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薄紫の君と若草の王女様~君の為の30年~  作者: 颯待彗
03 君の為の30年 ‐2‐
17/21

017 試練と闇と

 山の都は大きな路地が2本、中小の路地が無数、理路整然と碁盤の目のように並んでいるのが特徴だった。本来その大きな道に夜、人が立つことは無い。誰かに必ず見咎められるから、大体牛車も人も、中小の路地を通る。だが、その道の真ん中、暗色の狩衣を着て柑は立っていた。もちろん認識阻害と人避けは3重張り。彼は、その人を待っていた。


「……来ましたね」


 ザッと、滑り込むように現れたのは、初めてお目にかかる認識阻害を外した姿、それは、確かに女性の顔立ちを持つ、楓音(かざね)だった。


「……勝負、と言う前に、本当のお名前を伺っても?」

白雪(しらゆき)(かえで)よ……まさかアンタにも本名あるって言うんじゃないでしょうね?」

「えぇ。玲鵬(れいほう)(けん)と申します。こう見えて、大陸の出ですよ」

「はっ通りで。いきなり沸いたなと思っていたのよ」

「ふふっあぁ、2つ、そちらに有利な条件を付けて差し上げますよ」

「なにかしら?」

「僕の利き手、ご存じですよね?」

「……左、よね」

「今回、僕の武器は右手しか使いません」


 カランと、2刀を持っていた柑が左手の剣を投げ飛ばす。最悪アレを使うことまで計算して、楓は柑を見据えた。


「もう1つは?」

「貴女、小太刀の方がお得意でしょう?」

「よく判ったわね」

「見ればわかりますよ。なので、こちらを」


 投げ渡されたのは檜扇。一瞬憤りかけたが冷静にそれを見る。不思議なぐらい軽い。そして端は触れれば切れそうな鋭さ。試しに陰陽の力を流し込めば扇はずっしりとした質量を持った。


「檜扇型なだけで強度は保証します。扇の方が、扱いは慣れていらっしゃいますよね?」

「……えぇ。1年以上使っていないけれども、こっちの方が慣れているわ」

「それは良かった」

「じゃあ」

「えぇ……いざ」


 月明かりの下、打ち合いが始まる。舞うように2人は戦い始めた。




 5日前の事になる。




 楓音はその日紗に呼ばれて雪風(ゆきかぜ)の家に入った。もちろん人避けの結界は3重に張った。珍しく、(すず)が願ったのだ。


「……楓……ごめんなさい」

「どうしたの?紗」

「私、わたし、冥府の使い様に、楓を売っちゃったっ」

「……説明して?紗」


 しゃくりあげながら紗は顛末を語る。桜桃の君からの文は恋文に混じって問いかける時が多くなっていったという。それは紗が隠している、風音と楓音の事。問う内容はやがて、核心を付いた。


風音(かざね)様と、楓、欲しいのはどちらって、問われて、私、風音様って答えちゃったっどうしようっ楓がっ」

「……紗。手」


 御簾越しに手を合わせる。楓が楓音になってから、誰かに見咎められても良いようにいつもこうして紗を安心させていた。


「……私はね、紗。兄様を助け出せるのならば、冥府に行っても構わないと思っているの」

「楓っ」

「だって、兄様を連れ去った闇は、兄様を助け出す為に始めた野良陰陽師の討伐作業でも会わないような強大な力で、冥府の使いは、悪鬼羅刹の如く強いし……だから」

「だめっ兄様は?兄様はどうなるの?楓が居なくなったら」

「居なくなっても、平気だよ」


 夢を見ていた。兄の嫁に妹分が入り、自分は兄分と慕っていた人の元に嫁ぐことを。恋文だ垣間見だといった煩わしさから抜け出せると。そう思っていたのだ。


篠江(しのえ)ね、文出す相手、沢山居るよ。歌、添削したもの」

「え……」


 笑って見せられた数多の文。妹をと憤っても遊びだからと笑って流される。そんな篠江の姿が、理想が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていった。


