025 願いのために
剣が舞う。天界の神殿にある演練場。そこで戦っているのは栖雅と、コラキエルだった。
「でもちょうど良かった。そろそろアスディルさんじゃアイツの特訓相手にならない実力になっちゃったから」
「ふふっそうでしたね」
暢気に柑とリスエル、スパスィエルは栖雅とコラキエルを見守る。着地音に振り返ると引率のアスディルと共に楓とティリア、命が魔物の返り血をたっぷり浴びて帰ってきた。
「もぉぉっ刈り取りはいっそ良いんだけどこの返り血どうにかならないのぉっ」
「同意。とりあえずさっさと泉行こう。栖雅の特訓それから見よう」
「じゃあ、行ってきます」
「おう」
女性陣が泉へ向かい、アスディルはそのまま柑達の方に合流した。打ち合いは続いている。
「最近めっきりコラキエルと特訓しなくなって俺寂しい」
「今のアスじゃコラキエルさんすぐ負けちゃいますよ。栖雅の特訓で丁度良い」
「そりゃそうだろうけどさぁ……でも、まだ半年経ってないのにあの剣慣れて良かったな」
「えぇ。基礎はみっちりやりましたので」
「柑のみっちり怖い」
「だな……コラキエルも順当に実力を付けてきてくれているし、こりゃ俺が総大将の座を譲る日も近いか?」
「リスエル。流石にそれはコラキエルが一番却下食らわせると思うよ」
「でした」
栖雅が天界に来て半年の月日が流れていた。目的の時間まであと4年半。柑はとりあえずコラキエル以上には仕上げるつもりだった。彼の存在はレイエルの願いの為には必須といっていい。ならば邪魔にならないように鍛えるだけだった。
その頃、レイエルは霄狐に乗られながらビアへエルの泉で深皇と会議していた。
『この勢いなら間違いないね。レイエル君が降り立つ時間は魔族が帝国を完全掌握した時、だ』
「そうですか……あと4年半……」
「……ビアへエル、調べてもらった情報、良いか?」
「あぁ。レームス半島の国々の王族一覧ですね。既に」
「王族一覧?」
『まぁ詳しくは言えないが、滅びの定めが始まるのがある王国の崩壊、まずそこから止めなきゃならんという事ですたい』
「……あぁ、コイツだな」
レイエルの指が資料をなぞる。梓翠が絞り出すような声で助けたかったと言ったフィオという王女。それはウェーリア王国の王女、フィオ・ホロスコープ。だが現在位置は王都が国の東側にあるのに対して西側にある大山脈のそばの町だった。
「……途中で、いや、動きが無いならいっそ直接行くか……深皇と女子組はアレストロ王国との協力関係を築いてもらって……あぁでも命の未来視はどっちが……」
『未来視は近くに置いておくのがよろし。命ちゃんは普通の女の子だけれども埒外の未来視の持ち主だ。未来という単語に煌鵲が寄せられる可能性は高い』
「そしたら栖雅を……いや、お前さんの力の触媒だしな」
『ままならぬものですな』
「……アレストロ王国との協力関係を築けばいいんだろう?楓さんとティリアさんだけで大丈夫だよ」
「でも」
「何かあった時は浄化の力をフルパワーでジュっとやっておくからその間に駆け付けてよ。霄狐殿なら察知できますよね?」
『もちろん。何だったらレイエル君だけぶん投げて送り込みも可。やっぱ受取先居ると楽だわ~』
「そりゃ何よりだ」
方針は決まった。ならばあとは準備をするだけ。深皇の執務室に場所を移したレイエルと深皇、霄狐は改めて会議と相成った。
「とりあえず栖雅さんは出来得る限り鍛え上げ、底上げ霄狐殿で実戦投入」
『だね。まぁコラキエル君は超えられるだろうが楓ちゃんを越えられるかどうかは本人次第じゃね』
「仮に楓と同程度になった場合、お前の底上げで何処になる?」
『アスディル君未満、命ちゃん以上じゃね』
「……妥当だな」
「ですね。女性陣はこのまま順当に鍛えて、柑さんの合格基準には達したんですよね?」
「らしい。あのブレスレットをスパスィエルに製作依頼かけてたし」
『……ふむ……あぁでもちょっと興味深い』
「何がだ?」
『色のお話さ。ブレスレットのね』
シャランとレイエルの腕に常に装備されている状態の青色の宝石が嵌まったブレスレットが鳴る。先代が出した武器携帯指示は深皇になっても継続していた。
「……青色?」
『その色を冠する原初の神、居るだろう?』
