013 重いお願い
清晃=エオノス・ノイが最高神になって30日が経った。
「う~ん……この物足りない感」
「まぁ仕方のない事です」
30日の間でレイエル達が出陣する事態になる瘴気の噴出は無し。運動不足だった天界軍で対処できる規模しか噴出は無かった。そう言えば3000年ぐらい前はそう言った規模で瘴気が噴出していたと思い出すレイエル。現魔王は相当やらかしているなと認識が出来た。
「でもその分、デカい何かをあの魔王に成った先代はやらかすって事だよな」
「だな……っし、明日神殿行って鍛錬しますかね」
「じゃあ今日はっ」
「図書館開館、ですね」
図書館を開く。中級天使たちが挙って来館してくるのを3人で捌くのも慣れたもの。その日はゆっくりとした時間を過ごす。何よりも平和なひと時だった。
翌日、レイエル達は神殿に向かった。もちろん武器はあのブレスレットで携帯している。戦闘着に着替え、アスディルは慣れたコラキエルとの対戦、レイエルと柑はその端で軽く、打ち合いをしていた。
「アス、だいぶ上達してきたな」
「えぇ。節棍も上達しまして。今度1人で送り出してみましょうか」
「それはアリだな」
「……レイエル、柑。その辺にしておけ。お前等の軽くは俺達のガチ戦闘に当たる」
「っと」
「おや」
間合いを取る。いつの間にか演練場の半分は柑とレイエルの戦闘場所になっていて、アスディルとコラキエルの対戦は押し出されていた。
「柑っレイっお前等軽くって言葉の意味特級図書館で調べ直してこいっっ」
「……だそうですよ?」
「と言ってもだなぁ」
「相変わらず規格外ですね、レイエル様」
「コラキエルまで……ほぼ毎日呼び出されていた反動がキツいんだよ」
「ですね。しかも1000単位」
「今、30の魔物退治に小隊出してるが?」
「まっ俺等の出番は無いに越したことは無いだろ」
「だな」
レイエルは感じ取っていた。最高神だった彼、史真=アルト・エーラ。彼が何かするならばそれは市街地への瘴気の噴出などではない。誰も知らない事だろうが、あぁ見えて、彼は優しいのだ。壊滅したレイエルが暮らしていたコロニー、その片付けの陣頭指揮を自ら執るぐらいには。だからむやみやたらに瘴気は出さないだろう。今出ているのは本当に自然に出て居る分。それ以上は彼の権能で抑えているだろう。
「レイ?」
「あぁ……アイツが何か仕掛けてきたとき、何ができるかなって」
「……難しい問題ですね……正道で行くならば、レイ自身があの方と戦う、でしょうが」
「だよな……正道?」
「邪道な方法、聞きたいですか?」
「聞きたい」
そっと柑はレイエルに耳打ちする。ふむと考え込んだ後、レイエルは笑った。その笑顔は悪い事を考えた時のようで、若干邪悪でもあった。
「お前それ最高」
「でしょう?」
「あ、レイが悪い顔してる」
「何するつもりですかレイエル様……」
「聞くなコラキエル。どうせろくなことじゃない」
「ひっで」
「ですねぇ……とりあえず、スパスィエルさんに武器の調整頼みましょうか」
「順番にやっとくか。念のためな」
「では、今日はレイの分ですね」
「おう、任せろ」
「れ~い~え~る~」
楽し気な演練場に怨念を背負った清晃が現れる。もちろん後ろにはアレクエルも付き従っている。
「なんでこっちに来てくれないのさぁっ」
「悪い悪い。仕事忙しいかなと思って」
「前より忙しくないよ。運ぶ人、居なくなっただけで。でもアレクエルが代理で頑張ってくれているし」
「はいっ」
「そっか。それにしても……最高神付きになっても苗字降りてこないとはな」
「あう」
「そう言えばレイ。苗字降りてくると言っていましたがどういった形で?」
「重役に抜擢されると目の前にこの前の清晃の時みたいに文字が浮いてひらひらと降りて来るんだよ。まぁ俺の時は当時の最高神殿がなんか無理矢理引き寄せていたが」
「へぇ……天使、やっぱり不思議」
天使たちにとって苗字とは本当に最高位の特級になった時に授かるモノ。条件的に授かっても良いのだがアレクエルは未だ苗字が降りてこなかった。もちろん清晃に無理矢理引っ張ってくる技能は無い。
