027 旅路は続く
ヴァルの町はウェーリア王国の西に存在する中規模都市。その町並みをレイエルとウィータと名乗っている命は並んで歩いていた。
「とりあえず食料品と調理器具なんかは柑さん達が買って?」
「俺達は貸本屋で料理勉強だな」
「東の料理ほとんど知らなかったから。アスディルさんと柑さん居て助かりましたよ」
「家の相棒殿の万能ぶりは留まることを知らないようで何よりだ……アイツ一応西の人間」
「でした」
ドアベルがカランと鳴る。貸本屋で、レイエルは怖ろしい勢いで読み始めた。これには店主も唖然、命も苦笑い。
「凄いね……ご兄弟?」
「はい。お兄ちゃんです。ちょっと緊急で作ることのできる料理の種類を増やさなければならず……」
「旅かい?」
「そうです」
「なら本は借りられないねぇ」
「お兄ちゃん記憶力いいので。私も一度読めば何とかなります」
「それも凄いね。ごゆっくり」
ページをめくる音が静かな貸本屋に響く。変わらない穏やかな時間がここでも存在していた。
その頃、レッドとフィオ、柑、アスディル、栖雅の組は食料買い出しを行っていた。現状最功労者は市場の端で売られていたかなり高値な収納魔法を付随したカバンを見つけた霄狐とそれを翻訳した栖雅、さらにはそのカバンを昨日換金した大金貨をちらつかせ値切って2つ買った柑だった。
「でも本当に凄い……」
「魔道具はフェレシイの魔法工業術の範囲だからね。ウェーリアで見ることが出来るとは思わなかった。そして買うことが出来る人が居るとは思わなかった」
「ふふっ一通り買えましたしレイエルとウィータを待つだけですね」
「あ、いらっしゃいましたわ」
待ち合わせの広場で待機している買い出し班一行にレイエルと命が合流する。その手に予想した質量が無い事をレイエルは疑問に思った。
「……やけに身軽だが??」
「カバン2つ増えただけ」
「フェレシィ王国で作られる魔道具の一種。中に収納魔法が付与されていて有限ではあるモノのかなりの数が収納可能」
「を、見つけて、使えるなと思って報告したら」
「ロトスさんが良い笑顔で2つお買い上げに……」
「把握」
そして夜の便でレイエル達はすぐ隣の村へ移動となる。ウィータとフィオが馬車の幌から顔を出し、空を見上げれば空に輝くのは満天の星空。
「綺麗……」
「塔の上からの星も綺麗でしたが、こちらも綺麗ですわね」
馬車はゆっくりと進み、夜遅く隣の村へ到着する。馬車乗り場は次の便を待つ旅人の宿代わりにもなっていて今日はこの場所で野宿だった。
「……え、美味しいじゃん」
「本当に、読めば理解するという君の能力は驚嘆に値しますね」
「そりゃどうも」
レイエルのご飯を頂き、フィオと命はすぐに眠気に襲われる。そっとアスディルと栖雅が掛布を掛けてやり、後片付けを終えた男性陣は道のりを確認した。
「この道順っすね。了解っす」
「出来ればロッティの町からコッフェの町に出ておきたい。そうすればシェルの町に行って時短になる」
「みたいだな」
「ですが、最優先はフィオ様の安全。その盗賊に襲われた村と言うのも気になります。十分に警戒を」
「おうっ」
「了解っす」
「あぁ」
「お任せ、ってね。じゃあ見張り順」
「レイエル、単騎で行けますね?」
「言うと思った。良いよ」
順番に夜通しの見張りを行う。旅は、始まったばかりだった。
タンッと軽い音が森の中で響き渡る。そしてその音は町が見える頃停止した。
「さ~ってっシュネの為に王族誘惑頑張っちゃおうっかなぁっ」
エクリは伸びをしながら淫魔の服からフェレシイ王国の町娘の服装に変わる。ユクロの原動力がリースイ王女、サイルの信奉先が史真ならばエクリの存在基準はシュネだった。
始まりは暗い森の中。自分がなぜここに居るのかもわからず、泣きそうになっていたところ、現れたのがシュネだった。名前も思い出せなかった自分にエクリという名を付けてくれたのも、淫魔の泉に連れて行ってくれたのもシュネだった。だからエクリはシュネを第一に考え行動する。フェレシイ王国の魔術工業術の力が強いならばそれを弱める術が無いか、シュネの為に出来ることはないか。考えた末に辿り着いたのはフェレシィ王国第3王子が度々町に降り立ち女性を侍らせているという話。これだと思い当たり、王都スフェールへ向かおうとしていた。そんなエクリの横にもう1人淫魔が降りたつ。