「……居るねぇ?」
『柑君の赤色も居る。アスディル君の琥珀、あの色は橙色と言って差し支えないね。それに命ちゃんに僕が無意識で用意した緑色。淵鯱は橙色、胡狼は緑色を持ち色にしていたんだよ』
「へぇ……お前さんは?」
『赤紫。ほら衣装に入ってる。ちなみに煌鵲は青紫ね』
「……命さんに緑色を渡したのは偶然、でしょうか」
『解らないね。今ここにアイツ等が居ないから気付けないだけで命ちゃんも胡狼の力を受け取れる存在なのかもしれない。レイエル君も青龍の力を受け取れる存在なのかもしれない。全部、アイツ等が居ない限り解決しない疑問だよ』
「……2柱を残して、原初の神はかなたへと飛び去った……霄狐殿は、この一連の事が終わったあと、どうするのですか?」
残された2柱。しかも片割れは行方知れず。1柱で億年の時を過ごしてきた存在。その後が、深皇はふと気になっていた。
『那由他の果てで起こる正しい滅びを見届けた後、アイツ等に追いつくよ。朱雀の奴が居るけど煌鵲の翼の方が早い。そしてその後は揃ったら決める事だ。もう一度何か世界を作るかもしれない。どこかの果てにある誰かが作った世界を見るかもしれない。それは本当にこの世界の正しい終わりを見届けた後の話さ』
「……正しい終わり、ね」
『それがいつ来るか、正直僕では視えない。それは煌鵲の役割だから。でも、少なくとも僕らは4年半後の滅びを回避しなくてはならない。正しい終わりは那由他のかなたに起こる事だから』
「……だな」
「そうですね……どうします?那由他のかなたで最高神、レイエルがやって居たら」
「その役職だけは断固としてお断りさせていただく」
『断られた~』
「まぁでも、僕に何かあったら次はレイエルなので、そこは頑張ってください」
「おう。ぶん殴ってでも幽界落ちなんてさせないからな」
カラカラと霄狐は笑いながらレイエルと深皇を見る。自分では、過去しか見ることのできない自分ではわからないが、そんな未来がどこかにあるのかもしれない。それはそれで寂しいなと思っていた。なにせ霄狐は今神殿に居る人々の関係性をいたく気に入っていた。一番はレイエルと柑の相棒組だが、次点に来るのはレイエルと深皇の関係。方や上級から特級に上がりそのまま5000年と言う長き年月を生きた天使、方や上級天使から突如格上げが為された最高神。霄狐としても、その関係性は興味深かった。
『とりあえずだ今からアレストロ王国との協力関係を取り付ける練習しておいた方が良いに。そう言うのほとんどやった事無いじゃろうし』
「だな。ヘマすんなよ?」
「4年半という時間があるならばその辺は上手くやります」
そうして、残された穏やかな時間は流れていく。刻限は近付いていた。
魔法界。其処は人間界に似て非なる世界が広がる魔法の世界。空には魔法生物が飛び交い、人々は魔法を日常的に扱う。妖精も存在するその魔法界に存在するのは黒と白に色分けられた城。
「六嘉っ今日のお茶は何にする?」
「そうさなぁ?」
幼かった六陽=アルブス・エクスィプノ、六嘉=ニゲル・エクスィプノも少女から女性に代わる頃合いの年齢に達し始めている。そして今日も階層主の仕事を速やかに終わらせお茶の時間と相成っていた。天界と同じく食事を必要としない魔法界には薬草茶だけだが飲料が存在している。
「……ん?あぁ通信か」
「どちらから?」
「冥界じゃの」
通信画面を立ち上げる六嘉。そこに映るのは史真の魔王就任の際、冥界の階層主として降り立った秋央=カエルム・サマノス。六嘉達は人間界から下の階層にならば通信を開くことが可能だった。
『すまないな六嘉殿』
「構わぬ。何かあったか?」
『……どうやら、幽界と無界にも階層主が現れた模様じゃ』
「あら」
「ほう……香鏡殿に様子を見に行ってもらえれば最良じゃが、我等で通信を繋ぐしか無いな」
『頼めるか?』
「任せてくださいな」
2人は魔力を込める。そうしたのならば通信画面は2つ増えた。それぞれにもそれぞれの画面が開いている筈で、片方は嫌そうに、片方はぼうっとした気配で立っていた。
『……何処の界だ?』
「魔法界が我等、そして冥界がそちらの無駄に元気な御仁じゃな」
『ひどい』
『……幽界階層主、忘斗=ハオス・トリスティスだ』
