……」
ティミエル達要職の部屋は一番上の階層にある。楽そうという誘惑に負けつつもレイエルとティミエルは掃除を完遂した。空気の入れ替えに風魔法を使いながら2人は部屋で寛ぐ。
「ティミエル」
「なんだ?」
「友達の定義って何だと思う?」
「………………は?」
「いや、気になって」
「……あの、レイエルさん??友達の定義を問うってことは、お前友達」
「居るのかどうかわからないな」
言葉に、ティミエルは固まる。確かにレイエルの態度は何時でも平坦だ。特別も無い、ただ何もない。だが、これほどまでに何もないとは思わなかった。
「レイエル」
「ん?」
「神殿、帰ったら、演練場」
「……秒以下で瞬殺のお前が?珍しい」
「違う。広々として騒いでも問題ない場所がそこぐらいだからだ」
換気も終わり、レイエルとティミエルは上の神殿に帰る。ティミエルはちょうど歩いていたアナラエルとアレクエルに次第を話し、2人は走って神殿内を回る。ティミエルはレイエルを引き摺り、演練場に顔を出した。ちょうど天界軍の修練は終わったところでリスエルとスパスィエルもそこに居たためティミエルは手短に用件を伝える。当然のようにリスエルから圧が出た。
「レイエル」
「なんだよリスエル」
「そこ、座る」
思わず膝を折って座るレイエル。それほどまでにリスエルとスパスィエルは勢いが合った。
「レイエル。お前、どうして友達の定義を考えるようになった?」
黒い気配すら出しながらリスエルはレイエルを見下ろす。対してレイエルはどうしたものと思案する。正直に言っても良い、言っても問題ないと霄狐は言っていた。だが、この記憶を共有したくないとも思ってしまっていた。
「この前ビアへエルの入荷した書物の中に合った文学作品の中に友人の為に命がけになる主人公の話が合ってな。友人と言う存在にそこまで命がけになれるものなのかと感心したんだが、友人と言う存在の定義が分かっていない事に気付いた」
「……なるほど。確かにそれは定義を考えたくなるな」
「定義とかそう言うモノじゃないと思うんですが友人と言う存在は……」
「それはそう」
廊下を走る音が響く。行きすぎかけたその彼の首根っこをアナラエルとビアへエルがとっ捕まえ引き倒した。
「……大丈夫か?」
「だい、じょうぶじゃ、なぁぁぁぁぁいっっ」
引き倒されたフォルエルがアレクエルに支えられて立ち上がる。そしてレイエルの前に立った。
「レイエルっ友達の定義って何っっ」
「そのままだが」
「居るのかどうかわからない、とか抜かしたぞソイツ」
「事実だろ」
「レイエル~っっ」
レイエルには何故一同が憤っているか本当にわからない。そこへ黒くて白い影が舞い込んだ。
「そう言った楽しいという感情を観測できそうな事象は最高神の間でやるように」
「アルト様」
「ふむ。友人の定義、か」
主の登場にさすがに場を開ける。こういう時感情の起伏を見たくて引っ掻き回すのがアルトと言う神なのだ。
「まずは、ほぼ同等であり、共に居て楽しいと感じたことのある人物ではなかろうか」
「一緒に居て楽しい……」
「恐らく大事な事だろう?」
言われて、思い返す。色々彼らと共有した思い出は多い。だが、その中で、一番楽しいと感じられた人物は。
「……そしたら……やっぱ書評で楽しんだアレクエルだな」
「ふぇ!?」
「まだフォルエルの補佐に入る前、特級図書館の司書天使だったもんな」
「は……はい。レイエル様とは同じ司書天使と言う間柄もあって書評談議をさせていただきました……けど」
おろおろしているアレクエルを他所に、フォルエルは沈み込んでいる。それにトドメをかけるのがレイエルと言う存在だった。
「後は上級天使時代に楽隊の練習をしていて聞かせてもらっていたティミエル?」
「は!?」
「もしくはここで手合わせしてくれているリスエル?」
「え」
「武器談義と言う意味ではスパスィエルもか」
「まぁ、確かに」
「世話になっている、という段階で良いならビアへエルとアナラエルもだが……」
「レイエル。その辺にしてやれ。名が上がらない者が立ち直れなくなる。そうしたのならば書類作業に支障をきたす」
最高神の言葉にそう言えばとフォルエルを見る。端で座り込む彼は哀愁を漂わせていた。
