024 本当の事を知りたい
水晶老君門下、高栖玖は一番弟子として名を馳せていた。仙境で最高勢力である水晶老君の傘下で100年近く研鑽を重ね、若くしてその長命の領域に到達していた。
彼の仙道としての道は順調だった。あの日までは。
数多の風化すらしている亡骸の先、おそらく道々にある居住区の中にもいくつか骨になった道士たちが居るのだろう。あの日、柑を庇い処断された道士たち。そんな道のりを抜けた先、水晶老君の居住区の前に黒髪の青年は立っていた。
「……栖玖。随分とまぁ、お元気そうで何よりです」
「柑師こそ。お元気そうで何よりだ」
和やかに会話する2人。その間には険悪という空気が流れている。そっとそんな相棒にレイエルは声をかけた。
「……絡繰りわかるか?柑」
「天青公主、ですね。あの女しか考えられません」
「死人を操るとか」
「生き返らせるとか?」
「……まぁ、大体両方の要素を混ぜた感じで」
改めて栖玖を見る柑。間違いなく首には斬った痕が残っている。あの日斬り捨てた栖玖を後生大事にとっておき、まるで生きているように動かしている存在に、柑は心当たりがあった。
「出てきなさい、天青公主。貴女がその男をお気に召していたことぐらい解り切っている事ですよ」
「……それはそうであったの」
優雅な衣装を身に纏った女性が現れる。その背には6本の尾を背負っている。名前と同じ青の衣装を揺らし、彼女は栖玖にしな垂れかかった。
「ほんに懐かしいなぁ?玲鵬柑」
「えぇ、1000年前に3尾落とした時と、そこの栖玖と逢引きしたのを見破った時以来ですか?どっちが先でしたか」
「貴殿に尾を断たれたのが先じゃ……栖玖はまだ100年しか生きていないというのに」
「20で仙境に入り、早々に長命の領域に到達。80年をかけて最大派閥の一番弟子になった。まぁ順当に行けば500年で仙人となり弟子を取る領域に達していたでしょうね」
「そうじゃろう?」
「まぁ、100年で仙人に成り、3000年生きたのが此処に居ますから、別段快挙でもありませんがね」
あまりに自信満々に言われてレイエル達は呆気にとられた。天才肌だと思っていたが仙境に居た時からこうだったのかと。そんな柑の姿に天青公主は苦々しく言葉を吐き出した。
「……そう言う所が他の仙人に嫌われる所じゃろう」
「別に嫌われても痛くもかゆくもありませんよ。もう居ませんし」
「公主」
「っと、そうじゃった。何用か?柑よ」
「今の皇帝に呪いを掛けましたね?」
「仕方あるまい。逃げる際、何かしら呪いでも掛けねばならなかったからな」
「それを解かせに来ました。いえ、こう言い変えましょう……さっさと解け」
「断る、と、申したのならば?」
「栖玖と共に冥界へ送って差し上げますよ。あぁでも天青公主は妖怪ですから、落ちるのは幽界でしょうか。まぁ、興味はありませんが」
「っ栖玖」
「一手、御指南いただけますか?柑師」
「……お断りいたします」
ポンっと、柑は栖雅の肩を叩く。叩かれた方は慌てた。
「貴方のご兄弟の曾孫がお相手仕ります」
「えっ!?」
「……栖樹の、息子か?」
「高栖樹なら、俺の親父です……」
「道士くずれに何ができる?」
「……霄狐さん」
『なんかに?』
とんっと狐が現れる。霄狐の姿を見ていなかった栖雅だけが突然の来訪者に慌てた。
「貴方の力を使いこなせる逸材、そう言う触れ込みでしたね?」
『なるほど。実際に見たいと。いいよ~』
「良いのかよ」
「栖雅さん、あの狐が補佐に入ります。栖玖を倒したのならば、道士とは違う、長命の者になるよう援護して差し上げますよ」
「えっ」
「……柑、また省略して上げるなよ?」
「今説明している場合じゃないだけで、きちんと説明してから上に上げますよ」
「左様か。で、天青公主とやらは?」
「……命瑛、行きますか?」
「え、あ、はいっ」
栖雅と命が得物を構える。栖玖と天青公主もまた戦闘態勢に入る。
「はぁぁっ」
「っ」
剣が撃ち合う。初めての得物でおそらく初めての対人戦であろう栖雅はそれでもなおその斬撃を持ちこたえさせていた。
「……思ったより良い動きしますね。鍛えがいが有りそうだ」
