015 後始末と
目が覚める。横に居るのは黒曜石のような髪の彼。彼は自分が目覚めたことに気付くとマナの実を良い笑顔で口にねじ込んだ。
「ふゃにふんふぁ」
「ハイ飲みこんで。5日も眠っていたのですよ?」
「……え、マジ?」
「マジです」
ここは天界最下層にあるレイエルの部屋。起き上がり、髪をかき上げる。当然そこにあの長さはない。だがざっくり槍で切ったにしては綺麗に整っていた。
「寝ている間に整えておきましたよ」
「そりゃ、至れり尽くせりだねぇ」
「色々問題も発生しているようで、そろそろ調査も終わる頃でしょう」
「柑~ってレイっ起きたんだ」
「アス、心配かけたな」
「そりゃ心配しますって。起きれそう?会議、始めるって」
「わかった」
「そう言えば戦闘服のままですが着替えますか?」
「要らないってさ」
神殿に戻る。最高神の間を開ければ変化は一目瞭然だった。見上げるように高かった史真の玉座、それより若干低くなった清晃の玉座。それに比べて深皇の玉座は段が3つ。ほぼ目線と同じだった。
「目覚めたんですね。良かった」
「とりあえず、会議、どこからだ?」
「深皇様、皆の様付け抜けないのよ」
「そこからか……」
「だ、だって確かに清晃様から跡を託されましたよ?ですが今までずっと上級天使で、それがいきなり最高神って……」
「慣れろ。俺が言えるのはそれまでだ。俺等の態度はそのままにしてやるから」
「うぅ……」
「あとお前さんの場合は敬語も禁止した方が良い」
「えっ!?」
「そうですね。まずはその辺の意識改革からではないでしょうか」
「ぅ~……はい……じゃない……うん、わかった。努力します」
新たなる担ぎ上げるべき主の奮闘を見ながら、全員に書類が回される。
「まず、あの光に関してですが、一昨日香鏡様がいらっしゃられて判明しました。僕の権能は『浄化する』力。それが……清晃様の死によって暴走した結果がアレのようです」
「……ビアへエル。深皇の光で消え去った魔物の数は?」
「1万程ですかね」
「……暴走状態とは言え、随分と、強い力だな」
「ですが瘴気を抑えるのには効くと思われます。もっとも完全に封じてしまうと危ないので適宜噴出はさせますが市街地とコロニーには出させません」
「その力の制御も課題だな」
「えぇ。続いて、あの地響きの件」
思い出すのは清晃を目覚めさせた直後に響いた地響きと揺れ。地震のない天界では珍しいで片付けられない事態だった。
「結局あれって?」
「調査が終わりました。天界の果ての方ですが崩落が起きていました。もちろん深皇様の権能で浄化封印済みです……原因としては、最高神殺害以外の理由は無いかと」
「……だよな。俺が力をぶち込まなかったら、って時に揺れたし……深皇に変わった時に地響きは収まった。そう言う事なんだろうな」
「えぇ……この崩落ですが問題が1つ」
「……天界の、質量の減少、ね」
「はい。質量の減少は人間界と天界の距離を縮めることに他ならない。それは良い事に聞こえるかもしれないけれども階層的には良く無い事」
「レイ、レイ。何が良く無いの?」
「人間界ってのは中立なんだ。聖でも、魔でもない。中立。冥界、幽界、無界も中立だな。天界と天上界が聖の位置、魔界と魔法界が魔の位置。どちらに寄り過ぎていてもダメって感じだな」
「えぇ……それで、ですね」
「深皇?」
表情を陰らせる深皇。書類を握りしめ、それでも前を向いた。
「天界の保持のため、術的に異端な人間を3人、天界に呼び寄せます。それで計算上、天界の質量は元に戻る」
「異端とは言え人間を呼んでどうにかなる物なのですか?」
「ビアへエル」
「術的に異端な段階でそれは魔に近くなっています。それを聖に取り込むことで人間界のバランスが取れ、相対的に天界の質量が戻る、と言う計算です。あくまで机上の空論、どこまで行けるか判りませんが、やらないよりマシ、と言う奴です」
「……ここで先々代殿ならば問答無用で上げるところですがね、僕にはそんな事出来ない」
「だろうな」