「エクリ」
「っと、あれ、サフィロ、一緒に行く?」
「お断り。シュネからエクリ連れ戻してくれって頼まれたのよ。アイツまだ安定しない拠点の維持で動けないから」
「何故に??」
「『エクリちゃんにはエクリちゃんのお仕事があるのでそっちは雑魚に任せておきなさい』だって。ほら帰るわよ」
「サフィロは良いの?あの黒曜の君、ウェーリアで確認されたんでしょう?えっと、出立が4日前だから」
「そろそろロッティの町ね……それもシュネに止められたのよ」
「何故に??」
「『サフィロちゃんの出番はまだ後ですよ』だって」
「なんと言うか、シュネだよねぇ……」
淫魔の服に戻ったエクリは、シュネが言うのならばと戻る準備を整える。そんな律義な彼女に、サフィロは眉をひそめた。
「……エクリ。シュネの立場はかなり危ういわ。サイルの暗殺未遂、2魔の弱体化疑惑、トドメのユクロ誘導疑惑……ねぇ?それでも、貴女はシュネを信じられるの?」
「うん。だって私の世界は誰が来ても一緒。シュネと私しかいないんだもの。シュネが何やったって、シュネが必要だと思ってやったのなら私は歓迎するよ」
「……貴女を殺すと言って来たら?」
「喜んでこの命、シュネに渡すよ」
サイル、ユクロとはまた別の狂信者の言葉にサフィロは深いため息を吐く。どう考えても、重症という奴だった。
「……アンタが良いなら良いわ。ほら帰るわよ」
「はぁい」
2人の淫魔は森に戻っていく。それを見たモノは誰も居なかった。
ロッティの町はウェーリア王国の西部に位置する大都市。そこは人でにぎわっていた。だがその賑わいは大都市というだけでは無かった。その情報は辻馬車乗り場の係員からもたらされる。
「ぇ……コッフェの町が盗賊に?」
「どれくらいの規模の町だ?」
「ヴァルよりは大きいけれどもここよりは小さい」
「……かなりの規模ではあるな……」
「町の皆様は」
「大丈夫だよ。みんな逃げて無事だって。ただ辻馬車の運行も取りやめになっているぐらいだ」
「……じゃあ、多分満杯に近いだろうけれどもシャウリの町に行く辻馬車の券、7人分」
「人数は心配しなくて良い。事態が事態と合って3台編成だそうだ」
「そりゃ豪勢だ」
今日の宿を取り、ヴァルの町の時と同じ部屋割りで入る。レイエルとレッドは再びこの国の地図を広げた。
「シャウリの町がここ。そこからシェルの町に出ることも出来るけれども、ジャグールの町に出るのと時間関係は変わらない。むしろ同じ迂回路を使っている奴等の分時間が取られるかもしれない。なら、ジャグールの町に出た方が人の流れは少なくて済む。被害のあったコッフェの町からも離れられるしね」
「だな……盗賊、多いのか?」
「……レームス半島の国は全て様々な術を国の信仰としている。魔法工学術のフェレシィ王国、薬学術のアレストロ王国……だけれども、この国は10年前、自然魔術と言う信仰を禁止されてしまった。寄る術を無くした国民の心は乱れ、国は乱れ行く一方だ。それこそ、盗賊落ちする村人も増えるだろうさ」
「……術の禁止……確かにヴォルペ商国は交易術と聞いたな……」
「ミニエラ公国が占星術、ディトーラ戦国が戦術、スーフェ商国が商業術、ウェール王国が魔術でアレンシェル自治区が航海術、クォレーン王国が精霊魔術。こんな感じかな」
「流石にお詳しいねぇ?」
「まぁ、動き回る傭兵ですから。そんな俺から見ても、今のウェーリアは危ない……そんな所、フィオ様に見せたくなかったんだけどなぁ……」
地図をなぞりながらレッドは憂う。そんな彼をレイエルは不思議そうに見ていた。
「……お前さ、フィオ様とどこかで会ってるのか?」
「え?」
「いや、そんな感じがした」
「……正真正銘、塔で会った時が初めてだよ。大体ただの傭兵が王家と関りになれると思う?アレストロとフェレシィじゃないんだから」
