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005 黒曜は斯く舞う

 血の香りだけが立ち込めるその場所で、涙に暮れていた。湧き出る感情は後悔。溢れ出して止まらない。


「ごめん、なさい……ごめんなさいっ」


 ザラリとした岩の感覚、それがつるりとした床の感覚に変わったことに気付いた彼は顔を上げた。そこは何処かの宮殿の玉座の間に似ていた。周りに居るのは東の装束に近い服を纏った青年たち。高い場所に居る黒い男を見た彼は理解した。アイツが自分をここに連れてきたのだと。


「……っ……随分、急なお招きですね」

「何。あのまま涙で朽ち果てさせるのも忍びないが故な」

「……何者です?神仙より、貴方は上だ」

「天界に住まうモノを統べる、最高神、アルト・エーラ……お前達神仙が目指す神の座に有る者だ」

「……そうですか……ならば、僕の敵ですね」


 一緒に転移されてきていた彼の剣を取るが早いか彼はアルトへ斬りかかる。それを防いだのはアルトではない、薄紫色の髪の青年の槍。


「おう最高神様や。防御反応ぐらい取っていただいても構わないか??」

「足元にお前が居て、防御反応など取るのも不便だろう」

「チッ」


 剣ははじき返される。床に滑った彼と、降り立った彼の剣戟が始まる。それはアルトをまるで舞踏でも見ているような心持にさせていた。剣と槍が、舞うと言った方が正しい軌跡を描き舞う。そして薄紫と黒曜も同等の実力で武器を交わしている。


「レイエルっ」

「バカっコレ誰も入れないってのっ」


 打ち合いは長くは続かなかった。剣が鈍った瞬間を見極め、レイエルは腹に一撃決めて彼を吹き飛ばした。


「かはっ」

「ふぅ……と言うかアルト様、連れて来て、どうします?」

「そうだな……まずは天界から出られない処理をして」


 キンッと音がして彼の腕にツタのような模様が刻まれる。天界に縛り付けられた彼はそれでもなおアルトを見た。


「っ……」

「そうだな。レイエル、預かれるか?」

「え」

「は」


 補佐2人が固まる。中枢4天使も固まり、アレクエルはビビり過ぎて動けもしない。


「……まぁ、ご命令とあらば」

「え」

「は」


 あっけらかんとしたレイエルの返答にさらに補佐2人は固まる。レイエルは冷静に近衛隊の1人から緊急で借りた槍を返し、彼の前に立った。


「名前は?」

「……玲鵬(れいほう)(けん)……柑が名前です」

「ふむ。ってことはあの映像西の方か。とりあえず」


 ひょいとレイエルは柑を担ぎ上げた。柑は何が何だか分からず茫然としている。剣も手に取ったレイエルは1つ出来た仕事を頼むべく担当者に声をかけた。


「ビアへエル、西の方の大国、後その近くにあるって言う国々の情報が知りたい。重点的に吸い上げ頼むわ。アレクエルも西の方の記述ある本あったら教えてくれると助かる」

「わかりました」

「は、はい」

「ではアルト様。本日はこれにて」

「あぁ……その姿で上級街と中級街を歩くのは目立つだろう、送ろう」


 転移の魔法がかけられる。気付けばレイエルは自分の図書館の前に立っていた。便利だなと思いながら器用に魔法錠を開け、中に入っていった。


 その頃、最高神の間ではフォルエルがアルトを見上げていた。


「アルト様、どういうおつもりですか……レイエルにまた無茶な指示を」

「この天界であの、柑、と言ったか?アレを抑えられるのはレイエル位のモノ。ならばそれに任せることに越したことは無い」

「そもそもっなぜあんな危険因子を天界にっ」

「なんだ、お前たちが望んだのだろう?レイエルに友と言う概念を教え込みたいと。実力も拮抗している相手を投入するのが、一番手っ取り早い」

「……しかし、ですね……」


 アルトのいう事ももっともだった。レイエル自身が言っていた。背中を預けられる実力を持った仲間が欲しいと。もし、友好的になってくれたのならば彼はその条件に合致するだろう。それでも友好的になってくれるかどうかわからないのならば、反対するのがフォルエルだった。