「なので、術的に異端に至る10年後、レイエル・ラージレット、柑・玲鵬、アスディル・ファーレットの3名をそれぞれ対象の人物の元に送り込み、本人たちの了承の元天界に上げることとします。いい、ですか?」
最後が恐る恐るだった以外態度は合格点。そして時期は長引くが、条件も満点だった。
「あぁ。ちょっと長いってのは気になるが、俺の望みの為にも、仲間って奴は必要だからな。術的に異端って言うなら実力もありそうだし、武芸の腕は見て判断するわ」
「ですね」
「おうっまかせろぃっ」
「良かった……他の問題点、改善点などは資料に纏めてあります。各自確認してください」
「……俺の書類だけ、随分厚いんだが??」
「……まぁ、レイエルさんなので。頼りたいなぁ。なんて」
「……さん付け抜けるなら、考えてやらんこともない」
「えぇ……わかった。レイエル。よろしく頼みます」
「仕方ない最高神サマだこと。了解」
ばらばらに動き始める。レイエル達は一旦着替えて図書館に帰った。寝室に入ったレイエルと見て、柑とアスディルはそっとしておこうと決めた。
部屋の中、レイエルは書類を読み込んでいた。天界軍の再編から中級街の整備まで。おそらく清晃とやろうと言っていた内容がほとんどだろう。そう言えば馬の乗り方を教えるという約束もあった。その分深皇に教えておこう。
「……薄情な訳じゃないからな、清晃」
泣けなかった。泣くという感情が無いわけでは無い事は梓翠の時に証明されている。だが、どうしても泣くことが出来なかった。だが、張り裂けそうに痛い痛みは感じていた。
「……10年後か……期限まで残り10年……連れてくる奴等がどれぐらい強いか、そこが勝負だな。アス並みが多い事を願う」
異端の最盛期を待つという事はそれほどその対象の異端度は高いのだろう。もしかしたらその力を目当てにして魔界からも何かあるかもしれない。そこまで考えて行動しなくてはならない。
「……あぁでも……梓翠……早く会いたいな」
あの若草色が玉座に就くのならばあの色彩を目にする機会は増えるだろう。そうしたのならばより一層梓翠を思い出すかもしれない。それだけは少し辛い事だった。
「……寝よ」
書類を机に置き、ベッドに寝転がる。5日間も寝続けたというのに、眠りはすぐに訪れた。
3日後、朱書きで直した書類を持って神殿に行く。するとビアへエルの水鏡の部屋の前で深皇は何か話していた。
「あ、レイエルさ……っ……何かご用かな」
「お前必死過ぎ。ほら、案、直したの持ってきた」
「わぁ赤い……でもありがとうございます」
ふと、違和感を覚えた。深皇の横にアスディルが立っているから余計にその違和感は目に見えて現れた。
「深皇……お前、背伸びた?」
「えっ」
「えっ!?」
「いやだってほら、アスと同じぐらいの身長だっただろ?いま、ほら」
同じぐらいだった2人。今はレイエルの拳1個分差が付いて居た。これには柑もビアへエルも驚愕。
「本当です。先日お会いした時は玉座でしたから気付きませんでした」
「自分も今言われて気付きました。何処か違和感は覚えていたのですが」
「えっズルいっなんでいきなり身長伸びるのさっっ」
「ぼ、僕に言われても……」
「最高神になったら、だよな確実に」
「ですね……魔力計数も確かに上級天使時代とは比べ物にならない程上がって居ますし」
「まぁ異例尽くしの最高神就任だからな。そもそも最高神就任と言う単語が異例」
「でした」
2人と別れ、演練場に向かう。いつも通り天界軍は訓練に励んでいた。だがその表情はどことなく爽やかだった。
「そりゃ、一兵卒でも50倒せたんだ。自信になるだろうよ。吹き出る魔物より弱かったとはいえな」
「リスエル。コラキエルも」
「リスエル達は結局?」
「800?かそこら」
「同じ程度かと」
「へぇ、やるじゃん」
「おう2万刈り取ったレイエル。喧嘩なら買うぞ」
「アスは?」
「計算上1万。加えて5千行ったかな位」
「ある種深皇様が強かったんだよな。瞬きの間に1万消し去って」
「だな。まぁ自然噴出分は今まで通りだし、再編の話、俺が朱書きで持ってきた分の連絡もあると思うから」
「助かる」
