第九章 承転編
「夢なわけないでしょう。突然炎の精霊がやってきて、B子を出せって暴れ回ったかと思ったら、二階に行って器物損壊。B子さんと降りてきたかと思ったら、青春演劇のライバル関係よろしく水の精霊と肩組み合って帰っていくし。一階にいた冒険者は全員負傷して、在庫の薬草やポーションは品切れです。あれから大変だったんですから!」
受付嬢さんは飲み屋で私に愚痴ります。私はポーションのおかげで全快。それでも心は癒されず、冒険者が来ないと思しき場末の飲み屋に赴いたところ、仕事終わりの受付嬢さんと鉢合わせたのでした。
「それにしても。どうして私よりも恵まれている相談者の悩みを、私が受けないといけないんでしょうか」
私がA君やB君のような立場ならば、シアワセいっぱいの顔をして冒険者生活を送るというものなのに。
「シアワセの形なんて、人それぞれっていうことですよね。ふぃ~」
隣で呑んだくれる受付嬢さんは木のジョッキを空にしながら言いました。
「そうだアリスさん。ギルドの資料でアリスさんの登録情報を見たんですが、稀な魔法が使えるようですね。たしか【次元】魔法。私、使い手の人、見たことがないんですよ」
ああ、そんな魔法ありましたね。
受付嬢さんは私がおつまみで注文したアシナガヒヨコの唐揚げをつまみます。
「その魔法の最大攻撃って、特定範囲そのものにダメージを与えて、モンスターの耐性関係なく死に至らしめる魔法でしたね。アリスさん、極めれば冒険者としてランクアップできるんじゃないですか」
私は無言でお通しとして出されたニクショクエダマメをつまみ上げました。あれ? 身が入ってない。さては受付嬢さんめ、食べやがったな。
「アリスさん? あ、店主、お酒おかわり」
「地味じゃないですか。【次元】魔法って」
「はい?」
「時代は火・水・土・風・光、あらゆる属性の魔法を使いこなして持て囃される時代です。あるいは精霊と契約して強力な魔法を行使する精霊魔法。あるいは高度な回復治癒魔法で死にかけの人間を蘇生させ、魔法もないようなド田舎で信仰の対象になっちゃうような、そんな魔法使いになりたいんです」
たとえば二体の精霊と契約したB子さん。治癒のエキスパートのような聖女さんのように。受付嬢さんは言います。
「資料を読んだんですが、【次元】の魔法の用途は広いと思いました。空間と空間をつないで『転移』魔法として使ったり、手元の爆弾と空をつないで『空爆』したりと、活躍の場は多岐に及ぶようです」
「それじゃあダメなんですよ」
受付嬢さんは不思議そうに最後の唐揚げに手を伸ばします。あ、それ、私のぶん。
「いいですか受付嬢さん。皆の知らない魔法を使ったところで『何なんだアイツは』という目で見られるだけなんですよ。私が欲しいのは皆の想像の範囲内の魔法。それも強力なヤツ。できるだけたくさん。それらを会得して、私を追放した魔法剣士のパーティに逆襲してやるんです」
「逆襲も何もアリスさんはパーティメンバーではなかったはずですよね。手に入らない魔法を願うよりも、自分に与えられた魔法を極めるしかないと思います」
「そんなの、私が思い描いていた冒険者生活ではありませんよ」
ケッ。木のジョッキの麦酒を飲み干そうとしました。既に空でした。おつまみに頼んだナゾニクのチャーシューも受付嬢さんに食べられてしまいました。こうなりゃヤケだ。頬杖ついてやる。
「アリスさんは、どうして冒険者になろうとしたんですか」
そういえば、なんだったっけ。ああ、思い出した。
「地図を作りたかったんです」
「地図?」
「世の中の地図って、街、山、川、森の場所が書いてあるだけですよね。安いモノだと右と左で縮尺がバラバラ。なんだか味気ないですよね」
「ギルドではモンスター出現区域や薬草の自生地が上書きされたモノもありますが。まぁ、地図なんてそんなものかと思います」
