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012 帰る場所は貴方の元

魔王、秋央(しゅうおう)=カエルム・サマノスは退屈を嫌い、魔界から直通で天界への穴を開け、天魔大戦を行った。結果は天界軍、と言うか最高神、史真(ししん)=アルト・エーラの圧勝。ほうほうの体で帰り着いたカエルムが聞いたのは自分が開けた穴によって軍でも何でもないそこで生活をしているだけだったコロニーの1つを壊滅させたという話。天界に行くこともできる太陽の王、香鏡(こうきょう)=フォティゾ・イリョスに頼み込み、唯一の生き残りである青年に直接謝罪するほど、カエルムは善の者でもあった。


そんな王が開けた穴を下る影が2つ。1つは漆黒の瞳に漆黒の髪、服だけが純白に銀色の装飾を持つ史真=アルト・エーラ。そして若干おぼつかない足取りながらにも必死にその後を付いていくのはアルトに付き従うと決めたティミエル・グロル。紫の髪は時折大きく揺れ、顔色も悪い。何せ天使の身でありながら魔界の、瘴気の中枢に近付いているのだからそれも当然という話だった。


「……ティミエル、辛いならば」

「いえ……行けます」


毒にも等しい中をティミエルは進む。本当は友達の元に、新しい最高神になってしまった彼と、レイエルの元に帰りたかった。だがティミエルはアルトに付き従うと決めた。だから、必死に足を動かし続けていた。


洞窟のような場所が終わる。開けた場所に広がっているのは天界とは真逆の、森の多い土地。その中でも城のような建物は一目瞭然だった。


「……行くか」

「は、はいっ」


その前にとアルトは剣を抜き、鞘と、邪魔であろうマントをティミエルに預けた。わずかに残っている最高神の力、それを鞘とマントを経由してティミエルを守る障壁と成す。こんなところにまで来てくれた従者に、何もしないのは間違いだろう。


「っアルト様っ」


上から襲ったのは巨大な、蜘蛛のような魔獣。だがその8本の足も胴体も、一閃で切り刻まれた。


「なるほど、原産地なだけあるな。私でも見たことのない魔物も多そうだ」


ティミエルを連れ、アルトは走る。その間に襲い掛かる魔物は全て塵と化す。やがて城は大きくなり、麓に付いた頃には日が暮れそうになっていた。魔界にも日暮れの概念があるのだなと思いティミエルは城を見上げる。どうやって入るのだろうと考えているとギィっと正面の扉が開かれた。


「離れるな」

「はいっ」


自動で開く扉、それに誘われた先にあったのは大穴を望む泉。清めの泉に似ていたが性質は真逆だった。


「……なるほど。入らねば会う事ままならないと」

「アルト様……」


ティミエルから鞘とマントを返してもらい、装着し、其のままアルトは泉に入った。ジワリと衣装が黒に染まる。


「……ティミエル。ここが本当に最後の位置だ。ここに浸かってしまえばお前は本当に天界に帰る事叶わなくなる。今なら、まだ帰ることができるだろう」

「おれ……おれ、は……」


最高神の衣装が黒く染まっていく。アルトは本当に帰る気も無いのだろう。ティミエルはそっと足を泉に浸ける。靴越しだというのに瘴気の原液のようなモノは痛みすら与えてくる。


「っ」

「ティミエル」


帰りたい。リスエル、スパスィエル、ビアへエル、アナラエル、アレクエル、■■■■■、レイエル。確かに今ならば彼らは叩きながらも帰還を喜んでくれるだろう。レイエルだけは深いため息と共に小突いて頭を撫でるだけかもしれない。でも、そうしたら、目の前に居る方は、どうするのだろう。1人味方が居ない魔界で魔王に成り、1人この世界で、暮らすことになる。ならば、そんなこの方を見るぐらいならば。


泉に足を踏み入れる。焼けるように痛い、それでも、ティミエルは背中まで浸かった。天使にしてはそれほど長くない、毛量の少ない肩甲骨迄の髪が焼き切れるのが分かる。髪などに未練はない。