そして今日も彼らは鍛錬に励む。準備はし過ぎて困るモノでは無いのだから。
天魔大戦より1年後。ようやく大体反抗してきた魔族を平定し終わった史真は玉座で不貞腐れていた。レイエルと、香鏡より名前を明かされた深皇に嫌がらせを兼ねて瘴気の吹き出しをしてやろうと抑える場所を限定的にし、穴からの瘴気も抑えて噴出させようと思っても深皇の浄化能力で威力は半減以下。再編されたであろう天界軍に駆逐される日々だった。
ハウルがトコトコと何かを持ってくる。それは画面。開いた先に居たのは六陽と六嘉だった。
『秋央様っじゃないじゃないじゃない』
『史真殿。少し遅くなったが魔王就任おめでたく』
「そう言えば魔界と魔法界には繋がりがあるのだったな」
『うむ』
「用件は?」
『魔法界に居る先視の術師、そのすべてが19年後以降の未来を見渡せなくなった』
「……全て?」
『私の力を使ってもダメでした……』
『確かあの興味深い薄紫色の。未来に行くと宣って貴殿を最高神の座から降ろす手伝いをしたと聞く』
「何処から聞いた?あ、いやわかった。香鏡だな?」
『さよう』
『もしかしたらレイエルさん、19年の先、その先の未来の為に戦うんじゃないかって』
「……まぁ、それでも、邪魔をしてやらない理由にはならないがな」
『あわわ』
『ま、貴殿ならそう言うと思った。要はフェーヤ帝国、そしてレームス半島。両者が戦になる、そこまでしか最高位の先視の術師でも視れぬでな』
「情報感謝しよう」
『あ、あまり邪魔しちゃ駄目ですからね史真様っ』
通信が切られる。さてと史真は立ち上がった。
「サイル、シンザ」
「「こちらに」」
「3魔の軍、編成を急がせろ。14年後、レームス半島、及びフェーヤ帝国に軍を配置する」
「御心のままに」
「承知いたしました」
「再度の決戦は19年後、帝国と半島の決戦時、介入してくるレイエル・ラージレットとその軍勢とだ。心してかかるように」
「「はっ」」
従来の側近と、新たに見繕った側近は魔王の間を辞す。未来に進む為に戦うと言ったあの時のレイエルの瞳を、史真は忘れたことは無かった。
その頃、最高神の間を辞したサイルとシンザは淫魔の泉に向かっていた。いつものように主力組はそこでダラダラしている。もちろん、彼ら彼女らの編成はとうの昔に終わっていた。
「時期と場所と規模が分かった」
「よきよき。どこどこ?」
「時期は19年後、場所はミュトロギア大陸東の果て、レームス半島とそれに隣接する大帝国フェーヤ帝国。その戦争に薄紫の君御一同が来るかもなんだって」
「なんか魔法界で先視?が19年後より先出来なくなってんだって。で、レイエルが言ってた未来へ進むってのがそれに値するんじゃないかって感じ」
「ほむ……じゃあ食魔と夢魔の編成考えないと」
「じゃあ案出して~」
「は~い。いっそ盾代わり」
「賛成」
3魔は仲が悪い。半分夢魔のシンザが此処に入ることが出来ているのは実力で黙らせたから。彼らは完全な実力主義。居心地がまだ悪いサイルも軍への采配や捨て身の特攻で認められてはいた。
「っと、これがレームス半島とフェーヤ帝国の地図ね」
シンザが術で広げた地図。広大な半島にはいくつもの国が記され、それを遥かに超える広さでフェーヤ帝国は存在していた。戦力差は歴然。ならば彼の付く陣営も見えてくる。
「レイエル、レームス半島側だよな」
「恐らくね。そしてレームス半島と3魔は相性が悪い」
「そうなのか?」
「レームス半島ってね、何かしらの術を信仰しているのよ。例えばここ、ウェーリア王国は自然魔術、アレストロ王国は薬学術ってね」
「ってことは拠点となる地域を見定めないと駄目って訳か」
「そう言う事。今の内に調査隊を出しておこう。ウェール王国の北の森林地域が怪しい」
「準備させるわねっ」
「ありがとうカメルシィちゃん」
「う~ん……シンザ~サイル~念のためレームス半島とフェーヤ帝国の衝突の原因何なのか調べておいた方が良く無い?なんかに使えるかもしれんし」
「そうだな。この大帝国がわざわざ半島に戦争吹っ掛ける意味も知っておきたいし。アマダス、編成頼めるか?」