「どうしたその2か国」
「フェレシィは第3王子が諜報兼ねて市井で遊びまわってるのさ。んで、アレストロは王すら平然と町中を歩く」
「……そりゃ、どちらも仕える身からしたら迷惑な話だな」
「だよね」
アレストロ王国の今の王、藍宝=レヴァンダ・K・アレルイス。あの時は戦時下であった為、町に出ていなかったが平時の今は街に出ているのであろう。それは、とてもあの王にお似合いの姿だなとレイエルは内心で笑った。
「……不穏情報、1個良い?」
「どんな情報だよ」
「9年ぐらい前だったかな。アレストロにフェーヤ帝国からリースイ第2王女を正室にって打診が来てたんだよ」
「それは、ご子息にか?」
「うんにゃ、今年で60になる皇帝ご本人。今居る正室を側室落ちさせてでもって話だったんだけど、当たり前にアレストロは断った。国交も国益もない上にはるか年上の皇帝の正室に第2王女だって出したくないからね。ここまではレームス半島に暮らしている奴ならだれでも知っている話。ここからが不穏情報。アンタ達みたいに帝国から来た傭兵の話で、フェーヤ帝国がレームス半島に戦争吹っ掛けようとしているって」
「……筋は確かなのか?」
「傭兵の情報網の話だし、実際帝国からヴォルペに向かう港が軍港になるって噂も出ていた」
「そりゃ不穏だ……まさかウェーリアの国王陛下、フィオ様を皇帝に差し出して自分だけ生き残るつもりじゃないだろうな?」
「……ない、とは……言い切れないんだよなぁ……なぁ、フィオ様がなんで幽閉されていたか知ってるか?」
「村の奴等は誰も知らなかったしな。俺等も村に来て初めてフィオ様がそこに居ると知ったぐらいだ」
「10年前フィオ様が村に預けられた理由。あそこが元々王室の別荘地だったってのもあるけれども、本当は現王、アレクサンドロス・ホロスコープがフィオのあの薄いピンク色の髪を疎んで王都から遠ざけたんだ」
「あの色を?」
「レームス半島には様々な髪色の人間が存在している。でも少ない髪色って言うのは居る訳だ。他国では多い金髪はここでは珍しい、アンタの薄紫色の髪だって中々お目にかかれないね。解りやすいのはリースイ王女の若草色の髪だ。アレだって滅多に居ない」
「……そうか」
その、若草色を彼方に送り込んでしまったなと思い出すレイエル。今頃何をしているかちょっと心配になってきた。よもや新聞売りをしているなど夢にも思ないだろう。
「んで、フィオ様の薄ピンク色の髪、西の果てにあると言われている国の花でいう所のサクラ色。あの色は珍しいだけじゃなく、ウェーリアの伝承だと凶兆を意味するらしい」
「ふむ……つまり、凶兆を遠ざけていた王がいきなり役目を果たせと言ってフィオ様を呼び戻した。なるほど?皇帝に差し出すという理由にはなりそうだ」
「だろ?でも、多分それには意味はない」
「……だろうな。相当変わり者の皇帝陛下のようだからな……9年前の続きでリースイ王女が目当てならば、そのリースイ王女を手に入れない限り半島がどうなろうが知った事ではないだろう」
「だよね……とにかく王が何の為にフィオ様を王都に呼び寄せたかってのも気になる所」
「まぁその辺は王都に着いてから考えよう」
「それもそうだね」
その日は隣のフィオの部屋を警戒しながらベッドで眠りにつく。レイエルは知らず拳を握りしめていた。やはり皇帝は梓翠を狙って攻めかかるつもりだ。あの最期の梓翠の姿を思い返し、レイエルは天井を仰ぎ見る。眠りは、やけに浅かった。
翌日、一行はシャウリの町への馬車へ乗った。村を経由して3日の旅路。盗賊の警戒も怠らず、1日目の夜を迎えた。
「な、なんだか悪いよぉ……警戒私だけ無しなんて」
「ウィータは何かあった時のフィオ様護衛の最後の砦なんだからゆっくり休む」
「そうそう。それに目覚める前にレイエルが一撃で伸すから心配しなくて良いっすよ」
「そうだろうけれども……」
「……一撃ですか?」
「殺さない程度なら一撃で行けますね」
その日も命とフィオを先に休ませ、アスディルと栖雅、レイエルは先に眠りにつく。柑とレッドだけは灯る焚火の傍で周りの人々の分も警戒に当たっていた。