「あの、レイエル様、フォルエル様は」
「……まぁ、居て不快ではないな」
「そこから!?」
「重要じゃないのか?」
「重要、まぁ、大事よね」
「一応、アルト様の関連で世話にもなっているな」
「であろうな」
「……それ以上思い当たらないんだが」
幻の雷がフォルエルを貫く。ふらふらとさらに端に寄り、地面に倒れ伏した。
「……レイエルちゃん……」
「レイエルさん……」
「レイエル……」
「……流石に、今のは酷い、と言う状態であることは私でも理解できるぞレイエル」
「え?」
アルトはレイエルを見る。レイエルの感情を見る限り、彼は本当にわかっていない。相変わらず興味深い存在だと思いながら書類の補佐をしてくれている方の補佐を見た。
「……頑張る」
「フォルエル?」
「レイエルに友達と思ってもらうように頑張るぅぅぅっ」
走り去るフォルエル。慌ててその背をアレクエルが追う。残された一同はそっとレイエルを見た。
「だそうだが?」
「……いや、だから友達の定義が分からないから聞いているんだが……」
世界のどこかで、原初の神が手遅れですと首を横に振る幻が見えた気がしたが、誰にも見られず消えていった。
数日後、レイエルはティミエルに呼び出された。場所は上級街の端にある噴水の前。
「おう、来たな?」
「何事だよ、いつもの手紙が来たと思ったらお前からだし」
「フォルエルの事。まぁ座れ」
噴水の端に座る。上級街の噴水周りは人間の街の市場と同じように賑わいを見せている。違う部分は食品の店が無い所。その役目はマナの実と言う果実が担っていて、基本的に天使は食事を摂らなくても生きていけた。
「フォルエルがどうしたって?」
「お前に友達かどうかわからないと言われて以来本気で凹んで若干使い物にならなくなっている。具体的に言えば見かねたアルト様が書類をやる程度」
「……いや、アルト様最初から書類やれよ」
「それはそう。でもフォルエルがこれ以上使えなくなるのは避けたい」
「ん~……」
考える。友達と言う定義が今もレイエルには判らない。アルトが言う定義で定めるならばフォルエルは、知り合いと言う状態だった。
「理由は聞いたけど、今までもそう言う物語とか色々書物で友人って言う存在に当たっただろ?そりゃ感銘を受けたって言う状態なんだろうけれども、いきなりどうしたんだよ」
「まぁ……そうだよな」
正直に言うのならば、ティミエルには話してもいいと思っていた。何故ならあの落下している時に唯一自分だけではなく梓翠も気遣ってくれていたから。でも、口は思い出を閉ざす。その代わり、取り繕った嘘が吐き出された。
「何だろ。感銘を受けたってのもあるが、俺友達って言える存在居なくて、その友達の為に命張れる状態ってどんなのだろうって思っただけだよ」
「命張れる状態……っか……俺はアルト様の為に命張れる状態ではあるが……実力はレイエルの方が1億倍あるからなぁ……」
「アルト様は別枠だろ」
「だよな」
空は今日も抜けるように青い。市場のざわめきと噴水の水音は心地よく2人の間に落ちていった。
「……俺はさ、一方的にだけれども、フォルエルの事友達、だと思っている」
「そうなんだ」
「あぁ。あっちがどう思っているかは知らないが、友達だと思っている。フォルエルの為に命張れって言われたら、多分張れる。もちろんアルト様最優先だが」
「……どうして友達と思えたんだ?」
「理由なんて無いよ」
「え」
「理由なんて無い。俺が友達になりたいと思ったから、だからそう思っている。友達ってさ、確かにアルト様の仰る通り、居て楽しいと思う事も大事だけど、理由なんて無くても友達と思って良いんじゃないかな」
ふむとレイエルは考え込む。打算的な考えしかまだできないレイエル。その思考で考えて、重役で1人友達では無いという彼は、友達と言う括りにしておいた方が後々良いのではないだろうか。
「……1人友達じゃないのは何かと不都合だから友達と言う括りにしておく、と言う理由でもいいと思うか?」
「そこから友情育めば問題ないだろ。ちなみにその昔、楽隊に居た頃からの付き合いであるどっかの誰かさんも、俺は友達と考えているがな」