「たとえばそちらが遊びだったとしても……そんなのを目の前で見せられて、みかよのもち、食べられないでしょう?」

「楓……」

「兄様には、紗しかいない。でも、篠江には、沢山いる……ね?私が居なくなっても、だいじょうぶでしょう?」


 ぱたぱたと泣く楓の涙を拭きたくても御簾を動かせば術の邪魔になるかもしれない。もどかしく思っていると楓は涙を拭いた。


「だからね、紗が罪悪感に苛まれることは無いの。むしろ高値で売ってやりなさい」

「……コレ……桜桃の君様からの、多分最後の文」


 差し出された文は柑橘系の香りがした。歌は、貴方の幸せを願うという歌。彼らしいと笑い、文を戻す。


「でも、まぁ可愛い妹分泣かせたお礼は必要よね」

「ほ、程々にねっ」

「紗、程々にされるの私の方」

「そうだった」


 そして楓は楓音に戻り準備を始める。まず行ったのは、柑の家に文を出すところからだった。文は即日帰ってきた。ただし、漢語、大陸の言語で貴族の一般教養、だったが。


「なんっで漢語で返すんだアイツはっ嫌がらせか!?」


 誰に頼ることもできず解読して3日、呼び出しが新月の夜、文から5日後だったことに安堵し準備をし、認識阻害を決戦場所である大路に張って、戦闘開始。至る現在。


「通りでっ漢語で返してきたと思ったっ」

「申し訳ない、まさか歌で決闘申し込みされるとは思わずつい書き慣れた方で」


 打ち合う。檜扇の筈の楓の得物は甲高い音と共に柑の剣と打ち合っている、その馴染みは非常用に持っている小太刀よりずっと馴染み深くて、勝負の最中でも、試してみたいことができるぐらいだった。


「これっでっ」


 距離を取り、楓は開いた扇に陰陽の力を込める。そして振りかざし、打ち出した。球状の陰と陽の力は渦を巻き柑に迫る。


「応用能力は悪くありませんね」


 一閃で、力は消え去った。本当に柑が使っているのは右手のみ。それも利き手の左は何も持っていない。あまりの実力差に歯噛みした。だが、負けていられなかった。確かに彼に任せてしまえば兄を救助するのも簡単なのかもしれない。それでも、兄の為1年以上頑張って夜の闇に紛れて野良陰陽師になり、戦ってきた。だからこそ、兄は自分の力で救いたかった。


「これはっどう、だぁぁっ」


 風を巻き起こす。道いっぱいの旋風となったその力を見て、柑は判断する。


「10年あれば、まぁ、なんとかなりますかね」


 風が割れた。残った風は道の脇の邸宅の上を抜けて消える。だが、そんな事、楓には計算の内だった。


「っ」

「ぁぁぁっ」


 ギンっと、鈍い音が響いた。離れた所に落ちている柑のもう1つの剣、その傍に突き立てられたのは楓の扇。はらりと、黒髪が落ちた。


「……ま、今のところは合格、と言う奴ですね」


 柑はうっとおし気に烏帽子から零れた念のため長くしてある髪を解いた。その髪は半分が、切り取られている。楓もまた烏帽子から黒髪が零れている。貴族の姫君らしく長い黒髪。だが一般的よりは足首までと短い。その髪は、零れ落ちただけだった。きゅっとうなじの部分で髪を結び直した柑は、笑った。