「その前にレイエルに何かあったらっ」

「アレに何かあると?現状考えられないな……レイエルはお前たちが思う以上に周到な男だ。そんなヘマは起こさないだろうな」

「……ですが……」

「フォルエル。書類溜るから。な?」

「……では、アルト様」

「あぁ。何かあれば知らせよう」


 引き摺られるようにフォルエルは最高神の間を辞す。ティミエルとアレクエルがフォルエルを執務室に連れて行くのを、同じく最高神の間を辞した中枢4天使は見ていた。


「心配になるのも、わかっちゃうわね」

「だな」

「えぇ……さて。西の方重点的に吸い上げしますか」

「あ、武器の感じが違うみたいなんで僕も見て良いですか?」

「リスエルちゃんは?」

「レイエルに匹敵する人材が増えるかもって事だろ?天界軍ビシバシ鍛えてやるよ」

「程々にね?コラキエルちゃん、緩衝材じゃないんですが俺はって半泣きだったわよ?」

「俺の副官に昇格したのが運の尽きですよ」


 それぞれがそれぞれの場所で日常を始める。そんな頃、図書館では着替えたレイエルと柑が対峙していた。黒曜石のごとき黒髪に赤茶色の瞳。玲鵬柑は座らされたソファでじっと座っている目の前の彼を見ていた。


「……聞きたいことを返す方が良いか?俺が必要だと思った情報を話す方が良いか?」

「前者で。最高神が居るという事は……ここは真実天界なのですか?」

「あぁ。8つの階層、その上から2番目に存在している天界だ」

「では、貴方は種族としては天使?」

「そうだ。西の方にも神と天使と言う概念は伝わっているんだな」

「ごく少数ですよ。西には西の思想形態が存在していますからね」

「それは興味深い」

「……ここ、今僕達が居るこの場所は?」

「俺が住居としている中級街にある図書館だな。普段は図書司書を仕事にしている」

「中級?」

「天使にも格付けが合ってな。発生したばかりで精霊とも呼ばれる下級天使、名前を得て活動する中級天使、職業を得て活動する上級天使、さっきまで居た神殿に関わる仕事を得て成る特級天使って順番だ。まぁ神殿内にも上級天使居るけどな」


 馴染み深いアレクエルは上級天使。司書天使から補佐の補佐に格上げが為されてもアレクエルは上級天使のまま。何故なら特級になると必ず舞い降りる証、苗字が彼には一向に現れないのだ。そう言った事情まで話すことはまぁ今では無いだろうとレイエルは思案する柑を見た。


「では、名前から推察するにここは中級天使が暮らす街、ですか?」

「あぁ。普通に考えて、俺みたいに特級天使の証である苗字を得ている存在は居ない場所、だな」

「……なるほど。本来ならば先ほどの間に居た方々と同じような場所に暮らすべきところ、貴方は離れて暮らしていると……随分と変わり者ですね?」

「成り方が変わってたもんでね。醜聞を抑えたくて此処に来ているんだよ」

「……僕を天界に連れて来て、最高神殿は何をしたいのでしょうか」

「一番は観察、だろうな。あの方は長きにわたり1人で居た弊害で感情の出し方を忘れてしまっている。だがその分他人の感情を観察することを得意とし、楽しんでいる。俺なんかしょっちゅう無茶なこと言われて内心で面白がられている」

「僕を引き取れと言った感じに?」

「まさしくその通りだな」


 冷静に柑は情報を引き出す。そんな事神仙たちの中で生きていく上では朝飯前だった。それでも、目の前に居るレイエルと呼ばれた青年には隙が無い。こんなことは初めてだと内心で笑った。


「貴方方は僕に関してどこまでご存じなのですか?」

「……アルト様はともかく、俺達は殆ど知らないにも等しい。神仙を10万屠ったという情報しかないぐらいだな」

「……そうですか……聞きますか?殺戮に至った顛末を」

「ぜひ、聞かせてほしいものだが……その前に良いか?」

「何なりと」

「正直ここで暴れられることまで織り込み済みで引き取ったんだが」

「恐らく貴方も、と言う形でしょうが、僕も本は好きでね。特に文字から言って東の本が多いと見受けられます。そんな興味深い場所で暴れるほど、蛮族ではありませんよ」

「そりゃよかった。では、顛末を聞かせてもらうか」

「聞いて後悔すると良いですよ」


 思い返す。始まりはほんの10日前の事だった。




 玲鵬(れいほう)(けん)は仙境で暮らす仙人だった。現在3000歳。仙人としては中堅に当たる年齢だがその容姿は年若い。仙人に成った年が若かったのが要因だが、それゆえに他の仙人達から妬みの感情を向けられること多々だった。


