010 内緒の話
最高神が回廊に消えると、入れ違いにやってきたのは中枢4天使と補佐組の3人。中でも、フォルエルが突撃を駆けてきた。
「おかえりレイエル~っ」
「っと、はいはいただいまフォルエル」
「お疲れさん」
「ありがとなティミエル」
わいわいと友人たちに囲まれていくレイエル。それを見ながらアスディルはぽかんとしていた。
「どうかしましたか?」
「レイ、もしかしてアレ全部を知り合い認定して友達と思われてた感じ?」
「まさしくその通りですね」
「無関心極まれりじゃん」
「困ったものです」
「聞こえてるからな柑、アス」
「バレた」
「ふふっ」
招かれアスディルと柑もその中に入りに行く。天界中枢の面々でもアスディルは臆さない。
「最高神付き補佐官のフォルエル・レランパゴです」
「同じく補佐官のティミエル・グロル」
「フォルエル様の秘書官のアレクエルです。あ、苗字は無いです」
「天界軍総大将、リスエル・ノールだ」
「天界軍武器管理人のスパスィエル・エストです」
「人間界観察班主任のビアへエル・エナと申します」
「神殿外の上級街管理人のアナラエル・エカトよ」
「改めてアスディル・ファーレット。よろしくっ」
自己紹介も終え、レイエルと柑は装備を解除していく。ブレスレットから槍と剣を取り出すとスパスィエルにブレスレットごと預けた。
「さて。じゃあフォルエル、また来るから。主にアスの特訓の為に」
「うん。わかった」
とりあえず着替えて、アスディルだけ私服姿だがとりあえずと帰宅する。そんな姿を見送っていたフォルエルだったが見えなくなると沈み込んだ。
「何、え、愛称、なにそれ、え、なに順応してるのレイエル??」
「お、コレはフォルエル親友の座の危機か?」
「ティミエル~っ」
「っし、俺は見回り任務の報告受けなきゃな」
「僕は武器を保管します。アスディルさんなに使うんだろう、楽しみです」
「自分はようやく最高神の間から辞せますよ……あの任務疲れますね。もうやりたくないです」
「まぁまぁ……ほ~ら。フォルエルちゃん。お仕事しないとアルト様、またうっかりやらかしちゃうかもよ?」
「わかってる。うっかりよくない」
ティミエルとアレクエルに伴われ、フォルエルはとぼとぼと執務室方面へ足を運んでいく。仕方がないなと苦笑いを浮かべながら中枢4天使もまた各々の仕事に戻っていくのだった。
図書館に辿り着いたレイエルと柑とアスディル。空間拡張で部屋を創り出し、アスディルの部屋とした。元々2階部分には余剰空間が合った為、造作も無い事だった。
「さて。まず必要なのは服、だな」
「その青と赤の?」
「えぇ。神殿に向かう際の正装、ですね。僕達の戦闘服は先ほども行った詰所の中に置かせてもらっているのです。武器はスパスィエルさん預かりですからね」
「後は日常着。柑、とりあえず着替えるか」
「そうですね。久しぶりに着たので肩凝りますこの服」
2人は着替える。さてとレイエルは思案した。今のアスディルの服装ならば戦闘に出ても問題ないだろう。戦闘服は柑と同じく人間界で着ていたこの服で問題無し。ならば必要なのは日常着と正装。正装は形が決まっているので色と、日常着のデザイン。
「っし、日常着と正装だな。正装の色何色が良い?」
「橙っ好きなんだっ」
「おや。赤寄りの服増えちゃいましたねレイ」
「まぁしゃーない。あと日常着どんなのが良い?柑は、華国の服を改造した奴着てるが」
「ん~……じゃあ」
「あぁ、描きましょうか」
色々協議した結果、アスディルの日常着は半袖シャツにベスト姿に決定。柑が華国の騎馬民族服をアレンジした日常着を頼んだ時の縫製の仕事をしている天使に正装の制作と共に依頼。10日後には出来上がってきた。
「えっカッコいいっやったっ」
「そりゃよかった。足につけまくってたポーチ、どっちに置く?」
「一番大きいのは普段も付けておく。他は薬品入れも兼ねてたから詰め所に置いておくわ。何かに使えるかもしれないし」
「了解。じゃ、今日も図書館開館だな」
「は~いっ」