「後は特級図書館見て帰るか。足場固定の魔法陣を改良するって言ってるし」
「えぇ、展開速度の上昇、及び移動速度の上昇が目的地ですね」
「俺はコラキエルともうちょいやってるわ」
「あぁ。頼んだぞコラキエル」
「はい、こちらこそお願いします」
そうしてレイエルと柑は図書館に、アスディルは鍛錬に勤しむ。本当に穏やかな日々だった。
穏やかさが破られたのは清晃が最高神の座に就いてから96日目の事。異変ありと天界軍の兵に呼ばれ、緊急で図書館を閉めてレイエル達は神殿に入った。
「清晃っ」
「レイエル。コレ」
ビアへエルの水鏡。そこに映し出されていたのは無数の魔物達が魔界に通じる穴から出て来ている所。だがその彼らは動かない。まるで何かを、自分たちを指揮する誰かを待っているかのようだった。
「数は?」
「5000からどんどん増え続けています」
「……随分とまぁ、やる気ですね」
「やっぱり、これは」
「間違いない。先代殿はやる気だろ、第二次天魔大戦をな」
「っ」
「清晃、1個良いか?」
「何?」
「外周のコロニー、全部を市街地に退避させてほしい」
「良いけど……?」
「念のためだ。この数相手にして、守ってられないからな」
ここに居る全員、第一次の時にレイエルの身に起きたことを知らない。唯一知っている最高神だった彼は今や敵だった。
「いつ、だと思う?」
「即位100日目が怪しい。一応明日から野営になるが待機するぞ」
「わかった。天界軍は先んじて向かわせる。随分と行儀の良い魔物達だが」
「念のため、な。頼んだ……が」
「が?」
「リスエル、お前戦闘軍略使えるか?」
「ぐっ」
「……ぐんりゃく?」
「軍を動かし戦を動かす、まぁいわゆる軍師的な方が使う技能ですが……」
「コレ、天界組は言わずもがな、俺等も無理だし……」
「……あの……少しだけなら」
声に視線が集まる。そこに居たのはアレクエル。視線にびくりと反応した。
「そっか、アレクエル、お前特級図書館の本、暗記してたな」
「は、はいなので見様見真似と言う感じではありますが……無いよりはお役に立てるかと」
「アレクエルちゃん凄いっ」
「では、まずどうします?」
「天界軍の小隊は全部で25,内リスエル様から見て最弱の方々を神殿警護に残します。アナラエル様は神殿にて上級街、念のため中級街も見張っていてください。ビアへエル様は戦場と神殿を繋ぐ水鏡を。神殿及び市街地に何かあればすぐに連絡が行くようにしてください。本当は清晃様も神殿で待機していただきたいのですが」
本当に清晃を神殿に置いておきたいアレクエルはそっと彼を見る。だが、清晃は首を振って笑った。
「行くよ。総大将が引きこもっていたら格好つかないしね」
「……わかりました。では残りの皆様は出陣となります。リスエル様は前衛部隊の指揮を、スパスィエル様は後衛部隊の指揮を。最前衛を担当なさるのは柑様、レイエル様、アスディル様で問題は無いですね?」
「無いぜっ」
「えぇ」
「あると思ったか?」
「ならば柑様とレイエル様には援護が要らないと判断いたします。天界軍も置きません」
「アレクエル?!」
慌てる主を他所にアレクエルは冷静に柑とレイエルを見る。任せられたのならば、それは彼の仕事だった。
「先ほどの数を倒すのに、天界軍の補佐は邪魔。レイエル様と柑様はそうおっしゃると判断しましたが、お間違いは?」
「無いな」
「えぇ。よくお解りで」
「良かったです。リスエル様、スパスィエル様の部隊とアスディル様で半分、レイエル様と柑様の組み合わせで半分を刈り取ります。もっとも、レイエル様は途中、先代様との戦闘になると思うので、ほぼ柑様の仕事になってしまいますが」
「ふふっお任せを」
「俺等で魔王含む半分片づけりゃいいんだろ?」
のん気に言ってのける2人。一方アスディルは魔物の群れを見ながら唸っていた。
「ぐぬぬ。俺は補佐要る」
「とりあえず頑張りましょうアスディルさん。コラキエルも前線に居ますので」
「コラキエルとの共闘なら任せろ。動きは見なくても判る」