「おれ、の、かえるばしょは……あなたさまの、もとです」


そこでぷっつりとティミエルの意識は途切れた。あのアルトが慌てて駆け付けようとしている姿は、誰も見る者がいなかった。






目が覚める。覗き込むのは親友たち。


「あ、目覚めた」

「ちょっとレイエル~手加減してあげなくちゃ」

「悪いエオノス。たまの鍛錬と思ったらつい」


起き上がる。天界の演練場だった。なぜここにと思っても思い出せない。


「とりあえず、仕事しろ最高神」

「はぁい。ティミエル、行こう?」

「……」


そこでようやく、夢だとわかった。自分にとって最高神はあの方だけであり、目の前の彼は違うのだから。手を振り払う。驚いた表情が視界に入る。


「ティミエル?」


ならば、夢ならば、もう一度、彼にあの言葉を。紡げなかった続きの言葉も一緒に。


「さよならだな。■■■■■。俺の、大親友」


そうしてティミエルの視界は滲んで、消えた。






グラグラとする意識が回復する。そこは泉ではなく泉のほとり。どれくらい眠っていたのだろうと気付き、はたと見上げる。


「大丈夫かティミエル」

「あるとさま……?…………っ!?」


慌てて起き上がる。位置が間違ってないのならばティミエルはアルトに膝枕されていた。ティミエルは慌てるが、そう言えばと身体を見た。先ほどまでずっと苛まれていた息苦しさが無い。天界に居た時と同じように呼吸が出来ている。