「はぁ……めんどくさいなぁ」


 その日も柑は面倒な視線を向けてくる神仙の宴席に出なくてはならず1人準備をしていた。ほとんどの仙人が道士と呼ばれる弟子を取るにもかかわらず柑は取らない。ただ1人黙々と発明や実験に明け暮れる日々。その辺りも異端とみなされる1つだった。


 部屋の奥、鳥籠の中、柑の髪を長くしたような鏡写しの少女が居る。ただそこに居るだけ。生きても死んでも居ない。


「行ってきます柚月(ゆづき)


 声をかけ、柑は戸締りをして出かける。その姿を見ていた人物に気付けなかったのが、悲劇の始まりだった。


 宴席は多くの仙人が呼ばれて行われた。とりあえず他人の酒を浴びるように飲む柑。酒に呑まれたことなど一度も無かった。そんな柑にひょうたんが差し出される。


「柑師、水も飲みませんと」

「ありがとうございます、枸橘(くきつ)


 受け取ったひょうたん。それを大事に持ちながら柑は彼を見た。胡枸橘。数いる仙人の中で天敵とも呼べる水晶老君の弟子。そして、柑の片思いの相手でもあった。


 自分とは何もかも違う彼に惹かれ早100年。どうしようかと考えた時浮かんだのが、自分が女性に成ってしまえばいいというひらめきだった。だが性転換の薬は何を作ってもうまく行かない。やけくそになった柑はある日秘術である魂魄術に手を出した。魂と魄、身体。そのどちらかを創り出してしまうという禁術に何故指定されていないのか疑問に思うその術を行使し、柑は創り出した。自分と鏡合わせの少女、それが、部屋にある鳥籠の中に居る柚月だった。それが大体5年前。今は日々、その柚月の身体に自分の魂を移し替える術の研究に没頭し続けていた。


 柑以外の全ての仙人が潰れ会はお開きになる。弟子たちが師を回収する中、柑は軽やかに会場を後にした。


「柑師、今日何升呑んでいらっしゃった??」

「ばっかあの柑師だよ?1斗余裕だったぞ」

「酒に関しては最強だよな……あ、いや武術の腕も最強だが」

「正直、柑師の弟子になりてぇ……」


 ぼやく道士たちを他所に柑は自分の舘に帰り着く。そして、部屋の中の惨状を目の当たりにした。


「……ぇ」


 酔ってはいないが酔いも覚める状態だった。部屋は荒らされ、壁には大きな穴。そして、部屋の奥にあるはずの鳥籠が中身ごと無くなっている。


 荒ぶりかけた精神を抑え、柑はまず壁の穴を仮で修復する術を展開する。そして他に盗まれた者が無いか検証。魂魄術の本やそれを研究した時に出来た結晶石がいくつか無くなっているのを確認。冷静に、酷く冷静に仙人の正装であるゆったりとした服から道士の戦闘訓練に紛れる為に用意してある戦闘服に着替えた。


 鳥籠には万が一に備え、追尾の術式が付けられている。夜通しの宴席で空は白む頃。日が昇る頃を待って、追尾の術式を辿った。


 仙境には無の大穴と言う場所がある。その中に入れたのならば何もなくなる場所で各々失敗作を投下していく、ようは重要書類のゴミ捨て場だった。


 その横、広場に居たのは最大派閥である水晶老君(すいしょうろうくん)門下生。そして水晶老君と、彼と柑の師である天枢天尊(てんすうてんそん)だった。


「……人の部屋荒らしておいて、どういうおつもりですか天枢師、ついでに水晶老君」

「ついっ」

「柑よ。仙人名を拒み、道士も取らず、ただひたすらに己の実験に明け暮れる者よ。魂魄術を完成させたな?」

「……えぇ。返していただけませんかね?」


 道士たちが道を開く。そこに座らされていたのは着飾られた柚月の姿。舌打ちしたいのを堪え、柑は取り繕う。


「柑よ。魂を作れ」

「……何故?」

「魂と魄、揃って全てを創り出したことに他ならない。魄を創り出せたそなたならば、魂も作り出せるはずだ」


 やってできないわけでは無い。50年も掛かってしまったが柚月は作り上げられた。後はそれに見合う魂を作るだけ。一度創り出せたならば柑にとってそれは酷く簡単な事だった。だが、柚月は自分の器になるべくして作ったモノ。その提案は否。