「もっと色をつけてですね。この道には、こんな花が咲いているとか。この街には美味しいパン屋やオシャレな宿屋があるとか。一枚の紙ではなく、本のような形にしたいんです。地図のページもあれば、地図に載っている山の情報のページもあってですね」
「まぁ」
「野宿したときに役立つ、野草をつかった料理のレシピを載せたりして。イラストもいっぱい書いて。そう、旅の案内書……指南書、いろんな街の情報書のような本を作りたかったんです」
すると受付嬢さんは瞳を輝かせました。
「ステキです。そんな本があれば新規の女性登録者はきっと増えると思います。是非作って下さい。私、アリスさんが作った地図の本が読みたいです」
「もう遅い!」
「なんで!」
「私、絵の才能なんてなかったんです。それにいろんな場所に足を伸ばすのは大変です。今の私はあらゆる魔法を繰り出したい。そして周囲に驚嘆され、仲間になることを懇願され、崇められる存在になりたいのです」
「絵は練習しましょうよ。それに資料ではアリスさんの魔法は【水】【次元】の二種類だけ。ステータスではいずれもレベル1。まずは努力しましょうよ」
「努力はしてきましたよ。冒険者学校で結構いい成績でしたよ。友達と遊ばず、教師からは可愛げがないと言われ。それでも大人になれば良いことあると信じて努力してきましたよ。その結果が、この有様ですよ。努力だぁ? 努力なんて私にとっては10センチメートルの踏み台にすらならない、時間の無駄遣いの代名詞ですよ」
こうなりゃ復讐だ。店員が持って来た受付嬢のお酒を、奪い取って飲んでやります。
「それ、アルコール度80度の魔王酒ですよ」
「ぐへぇぇぇ!」
★
「アリスさん。今日は燃えない魔道具の日ではありませんよ。冒険者ギルドの軒先で人生を捨てないでください」
翌朝、冒険者ギルドの入り口前で寝込む私を起こしてくれたのは、昨晩、高濃度のアルコールを摂取したにもかかわらず、何食わぬ顔をしている受付嬢さんでした。
私は待合室の長椅子にヘタレこむと、受付嬢さんはいつものごとく掃除を始めます。
「どこかに、人生一発逆転できるクエストはないですかね」
「どこかに【掃除】の魔法の使い手はいないものでしょうか」
「…………」
「そんな顔しないでください。そうだ。実はギルド支部長が引退を考えているんです。そこで現役Aランク冒険者の一人が後任に就くことを希望しているのですが、支部長になるには、いくつか条件をクリアしなければならないんです」
「それが私と何の関係が」
「大ありですよ。ランクアップできるかもしれません」
詳しく聞いてみたところ、支部長になる条件のひとつに『低ランク冒険者の育成経験』というモノがあるそうです。後輩を指導できない者は、ギルドの支部を運営すること適わず。と言ったところでしょうか。
そこで後輩育成経験のない件のAランク冒険者は、今からGランク冒険者を率いて冒険し、一人前(Dランクくらい)になるまで育成しなければならないそうです。
そんなわけでギルドとしては、一緒に冒険するGランク冒険者を紹介しなければならないわけで……。
ギルドはGランク冒険者を集め、何人かにパーティ分けをしました。Aランク冒険者は私たちと面談し、気の合ったパーティを冒険という名の人生一発逆転計画に連れ出してくれるといいます。
「これは何が何でも気に入られなければなりません」
「アリスさん、気合い入ってるな」
ギルドの待合室には何人かのGランク冒険者が集っていました。私にはパーティメンバーなんていないものの、受付嬢さんが気を使ってくれて、ソロ活動者からなる即興パーティを作ってくれたのでした。そのメンバーの一人がクイーンさんでした。
「今日から同じパーティですね」
「冒険者には興味ないけどな。稼ぎ先の先輩とケンカしちまってクビになったんだ。これからは冒険者一本でやるしかないかなって」
「共にがんばりましょうね。ところで、あと一人ですが」
受付嬢さんは三人組のパーティを作ってくれたようなのですが、もう一人が見当たりません。待合室には多くのGランクがいるのですが。