「えぇ」
図書館の常連客も10日もあればアスディルの存在に慣れた。さらに楽になった業務を続けていると、いつもの少女はやってくる。
「久しぶり、郵便です」
「おう、ど~も」
封筒を開く。中にかかれていた内容を見て、少し首をひねった。でもまぁなんとかできるかと考え封筒を仕舞った。
「おや、お早いお呼び出しで」
「だな。一応神殿には連れて行くがリスエルに手合わせ頼んでおこうぜ」
「それが最良かと」
翌日の事。レイエルと柑はアスディルをリスエルに預け討伐に出立。そのままアスディルは天界軍と手合わせと相成った。
「そ、そこまでっ勝者アスディル・ファーレットっ」
「……小隊長全滅かよ」
「まだ行けるぜ~っ」
棒を自在に操り笑うアスディル。そこに投入されたのは漆黒の髪に茶色の瞳をした、青年。
「天界軍総大将補佐、コラキエル・ギャルドです」
「アスディル・ファーレット。よろしく」
強い、とアスディルは感じていた。それでも負けていられない。きっと自分が目指さなくてはならないのはレイエルが居る頂なのだから。その背を預かる柑、2人の助けに少しでもなればと、アスディルは棒を握りしめた。
「では、始めっ」
模造剣と棒が舞う。両者の実力は、互角だった。
レイエルと柑が出立したのは昼前、夕方頃に殆ど返り血も無く帰参した2人を待っていたのは白熱する演練場だった。普段ならば真っ先にやってくるフォルエルもその喧騒の中に居た。
「……何ごと」
「あ、レイエル様、柑様、お帰りなさい」
「アレクエル、何ごとコレ」
「アスディル様とコラキエルさんがかれこれ3時間越えで戦っていらっしゃって」
「……張り切るなぁアスも。コラキエルもだが」
「確かリスエルさんの側近の方でしたよね?」
「あぁ。視えそうな場所有るか?」
「レイエル~こっち」
声に振り返る。スパスィエルの武器庫、その屋根の部分に居たのはティミエルとスパスィエル。飛び乗って演練場に顔を向ければ汗だくになりながら両者戦い続けていた。レイエルの目から見えても彼らは互角。感嘆の声が出る。
「へぇ。思った以上じゃないか」
「ですね。でも棒、槍と言う動きでは無いのですよね。何かいい武器無いでしょうか」
「あっ柑さん、節棍という武器をご存じですか?」
「えぇ。西の武器で……そうか。その手が」
「ご相談でっ」
「もちろんです」
柑とスパスィエルは飛び降りて中に入る。残ったティミエルとレイエルは顔を見合わせた後演練場に顔を戻した。長い闘い。そして決着は付く。弾き飛ばされる剣。突きつけられる棒。天界軍の喝采が広がった。
「は~……疲れたぁ……」
「っ……は……さすがに、俺もだ」
「またやろうなコラキエル」
「次は負けませんよアスディルさん」
握手が交わされる。リスエルの指示で散開する天界軍、ティミエルと一緒に降り立ったレイエルにフォルエルが気づいて駆けつけてきた。
「レイエル、いつ帰ってきたの?気付かなかったや」
「ほんの少し前だよ。すごかったみたいだな」
「えぇ。ほとんど互角、今回はアスディルさんが勝ちましたが、と言う感じでしょうね」
「あれ?柑は?」
「そうだった。柑っ返り血ほとんど無いとはいえ泉は行くぞっ」
「忘れていました。スパスィエルさん、また後で」
「はいっ」
レイエルと柑、付いてきたアスディルも泉に入る。アスディルとしては必要が無いのだろうけれども気分的に汗を流しておきたいと言うのもあった。
「あ、でもなんかすっきりする」
「人間寄りの妖精だからな。清めの泉は相性がいいだろう……そして、長らくの疑問が解消された。柑、毎回おっかなびっくり泉に入ってたのって」
「はい……水、苦手で」
「そこで言えよ……」
脱力しながら泉を出る。柑は迷わずスパスィエルの武器庫へ向かい、レイエルとアスディルはリスエルに激励されているコラキエルに近寄った。
「よっコラキエル」
「レイエル様。お久しぶりです」
「様付けいらないって言ってんのにな」
「リスエル様の同僚でいらっしゃいますから」