『……無界階層主、秦淵=ロディア・ソムニウム……階層主、という存在になったのは理解、したが……やることが無い』
「それは中々に羨ましいな。そうか、だが無界には何もなかったか」
『あぁ……』
『はっ羨ましい限りだぜ。こっちはこのごっちゃごちゃなのを片付けなきゃいけないと思うと憂鬱だぜ』
『まぁ、冥界に降りた時わしも思ったから仕方ない』
「……これで全階層に階層主が現れた、ないし就任したという事になるか」
「そうね……見通せない未来の事も気がかりだし……史真様通信にお出になるかしら」
「どうせあのサボりの魔王殿は逃げ出している頃だろうよ」
通信画面が1つ開く。案の定どこかに逃亡しようとしている史真が映り、開いたことに気付いた史真は冷静にバルコニーに戻り、何ごともなかったかのように開いた画面を見た。
『……何事だ?六嘉、六陽、秋央……と?』
「新たな階層主じゃな」
『そうか』
『史真よ。あまりサボるとシンザがキレるぞ?』
『……もうキレられている』
「あらあら」
『魔界階層主、史真=アルト・エーラだ』
『幽界階層主、忘斗=ハオス・トリスティスだ』
『無界階層主の、秦淵=ロディア・ソムニウムです……何もない、無界とは違い仕事があるならば、やったほうがよろしいかと』
『……わかってはいる』
「香鏡様、天上界の階層主のお言葉では最高神の頃から書類作業が苦手とか」
『……香鏡め……』
「はっ仕事などさっさと終わらせればこうして優雅に茶会を開けるというモノだ」
『……何も言えない』
表情変わらず撃沈した魔王に他階層主は笑う。忘斗と六嘉が一番笑っているのは言うまでもない。
「そうそう。史真様にお繋ぎしたのは例の見通せない未来の事。この時期に階層主が揃うという事にも何か意味があるのかしら?」
『……可能性はあるだろうな。あと4年半が見えなくなる時期。その頃に我等魔界の侵攻は準備を整え、フェーヤ帝国と共にレームス半島へ進軍することとなる』
「では、あの薄紫のはレームス半島側に?」
『だろうな。魔族はあの半島に取りつけもしなかった。一応の拠点が確保できそうなめどがようやく立った程度。介入の為、我らはフェーヤ帝国側を傀儡にするしかなく結果劣勢のレームス半島にレイエルが付きやすくなったのは事実だな』
「……一体、何が起きるのかしら」
『わからない、と言うのが我等に出せる回答だな。ただ、レイエルとその一派は魔族と戦うことになる、それだけは確かな事実だな』
「違いない」
魔法界と冥界の間でも見通せない4年半の先は不安材料だった。何が起きるか判らないことほど恐怖は無いと六陽はこの数年間で痛感している。
『……すまない、そろそろ視線が痛い』
「あぁ。いらっしゃるのねシンザさん」
「では、忘斗殿と秦淵殿は階層主発生の気配を察知した香鏡殿が降りて……行けるのか?」
『降りない方が無難じゃろうな。うむ、一度開いたのならばわしの力でも回線は開ける。相談事ならばわしが承ろう』
『……正直助かる』
『助かり、ます』
「では、魔王殿、仕事を熟すように」
『煩い』
通信画面が切られる。六嘉が引くほど大笑いしたのを知っているのは六陽だけだった。
一方、通信を切られた史真はそっと途中から入ってきていたシンザとサイルを見た。勿論シンザの感情は怒り。
「階層主からの通信だったのでしょう?お席で受けたのならばよろしかったのに」
「……そうだな……」
「史真様……」
「で?用件は……1つだな」
「えぇ、淫魔主力組総出でユクロを説得いたしました。ですがリースイ王女への信仰を辞めることはないと断言し、史真様以外で自分に勝てたのならば辞めてやってもいいと言う始末」
「……シュネならば……あぁ」
「えぇ。シュネは現在レームス半島にようやく根付かせることに成功した魔界の木を中心にレームス半島側の拠点づくりの真っ最中。アレに今離れられますと魔界の木は枯れかねない」
「……この際信仰は構わない」
「……その信仰心が故に裏切られると痛い、ということですね……」
「特にユクロは実力者、ユクロと薄紫の君が同時に攻めて来たら魔王様だって危ない」
「だよな……」