「……お断りいたします。その子創るのものすごく大変だったのですからね?」

「偽るか……栖玖(さいく)

「こちらに、天枢天尊様」


 呼ばれたのは水晶老君門下の青年、(こう)栖玖。水晶老君と共に柑を敵視している青年は柚月を抱え、無の大穴の淵に立った。


「っ止めっ」

「柑よ。再び問う。魂を完成させよ。さすれば我らは更に神仙の頂に到達する」


 迷う。その瞬間、数名の道士が栖玖と柚月を大穴から引き離した。


「水晶師、天枢天尊様っ確かに柑師は神仙の頂に手をかけていらっしゃる。ですがこんなこと、こんな脅すようなことは間違っているのではないでしょうかっ」


 中心に居るのは枸橘。柑の心が浮かんだ、その瞬間だった。


 赤が、倒れる柚月の頬を濡らす。栖玖の剣は枸橘の心臓を抉った。倒れ伏す枸橘、一緒に抵抗してくれた仲間たちも処断される。


「引っかかったなっこれを機に柑派の仙道を一掃してやるのだっ今頃他の門下生も処刑済みだっ人気だなぁ?柑」


 血に濡れる柚月を、栖玖はもう一度抱える。


「へぇ?柑師と瓜二つだけどこっちのがそそるわ。ま、もう関係ないけど」


 投げ捨てられる柚月の身体。魂を持たなかった彼女は大穴に落ち、消えていった。


「柑よ。お前は魂魄術を解析するのだ」

「それがお前に似合いの立場だぁっ」


 気付かず座り込んでいた柑が、ふらりと立ち上がる。門下生たちは構える、だが、次の瞬間、栖玖の首が飛んだ。何が起きたか判らないまま、栖玖は胴だけで倒れ伏す。そして、柑はその足元に居た枸橘に、触れた。


「……ありがとう……ごめんなさい」


 魂魄術を解析しなければ、彼に恋をしなければ、彼は生き続けられたかもしれない。そんなもしもを言ったとしても、もう、全てが遅いというのに。


 再び立ち上がった柑。瞬きの間に、周囲に居た道士たちの胴が2つに裂けた。赤い花を咲かせながら、柑は水晶老君と天枢天尊に向かう。彼等を守ろうとした者たちは全て、赤く染まる。


「お、おまえは」


 一刀、水晶老君の胴を切裂く。帰す刃で首も落とす。反対側の剣は天枢天尊の胸に突き立て、そこを起点に切り裂いた。


 血の丘に立つ柑。そこへ柑派の道士を処断した仙人とその門下生たちも襲い掛かってくる。全て迎え撃った。無の大穴に入れるという慈悲など持たず、全て赤く染めていった。


 そして翌日。朝日が柑を照らす。仙境には、生きている人間が、仙道が、柑以外誰一人として居なくなってしまった。ふらふらと柑は枸橘の亡骸の傍に座る。泣いていた。追い付いた涙は冷たくなった枸橘に掛かり、泣いていた。


 その一団がやってきたのは5日後の事。その間ずっと枸橘の傍に座って泣いていた柑が見たのは、離れた仙境に住まう妖怪仙人達が乗り込んでくるところ。


「仙境を乗っ取れっ」

「死体を食らうぞっ」


 先陣を切った妖怪仙人達が切り裂かれる。涙に濡れたままだった柑、その刃の切っ先は妖怪仙人達へと向けられた。仙境全員で来たのか、柑が駆逐を終えたのは翌々日の事。全てを終わらせ、追いついた涙がさらに溢れ、枸橘への謝罪を口にしていたところ、柑は天界へと運ばれた。




 図書館に沈黙が落ちる。語り終えた柑は柔らかく、笑った。


「流石に殺した数まで把握していませんでしたから、10万と聞いて驚いている所です」

「……仙境の規模は?」

「大体同等の筈です。つまり約5万の仙道を、5万の妖怪仙人をと言う話ですね」

「そっか」

「ご感想は?」

「特には。枸橘って奴への愛情も、柚月って魄……器って言った方が良いか、その子への情も本物だった。なら怒りに任せて10万は、軽いな」

「……その感想は想定外でした。もっと穢れとかそう言うのに厳しいのかと」

「魔界から定期的に瘴気が噴出している。魔物と一緒にな。そいつら殺してるから俺等今更。ついでに言えば最高神殿は5000年前に魔物と魔族を10万屠った戦歴の持ち主だ」