「で?お兄さん助けたいのでしょう?どこの何を消せばいいのか教えてくださいな」

「か……簡単に言うわね……ちょい、待ち……息整えるから……」


 息1つ乱さない柑に対して楓は荒い息を整える。完全に手を抜かれてのこの結果。合格とは言われたが釈然としなかった。


「とりあえず腰を落ち着けて話す為にあの廃屋敷で構いませんか?」

「あぁ。今日篠江は眠らせてきたわ。今も屋敷に居る」

「それは重畳」


 先日の廃屋敷に2人は向かう。そして改めて相対した。


「まず、確認させてほしいことは1つ。本当に兄様を救う事は可能なの?」

「えぇ。術は幾らでもあります。それに確かな筋から聞いた話、今だご存命との事。救出と言う条件には叶いますよね」

「っ……そう、なのね……ならば、兄様を助け出したあかつきには、冥府に向かう事、承諾しましょう」

「……わかりました。何よりも自然な方法で連れて行って差し上げますよ」

「助かるわ」


 承諾は得た。あと必要なのは、情報だった。


「まず楓。お兄様が行方不明になった時の事、詳細が知りたいです。目の前で、としか情報がありません」

「そうね……あれは、もうすぐ1年半前になるのかしら」


 一年半ほど前。白雪の家と雪風の家は揃って南の別邸に向かった。南には貴族の別邸が多数存在しており、その内の大きな豪邸を2家の屋敷として使っていた。


『楓っ何で遊ぶ?』

『そうねぇ……』


 普段は行き来しない隣同士の屋敷。家から出ない女性の身である楓と紗はこれ幸いにと遊び倒す。むしろその目的の為に両家は南の別邸に向かっていた。


『紗、楓に迷惑かけるなよ?』

『あはは。まぁ良いじゃないか。楓も楽しんでいるんだし』


 当然のように兄2人、篠江と風音も同行。両家は南の別邸に辿り着き、各々が休んでいた。


 異変が起きたのは夕暮れ時。南の別邸街を黒い闇が覆い始めた。吸い込まれる人々、恐慌状態の貴族達。そんな中、楓は必死に自分の力を持って別邸を守ろうとしていた。昔から強すぎる力を持っている自覚はあった楓。使い時はここだろうと必死に館を守っていた。


 その闇で創り出された巨大な手は、別邸に振り下ろされる。壊される結界、吹き荒ぶ闇の力。


『ぁ』

『兄様っ兄様ぁぁっ』

『風音様ぁぁぁっ』


 そして風音を飲み込んだ闇は消え、残ったのはボロボロになった館と何が起きたか判らない貴族達。自分の所為だ、自分の所為で兄は守れなかった。瞬間、声が聞こえた。


『ならば兄に成り代わってしまえば良い。そうすれば、兄はそこに居る』


 何の声かは判らない。だが、楓は陰陽の力を都中に行使、兄を妹に、妹を兄にすり替え、服も、女性の(うちぎ)から男性の狩衣(かりぎぬ)へ、長い髪は烏帽子に隠し、楓音を作り上げた。


『……ちがう』

『紗様?』

『風音様じゃない』


 紗に自分の力が通じなかったと判明したのはこの時。錯乱したと判断され、家に幽閉状態にされたのは悪かったと思う。だが半年後には前より頻繁に会えると笑うようになった。


 そして楓音は篠江を陰陽の力で巻き込んで野良陰陽師として夜の闇に繰り出す日々を始めた。


「……それ、変な何か関わっていますね」

「それは、その……私も後々思っているわ……でもあの時はそれ所じゃなかった」

「心中お察し申し上げます」

「で?どうするの?正直どうしたら兄様を救えるのか見当もつかないわ」

「そうですねぇ……まぁ、人使いが荒いと相棒に言われて居る身なので、顎で使いますかね」

「……誰を?」


 数日後。柑達陰陽生の一部と陰陽師、陰陽寮の重鎮、そして笠井(かさい)治永(はるなが)は南の別邸付近に居た。笠井治永の占いでまた闇が深くなると出たからだった。


「……なんであの方を顎で使えるんだお前は」

「まぁ、人を悪鬼羅刹扱いした仕返しですね」


 一応陰陽生は後衛も後衛。だが認識阻害を駆使し、闇を倒す気は満々だった。


「申し上げますっ闇が、闇が広がってっ」

「来ましたね……準備を」


 勿論、治永に頼んで闇の核とは別の場所に布陣してもらっている。認識阻害でそっと外れた柑と楓音。核のある方面へ跳んだ。もちろん柑は足場固定の魔法陣を使い、使えない楓を小脇に抱えた状態だった。


「高い高い高いっそして早いっ」

「おやおや。この程度慣れていただきませんとね……さて……見えてきましたよ」


 飛び降りる。着地は軽やかに。目の前にあるのは球体上の核。そこから闇は吐き出されていた。


「……ふむ……お兄様、この中ですね」

「えっだって、あの日30人以上が闇に呑まれて」

「怪異に質量など意味はありませんよ……では……サッサと斬って終わりにしますかね。後始末の方が大変なのですから」

「そうは、させません」


 声が響いた。楓音は気付く。あの日兄に成り代われと囁いた声だ。ふわりと球体の上に簡素な衣服を身に纏った男が降り立った。頭のサークレットは東の意匠。ならばと柑は当たりを付けた。