「おっまかせぇっ」
「後は各国の詳細な情報かなぁ……」
「と、言うと?」
「首都は何処~とか、人口おいくら~とか。にぃ……そう言う情報中々入手出来んくて」
「アレストロ王国、首都はオリクト、ここな。ここだけで人口2万、首都以外の都市や村は全部で20。首都と都市すべて合わせて5万2千。主要産業は薬草の輸出入」
さらさらと出て来た情報に残っていた淫魔主力組はギョッとする。シンザとそれに絡んでいたシュネが一番驚いていた。
「あと必要な情報は?」
「げ、現在の王家は?」
「王家ごと変わっていないのならばアレルイス王家。当代の王が誰かまでは読んでないから知らん」
「よ、読んで??」
「あぁ、俺、特級図書館って言う人間界の情報吸いだして本にしてある場所の本、全部丸暗記してるから。この位の情報ならいくらでも」
なんでもない簡単な事と言ってのけるサイル。その姿にシンザは呆れかえり、シュネはちょっぴり引いた。
「……サイルってさぁ」
「にぅ」
「な、なんだよ」
「何でも。んじゃ、レームス半島とフェーヤ帝国の情報。書き出しちゃいましょうかね~」
「に~」
「なんっか釈然としない」
「良いから良いからっ」
そして彼らは一手先に準備を始める。相手の力は尋常ではない。早めに準備できるほど僥倖なことは無いだろう。
翌年の事。レイエルは何処か苛立っていた。アスディルと柑以外の天使がそっと距離を置く程度には。
「何かあったのですか?」
「別に……そう言う訳じゃないんだけど……」
新緑の季節、間もなく人間界の季節も夏になる。つまり、5月生まれだと言っていた梓翠が生まれている確率は高いのだ。無事産まれたか、記憶は、色々大丈夫だろうか。心配は苛立ちへ繋がる。
苛立ちを募らせながら夏。レイエルが1人ビアへエルの水鏡を通りかかると深皇とビアへエルが深刻そうな顔で水鏡を覗き込んでいた。
「あ、レイエル」
「どうしたよ深刻そうな顔をして」
「魔族がね、レームス半島の辺りをうろつき始めているんだ」
心臓が鳴った。そうだ。魔王には何らかの、おそらく魔法界かその辺り、情報を入手する手段が存在しているのかもしれない。それにより自分の目的地がレームス半島と知られたのならば。幼い梓翠に何か害なされる確率は存在していた。
「……魔族、何してる?」
「え?っと、瘴気が濃い所を探したり、フェーヤ帝国の中枢に入り込んだりと色々ですね」
「……何かあったら、知らせてくれ」
「あ、はい」
「レイエル。眉間の皺、取れなくなっちゃうよ」
「仕様だ」
「ほら、見て見て」
深皇に無理矢理水鏡を見せられる。そこに映っていたのはあの時の、初めて梓翠の姿を見た、あの広間。そこに居る王と妃は変わらず若々しい、姉姫は小さいながらも王族として立派に立っている。そして、その横のベッドに、その子供は眠っていた。
「アレストロ王国の二の姫だって。髪色僕と同じみたいなんだ」
「この界隈、自分たちと同じように色の付いた髪色の方々が多くて。だから魔族が暗躍できると言うのもありますが」
「そう……か」
水鏡の間を出て、レイエルは待ち合わせ先の特級図書館に向かおうと歩く。だが、その途中で、沈み込んだ。
「……何あれ天使??いや天使俺か」
記憶のある梓翠に見ていたとバレたなら怒られそうなものだが、赤子の梓翠は可愛らしかった。だが会うのはまだ先、せめて、横に立って自然な18の時。その時に、自分は彼女の元に行けるのだから。
「……っし。行きますか」
起き上がり、図書館の方に向かうレイエル。無事産まれてきてくれていて、魔族と言う懸念材料が合ってもそこに居て生きていてくれる。それだけで、幸せだった。
天魔大戦より5年後。術的に異端な人間の情報が判明した。
「3人とも女?」
「うん……大丈夫、かな?」
「まぁ、女性であっても実力があればそれはそれで。もしそれなりならば必要な時は天界お留守番組に入っていただければ良いだけの話」
「だなっ」
「良かった。資料にもあるように、1人目と2人目は両者桜の国と言う柑が暮らしていた華国の西に位置する小さな島国だね。3人目はミュトロギア大陸の丁度中心に位置するトロイスト王国」