「……そりゃ、光栄だな」
足音が響く。神殿警護隊と共にアレクエルが涙目で走っていた。
「アレクエルっ」
「あっティミエル様、レイエル様っ」
「何かあったか?」
「それが、フォルエル様が少し目を離した隙に居なくなってしまって。門番の証言では止める間もなく外に出たと」
「そこで止めろよ門番……上級街は?」
「今探して居るところで……確かレイエル様、探査魔法使えますよねっ」
「あぁ。探してみる」
「探査魔法?」
「文字通り何かを探すときに役立つ魔法ですっ」
それは特級天使専用の図書館で見た魔法の1つ。アレクエルはその昔その特級天使専用の図書館で司書をやっていた。そこから迷子癖の酷いフォルエルの為にティミエルが抜擢して今のフォルエルの補佐の地位に有る。展開された魔法。徐々に広げていき、その姿を補足した。
「あのバカ中級街に居やがる」
「えっ」
「えっ」
「上級街の捜索隊を引き上げさせろ。流石にあまりにも特級天使が中級街に入ると影響が出かねない」
「わかった。頼んだ」
「頼まれた」
ティミエルとアレクエルと別れ、上級街から出て、中級街に向かう。足が止まっている事を確認し、一直線に彼の元へ走る。飛んだ方が早いのかもしれないがレイエルが飛ぶとなれば馴染みの中級天使たちにすわ何事かと思われたくない。
彼は中級街の端、路地裏に蹲っていた。オレンジの髪は白い街並みの中では目立つ。
「フォルエル」
声に、フォルエルはピクリと反応する。顔を上げればそこに居たのは薄紫色の彼。その姿にジワリと涙をにじませた。
「どうしたよ、こんなところで」
「れ、レイエルに、どうやって友達と思ってくれるか考えて歩いてたら、いつの間にかこんなところに」
「……随分とまぁ大冒険で」
「ここどこ」
「中級街。しかも俺の図書館とは真逆。一旦図書館行くぞ?」
「うん」
フォルエルを連れ、レイエルは自分の図書館に連れて行く。広い図書館の中、休憩スペースでマナの実を絞り出したジュースを出せばフォルエルは苦い顔をした。
「レイエル……マナの実原液なんてよく飲めるね」
「ま、どこぞの最高神サマのおかげさまで生傷が絶えない生活しているからな」
マナの実はとにかく苦い。その実を食べたり飲んだりするのは天界軍かレイエル位のモノ。マナの実の木と言うのは天界の至る所に生えていて葉から大気中にマナの実の成分を浮遊させる。それを摂取しているから天使たちは食事の必要がない。原液とも呼べる実や汁を摂取する必要があるのは怪我をした時など生命力の底上げが必要な時。瞬く間に傷は消える。ただし本当に苦いのが難点で、滅多な事ではマナの実のジュースなど飲まないがレイエルは常日頃出撃に備えて常備していた。
「……にがい」
「慣れたら気にならないよ」
「……ねぇ、レイエル」
「なんだ?」
「何を隠しているの?」
ピクリと目じりが動く。それでも、人の機微には敏感だが書類関連ポンコツのティミエルはともかく、フォルエルにはバレるのは時間の問題だと思っていた。
「ビアへエルが言っていた。ここ数ヶ月文学作品を収集した記録も無く、レイエルが言っていた内容の物も過去にさかのぼっても無いって」
「……ま、記録は正直だからな」
それでも、梓翠との事は誰も記憶していない。確かに霄狐の言う通り辛い事だとレイエルは内心笑う。
「願いが出来たんだよ。長く生きている中、持ったことも無い、願いが。叶えられるのは自分だけ。でも、それじゃ足りない」
「……足りない何かを補いたくて、友達を欲した?」
「正確に言えば仲間を欲している。でもその前に友達作った方が良いよとその願いに関わった奴が言うから、だから友人の定義を考えるようになった」
「……仲間の定義は、考えてあるの?」
「あぁ。いかに、俺が背中を預けられるか。それ以下はあり得ない」
心が痛んだ。そんな仲間、集まる訳がない。レイエルが背中を預けられる実力を持った天使など、この世界には居ないのだから。
「……その、仲間の前に、友達を作っておけって言った人は、友達?」
「いや、あれは腐れ縁と言うか……身分取っ払ったアルト様との関係に近いかな」
「そう……」