「瘴気で身体が満たされたな。もう、後天的な魔族と呼んでも差し支えは無いだろう」

「……そうですか……いえ。これで貴方様に付き従えるならば」

「ふむ……名前が要るな。ティミエルは天使の名だからな」

「そう、ですね。魔族は苗字あるのでしょうか?」

「無いと聞く。ならば名だけ…………サイル、と言うのはどうだろう。魔法古語で水晶を意味する。この私の傍にある水晶の剣のように傍に居る者に相応しい名だと思うのだが」

「はいっ生涯大切に致しますっ」

「そうか……さて、ではこの城の主に会わなければな。行くぞ?サイル」

「はいっ」


もう天界に未練はなかった。ここに居るのはサイルと言う名の後天的な魔族だけ。永遠にこの漆黒の衣に身を包むことになった彼に付き従うもの。


いくつかの扉を経由し、その場所にアルトとサイルは辿り着いた。大勢の魔族が居る先、魔王、秋央=カエルム・サマノスは低い位置にある玉座に座り、2人を待っていた。


「遅かったの、史真」

「何。色々あってな。秋央」

「……用件を、聞こう」

「聞くまでも無いだろう?」


水晶の輝きを持つ剣が抜かれる。黒壇の鞘はサイルに預けられ、その切っ先をカエルムへ向けた。


「その座、簒奪に来た」

「……まぁ、そうじゃよな。ハウル」

「こ、こちらに」


呼ばれて魔族の中から出て来たのは小さい、異形の魔族。


「ハウルや。史真殿とその側近殿が魔王城に慣れるまでの間面倒を見てやりなさい」

「ぎょ、御意に」

「秋央?」

「そろそろ頃合いだという話じゃよ」


彼は自ら立ち上がり、その席を譲る、譲られた方も罠だとしても後戻りなどしないと決めていた。一緒に来てくれた、側近の為に。


「……ほう」


感嘆の声がカエルムから零れる。それほど、アルトの魔力は芳醇だった。魔界中にその魔力が行きわたる。


「……さて、どうするかの」

「そう言う事じゃろうと思ってっ」


トンっとフォティゾが降り立つ。瞬間アルトは嫌な顔をした。そう言えば此処に来てもこの男との関係は変わらないことをすっかり忘れていた。


「開幕嫌な顔とは酷いの史真殿」

「……上でも漢字名を解禁してきたのか?」

「うむ」

「と言うか魔界では漢字名が呼び名じゃからな。慣れるの頑張るんじゃぞ側近殿」

「は、はいっ」

「じゃあ香鏡殿。冥界迄頼む」

「任されよ」

「……冥王の座に就くのか?」

「あぁ。もちろん以降誰かが冥王として生まれたのならば譲るつもりじゃがな」

「そうか……まぁ良い。ここの統治に関しては……お前は権能でどうにかできたのだったな」

「うむ。その辺は行けそうか?」

「何。武力で平定すれば問題ない」

「流石の史真殿」

「うむ」

「……適宜見てやるからさっさと行け」

「では、後の事、頼んだぞ」


香鏡と秋央が消える。毎回恒例深いため息を吐いた史真。それはさておきと彼は魔族たちを見た。


「これより魔界は魔王、史真=アルト・エーラが統治する。異議のある者、かかってくるがいい」


武器が取られる。一斉に襲い掛かる魔族。だが、アルトは立ち上がりもしなかった。


「え、あ、じゃない、史真様!?」

「ちょいこっちき~なさいっ」


鞘を抱えたまま立っていたサイルの首根っこが掴まれる。引き摺られる間も魔族たちは端に打ち捨てられて行っている。


「アレ、ユクロかシュネで行ける?」

「う~ん……秋央様元々強くなかったってのもあるけど……いや強いなオイ」

「あ、来たね」


引き摺られた先、そこに居たのは露出度の高い服を着た女性と魔族が着る服なのだろうか大半の魔族が着ている服を身に纏った青年が2人だった。首根っこ掴んだそのうちのピンク色の髪をした女性は3人に合流するとサイルを置いた。


「とりあえずお名前」

「サイル、だ」

「俺はシンザ。夢魔と淫魔のハーフで今は淫魔組」

「ロジエ。こっからは純正の淫魔だ」

「アマダスちゃんとっ」

「カメルシィよ。でも、天界から来たなんてすごいわね」

「付き従うと決めたからな……って史真様っ」

「……いや、新たなる魔王様パネェわ」


ロジエと名乗った赤髪の青年の視線の先に居たのは誰も立ち上がっていない魔族と、退屈そうに座る史真の姿だった。すっと史真の視線がシンザ達に向けられた。


「そこの一団は、かかってこないのか?」

「……これは失礼いたしました。淫魔は正しく力量差を計れます。貴方様に立ち向かおうなどと言うことはとてもとても」

「……名は?」

「シンザと申します。とは言え夢魔と淫魔のハーフですが」

「淫魔の、現在の統領格は?」

「えっと、ここに居る4人がそうですが……あと無駄に強いのが2人。現在魔界の端に討伐任務中でして」


手駒に使えそうなのはこれぐらいかと史真は認識する。自分に相対する水色の髪の青年を見て、史真は愉快な心持になった。これならば、差はいくらでも埋められる。


「……サイル」

「はいっ」

「シンザと他3名にも命じる。まずは取り急ぎ、5万で良いな。魔物を集めよ。発生が必要ならば発生方法も伝えると良い」

「すぐにでも」

「あぁ。そしてその後、時間は掛けて良いが、3魔を軍として再編させる」

「軍、ですか?」

「あぁ。前衛班、後衛班、支援班に分け、それぞれで統率を成す」

「……貴方様は天界で軍を必要になさらなかったと伺いました。どういう心境の変化でしょう?」


淫魔は魔王の側近にもなるほどの近さを誇っている。おそらく秋央に聞かされたであろうことだけは察せられた。


「聞きたがるとはな?」

「申し訳ありません。研究職の性で」

「私が対峙するのはレイエル・ラージレット、それも己の望みを叶えたアレのみ。その頃には仲間とやらも増える。露払いに、軍は必要だろう?たとえそれが淫魔しか使い物にならない軍だったとしても、だ」

「そうですね。えぇ。承知いたしました。ロジエ、他の魔族呼んで、史真様の玉座の周り片付けさせちゃって。ハウルは史真様に寝室含む魔王城を案内して差し上げて。サイルはこちらで預かるとして……鞘返してくれば?」

「お、おうっ」


鞘を返し、ロジエが呼んだであろう魔族がわらわらと倒れた魔族を運び出す。サイルが淫魔の一団と共に廊下に消えたのを見送り、史真は魔王城の中に足を踏み入れていった。


「えっ俺後天的に淫魔に成れるの??」

「多分ね。計算上淫魔の泉に入り浸ればって感じだけど。そうしたら、そのちょっと残念な魔力、どうにかなると思うよ」

「でっかいお世話だ」

「あははっでもた~のし~っ仲間増えるの、シュネとエクリが現れた時かサフィロが降ってきたとき以来じゃん」

「さっき言ってた、強い奴?」

「が、シュネって言う淫魔。多分女子最強。もう1人がユクロ。こっちは男子最強。両者戦っても永遠と決まらないぐらい実力拮抗」

「サフィロとエクリは居るから、会わせてあげるねっ」

「お、おう」

「アマダスちゃん。サイルまだ淫魔耐性付いてないんだから」

「こりゃ失礼」


淫魔耐性どころか身近に女性型天使も居ない弊害でサイルの女性耐性は悲しいほど無かった。


そして案内されたのは淫魔の泉。その畔に、彼女は居た。サイルは息の仕方を間違えるかと思った。なぜならそこに居たのは(けん)に瓜二つの、女性だった。年の頃も、黒曜の黒髪も赤茶色の瞳も、髪の毛の長さと性別以外まったくの同じ。