「そうかい。ちょっとだけ見たが凄かったな」
「まだまだ、と言う話です」
「俺ももっと頑張るからなっ」
「負けませんよ」
ある意味良い練習相手が双方出来て良かったとリスエルとレイエルは笑い合う。小隊長の実力は天界の中でちょっと強い程度。魔物を10体倒すのがやっと。コラキエルはリスエルと同程度、30体倒せる実力を有している。故に手合わせの相手がリスエルしか居なかった。アスディルを実戦投入するまで、2人で鍛錬してもらっていた方がレイエルの願いの為にも良い事だった。
「すみません。遅くなって」
「何を……設計図??」
「今度仕上げて武器職人の方とご相談です」
「俺の?」
「えぇ。楽しみにしていてくださいな」
「やったっ」
着替えて、設計図と共に帰宅する。図書館の広いテーブルの上、広げられたのは三節棍と呼ばれる武器の設計図。だがところどころ変わった仕様が書き加えられていた。
「……普段は棒、もしくは節棍の状態で携帯出来て棒に変形も可能、さらには部分部分で節棍に変形も可能……盛るなぁ……」
「つい」
「棒に何か付いて、振り回す、そんな感じ?」
「えぇ。アスの動きを見る限り行けそうだなって」
「多分行けると思う。ただの棒よりモップの方が振り回しやすいから、重心が外向きで行けると思う」
「それは良かった。まぁコレに関してはみっちり特訓ですからね」
「わかったっ」
楽しそうに笑う2人。レイエルは、改めて2人に告げておこうと思っていた。
「……柑には話したけどさ。アス、柑。俺には願いがある。絶対に叶えなきゃいけない、でも、詳細は誰にも明かせない願いだ。もちろん信頼していないから明かせないんじゃない。信頼しているからこそ、誰にも明かせない願いだ」
「……願い……」
「……えぇ。聞きましたね。死んだら代理で叶えなければいけない程の願い。随分と重そうですね」
「重いよ。重い。でも、その重さは俺が背負う」
「……そうですか」
彼はそう言う天使だった。思い直した柑は軽くため息を吐く。だがレイエルの言葉はさらに続いた。
「でもさ、そのためには、願いを叶えるためには俺には仲間って奴が必要なんだ。絶対に信頼できる、実力のある、仲間」
「仲間……そちらは初耳でしたが……」
「……なって欲しいんだ。俺の仲間に。柑の実力は信頼に値するし、アスだって今のままでも十分かもしれないけどこれからもっと鍛えてく」
「……うん。レイにそこまで言われて、ならない俺等じゃないよな」
「えぇ。そもそも、相棒を仲間に加えなくて、どうするのですか?」
「柑……アス……」
「願いの内容、いつかは話してくれるその時を楽しみにしていますね」
「……あぁ。そうだな」
いつか、梓翠との事、話す日が来るのだろう。例えばそれが自分だけの思い出であったとしても、2人になら、梓翠を助けられた後話しても良いかと思うほど、レイエルは2人を信頼していた。自分でも、驚くぐらいに。
「ありがとう。気が楽になった」
「時間制限などあるのですか?」
「……あと、25年だ。そこで俺は願いを叶えなければならない」
「そうですか。では、もっと仲間を集められそうですね」
「柑?」
「そうでしょう?何をやらかすのか存じ上げませんが、僕とアスだけでは荷が重いという話。荷を分散して持ってくれる仲間、欲しいと願うのは自然でしょう?」
「……俺の実力判定厳しいぞ?」
「僕に食らいつくかアスと同じ程度で良いのでしょう?おそらく今回と同じような任務か何かで降り立つその先、1人2人ぐらいは居るでしょう」
「だなっ沢山居た方が楽しいしっ」
「……そうだな」
沢山の仲間。今のレイエルには考えられない単語。だが、きっと仲間はまだ集まるのだろう。レイエルの勘はそう告げていた。何よりそちらの方が、梓翠を救える確率が上がる。相変わらず打算的な感情でしか動けない自分でも、それ位は理解が出来ていた。
アスディルの武器が出来たのはそれから半月後の事。武器職人、絡繰り職人、魔法道具職人の合わせ技。もう頼んでくれるなと懇願されたのは笑い話のひとつ。