「なるほど。帝国が攻め寄せる準備を……結構こちらに入って時間が経ちますし、気付きませんでしたよ」
「傭兵仲間でも伝聞で伝わってる程度だし。今の所どの国にも宣戦布告は出されていないはずだ、でも、もしかしたら今この瞬間にも宣戦布告のお手紙が各地に届いているかもしれない」
「……1人のお姫様の為に、半島を滅ぼしてもいい皇帝陛下ですか……何とも、傲慢ですね」
「傭兵仲間の話、現皇帝陛下ドルストロ・フェーヤ・ザルツヴェルが先帝である叔父のユーリイ・フェーヤ・ザルツヴェルを一族郎党処刑した理由は自分が狙っていた男爵家の娘を先に召し抱えられそうになったから。ってのもある」
「……そのお話は実は伺ったことがあるのですが……え、男爵家の娘??結構下の身分の方と言いますか」
「な~に言ってるの。現正室のローナ妃。真偽判らないけど平民どころか孤児で、上の身分の妃が次々死んでいったため繰り上げで正室になったって話だよ?」
「……節操なしというお言葉が人に成ったのならば現皇帝陛下のような方の事を言うのですね」
レイエルが変えたい滅びの未来、おそらくはフェーヤ帝国によるレームス半島の蹂躙だろう。なるほどと柑は納得した。フェーヤ帝国が狙ってくるのはリースイ王女、だからアレストロ王国との交渉を深皇本人がやることにレイエルは異を唱えなかった。ウェーリアの位置から考えてこの国が亡ぶなりなんなりすれば北と南の連携が取りにくくなる、だからウェーリアの情勢の要であるフィオの護衛にレイエル自ら入っている。ならば、レイエルが願った事、本当に助けたい人は誰か。柑ならば、当たりは付けられていた。
「……本当に、手のかかる相棒さんです」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
星空の下、柑とレッドは取り留めのない話で警戒を続ける。その日はとても穏やかな夜だった。
レイエル達がシャウリの町に到着するその頃、アレストロ王国の首都オリクトでは今日も元気に若草色が揺れていた。
「新聞を、1つ良いかね?」
声に、深皇が反応する前に国民が反応する。そこに居たのは、藍色の髪を持つ壮年の男性と同い年ぐらいの琥珀色の髪の女性だった。
「レヴァンダ様、ヴィオーラ様っ」
「うむ。今日も皆元気そうで何よりだ」
「……えっと……僕、つい先日この国に来て間もないんですが」
「国王のレヴァンダ・K・アレルイス様と王妃のヴィオーラ・L・アレルイス様だ」
「……これは失礼を」
「良い。時に新聞売り殿、その我が娘と同じ髪色を見込んで頼みたいことがあるのだが、ちょっと城まで来てもらっても構わないかね?」
「……同行者がいますので、呼んできます」
新聞売り一式を新聞社に預け、楓と、腰の治った店主の手伝いを行っていたティリアを連れ、深皇は城に入った。
「……危うく任務忘れるところだったわ」
「だよね」
「ごめんね、時間かかっちゃって」
「でもこれからどうするの?」
「まぁ、たまには神様っぽい事もしないとね」
そして案内されたのは玉座の間。ざわりと空気が揺れたように感じたのはそこに立っている王女2人の内1人と深皇の髪色が全く同じだから。
「……『我が国の王女と同じ髪色の者が現れたのならば迎え入れろ。それが貴国を救う』……1年前に下りた神託だ。いくつもの神殿で同じ神託が下り、フェレシイにもアレストロの王女の、と神託が下ったという」
「そうでしたか。ですがそれにしては迎え入れられるのが遅かった、と認識しますが。実際10日程前には既に僕の事を認識し、見張りも立てていらっしゃいましたよね?」
「……救うと言うのが何なのかわからなかったからだ」
国王は書簡を大臣に渡す。そうして持ってこられた書簡。ティリアと翻訳魔法を使って読んだ楓はこれかと納得した。それはフェーヤ帝国からの書簡。
『リースイ王女を手に入れるべく貴国を滅ぼす』
そっと書簡を閉じる深皇。破り捨てたい衝動を隠し、そっと笑った。
「……随分、過激な皇帝陛下もいらっしゃったもので」