「どれがどれに行くって話だよな」
「桜の国は僕が。距離は近いですし、馴染むでしょう」
「あ、じゃあ俺トロイスト王国の方が良いかも。フェーヤ帝国とは離れて居るけど文化は似たようなもんだろうし」
「んじゃ、俺は猛勉強して桜の国に参りますかね」
「決まりだね。桜の国とトロイスト王国に関してはビアへエルに重点的に情報を吸い上げてもらっている。それを参考にしてください」
すっかり話し方も慣れた深皇。最高神としての職も全うし、自覚が出て来ていた。
「今回も人間として?」
「うん。今回は国を出ることは無いけれども他国へ出ることも可能になりました」
「そうか……」
手法が出来たことにレイエルは内心喜ぶ。コレで、梓翠の時、降り立って、フィオと言う友人の王女を救いに行ける。そうすれば梓翠の生存確率はさらに上がるだろう。
「柑とレイエルの行先の詳細は出次第連絡します。何せ桜の国って小さいから」
「でしょうね」
「みたいだな」
「では、準備を開始してください」
深皇の号令と共に3人は図書館に篭る日々が続く。トロイスト王国のアスディルはともかく桜の国に行くレイエルと柑にとって色々難題だった。
「……都、と言う場所に行く場合、どちらが行きます?」
「アレだ、手合わせで決めよう」
「そこ。手合わせで決めたら神殿更地になるから却下」
「じゃあ後でクジ」
「落としどころですね」
「そんなに?」
「貴族、やる事、多い。でも貴族じゃないと多分対象に近付けない」
「髪の長さは認識阻害で何とか出来るから良いとしても……めんどくさいですねぇ……」
「同意。武家の領域はある意味楽そう」
「と言うか、コレ、カタナと言う武器の使い方覚えませんと」
「だな」
「いいも~ん。トロイスト王国、近衛隊充実してるから多分そこだもん~」
「ずるい」
「ずるいです」
静寂を破らない程度に笑い合う。特級図書館でよくみられる和やかな光景だった。
そして、天魔大戦より10年の年月が経過した。3人同時の出立で、揃って皆の見送りを受けていた。
「海の上に出すなよ?」
「そんなうっかりしませんって。きちんと目標座標設定しています」
「なら良し」
「ですね」
何事か分からなかったアスディルだったが思い返すのは自分の時の事。2人が降りてきたのは海の上。おそらくそれは誰かのうっかりミスだったのだろうと推察。そう言えば帰ってきたときその誰かに凄んでいたなと思い出しなんとなく笑う。もう15年、否、まだ15年しか経っていないのだ。
「では最終確認です。アスディルはトロイスト王国に、異端の魔術を操る魔女の元へ」
「了解っ」
「柑・玲鵬は桜の国の首都に、陰陽の力を行使する姫君の元へ」
「承知しました」
「レイエル・ラージレットは桜の国の唯一の貿易港に、強すぎる未来視を主る巫女の元へ」
「おうっ」
「現在魔族が確認されているのはレームス半島およびフェーヤ帝国。距離的に離れているとはいえ、レイエル達の魔力を感知して先々代殿が何かを差し向ける可能性は大いにあり得ます。くれぐれも気を付けて」
「任せておけ。レームス半島の見張り、頼んだぞ」
「お任せを」
「では、各々、武運を祈ります」
ふわりと3人の足元が開く。そうして、彼らは人間界に降り立った。
ピクリと指が動く。顔を上げ、何かを感じ取る。
「誰か居るか?」
「僕でよろしければ」
「シュネか……まぁ良い。3人ほど見繕え」
「3人。ご条件は?」
「少し、邪魔だと思う3魔、だな」
「にゃはにゃは。了解いたしました。お任せを~」
フッとシュネが消える。魔王史真は若干あのシュネと言う淫魔を苦手としていた。だが実力は確か。天魔大戦の直後に手合わせをしたユクロと同程度と言う実力も頷ける。そんな彼女を見送り、史真は人間界が存在する上を向いた。
「では、前哨戦と参ろうか、レイエル」
そして、彼らの戦いは始まったのだった。
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