サイルはユクロを思う。気持ちはわかるのだ。何せ自分も史真への一種の信仰心で魔界に降りてきた身。信仰は辞めることができるモノではなく、もし半島と対戦となった時にリースイに何かあれば、ユクロがどちらに付くかは目に見えていた。
「ひとまず、ギリギリまで説得とする」
「承知いたしました」
「説得頑張ってみますっ」
「頼もう」
「……で?史真様。お仕事は」
「……今やろう」
「や~っぱり逃げ出そうとしていらっしゃいましたね??」
長い長いお説教が始まる。約15年という短い時間の中でも、それは魔界の日常と化していた。
栖雅が天界に来てから間もなく5年。期限が近付いていた。
「じゃあ、そのフィオってお姫様が町を出ることになるその少し前に降り立つ感じで良いのか」
「うん。そこまでは視えた。そこから先は全く視えないんだけれども……」
「いや、タイミングが分かるだけ助かる」
微調整を命の未来視で行い、準備を重ねていく。武器、下準備、そして女性陣には難題が存在していた。
「……むり、こるせっと、むり」
「ティリアは東の人なんだから行けるでしょ?!」
「泉に隠れ住んで残り男装していた奴に何を言うかぁっ」
「まぁまぁ……わたしもつらい」
『こればっかりはなぁ……』
「何言ってんだよ。そんなに締めてないだろ?」
「…………アスディル??結構きつめに行ってるんだけど??」
「貴族令嬢なんてもっと締めてる。シルエットが全然違うもん」
「……まじかー……」
「う~ん……どう思う?霄狐」
『正直、アレストロ王国との協力関係を築く必要のある楓ちゃんとティリアちゃんはそのコルセットめっちゃぎゅーを覚悟する必要があると思う。何せ王城中枢部に入り込まなければならないのだからね』
「だよね……」
「……がんばる」
「おなじく」
「まけない」
「頑張るっすよ皆っ」
女性陣がコルセットという文明に翻弄される中、レイエルは柑とスパスィエルの武器庫の屋根の上に居た。
「とうとう、という感じですね。面白いですよね、レイと出会って、まだ30年しか経っていないというのに」
「だな……お前との出会いが、ほとんど俺にとっての始まりだったからな」
「そうですか……」
すっと、柑はレイエルの背に手をかざす。そこに初めて出会った時にたなびいた髪は無い。10年しか見ていなかったのに20年で既に懐かしくなっていた。
「レイ。幽界落ちしたらぶん殴ってでも魂分捕りに行くのでご安心を」
「家の相棒殿は物騒だねぇ……まぁ、冥界で同じく、だな」
「僕ら落ちるの冥界なのでしょうか?」
「どっちでも迎えに行ってやるよ」
「それは、光栄ですね」
相棒同士は栖雅が呼びに来るまで、とりとめのない会話を重ね、わずかに残った平穏な時間をかみしめていた。
魔王城。その魔王の謁見の間に彼は立っていた。
「……1度目の問いだ、ユクロ。リースイ・J・アレルイスへの信仰を辞めろ。確かに信仰との両立はお前ならばできるのだろう。だが万が一、リースイに何かあった場合、お前という最高戦力がどう動くか分からないと言うのは我々にとって致命的でしかない」
はらはらと淫魔主力組も端で見守る。本当に、これが最後の問い。だが、ユクロは笑っていた。
「えぇ、もちろん僕は貴方への忠誠も持ち合わせています。ですがそれと同等にリースイ様への信仰も持ち合わせている。そうですね、対戦の最中にリースイ様に何かあった場合、自分でも何をするか判らないと言うのが本音ですね。ですが、信仰を辞める気は全くありません」
「……ここで処断、幽界に落ちることになると言ってもか?」
「戦力の大幅な減少はやむなしでしょうがね。それもまた致し方ありませんよ」
かたりと史真は立ち上がり、ユクロの傍に立つ。彼が魔界でおそらく一番の実力者であることは事実。柑に宛がいたい気持ちはあるが、それを彼女への信仰心が邪魔していた。
「……2度目の問いだ。リースイ・J・アレルイスへの信仰を辞めろ。戦力の大幅な減少は否定しない。だがそれでも不確定要素は排除するのが私の務めだ」
「えぇ、そうでしょうとも。僕が貴方であってもそうします。というかこんな問いせずにさっさとやっちゃいますね僕ならば。2度目、答えましょう。信仰を辞める気は、全くありません」