「そりゃよかった。命瑛も……大丈夫そうだな」
危なげなく剣を振るう栖雅に対して命は事前に出し方を習っていた武器収納の魔道具から持ってきていた太刀を取り出し天青公主と戦っていた。もちろん天青公主は武器ではなく術で戦っている。その術を避け、この5年で柑に叩き込まれた魔術を駆使して縦横無尽に戦っていた。
「っ」
「たかが道士くずれに何ができる。栖樹もそうだった。ただ書物を読んだだけでこの領域に達することなど100万回生まれ変わっても不可能だというのに」
「それに関しては俺も同意するっすけどねぇっ改めて言われると腹が立つんっすよっっ」
ギンっと強く打ち込む栖雅。だが栖玖は笑い、反対の手に力を溜めた。
「『水宴陣』」
水が舞い、栖雅が吹き飛ばされる。だがとっさに防御壁を張り、直撃は免れ、体勢も足場固定の魔法陣によって保たれた。
「……武器は正直初心者なんでねっ術で良いなら大歓迎っすよっっ」
「『爆流符』」
「っ『土溜弾』っっ」
激流に土の弾がぶつかる。五行相剋、土は水を濁らせる。水の威力は衰え、栖玖は忌々し気に栖雅を見た。栖玖の属性は水。属性が火の柑ならば勝ち目があったモノのと忌々し気に後ろで優雅に見物している柑を見た。
「公主、君の力を貸してくれるかい?」
「うむ、我が栖玖よ。幾らでも貸そう」
ふわりと栖玖を光が包む。そして口端を上げ、その属性を使った。
「『木破斬』」
天青公主は他人に己の属性を与えることができる。彼女の属性は木。木は土に根を張る。その斬撃を避ける前に、栖雅は、笑った。
「『金鋼壁』」
金属属性の壁が栖雅を守る。これには見守っていた柑も目を見張る。間合いを取った栖雅は遠い親戚にあたる道士を見た。
「言い忘れたっすけどね、アンタが道士になれた関係かどうかは判らないんっすけど、祖父ちゃんも、親父も、そして俺も、1人1つしか持ちえない五行の力、全部この身に宿してるんっすよ」
なるほどとレイエルは感心した。柑の道術説明会は同じ馬車の中で行われているので聞こえていた。その中で他ならぬ柑が1人の人間が複数の属性を持つことは高位の仙人になるほど修行を重ねない限りほとんど無い、あって3属性が上限だと断言していたのを覚えている。それが5つ全て、確かに異端でもあり、霄狐という存在の力の媒体になるだろうと思案した。
『……ね~コレ僕要る??』
「大人しく出番待ちしてろ」
「えぇ。それにそろそろ」
栖玖と栖雅の術対決は一進一退だった。天青公主の力を使い2つの属性を操るが栖雅は同じく2つの属性を使い分ける。もちろん、その行為に慣れているのはどちらかと言えば栖雅だった。
「っなんだったかが道士くずれに何ができるっ」
「色々出来るんっすよっ」
剣も振るい、栖玖に迫る栖雅。そこに防御壁が貼られた。命の猛攻をかいくぐり、天青公主は栖玖の元に舞い降りた。
「栖玖、あぁ何故そなたを連れて逃げられないのか」
「公主……?」
「……天青公主の蘇生術は死した場所から向かう事の出来る範囲が決まっています。おそらくこの場所が、大穴から直線距離でギリギリ、という所でしょうか」
「っ……玲鵬柑……」
ゴロンと、彼の首が落ちた。思わず命は小さく悲鳴を上げる。栖玖の首は、25年前、柑が切り落としたその通りに戻り、天青公主の足元に転がった。
「……時に令史。天青公主が浮かぶ島の仙境で5番手ぐらいの実力の保持者って言いましたっけ?」
「聞いてねぇなぁ……」
「ついでに蘇生術使用中はそちらに力を割くから実力5割減と言うのも言いましたっけ?」
「聞いてねぇなぁ……」
柑の言った通り、天青公主の力は跳ね上がる。栖雅と命は剣と刀を握りしめる。そこへ命の肩に霄狐が乗った。
『栖雅君、僕が支援を入れる。思う存分術ぶっぱなしちゃって』
「……了解っす」
『がんがれ~』
「……土台はお兄ちゃんの特権では?」
「おい命瑛」
『まぁ、観戦組に回りなさいというお話ですよ』
送り出された栖雅は天青公主が敷いた木の根の術を避けながら術を使おうとする。だが、その異変はすぐに起きた。
「『金零斬』っってぇぇぇ!?」