「あぁ……この書簡、そして神託、いずれもリースイの事を言っている。ならば、救ってくれるのではと」
「そうでしたか……この書簡はこの国だけでしょうか、それとも」
「近隣の国、否、レームス半島すべての国に送りつけられているだろう。もっともフェレシィからの連絡ではリースイの名は出さず、『半島に眠る至宝』とだけ」
「そうですか……えぇ、救いましょう」
「本当か!?」
「僕達は、おそらくその為にここに来ました……リースイ王女様は、そちらの僕と同じ髪色の?」
「あ、あぁ……リースイ・J・アレルイス……本当に、良いのか?」
「えぇ。実はもう1部隊存在していまして。そちらの方がとんでもなく強いので戦力に関しては期待してくださって構いませんよ」
「あら、そうなの?今その方々はどちらに?」
「ウェーリアです。リースイ王女を、アレストロ王国を救うためにまずはウェーリアを救う必要がある。そういう、まぁ神託みたいなものですね。それが下りまして」
「ならば」
「えぇ、あと半月ぐらいかかってしまうかもしれませんが、必ずウェーリアを救って彼らはここに来るでしょう。ご安心を、ものすごく強いので」
「……わかった。滞在先は、城内で構わないか?」
「…………いえ。まぁその、強い一団の、一番強い人に怒られるな~とは思いつつ……もう少し市井で働いておきたいなと」
「構わないが……良いのか?」
「えぇ。あぁ、自己紹介が遅れました。アウィス・プラエタリタ。神託によりこの国を救うために参上いたしました」
そして城を辞す3人。詰問会は新聞社の上に間借りしている部屋で行われた。
「さ~て。どこから聞き出しましょうか……まず、王城滞在を断った理由は?」
「1番は、僕達についている魔族の監視の目を余り王城の中に入れておきたくなかったから。レイエルが来るまで避けたかったからね。2番目は僕自身がちょっとこの生活を気に入っていた点。それにあまり急にウラノ少年にさよならを告げるとウラノ少年の方が大変になっちゃうからね。3番目、最後の理由は……王城滞在に成ると多分ドレス着せられるから噂に名高きコルセットぎゅーとやらが来るけど良いの?」
「「よくない」」
「まぁ、レイエル来るまでこちらで待機していましょうという話です」
「わかった。次、神託って何」
「この国が信仰しているのは薬学術、その薬学の神様を祀る神殿がいくつもあって、そこに最高神の力で神託を下ろしておいただけです。困ったときほど縋りたくなるのが神と言う存在。ならば縋れるように準備しておいてやればそうなるでしょう」
「は~……用意周到。1年前に仕込んでたって事?」
「うん。これぐらいしか僕には出来ないからね」
「十分よ」
「じゃあ、協力も取り付けたし、待機?」
「うん。どうやらあの王様、頻繁に町に出ているみたいだし、何かあればあちらから接触するだろう」
「了解っ」
そして3人は待機する生活に戻る。深皇が新聞売りしている姿を見たらレイエルが如何するかだけが、ティリアと楓の楽しみにすらなっていた。
ペンを置き、バルコニーに出る。結び目を解けば高結していた髪が風になびく。自分の若草色か姉の薄黄緑色、どちらが現れるか判らなかったが本当に自分と同じ髪色が現れるとは思わなかった。それに、自分を救うと言った。
「……まさかな」
いつもの癖でバルコニーから見える屋根を仰ぎ見る。そこにあの色彩は無い。だが、予感だけはしていた。
必ず、レイエル・ラージレットは梓翠=リースイ・J・アレルイスを救いにまたこの場に来る。
根拠のない確信。だが、間違いないと思える。梓翠はその場所を見て、笑った。
「早く来いバカ者……あまり遅いと忘れてしまうぞ……?」
若草の王女は小さく笑うと、バルコニーから部屋に戻っていった。巻き戻ったと認識した0歳の頃から後生大事に抱えていた思い出は、いつだって彼女を支え続けている。
だから梓翠は、この場所で彼を待ち続けていた。
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