「それは良かった」
「スパスィエル様の後衛援護のタイミングや前線の位置などは適宜伝える形となります」
「では、小隊長以上に水鏡の通信機を付与しておきましょう」
「ありがとうございますビアへエル様」
「まぁ前線見ないと何も出来ないからな。相棒殿、判定は」
「花丸かと。書籍で見ただけにしては最良かと」
「ありがとうございます柑様」
「んじゃ、軍師アレクエルで、俺等は今日此処で待機。明日前線に向かおう」
「うん、お願いするよ」
そして待機と相成り、戦闘着に着替えたレイエル達は長い長い居住区の階段を降りていた。
「ほぼというか確実に、最下層、ですね」
「その代わりちょっとだけ広いんだよ」
レイエルの部屋を開く。当然、そこには埃が積もっていた。そう言えば最後に掃除に来たのはティミエルと一緒で、あの友人定義事件以来だと思い出した。
「……なお、ティミエルの部屋を借りるという手もある」
「いや……掃除してここにしよう」
「ですね。忘れ物も多そうですし」
「だな」
3人で手分けして掃除し、近所の布団も借り受けて3人は寝る体制を整える。そうして警戒初日の夜は暮れていった。
翌日、最下層から翼や足場固定の魔法陣の力を使い、神殿に向かうレイエル達。演練場には小隊の中でも上級者に入る隊と、リスエル、コラキエル、スパスィエル、ビアへエル、アレクエルとそして完全に馬に乗り慣れていない清晃が居た。お見送りのアナラエルは呆れている。
「……清晃、お前なぁ……」
「だ、だってっ馬っ乗った事無いっ」
「それもそう。柑、人を馬に乗せた経験は」
「馬なんてかれこれ3000年位乗って居ませんよ」
「俺はボスに乗ってたけど、人は乗せた事無い」
「……ったく、しょうがない最高神サマだなっ」
レイエルは一旦清晃を下ろして馬に乗る。そして自分の前に清晃を乗せ直した。
「行くぞ」
「はいっ」
「……待って、あの、レイエル、速度」
「最速に決まってんだろ手離すなよっ」
馬を走らせ、天使たちは翼で、アスディルと柑は足場固定の魔法陣を使い、一路、魔物が溢れ続けている第一次天魔大戦の地へ向かった。
ゾロソロと魔物は現れる。目視で数えていたレイエルは珍しい種類の魔物に心躍る状態だった。
「流石原産地。見たことも無い奴が多いな」
「鰐型か鳥型が主でしたからね。面白いですね。亀型とか移動はやはり遅いのでしょうか」
「お~い。レイエル~……清晃が動かない」
「あ~……悪かったって。つい」
「……レイエル、よく人間界で乗り物乗れたね……おれむり」
「ったく、最高神になったんだから馬ぐらい乗り慣れろよ……その辺、終わったらみっちり特訓だからな」
「お、お願いします……」
「レイエル様、その特訓、今すぐ受け付けていただけますか?」
「どうしたアレクエル……いや、刺激しないように飛べないけど高い所から戦線を見たい」
「大正解です」
「乗って背筋伸ばす、手綱はこう、蹴る所はこの辺り。魔法生物だし軽くならコレで乗れるはずだ」
「……わかりましたっ」
アレクエルが馬に乗り、戦場を駆ける。頼れる補佐に色々な意味で泣きそうになる清晃。とりあえずと指示された本陣に、清晃は座った。眼前に広がるのは無数の魔物の群れ。こんな光景をいつもレイエル達は見ていたのかと震える。
「右柑、左アスだな。魔物の位置のバランスを考えて」
「おや、逆でも一向に構いませんよ?」
「流石にキッツいだろ、2人で25000と魔王1人だぜ?柔らかそうな辺り狙おう」
「そ、そんなに?」
「この調子で出て来たのなら5万は軽い。とは言え、だ。あくまでも様子見、あるいは足止めだろうな」
「足止めですか?」
「柑とアス、天界軍のな。完全に俺と戦うために来てやがるあの魔王」
「……そう……」
「まっその思惑にこの俺が簡単に乗ってやるかって話なんだけどな、相棒」
「えぇ。そう簡単にレイと戦えると思わない欲しいものですね」
この状況下でもレイエルと柑は笑っている。そんな2人が、羨ましいと清晃は感じていた。