「この中にいるのでしょうか」
「そうかもな」
★
「それでは面談を始めます。呼ばれたパーティから順に面談室へ行って下さい」
受付嬢さんがやってきて、私たちに目を合せました。
「最初のパーティは『がんばれ負けるなGランカー』さん。アリスさんとクイーンさんとシーコさんです。どうぞ」
恥ずかしい名前つけやがって。面談室は二階にあります。階段へ足を向ける私とクイーンさん。
ところでシーコさんって誰? そう思ったとき、部屋の隅から早足でやって来る女性がいました。たしかにさっきから部屋の隅にいた女性です。この人が三人目だったか。
シーコさんは三十代半ばでしょうか。長い髪を後ろに束ね、古そうな弓と矢を抱えています。なんだか辛そうな顔をしていました。まぁ、Gランクですもの。辛いですよね。
面談室に入ると、剣士、重戦士、女弓手、女魔法使いが長机についていました。
「こんにちは。俺は新たな支部長になるためにGランクの育成係を任された者だ。どうぞ、椅子にかけてくれ」
剣士さんが代表して話しかけてきました。受付嬢さんによると、支部長希望の冒険者は王都ギルド所属、Aランクパーティのリーダー剣士で、ずいぶんな美丈夫とのこと。たしかに剣士さんはイケメンです。美丈夫剣士さんとお呼びしましょう。
「この度は私たちに面接の機会を与えて頂き、ありがとうございます」
私は一度足を止め、深々とお辞儀します。好印象を植え付けなければ。
「そう硬くならないでくれ。一緒に冒険をするうえで志の不一致がないか確かめたいだけなんだ。いろんなパーティと会話をして、冒険をする仲間を決めたいと思っている。まずは座ってくれ」
美丈夫剣士さんは私たちを緊張させまいと笑顔で着席を促してきます。よかった、良さそうな人で。
私たちが椅子に座ると、美丈夫剣士さんはギルドからもらったのであろう書類を見ながら話しかけてきます。
「アリスさん。魔法使いだね。登録してから長いけれど、これまでどんなことをしてきたんだい」
「はい。冒険者としての最初の数年は基礎固めが大切だと思いまして、薬草採取や街の雑用、さらに上級ランクパーティの従者として活動をしてきました」
「パーティの従者?」
「はい。足手まといにならないよう、あえて仲間になることは控えさせていただき、食事の用意や、簡単なおとり役などを引き受けてきました。大型モンスターや難攻不落のダンジョンを前にしても、今さら動じることはないはずです」
別に嘘は言っていまい。魔法剣士に騙されて過ぎ去った歳月よ。私の糧になってもらうぞ。
「それは頼もしいな。次にクイーンさん。戦士か。キミはGランクのあいだ、なにしていたんだい」
「彼氏と一緒にモンスター狩りしてた。彼氏が消えてからは食堂や酒場で働いてたな。なぁ、ロードってヤツ、知らないか?」
クイーンさん、目上の方を相手に砕けすぎです。
「聞いたことがないな。僕らは王都を中心に活動していたから。みんなは知っているか?」
美丈夫剣士さんは仲間に話を振りました。みなさん、首を横に振っています。言葉づかい、気にしないんですね。
「ではシーコさん。弓手か。キミは……」
「私は少しでも生活の足しになればいいかと冒険者に登録しましたが、一向に生活は良くならず。はぁ……ステータス的には弓手向きだと言われ、弓矢を購入し練習したのですが、才能がないのか戦闘に役立つレベルには未だに至りません。はぁ……」
シーコさんは足下を見ながら、ため息交じりに応えます。そしてAランクメンバーの女弓手さんに目を向けました。
「同じ弓使いなのに、アナタには才能があったんですね。うらやましいわ。うらやましい」
「え、あ……ああ」
女弓手さん、なんて返したらいいのか分からない。そんな気持ちが口から溢れているようでした。
なんだかシーコさんの発言で一気に場の空気が暗くなってしまいましたよ。
「そ、そうだ。アンタはどうして冒険者になったんだよ」