「サフィロ~っ」

「あら、もう魔王様の方良いの?」

「なんとね、魔王様交代。新魔王様めっちゃ強し」

「……それ、割と大事では??」

「何々?」


オレンジ髪の少女がやってくる。その色彩に置いてきた親友を重ね少しだけ心が痛んだがそれよりも彼女だった。


「あの、黒髪の子」

「あぁ。サフィロだね。オレンジのがエクリ」

「なんだ?サフィロ惚れたか?やめとけアイツは性格が悪い。こいつと日々研究に明け暮れるし」

「俺の研究仲間って感じかな」

「……知り合いに、瓜二つで、ビックリしてる」

「……サフィロ、この泉に落ちてきたんだよね。多分人間界に空いてる時空の穴かなんかに落ちて。それまでの記憶も何もなく、ここで淫魔になった」

「……いやでも似すぎてる」

「サフィロ~っ」

「なにシンザ……って何その魔力ゴミみたいな新入り」

「ごみ」

「あはは。こう見えて新たなる魔王様に付き従って瘴気の泉にまで入った猛者。彼が知り合いにサフィロそっくりな人が居るって」

「え!?」

「あ、うん。髪後ろで纏めてみて?」

「こう?」


サフィロの長い髪が見えなくなる。そうしたのならば完全にその顔は彼のモノだった。


「うん、柑にそっくりだ。えっと、魔王様が戦いたがってるレイエルってのの仲間の1人」

「シンザっ戦闘のご予定は!?」

「とりあえずサフィロは落ち着いて。後で魔王様にもご確認いただいた方が良いよね?」

「だな」

「とりあえずあのご様子じゃ100日前後で魔物集めなきゃならないから魔物回収皆で行こうか。その間サイルは泉入ってて」

「えっ」

「多分、魔王様は集めた魔物と共に天界軍と一度交戦するお積りだ。その時一緒に行けなくて良いの?」

「いく、つきしたがう」

「はいよくできました」

「……なんか乗せられた気分」

「諦めなさいサイル。シンザは終始あんな感じよ。アレで魔族3番手の実力者だし」

「1番2番は差が付かないがユクロとシュネ?だっけ」

「そっ」


藍色の髪を揺らし、カメルシィは笑う。本当にああ見えてシンザは魔族3番手の実力者。そして断トツトップの発明家でもある。文武両道の彼と腐れ縁になっているカメルシィ。それもまた大変だった。



新たな魔王に関し、食魔、夢魔からは反抗するモノが出て来たが淫魔からは誰も反抗するモノが現れなかった。もちろん最初は血気盛んな辺りが向かおうとしたが、それを止めたのが檜皮(ひわだ)色の髪の女性と、赤銅色の髪の青年だった。


「止めた方が良いよ。僕達で持って10数えられるかどうかだ。君達ならば瞬き半分だ」

「そうですね。とは言え何やらご用事終わり次第手合わせ願い出ても良いでしょうかね」


サイルが魔界に来て50日後に帰還したシュネとユクロ。どっさりと魔石を持ち帰った彼女と彼は魔王に謁見の後淫魔の泉で新たなる魔王をそう評していた。まぁそりゃそうだろうと淫魔の泉に今日も浸かりながらサイルは考える。それにしても、ユクロと言う青年、淫魔の大半が年嵩に見える見た目の為青年と称しているが1人だけ少年のように小さい。おそらくアレクエルかアスディルと同じぐらいの身長だろう。そんな彼が最強、大丈夫なのだろうかと思っていると高速で石が飛んできた。


「がふっ」

「な~にやってんのさユクロ」

「いや……なんかこう、腹が立つ評された気がして……誰です?あの魔力ゴミな新入りさん」

「サイルっていう元天使。魔力マシにするため今泉に浸かっている所」

「へぇ……」

「なるほ」

「しゅ~ね~っ」

「お、エクリちゃんただま~」

「おかえり~っどうだった?魔法界から這い出てきた赤竜の討伐っ」


泉に沈んで泉の水を少し飲んでいたサイルは盛大に咽た。見かねたシンザが背を擦りに来てくれる。


「……あの2人、何倒しに行ったの」

「赤竜。魔界と天界が繋がってるのは1ヶ所だろ?魔界と魔法界は結構な数繋がっているんだよ」

「……なんで赤竜??」

「それこそ天界で暴れる気で登って来たみたいだよ。六嘉様、六陽様の連名で倒してほしいってお願いだったから」

「そっか」


赤竜を2人がかりとは言え倒す実力。とりあえずレイエルにぶつけるのはまだしもアスディルになら対抗可能だろうと考えながら岸に上がる。そうすると岸辺でピンク髪が揺れていた。