「魔力で変形するんだ」
「えぇ。と言う訳で、実戦です」
「いきなりお前の2刀は辛くね?」
「こう言うのは厳しめで行った方が良いのですよ」
討伐帰り、泉に入った後、2人は演練場で対峙した。刃と棒が合わさる。棒自体魔石製でかなり硬い。金属が打ち合わさる音に似た音が響き渡り続ける。そしてその変化は起きた。棒が3つに分離、跳躍のまま柑の剣をからめとろうとしたが柑の身のこなしで不発に終わる。ならばと今度はアスディルの手元に残った棍から鎖が伸びる。遠くに着地したアスディルは鎖を柑に巻き付けようとする。だが、2節残っていた棍を手に取った柑は勢いそのまま引き倒す。鎖を伸ばすのが一瞬遅れたアスディルは勢いそのまま倒れ、地に臥せった。
「……初回でこの動きが出来るならば上々ではないでしょうか」
「うきゅう……はっ」
「あ、気が付いた」
「流石魔法界」
「これ結構面白いっ戦術色々考えられるなっ」
「えぇ。スパスィエルさん。いつも通りに」
「はい。アスディルさんのも預かりますね」
「今日からよろしくなっ」
武器を預け、3人は帰路に就く。そして彼らの特訓の日々は始まった。
レイエルと柑のお墨付きをもらい、アスディルが魔物討伐に参加するようになったのは彼が天界に来て3年の月日が流れた頃だった。
「ほっと」
棍とそれに繋がる鎖が魔物を切裂く。最初こそ硬さに3体で音を上げていたが今では30体は余裕で刈り取れるようになっていた。
「っと、封印終ったぞ」
「はい、今日もお疲れさまでした」
「お疲れ~とりあえず最高記録、40体っ」
「おや凄い」
「て言っても500刈り取ってる2人に比べたらまだまだだよなぁ……」
「十分だって。に、してもだ」
平原を見るレイエル。彼等が今日刈り取った魔物の数はゆうに1000を超えていた。いくらなんでも数が多すぎると、レイエルですら思う事態だった。
「……多すぎますよね。どう考えても」
「あぁ。2人になってから跳ね上がったが、3人になってさらに上がるとはな」
「ですね……どうします?」
「なに、良い鍛錬だと思うよ」
「それもそうですね」
「帰ろっか」
「えぇ」
柑に教わり、アスディルも足場固定の魔法陣を駆使し空を駆ける。レイエルも人間界での任務の際使えるかもしれないと思い教わっていた。帰還し、泉に入り、着替えて報告。その際、最近妙だった。
「お疲れレイエル」
「ティミエル。フォルエルは?」
「執務室。帰って来たって声掛けたけど仕事するって言ってさ」
「へぇ」
「最近変なんだよアイツ、なんか色々ビアへエルと話してるし」
「……そっか。時にティミエル、お前暇なのか?」
「アイツが仕事終わらない限り基本俺は暇だよこの野郎」
「はいはい。でも、いつも顔出ししてくれてありがとうな」
「ま、友人の安否位案じますよ俺だってね」
「そっか。とりあえず帰るわ」
「またなティミエル」
「おう、またなアスディル、柑も」
「えぇ。また」
3人を見送ったティミエルは考え込んでしまう。最近レイエルの出陣要請が多いのだ。それもほとんどが大規模。スパスィエルやリスエルに確認したところ1000体クラスの超大型瘴気ばかり。本来、天界にそんなに瘴気が噴き出すことは無い。最高神アルトの権能がそれを抑える筈だから。だが最近は3日に1度レイエル達を呼ぶ状態だった。
「っ……」
ティミエルは知っていた。誰よりもその状況に怒っているのがフォルエルであることを。きっとフォルエルがレイエルに会わなくなったのは帰ってきたレイエルを見たならば怒りを爆発させてしまうから。
「……アルト様……一体、何をお考えなのですか?」
表情のない主の心境をティミエルは理解できない。それでも、それでも自分はあの方に付き従うと決めている。上級天使時代、楽隊に居たティミエル。そのあまりの技巧に除け者にされ1人練習する日々。それを聞きに来ていたレイエル。そして、そんな自分を補佐官に据えてくれたアルト。どちらも大事で、どちらも失いたくない。
「……なぁ……何を考えているんだ?……フォルエル」