クイーンさんが美丈夫剣士さんに逆質問。この部屋の空気、どうなる。
「ああ、そうだな。俺の実家は冒険者ギルドの近所にあったんだ。そのため冒険者がすごく身近な存在だったんだ」
美丈夫剣士さんは気にせずに話しだしました。
「父も冒険者だった。俺は幼いころからギルドに入り浸っていて、可愛がってもらったよ。八歳になるころには特別に薬草採取に同行させてもらったりしていた。十二歳の頃、どうしても狩りに挑戦したくて、依頼書を盗み見て現場に行ったんだ。もう俺でも狩りができることを証明したかったんだ」
ギルドの決まりでは、モンスター狩りは十五歳以上と定められています。クイーンさんが身を乗り出して聞きました。
「大丈夫だったのかよ」
「もちろんモンスターには手も足も出なかった。そのとき助けてくれた冒険者が、ここにいる重戦士だ」
「懐かしい話だな」
重戦士さんは目を細めます。
「あのあと重戦士はモンスターを倒して、俺をギルドまで連れて帰ってくれた。そのあと一緒に怒られてくれたんだ」
「……思い出したぞ。あのときの俺は自分のランク以上のモンスターも倒せると過信していたんだ。そこで依頼を受けてないにも関わらず、依頼書を盗み見て現場に行ったんだった。ギルドのヤツらにひと泡吹かせたいと思ったんだよ」
冒険者ギルドでは、冒険者に『自分のランクより上のモンスター』の討伐依頼を受けることを許していません。たとえばCランク冒険者にはBランクモンスターの狩りを許さないのです。若い頃の重戦士さんは、その掟を破ったんですね。
美丈夫剣士さんは驚きの目で重戦士さんを見ました。
「一緒に怒られてくれたんじゃなかったのか?」
「俺も怒られるようなことをしてたってことだな」
「ごめんよ。こんな先輩冒険者でさ」
女弓手さんが言います。女魔法使いさんは恥ずかしそうにしていました。
クイーンさんはクスクスと笑っております。
昔話のおかげで、なんだか部屋の空気がなごんできました。クイーンさん、良くやってくれました。
美丈夫剣士さんが照れくさそうに話を再開します。
「俺は悪ガキと思われたものの、冒険者にあこがれ続けていた。だから冒険者になって、そしてAランクになった。冒険者ギルドという組織には愛着がある。だから今度は支部長になって、多くの冒険者を助けていきたいんだ」
「いいわね。自由で」
ここで口を開いたのはシーコさんでした。
「私が子供の頃なんて不自由で好きなことなんて出来なかったわ。両親は幼い頃に他界。親戚に引き取られた私は朝から晩まで畑仕事や水汲みをやらされていた。髪も邪魔だからと短く切られたわ。よく男の子と間違えられて。はぁ……」
溜息を吐いたシーコさんは、鋭い視線を美丈夫剣士さんに送りました。
「小さい頃の夢、好きな事。それらを仕事にして、続けられる環境があって、仲間を得て、成功するなんて、とてもすごい。それを許してくれる両親もいた。恵まれていたのよね。それに引きかえ私は日々生きていくことで精いっぱいだった……はぁ」
部屋の空気が再び粘り気を帯びたかのように、ねっちゃりとしてきました。シーコさんは再び目線を下ろし、深いため息を吐きます。
美丈夫剣士さんが引きつった笑顔で応えました。
「あ、ああ。そうだな。俺は多くの人のおかげで成功することができた。この恩をギルド支部長として後輩たちに返したいと思っているよ」
ああ、空気が重いままです。天井付近の空気がどっしりと肩に降りてきました。どうしよう。クイーンさんに目を向けると彼女は頷きました。
「剣士さん、イケメンだね。私の彼氏ほどではないけど。彼女いるの?」
体感重力二倍の空気でなんて質問。私はそんなこと聞けなんて言ってない。
ところが美丈夫剣士さんは、少年のように顔を真っ赤にしてしまいました。
「剣士は、そこにいる女魔法使いと近々結婚するのさ」
女弓手さんの言葉に女魔法使いさんも顔を赤くして俯きます。
「へぇ。そりゃいいな。おめでとう」
「おめでとうございます」
クイーンさんも私も祝福します。