警戒初日の夜が更け、翌日。数が数という事もあり、緊急で前衛班にはリスエル、コラキエル、アスディルの特訓が付いた。レイエルと柑も参加したがったが大戦の前に心を折るなと丁重に断られた。
「あ、でも結構上達してきてる。腰ひけてない」
「だなっ」
「アスディルさん、コラキエル、程々にな。折角レイエルと柑さんの特訓辞退できたんだから」
「りょ~かいっ」
「ですねっと」
バテバテの前衛班にマナの実が配られる。本戦では怪我をしたら自分でマナの実を食べてどうにかすることになっている。レイエルと柑も一応マナの実は持つ。
「そう言えばアスディル。マナの実はポーチに入れるのか?少し狭いが」
「あ~……俺はコッチ」
そう言ってアスディルは何時も付けているポーチの横に並べた小さなポーチから細長い瓶を取り出した。その中身、液体の正体を悟ったコラキエルは目を見張った。きっと中身はマナの実を絞った濃縮の液体。
「お前」
「……レイと柑と、俺は仲間で居たい。でもあの2人の実力はとんでもなくて、俺はそのとんでもない実力の場所に辿り着かなきゃいけない。なら、この大戦は悪いがいい機会って奴。どれだけ怪我しても、俺は魔物に立ち向かうよ」
「……ケガしないのが、一番だけれどもな、マナの実絞った液体は特に苦いから」
「だなっ後ほら、俺魔法界分で丈夫らしいし」
「流石の魔法界でも急所狙われたら危ないから覚えておくように」
すっかり打ち解けたアスディルとコラキエル。足元にはいまだ回復していない隊員たちが転がっているが仕様だった。
警戒2日目の昼。魔物の出現は納まった。その数レイエルの見立て通り5万。魔族がさらに来る可能性を清晃は危惧したがレイエルと柑の意見が合った。
「多分魔王殿、まだ完全に魔界を掌握しきれていないだろ。何せあちらさんも魔王に成ってから99日目だ」
「えぇ。おそらく魔物は意のままに操ることのできる手段が有るからこそ今回使役しやってきている。ですが魔族はまだ。ならば、来る魔族は少ないでしょう。ほぼ居ないと推察できますが」
「居て……ティミエルぐらいだろうな」
「えぇ……そう言った種族変更、可能なのでしょうか?」
「人間界だと堕天使って概念があるけど」
「墜ちる前に幽界行くからなぁ……わからん。だが、どんな状態であってもティミエルは居るだろう。今だ帰ってこないのがその証拠だろうよ」
「……ティミエル……」
変わってしまったかもしれない友人を思い清晃は下を向く。その背をレイエルは思いきり叩いた。
「終わったらいくらでも落ち込んでいいが、今は前を向け清晃。それが総大将の勤めってやつだ」
「……わかった」
「じゃ、今日も警戒態勢、緩めに頑張ろうぜ?」
「緩めなんだ」
「どう考えても100日目に上がってくる魔王殿待ちだろコレ」
緩くも警戒は怠らない。慣れない緊張感で天界軍も疲労がたまる。マナの実に関しては栽培している外周コロニーが不揃いな品を提供してくれてビアへエルが水鏡を通して取り寄せている為余剰分はある。それでも疲労は貯まるもの。前衛班だけではなく後衛班も何人か身体を動かす為にリスエル達の特訓に入るぐらいだった。
「俺も入りてぇ」
「そう言わない」
向かって左側、天界軍が多く、また硬そうな魔物も多い領域。そこを見回っていたレイエルは遠くを見た。そんな相棒の心情などお見通しだった。
「落ち着きませんか?」
「……そりゃ、な。大戦は初めましてな天界軍、指揮を取るのは聞きかじりの軍師殿、そして総大将は大親友殿」
「加えて敵総大将は恩人、と言う所ですか?」
「……まぁな。気付いてたか」
「えぇ。でもアレクエルさんはよくやってくださっています」
「それは俺も認める。っと、噂をすれば」
「レイエル様っ柑様っ本陣、瘴気の穴に合わせた方がバランス良いと思うのですが」
「ですが確実に本陣と本陣を繋いだ線が分かれ目となります。3万と2万、敵のバランスは悪くなりますが」
「いや。でも戦力バランスとしては妥当だ。動かして良い」
「わかりました」
「馬の乗り方、清晃に教えるのお前がやってやれっ」
「僕は付け焼刃なのでその点レイエル様にお任せしますっ」