「流石に50日じゃ魔力ゴミからゴミカスに変わったぐらいか」

「それなんか悪化してないかアマダス」

「まぁ、こればっかりは仕方がない。史真様、おそらくお前さんが着て100日後に攻めるお積りだよ」

「根拠は?」

「5万招集が叶うのが90日後って言ったら丁度良いって笑わなくても笑ってたから」

「史真様、本当に表情無いのね。いやまぁ香鏡様来た時嫌な顔してたけど」

「億万を超える年月をお1人で過ごされたから感情の出し方を忘れただけだよ」

「それは……それもそれで寂しいね」


そして、サイルがサイルになってから95日目の事。魔王の城に呼ばれたサイル。淫魔主力組も覗き込んでいる。そんな中、史真は玉座に座っていた。その姿は最高神の玉座に座っている姿よりずっと自然だった。


「サイル。明日、魔物を天界に上げ、我等が魔界に降りてから100日の時を数えた時、第二次天魔大戦を開始する」

「御意に」

「目的は……最高神の殺害だ」

「っ!?」

「代替わりが可能と分かったからな。次になるのはレイエル辺りか?まぁそれも興味深くはあるな」

「…………」


何も言えなかった。今最高神の座に居るのは親友だった彼なのだから。そんなサイルの動揺を見透かしたように、アルトは言葉を続ける。


「……見たくないのならば、魔界で留守番をしていると良い。そちらの方が、心に傷を負わずに済む」

「………………いえ、お供いたします……何が合っても、何が起こっても、付き従うと決めたのは俺ですから」

「そうか……シンザ。画面魔法は万全か?」

「ご指示通り、と、言いたかったのですがどうしてもその映像を見る媒体が必要でして……俯瞰で見ることができるよう鳥型にしておきました」

「範囲内だ、よくやった」

「サイル、とりあえずコレ」

「思ったよりデカい鳥だった。ナニコレ」

「フクロウっていう人間界の鳥に似せてある」

「へぇ……」


そうして翌日、魔物たちが上げられた。そのさらに3日後、アルトは魔法生物の馬に乗り、フクロウ型の撮影機を連れたサイルを伴い、天界への洞窟に入った。


「史真様、魔王姿似合いすぎじゃない??あの方約100日前まで最高神だったよね??」

「う~ん……これが選択ミスと言う奴じゃね……」

「何その感想」


わいわいと見送ってくれた淫魔達の声も遠くなり、100日ぶりの天界の太陽の下に出る。既に天界軍は後方に、薄紫と黒2つは前方に出る布陣で彼らは存在していた。中心、薄紫の後ろ、オレンジ色の最高神を見たその瞬間だけ心が痛んだ。だが、それを振り切る。預かっていた土台を展開し、フクロウを置く。


『見えてるし聞こえてるかシンザ』

『うん、両方ばっちり。淫魔通信網入れて良かったよ』


淫魔には淫魔だけが念話に似た状態で繋がれる通信網が存在している。それが淫魔通信網。淫魔の泉に浸かり続けて80日目でようやくサイルもその通信網に入ることが出来ていた。とは言え天界まで通じるか分からなかったが淫魔の泉に居るシンザに通じたのならば重畳だろう。


『とりあえず俺達は見るに徹するから、頑張って』

『言われなくても』


とは言え天界軍はそこまで使いものにはならないだろう。そして今は自分の後ろに居るお方はレイエルに当たりに行く気満々。なら自分に出来ることは、柑とアスディルを長く離れた戦場に留め置くよう魔物たちを使役するだけ。シュネから渡された魔物制御用の鞭をしっかり握りしめる。付き従うだけではダメなのだ。役に立たなければ、何の意味も無い。


「サイル、号令を」

「御意に。魔物達、天界を蹂躙せよっ」


パシンと言う鞭の音が合図。魔物達は一斉に走り出す。


かくして第二次天魔大戦の火ぶたは切って落とされた。








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