「……魔族、ですね?」

「コレはコレは、流石ですね黒曜の君」

「随分と愉快な渾名をお付けになられて」

「淫魔共が騒ぐので自然と耳に入ります。こちらはグロウと申す夢魔の者。魔王様の命は黒曜の君及び薄紫の君の仲間になりえる方の排除。どうやら、その方がそのようで」

「……柑、何者?」

「とりあえず敵です。ぶん殴って大丈夫なので」

「わかったわ」

「ず、随分余裕ですねぇ黒曜の君……」

「……おや、ご存じないご様子」


 トンっと、球体の上に柑が動く。グロウは反応することすらままならない。


「家の相棒の為に取っておいただけで、魔王殿の首、幾らでも狙えるのですよね」


 楓音の真横にグロウを吹き飛ばす。丁度良い最終試験が来たと柑は感じていた。


「楓!そいつを1人で倒してください。そうしたのならば本当に、僕の相棒の仲間に推挙致しましょう」

「……えぇ」


 恐らく柑は何時でもこの場所に来ていつでも兄を救えたはず。自分を試し続けたのは一重に相棒と呼んでいる誰かの仲間を探したいがため。ならば、応じるのが筋だろう。


「このっ」

「はぁっ!!」


 檜扇が舞う。短刀で相対していたグロウは完全に圧されていた。ちょっと弱すぎたかなと思いながら柑は球体の中身を見聞する。おおよそ80人ほどが中に居る。100人を超えたならば闇が都まで襲うだろう。そうさせない為に、柑は障壁を張り、今進行形で戦っている治永達が戦いやすいように力を抑えさせた。瘴気の操作より簡単ではないかと柑は笑う。


「ちっ」

「なん、だっなんだっ」


 グロウ完全劣勢。そして檜扇は開かれる。


「これぐらい、幾らでもこなしてやるわよっっ」


 檜扇の刃の一閃で首が落される。断末魔も残さず、さらさらと金の粒になってグロウは消えていった。初めての魔族戦で良い時間で倒し切った彼女。相棒に推挙してやろうと思いながら柑は球体を割った。


「えっ」

「ご安心を」


 80人、全てが宙に浮いている。その中で血縁を感じた人物を楓の元に送りだす。その面差しに、楓は涙を溜めた。


「兄様っ」

「……さて……ここからがめんどくさいのですよねぇ……」


 そして、柑の大の苦手な地味過ぎる工作作業が始まった。


 治永達戦闘領域、その後方も後方、本物の戦いを見ている陰陽生の中、篠江は立っていた。


「すげ……」

「そうですね」


 柑が戻る。全ての仕込みは完璧に終わらせた。証拠に、柑の横には風音が居た。それも球体に1年半ほど捕らわれた風音に、1年半楓音として生活した楓の記憶を映しこんでいる。そうなれば、そこに居るのは篠江と昼は陰陽生として、夜は野良陰陽師として過ごした風音が出来上がる。


「お、おいっ闇が引いていくぞっ」


 闇が引いた先、そこに倒れているのは80人の人間。陰陽寮総出で介抱する中、彼女は居る。ただし、その彼女は偽物。それでも風音と篠江は掛けよる。


「楓っかえでっ」

「息はあるっ大丈夫だっ」


 精巧に作った偽物の楓姫を篠江たちは本物と信じて家に帰すだろう。だが穢れが付きまとう、治永の祈祷でもダメだった彼女は、半年後に儚くなる。そう云う筋書きで、ごく自然に楓と言う存在をこの世から抹消する。勿論、本物の楓は先んじて天界に来て貰うことになる。それで良いと覚悟を決め、紗に最後のお別れもして来ていた。柑がその光景を眺めていると治永がすすすと寄ってきた。