それは斬撃を発生させるだけの術。だがその術は周りにあった木の根を一掃、天青公主の目前まで迫った。
「っ」
「……今のが支援??」
『そう言う事だね。ついでに五行的には金属性が木属性には有効だ。でも、柑君が天青公主をぼっこぼこにしたのは火属性……木属性って言うのはね相生の関係性でもあるけれども、ようは、火で燃えるんだよ』
「……了解っすっ」
天青公主の周りに火が灯る。その火は舞い、火柱となった。
「『火央柱』」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ」
尾が燃える。その尾が2本迄減ったところで彼女は女性という形を保てなくなった。そこに横たわるのはただの狐。術の流れを確認して居た柑は栖雅に合図を送り、栖雅は残り2本の尾も断った。ざらざらと天青公主だった存在、そして栖玖が骨になっていく。そして1人と1匹の骨が、仙境に転がることになる。
「……さて……術も解けた事ですし」
キンッと、剣と槍が撃ち合わさる。何が起きたか判らない命と栖雅は霄狐の小さな手で端に寄せられ、柑とレイエルは戦場を広くとることになった。
「……まぁ、そろそろだとは思っていたぜ?」
「えぇ……そろそろ、君が隠している事、吐かせる頃合いかと思いましてね」
「悪いが、願いに関しては別として、隠している方は幽界の果てまで持っていくつもりでな」
「幽界から魂分捕ってでも吐かせてやりますよ」
「とんだ過激な奴を相棒にしたもんだな俺も」
「えぇ。ご存じなかったのですか?」
「存じ上げていたよっ」
剣と槍が撃ち合う。アレはやらせておいた方が良いという判断をした霄狐は命と栖雅を邪魔にならない場所に座らせた。もちろん流れ弾を防ぐために防御障壁の中に入れている。
「えっと……?」
『柑君も色々ご不満が溜まっていたという話です。で、栖雅君。柑君が道士とは違う長命の者になる援護をすると言ったのを覚えているかね?』
「あ、はい。それって命瑛が片足突っ込んでいる長命の者と関りが?」
『うん。人間界って言うのはね、概念的に2つの世界に挟まれているんだ。1つは魔界、魔物と魔族が暮らし、魔王殿が統べる世界。もう1つは天界。天使と呼ばれる聖なるものが暮らし、最高神が統べる世界。命瑛ちゃん、命ちゃんは其処から来ているんだ』
「改めて、柊命。偽名で、実はあそこでなんか笑って戦ってるのはお兄ちゃんではないんですよ実は」
『ちなみに改めまして。ピソ=霄狐。その最高神を作り世界を作った原初の神です』
「ぇ……」
『んで、柑君は本名で経歴も一緒。25年前の殲滅事件の時に当時の最高神殿によって天界に招かれて以降天界暮らし。命ちゃんは5年前にちょっと重要な役割を担ってもらうために了承を得て天界に上がって貰った』
「……じゃあ、長命の者になるってのは」
『そう、天界に行くって事。一度立ち入れば天界の住人の規則が適用される。食事の要らない身体になり、長命の者になる』
「まぁ……ご存じの通り町じゃあんな扱いだったし、道士狩りでそのままってなっても問題無いんで来いと言われたら行くっすけど……なんで俺を?」
『まず、天界側が術的に異端な存在を探していたから。命ちゃん達に比べてぶっちゃけ栖雅君の五行フル活用は細やかだから見つけられなかったのも仕方ない』
「ささやか」
「細やかなの?」
『魔法界とか行けば属性魔法5つ持ちとかたまに居るお。まぁ結構レアではある』
「そうなんだ……」
だが霄狐にとってその細やかな、だが確かな異端は僥倖だった。霄狐の計算では己の力を使えるという異端をもってしても絶妙に天界の質量は戻らないところだった。そこへ五行の全部乗せという異端が入ったのならば完全に天界の質量は元に戻るだろう。バランスを重視する霄狐にとってそんな幸運は無かった。
『で、もう1つの理由、それは僕にある』
「霄狐さんに、っすか?」
『うん、本当ならばさっきの天青公主に負けず劣らずの美人さんを自負しているんじゃが』
「えっ女の人なんですか?」
「……俺も驚いたっす」