馬を乗りこなし、アレクエルは本陣に向かって走っていく。そんな頼りにならなそうで頼りになる新米軍師の姿を、2人は笑顔で見送るのだった。
警戒2日目の夜。魔物達はそこに居るが何もしない。真実明日、魔王が来て、戦闘は始まるのだろう。緊張の夜が更ける中、アレクエルは見回り帰り、少しだけ動かした本陣で清晃が外を眺めている事に気が付いた。
「清晃様?」
「アレクエル……お疲れ様。どうだった?」
「魔物に動きは無し。レイエル様の見立て通りならば明日が本番かと」
「そう……」
震える手を見て、アレクエルは主を見る。彼は、泣いていた。
「……よわね、いっていい?」
「いくらでも」
「……怖いよ……敵はあのアルト様で、ティミエルも傍に居るかもしれなくて、天界軍は古参がほとんど幽界落ちしている関係もあって第一次を経験している天使は居なくて……そんな中、戦えるのがアスディルと柑と、レイエルで」
「……」
「こわいよ……ここで、レイエルとアルト様の戦いを見ている事しか出来ないなんて。レイエルに何かあったら……俺は……おれはっ……」
「清晃様……」
震える主の手を取る。いつもそうだった、端で震えるだけの自分の手を取ってくれるのは清晃の役目だった。だから、今日は自分が、その手を取る日だった。
「清晃様、大丈夫です。レイエル様には柑様と言う相棒が出来ました」
「うん……羨ましい関係だよね」
「アスディル様と言う仲間には、リスエル様とコラキエルさんが一緒です」
「……うん」
「スパスィエル様も、ビアへエル様も……留守番のアナラエル様も、貴方様に付いて居ます」
「……だね」
「微力ながらではありますがこの僕も、清晃様のお傍に居ます」
「アレクエル……」
「だから、大丈夫です」
何時も震えている従者に、無茶をさせている自覚はあった。さらに無茶を重ねさせてしまったことを申し訳なく思いつつ一番怖いことを口にした。
「アレクエル、お願いがある」
「何なりと」
「……俺に、この俺に何かあった時、天界を、この世界をお願いしても、良いかな?」
「……随分と、重いものを」
「アレクエルにしか頼めないんだ。レイエルに頼んだらぶん殴られそうで」
「まぁ、拳は飛びますね……えぇ。解りました。お任せください」
「ありがとう……ごめんね」
ふらりと本陣を離れるアレクエル。そこへランプを持って見回りに言っていた柑とレイエル、アスディルに出会った。
「っおいどうしたアレクエル」
「ぇ」
アレクエルは泣いていた。気付いた時、涙と声が追い付いた。崩れ落ち泣き出したアレクエルをレイエルは支える。柑は背中を擦り、アスディルはランプでアレクエルを照らしていた。
「ぼくっ清晃様のっためっにっでもっでもっ」
「……ん。アイツはな、人に1人で背負い込むなと言いつつ自分は背負い込むような奴だ。その背負ったのを少しでも、どんなに重くても分けて貰えたんだ。信頼の証だよ」
「っ……レイエル様っ……ぼく、は」
知っていた。気付いていた。魔王に成った先代の目的がレイエルと戦う事と、清晃を殺すことであることを。その時のレイエルの感情を観察するのも目的に含まれている。それ位、レイエルはわかっていた。だが絶対させないと誓っている。もう、大切な人を失うのは、うんざりなのだから。
さらりと若草色のアレクエルの髪を撫でる。失った色彩の1つであるこの色を抱きしめ、泣き止むまで、傍に居た。
翌日、清晃が最高神になって100日目。天界軍が待機していたその昼の事、黒い影と紫色が魔界からの穴から出て来た。あちらは慣れた手つきで魔法生物の馬を繋ぎ、紫色は何やら連れていた鳥を土台に止まらせ、腰に下げていた鞭を取り出した。
「っ……ティミエル」
「髪、短くなってるという事は間違いなく今アイツは魔族だな」
「そんな……」
レイエル達も定位置に就く。パシンと言う鞭の音が合図。魔物も動き出し、レイエル達も動き出す。
かくして第二次天魔大戦の火ぶたは切って落とされた。
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