「……そう、ですか……」

「とは言え、俺の情緒とか感性と言う奴はひねくれているそうでな。他の奴等に聞かれたら怒りに任せて10万とぼやかした方が良いというのはわかる」

「わかってくださって何よりです」


 さてと柑は思案する。本当にこの回答は想定外だったのだ。もっとこう、詰られると思っていたから拍子抜けだった。


「……最低な男とは思いませんか?愛した男の為に10万屠ったと聞けば」

「そうとは思わないけれどもな……思われたいのか?」

「正直、思われたいですね」

「お生憎、情操教育真っ最中だからな、そうは思わないよ」

「そのお年で情操教育って、何をやったのですか?」

「友達の定義を考え出したら知り合いと定義していた奴等全員から友達と思われていた」

「是非情操教育受けてくださいな」


 油断ならないが面白いと思った。とりあえずこの後の事は諸々後で考えよう。今は、なんだか疲れてきていた。


「疲れたろ。部屋用意したからそこで寝てくれ」

「ありがとうございます。寝首を掻かれないようにお気を付けください」

「せいぜい頑張ってほしいもんだな」


 すっとレイエルは柑に手を差し出す。そう言えば、彼の名前は聞いたが自分の名前を名乗っていないことにレイエルは気付いたから。


「遅くなったが、レイエル・ラージレットだ。まぁこれからよろしく、柑」

「……改めて、玲鵬柑です。よろしくお願いいたします」


 こうして、レイエルと柑の同居生活は始まった。



 3日後、魔物の噴出の連絡を受け、レイエルは柑と共に神殿へ立ち入った。レイエルが最高神の間に入っている間、柑は外でレイエルを待つ。


「どうですか、此方での生活は」


 ここに連れてこられた日、端でレイエルを案じていたオレンジ色の青年が横に来る。その時一緒に居た紫の青年も、若草色の青年もこちらを伺っていた。


「フォルエル・レランパゴ。最高神様の補佐官です」

「ティミエル・グロル。同じく補佐官」

「アレクエルです……あ、苗字はありません、フォルエル様の補佐をやっている上級天使です」

「……玲鵬柑です。えぇ、あの書籍群は中々に楽しいですね。今日討伐帰りに特級図書館と言う場所も案内していただけるとか」

「あそこはレイエル様の図書館に入れられないような図書の山ですからねっ」

「アレクエルは前そこの司書天使だったんです」

「そうでしたか……あ、レイエル」


 扉から顔を出したレイエルは居るはずの柑以外にも知り合い、否、友達がいたことに目を瞬かせる。


「あれ、フォルエル、ティミエル、アレクエル。なんでここに」

「様子見にね」

「心配されているみたいですよ無関心さん」

「……悪かったな無関心で」


 揃って演練場に向かい、着替えたのちスパスィエルの武器庫に柑とレイエルは入る。おもむろに武器を眺めると、柑は1本の槍を手に取った。


「何か、巻いて固定できるものありませんか?」

「え、あ、はいっ」

「柑?」


 出された粘着質な面がある布をぐるぐると巻いていく柑。そして巻き終わった槍をレイエルに投げ渡した。


「……すっげ、ピッタリ」

「レイエルにはそれ位の太さの槍が丁度良いですよ」

「凄いですね。レイエルさんと戦ったのあれだけ、デスヨネ??」

「えぇ、あの日だけです。それでも槍の不安定さは見て取れたので。もし出撃が多いようならば専用の槍を作ることも視野に入れた方が良いかもしれませんね」

「検討してみます」

「んじゃ、いってくるっ」

「えぇ、いってらっしゃい」


 ばさりと翼を出し、飛び立ったレイエルを見送った柑。自分の事情を知ってなお何も言わない彼は本当に無関心で、何処か歪なのだ。きっと彼の周りの天使たちもそれには気付いているのだろう。


「柑さん、帰ってくるまで暇でしょうし特級図書館案内しますよ」

「おやそれは僥倖。ありがとうございますフォルエルさん」

「なんか新刊入ったかなぁ……」

「また丸暗記ですか?ティミエルさん」


 そうして柑とフォルエル達はレイエルが帰還するまでの間、特級図書館で本を読むことになる。なおティミエルは本を読むのは苦手だがレイエルより良いと言われた記憶力でその蔵書を丸暗記していた。


 柑の天界での日々は、拍子抜けするほど穏やかだった。








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