『ひどい。まぁそんな美人さんなんじゃが、とあるとんでもない術を行使した関係で魂が3つにわかれちゃっているのです。んで、ちょっと5年後、今あそこでドンパチやってる方々が揉めてる理由の一部が開示されるんですが、その時に僕は3つから1つへ戻らなければならない。そこで必要なのは何か。3つの魂を纏められる糊に当たる人物。それが栖雅君なんですよ』
「……俺が?」
「あの……栖雅君を前にしてこんな事聞きたくないんですけれども……その、1つへ戻る時、栖雅君の魂を使っちゃう……なんてことにはなりませんよね??」
『あ~その危惧は当然か。ごめんごめん。大丈夫、糊の条件は僕の力を受け取ることができる事。3つを受け渡して栖雅君にぎゅってしてもらってそのままぽ~んする感じで』
「良かったです」
「……じゃあ、俺は5年後とやらに確実に同行しなきゃならなくて……あそこでドンパチ繰り広げている方々に付いて行かなきゃならない……って事っすね……」
『……うん、まぁそう。5年で柑君ビシバシやってくれるはずだし、筋は悪くなかったから行ける行ける』
霄狐たちの視界の中、柑とレイエルは偶に居住区の壁を壊しながら戦い続けていた。あながちいつかのアスディルが言った本気で戦えば神殿更地になると言うのは間違いではないだろう。
「楽しそうで何よりだなぁっ柑っ」
「久しぶりにこんなに全力で戦えるとは思いませんでしたよレイっ」
槍と剣は舞う。あまりの高次元の戦いに、栖雅どころか命と霄狐も現実逃避を始めた。
「……どうやって止めるんですか?アレ」
『正直、どうしよう』
「何とかしてくださいっすよ」
『ん~……背に腹は代えられないか……僕が止めよう。そろそろ破壊行為も止めないとね』
「わぁ更地」
「凄いっすね……」
トンっと、霄狐が間合いを取った2人の間に入る。瞬きの間、そこに現れるのは白銀の髪に赤い瞳、そして白と赤紫の衣装を身に纏い、杖を持った女性に変化する。
「っと、その姿」
『仮。2人止めたら戻るけどね。栖雅君入手したおかげでちょびっと力戻ったなり』
「……止める、と?」
『あぁ……レイエル君、僕の観点から1個だけ君の秘密を彼に開示しても?』
「……物によるが……まぁ良いだろう。ダメなら斬る」
『ひどい。柑君、僕の権能、なんだかご存じだろう?』
「過去、と。煌鵲と対の存在であり、過去を主る存在と」
『そう、僕は過去を操ることができる。故に、術的の禁忌、時渡りを発生させることができるんだ』
「時渡り?」
「簡単に言えば、過去への時間巻き戻し」
「……じゃあ」
『そう、レイエル君は僕が行った時渡りに、一度巻き込まれている。だが彼が辿った過去は柑君たちが体験した過去とは全くの別物だ。レイエル君は全く新しい未来を歩いていることになるね……口を噤んだ理由、柑君なら判るかな?』
霄狐の問いに柑は考える。レイエルが口を閉ざした理由。ふと、思い当たった。
「……レイが最初に辿った時間に起きたことを証明する手立てはない」
『はなまる。そして、全くの別物の未来、別物過ぎてレイエル君が予知できるものは何もない。ただ1つ、5年後に控えているレイエル君の願いの事以外は』
「……アスとの出会い、先々代殿の失脚、清晃さんの幽界落ち、深皇さんの即位、命たちとの出会い……もしかして、僕との出会いすら?」
『あぁ。一度目の歴史でレイエル君は辿っていない。というかレイエル君、一度目の歴史だと現ご友人天使の皆様全員知り合いのままだったからね??』
「……まぁ、事実。戻って、仲間を手に入れようと言ったら」
『その前にご友人作った方が良いよと僕が言った』
「…………なるほど。なんとなくですが全体像を理解出来ました。つまり、あと5年後の未来から25年前に戻されて、レイはその5年後の未来の為に仲間を欲した。そう言う解釈で?」
『う~ん。理解力の早さ。流石柑君』
「だな。あぁ、間違いない。1つだけ俺から喋るとすれば……その5年後の、俺が絶対に変えたい未来のその瞬間を見守っていたのは先々代殿と中枢組全員だったよ」
「……そうですか……」
『納得した?』
「えぇ」