フォルエルはジュースの入った器を握りしめる。友達の定義と言いだした日からレイエルは変わっている。おそらくそれはいい方向になのだろう。願いとやらが彼を変えて、その願いの内容を自分たちには言ってくれない。
「レイエル。あのね、俺、レイエルと友達だと思ってた。ううん、親友とすら思ってた」
「親友……」
友人の1つ上の段階。その程度の認識しか出来ないレイエル。きっと命懸けどころか簡単に命も何もかも捨てられる関係なのだろうなとどこか他人ごとに感じていた。
「でも、レイエルは、本当になんにも思ってなくて」
「……悪い。友達も、特別も、何もかも作らないようにしていたんだ。失った時の辛さが、身を引き裂くように痛いから」
「レイエル……?」
5000年前に失った姉と父とコロニーの皆、そして、梓翠。離別は辛く、涙が溢れて止まらなかった。きっと次が合ったならば声を上げて泣くかもしれない。そんな相手を作るのならば、最初から作らない方が良い。それでもレイエルには願いが合った。その願いを叶えるためならば、失って辛い相手を作ることも厭わなかった。
「フォルエル。あのさ、親友ってのはまだ俺にはよくわからない。きっとそれには信頼と言う感情が必要で、俺に今一番足りてなくて、でもこれから必要になる感情の筈だから」
「……そう、だね」
「だからさ、とりあえず、友達から始めてもらってもいいか?俺に、誰かを信頼するという感情を教えてほしい」
目を見開く。だが、その理由もまたレイエルらしいとフォルエルは感じていた。最高神アルト以上に人の感情に乏しいレイエルが、感情を知ることは自分たちにとっても嬉しい事なのだから。
「うん。じゃあ大親友の座予約済みでお友達から」
「なんかさらに上っぽい称号付いてなかったか今」
差し出される手をレイエルは握り返す。どこまで目の前の彼を信頼できるようになるかは判らない。だが、その感情を引き出すことが仲間を作ることに通じるのだと、今更ながらに原初の神の忠告は無駄では無いとレイエルは思い、笑った。
「じゃ、神殿まで送るから。アレクエルとティミエルが待ってるよ」
「うんっあ、友情ってやつを深めるためにアルト様の呼び出し以外も神殿に来てよねっ」
「わかっている。他の奴等との友情とやらも深めておかないとな」
「だね」
そうしてレイエルとフォルエルは並んで神殿までの道のりを歩く。正門で待ち構えたティミエルがフォルエルに説教を食らわせるのだが、レイエルには見通せる程度の未来だった。
友情騒動から1週間後の事。言われた通り神殿に顔を出していたレイエルにも召集が掛かり、最高神の間には中枢4天使と側近組、そしてレイエルと言うあの日と同じ構成が揃うことになった。
「……この構成に俺入って良いものか……」
「アルト様のお呼びだし仕方ないわよレイエルちゃん」
「いや、レイエルをまず先に呼び出したかったところだ。これを見ろ」
水鏡の先、そこでは人外の生命体と青年が戦っていた。涙を零しながら、2対の剣を振るう青年。その力量に、レイエルは感心した。
「……所感を申し上げても」
「許そう」
「何やら涙に暮れる感情の荒ぶりが合ったと推察いたしますが、それを差し引いても彼の力量は強い。おそらく自分といい勝負ができる存在かと」
「お前もそう思ったか。確かに感情の荒ぶりがあるのは確かだが、現時点でこの男が屠った仙人と呼ばれる修行者達は、おおよそ10万を越える」
「……へぇ?」
思わず素で返してしまうレイエル。一方残った面々は唖然としていた。レイエルと同等の実力を持ち、仙人を10万ほど屠る実力持ち主。端的に言って、恐怖だった。
「……あぁ、終わったようだな」
カランと剣が落ちる。彼は泣いていた。死体しか居ないその山の端、泣き崩れて、謝っていた。
『ごめん、なさい……ごめんなさい』
それがこの惨劇への謝罪で無い事はレイエルも理解できている。青年の背を映す水鏡。ふと、アルトは思い立った。
「この者を天界に上げよう」
「アルト様!?」
「興味深い」
人間を天界に上げる方法はいくつかある。その内の天界転移を使い、青年は山の端から消えた。
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