「……お別れ、ですか。柑夜殿」

「えぇ。貴殿のお陰で中々に楽しい滞在生活が過ごせました」

「それは何より。すぐに向かわれるので?」

「えぇ。先に相棒と親友が上に居たら癪なので」

「それはそれは……楓殿の事、お頼み申し上げます。あの方の陰陽の力の強さ、この闇を呼び寄せるほどの物」

「……やはり、闇は楓の力に」

「えぇ……」

「ご安心を。それこそ、悪鬼羅刹の如く特訓してモノにさせて差し上げますよ」

「それは怖ろしい」


 牛車や荷車に人が乗せられる。偽物の楓を牛車に乗せた篠江と風音は一息つくと、振り返った。


「……あれ……?誰か……居たっけ」

「さぁ……?とにかく今は楓だ」

「あぁ」


 こうして天鼓柑夜と言う存在も消え去った。待ち合わせ場所の闇の核の跡地に柑が戻ると楓は膝を抱えていた。


「……兄様は、お元気に過ごされるのよね?」

「えぇ。他の方々は適宜瘴気を抜きましたがお兄様の分は根こそぎ抜きましたので大病をしない限りはお元気でしょう」

「……紗は、幸せになってくれるのかしら」

「最後の文にまじないを掛けました。探査したところ1年半前以前にお兄様が他の女性に文を送った形跡はない模様。順当に行けばお兄様と幸せになるでしょう」

「……篠江は」

「……申し上げにくいのですが、かなり浮名を流していらっしゃるご様子。ちゃんと喪に服していただけるかどうか怪しい所ですねぇ……」

「そうか……でも、うん……父様と母様の元に妹姫は帰ってくる。うん……それで、良いのよ」

「……そうですね……さて。天界の最高神殿にっと」

「……さいこうしん?えっ天照大御神??」

「う~ん……惜しい」


 水鏡の術式を発動させる。そこに映ったのは深皇(しんおう)だけでなく、アスディルと、見知らぬ少女だった。


「あっアスに負けたのですか?!レイは!?」

『レイはちょうど明日最終決戦と言う所だね』

『柑っそっちどうだった?って早く帰ってくれば聞けるか』

「その通りですよ。承諾得ています」

『解っています。では、天界へ』


 ふわりと2人は浮く。そして、その場には何も居なくなった。



 トンっと楓はその場所に降り立つ。何もかもが初めて見る意匠。そしてその中央に存在する青年の服も初めて見る形をしていた。


「柑、多分君の事、めんどくさがって天界と言う概念の説明を省いているね?」

「バレましたか。実際に来た方が分かりやすいかなぁと」

「ここ、は」

「……白雪、楓さんで間違いなかったね?」

「は、はいっ」

「第二階層天界階層主、最高神、深皇=アウィス・プラエタリタだ。この言葉の意味は後ろに居る説明をめんどくさがった彼に聞いてほしい」

「わかり……ました……」

「チッ……レイが来るまで説明サボれると思ったのに」

「や~い、柑」

「煩いですよアス」


 楓は声のする方を見る。そこに居たのはやはり見たことのない衣裳に身を包んだ少年と少女。少年少女も短髪で不思議な感じがしていた。と、柑に視線を戻すといつの間にか大陸風の服装に切り替わり、髪も短くなっていた。


「ぇ」

「いや……柑ってマジで脳筋組」

「煩いですよアス」

「とりあえず住居は図書館。僕権限で広げておいたから、確実に、説明してあげてね」

「承知いたしましたっと」


 こうして、若干なし崩し的ではあるが、楓の天界生活は幕を上げたのだった。




 檜皮(ひわだ)色の髪が揺れる。彼女は、魔王城の廊下を進んでいた。ひと房長い髪が楽し気に揺れている。


「……シュネ」

「ん?なんに?ロジエ君」


 そんな彼女を呼び止めたのはロジエ。ここでしか話せない内容ではあった。


「お前、なんでグロウを人間界に向かわせた?確かに魔王様への反逆を模索していたが夢魔の中では上位に入る人材だぞ?」

「だって反抗心あるから微妙に使い辛かったんだもん」

「……いや、まぁそうだろうけれども」


 ふふとシュネは笑う。確かにグロウは夢魔の中では強い方。それでも、それよりも、邪魔だった。


「安心しなされ。他に送った魔族も、微妙に扱いが難しかった奴等ばかりだ。戦力の減少は否定しない。だが、夢魔と食魔が居なくなったところで痛くもかゆくもない」

「……淫魔、アイツ送ったんだろ?その辺大丈夫か?」

「だってアイツ、エクリちゃんに酷いことしたから」

「私怨かよ」


 いつも通り謎の鳴き声を発しながらシュネは存在している。正直、淫魔最強ではあるが、このシュネと言う存在を誰もつかみ切れていなかった。それはシンザとサイルも同じこと。


「言っておくがな、魔王様及び淫魔の皆に不利益な事したら速攻斬るからな」

「……斬られる専なのに??」

「うるせぇ」

「ご安心なされ。エクリちゃんが所属する限り淫魔の皆には何もしないよ。特に、アマダスちゃんにはね」

「……べつにあまだすのことなんていっていないからな」

「目は口程に物を言う。それよか、ユクロ、見張っておいた方が良いよ」

「ユクロを?なんで?」

「最近やたら熱心に人間界の様子を見ている。あの熱量は不信だよ」

「……わかった、見て見る」

「んじゃ、またね~ん」


 再び後ろ毛を揺らしながらシュネは廊下を歩く。ロジエが居なくなったその時、シュネは暗い笑顔で笑った。


「夢魔、弱体化に成功っと。コレで制御するのは淫魔だけになる。楽勝じゃね」


 シュネは笑う。彼女には彼女の思惑があり、そのためには手段を選ばない。彼女は、軽薄な言動に全てを隠し笑う、そう言った、存在だった。








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