剣がブレスレットに納められる。レイエルも槍をブレスレットに納め、だが2人同時に座り込んだ。慌てた命と栖雅が近寄る中、その間に居た霄狐は白銀の女神から同じ毛並みの狐へと戻っていた。
『ほれみろ天青公主なんか目じゃ無かろう??』
「び、ビックリしました」
「同意っす……」
「わるい……疲れた」
「もう手っ取り早く上げてもらってマナの実で回復した方が早いですよコレ」
「だな。栖雅、天界行き大丈夫だって?」
「霄狐さんがざっくり説明してくれたんで」
「大丈夫っす」
『という訳で深皇殿~上げてくれや~』
ふわりと5人と1匹は浮く。そして仙境は25年間の元通り、音もない場所へと戻っていった。
天界に上げられた栖雅は困惑していた。東の意匠が多い最高神の間。その端で、レイエルと柑が黒髪の少年に説教を受けているのだから。そばに居る黒髪の女性と茶髪の女性も苦笑い。命も苦笑い。玉座の上の若草色の髪の青年だけが慌てていた。
「お前な、そりゃレイの事情知りたいと思う頃合いだけどいきなりドンパチやらかすとはどういう事だ」
「だってそれが手っ取り早いから」
「……で、レイ。なんで普通に受けた」
「だってそれが礼儀かなと」
「こんっの脳筋コンビがぁぁっ」
黒髪の女性が気を利かせ、栖雅を若草色の髪の青年の元に連れていく。霄狐は栖雅の頭の上に存在していた。
『深皇殿、これが例の青年』
「こ、高栖雅です」
「深皇=アウィス・プラエタリタだ。一応この天界を統べる最高神って奴です」
「よ、よろしくお願いしますっ」
「かしこまらなくて良いよ。これから5年掛けてレイエルの仲間になるのだから」
『あ、本名教えるの忘れたった。令史君改め、レイエル・ラージレット。正真正銘の天使。なお6000歳』
「ろくせん」
「で、現在特訓中の仲間候補、白雪楓よ」
「ティリア・リーベルトだよっ」
「で、あそこでお説教中なのが柑に次いで古参のレイエルの仲間、アスディル・ファーレット」
「深皇様、お部屋、図書館ですか?」
「空き部屋作って居たものね」
「うん。とりあえず程々にさせるから、3人で栖雅さんの案内を。霄狐殿は残って」
『は~い』
栖雅は3人娘に連れられ神殿を後にする。説教続くアスディルを見守った深皇は自分と霄狐の周りに遮音結界を貼った。
「……柑さんに語ったことは、事実ですか?」
『事実。だが追記するならば僕は他階層と人間界の時間をズラした。君達にとって1年戻るのが人間界で丁度30年だっただけの話だよ』
「それなら、先々代殿が見ていたというのは納得です……そうか、だから3つに……よく3つで済みましたね」
『それは僕も、知っているレイエル君も思ってる所。意外とすんなり』
「では、5年後に」
『あぁ。僕が介入する、特大の災厄がレームス半島に降りかかる。その滅びの運命を変えることが、レイエル君の願いに繋がる。でもその願いはもう誰にも言えない、時渡りの果てに置てきてしまったから』
「……それも、寂しいですね」
『それを覚悟で戻ったんだ。レイエル君はある意味強いよ』
「ですね……さて、止めますか」
『じゃね』
遮音結界を解除し、霄狐と深皇は今だ怒り心頭のアスディルの元に向かう。ふと、霄狐は一瞬深皇を見上げた。だが気のせいだと思い、レイエルの頭の上に狙いを定めるべく助走を開始した。
魔界。彼は専用の水鏡を使い、人間界を見ていた。
「あぁ……本当に美しくなられましたね……リースイ様」
うっとりと水鏡に映った若草の王女を眺め、今日も研究に勤しむ彼女を観察し続ける。ユクロの日課は最早これだった。毎日毎日生きている梓翠の姿を観察し、悩んでいる時は応援し、落ち込んでいる時も泣きながら応援し、実験が成功した時はともに喜ぶ。新たなる感情に史真が頭を痛めるのもやむなしの状況だった。
だが、それももう少しで終わるのだろう。ガタンと水鏡を設置した部屋のドアが開く。そこに居たのはサイルとシンザ。表情は硬い。
「ユクロ。ちょっと顔を貸して貰っても構わないか?」
何だろうと構わなかった。彼女を信仰することなど、どこでだって出来るのだから。
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