少しだけ、史真の表情が動いたように見えた。だがそれは瞬く間に霧散し、彼は佩いていた剣を黒壇の鞘から抜き放った。本当に、これは最期の問い。だが、答えは視えている。それでも、問わねばならなかった。
「最期の問いだ。リースイ・J・アレルイスへの信仰を辞めろ。辞めない場合、反逆とみなし、今この場にて幽界送りと成す。答えは如何に」
「えぇ、最期の答えを申し上げましょう。お断りいたします。リースイ様への信仰心を胸に、僕は幽界からリースイ様、とついでなので皆さんの健闘を祈っていますよ」
「……答えは、変わらないな?」
「えぇ。その美しい剣の露と消えるならば本望というモノです」
「……ユクロ、反逆の意志有りとみなし、ここに処断する」
水晶の剣が、赤く染まる。斬られたユクロは遠のく意識の中、史真を見ていた。自分しか見えていないのかもしれない、周りに居る淫魔主力組も見えているのかもしれない。目の前の、魔界の階層主で表情を忘れたと言われているお方は、辛そうな顔をしていた。辛いならば自分でやらずにシンザかサイル辺りにやらせればいいのに、律義な人だとユクロは思う。魔王には似つかわしくない程、先代魔王と同じ善性の人だと、最期にユクロは思った。
光の粒となり、ユクロは消える。その粒を最後まで見守っていた史真。長い髪のお陰で表情は見えない。最後の粒が幽界に誘われると、史真は顔を上げた。その表情は、元の無表情。
「シンザ、サイル、アマダス、ロジエ、カメルシィ。シュネと合流し、レームス半島の拠点から魔族の軍勢に指示を出せ。帝国には兵を集めさせ、出兵の準備に入らせる。どれぐらいで集まる?」
「そうですね……半年はかからない程度かと」
「それで良い。では、準備に取り掛かれ」
「「「「「御意に」」」」」
魔族の軍勢、完全に淫魔の軍勢となっている彼等彼女等は史真の指示に従い動く。変わらず謁見の間で佇んでいることに気付いたのは、班長組となった5人に付いて行っていたエクリだけだった。
天界の最高神の間。そこではレイエルが集めた仲間たちが集結していた。6人も集まった。正直4人が限度だと思っていたのに。30年間の努力はこれから報われに行くのだ。
「……何度も言っているが、俺には願いがある。絶対叶えなきゃいけない願いで、栖雅の時聞いての通り、もう口に出せなくなった願いだ。でも、その願いの為に俺はレームス半島の滅びの運命を変えなきゃならない。それが、俺の願いに繋がる事だから。だから、力を貸してほしい」
「えぇ。その為に、ここまで来ましたから」
「もちろんっ」
「任せなさいな」
「うんっ」
「頑張ろうねっ」
「俺も微力ながら手伝うっすよ」
「うん。もちろん僕もね」
『ま、僕は当然ってね』
仲間たち、そして最高神と原初の神の言葉が身に染みる。30年前の自分に言っても信じないだろう。こんなにも頼れる仲間ができたのだから。
「俺とアス、栖雅、柑、命、霄狐はウェーリア王国を救う。正直何が起きてあの国が滅びるのか、わからないと言うのが俺の感想だが、それでもあの国の滅亡がレームス半島の滅びの運命の始まりであることは間違いない」
「僕と楓さん、ティリアさんはレームス半島の要であるアレストロ王国との協力関係を築くためにアレストロ王国に直接向かいます。とは言え仕込みはしてあるので、安心してね」
「何した深皇」
「神様っぽいこと、かな?」
「……まぁ良い。以上だ。質問は?」
「無いっ」
「以降出たとこ勝負って感じね。任せなさいっ」
「こっちは任せておいてね」
「うん、こっちも。まぁレイエルさん改めお兄ちゃんが居るので大丈夫だろうけれども」
「兄妹設定?」
「野郎だらけの中に命1人居てもおかしくないようにな」
「必要だったわね」
「……うん。では」
『行きましょうかね』
最高神が地上への門を開く。8人と1匹は、ふわりと浮いて、最高神の間から消えた。
カタンとペンを置く。その若草色の髪が開けてあった窓からの風で揺れる。窓を閉めようとバルコニーに足を運び、つい上を見てしまう。そこにあの色彩は無いというのに。
「……まもなく、18か……」
そして、全ては半島で動き出す。
面白そうだと思ったら評価・ブクマお願いします
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