答えが返らない問いが神殿の回廊に落ちて消えていった。
アスディルが天界に来て5年の月日が流れた。期限まであと20年。柑の言う通りさらなる仲間を欲するレイエルの心境とは裏腹に人間界に行く任務は存在しなかった。
「その代わりっほぼ毎日討伐だがなっ」
「やはり多すぎますよねっ」
「同感っ」
めきめきと実力を付けてきたアスディル。討伐可能数は200を超えた。3人背を合わせ戦う事にもすっかり慣れきっていた。
「っと、穴発見っ」
「封印する」
封印術具を突き立て、封印する。討ち漏らしを討ち取り、綺麗になった平原で息を吐く。本日の討伐数は1457体。最高記録である。
「レイ、髪、凄いことになってる」
「げっ毎回髪飾りするようになってから減ったのに」
「この返り血カピカピするのですよね……邪魔です」
「とりあえず急いで帰ろう」
「おうっ」
神殿に帰り、リスエルとスパスィエルの出迎えを受ける。泉に入ると思わず一息ついた。
「アスがこっちに来るとき何個か髪飾り持ってきてくれてて助かったわ」
「レイに似合うの選んだからな。折角だしと思って」
「そう言えば、スパスィエルさんが何かできたと仰っていた気がしましたが」
「そうだったっ」
「よっし、着替えて報告もあるし、スパスィエルの所行くか」
泉から上がる3人。着替える前にとスパスィエルの武器庫に顔を出した。いつも通りスパスィエルが居て、今日はリスエルもそこに居た。
「アスディルさん。出来上がりましたよ。遅くなって申し訳ありません」
「無理言ったの俺だし大丈夫」
「何を……」
現れたのはレイエルと柑が人間界に降りる任務の際、武器を収納するために使っていたブレスレット。青と赤と並べられた所に3本目が並んだ。その色は、何処か琥珀のようなオレンジ。
「いや、レイと柑がこれから武器出すのカッコいいと思って、丁度ポーチの中に買ってあった琥珀石入れっぱなしだったし、コレで作れないかなって相談してたんだ」
「そこは魔法道具師の方の腕前でした」
「ありがとうっ」
「でも人間界に行く任務ってそう無いですよね?」
「気分だよ気分っいつかのどこかで使えりゃ満足っ」
「そう言うものか?」
「そう言うもんっありがとうなスパスィエル」
「どういたしましてアスディルさん」
こっそり人間界に行く任務を想定して準備していたアスディルの背を軽く叩くレイエル。本当にいい仲間に巡り合えたものだとレイエルは感じていた。着替えて目的地に向かう。
「失礼いたします。アルト様」
最高神の間。いつも通り報告をし、いつも通り帰るだけ、そのはずだった。
「……レイエル」
「……なんでしょうか」
「お前は、何に想いを馳せた?」
ピクリと目じりが動く。その問いは、確実に5年前の任務の時の話。だがとりあえず最初はとぼけることにした。
「何のことでしょう?」
「5年前、アスディルの任務の際だ。お前は時折、私が観測したことのない感情を発露していた。想いを馳せるという感情だと認識できたのがつい最近でな。問が遅くなってしまった」
最高神アルトは、無表情ながら何処か楽し気に聞いてくる。レイエルの回答を楽しむために。
「問おう、レイエル。お前は何に想いを馳せた?」
「それは……」
思い出が蘇る。梓翠との、絶対に救わねばならない彼女との思い出が。フッと、レイエルは笑った。
「それは、最高神サマと言えど、内緒と言う話です」
「ほう?」
「その感情は秘してしかるべき感情。ですので、何があろうとも、秘するのですよ」
レイエルはそのまま最高神の間から出ていく。柑とアスディルも続いていく。残されたアルトは愉快な心持になった。秘密と来た。最高神に、秘密と。それはアルトでなければ笑いが出る感情の状態だった。
「……あぁ……やはり、お前は観察の対象に相応しいな、レイエル・ラージレット」
その言葉が聞かれていることなど、最高神にはお見通しだった。
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