「同じパーティで結婚なんて、冒険者婚ですね。素敵だと思います」
「あ、ありがとう。女弓手、なにもそこで言わなくてもいいだろう」
「後輩からの質問は、ちゃんと答えるべきだろう。それに仲間にすれば、いつかバレちまうものだし」
「女魔法使いさん、剣士さんのどこに惚れたんだ?」
「え? そこまで聞くのかい?」
クイーンさんの容赦ない追及に、美丈夫剣士さんは赤面しながら、それでも嬉しそうに返してきました。お、なんだか空気が軽くなった。クイーンさん、なんだかスゴイ。
「いいわね。若い人たちは。はぁ……」
シーコさん! 再び空気が淀み返りました。窓の外では鳥たちが落下していきます。外にまで空気の重さが伝播したか。
私はもちろん、美丈夫剣士さんたちにも戦慄が走ります。シーコ、もしやキサマはデバフ使いか。
「私の夫はギャンブルに浮気、無職生活と好き放題。離婚したまではいいものの、子供を育てながら私は生活費を稼がなければいけません。そんなときに冒険者ギルドを紹介されたものの、子育てとの両立なんて上手くいきっこありません。一方であなたたちは冒険者として成功しながら愛まで育んでいた……」
シーコさんは足下に向けていた鋭利な視線を、女魔法使いさんに向けました。
「ひぃっ」
「男には注意して下さいね。時が流れれば態度や好意なんて変わってしまうのだから。今は愛していると言ってもらえても、それは今のこと。明日になったら、子供ができたら、男は女なんて煩わしく感じて捨ててしまう生き物なんです。あぁ、そちらの剣士さんは立派な方ですから、そんなこともないですか。未来の支部長さんですものね。変な男をつかんだ私が悪いだけ。悪いだけなんです。私が何をしたっていうの。はぁ……」
窓の外では太陽が雲に隠れたのか、急に陰ってきました。ああ、部屋が空気は重い。誰が代わってくれ。
ここで美丈夫剣士さんが何かに気付いたのか、怪訝な表情になります。
「俺たちはキミたちを冒険の旅に連れていく予定だ。長期間、この町を離れてもらうことになる。シーコさん、子供がいるとのことだけれど、冒険の旅にはついて来られるのかい?」
「泊まり込みの冒険はちょっと。それにダンジョンやモンスターがいるような危険な場所への出張は正直困る……はぁ」
何しに来たんだシーコ。日帰りの安全な外出は冒険じゃない。ピクニックだ。
美丈夫剣士さんはお仲間と顔を見合わせて、決まったとばかりに頷き合いました。
「キミたちの意思は良く分かった。キミたちのパーティは魔法使い、戦士、弓手。仲間になれば、俺たちのパーティにも、それらの職業の者がいるから仲良くできると思う」
「今日はありがとうよ。お疲れさん」
美丈夫剣士さんと女弓手さんが頭を下げます。
え、私たちの面接はこれで終わり?
なにもアピール出来なかった。すべてシーコさんに崩された。
私たちは頭を下げて部屋の外へと出ていきます。
最後に美丈夫剣士さんが前向きな言葉を発してくれてはいたけれど……。
★
「なんなんですか。あのシーコって人は!」
私は今宵も冒険者が寄りつかないであろう、地味な場末の酒場で飲んだくれております。
案の定、美丈夫剣士さんは別のGランクパーティを選んだとのこと。
ああ……全て切り崩されたぁ。あのシーコって女に。
「あの人、離婚したのは事実ですが子供は旦那さんが引き取っていたそうですよ」
今晩も一緒になった受付嬢さんがお酒を飲みほしながら、シーコさんについて教えてくれます。
「シーコさん、家事・育児をしないものだから、真面目な旦那さんに怒られて離婚。独身だから今回のおはなしに相応しいと思ったんですよね」
シーコさんの身の上話と全然違いますね。もしや。
「彼女、幼少期は悲惨な家庭事情があったと聞きましたが」
「私も気になって調べました。たしかにシーコさんのご両親は彼女が幼い頃にお亡くなりになっています。でも引き取った伯父夫婦のもとでの生活は、村娘として普通の生活だったといいます」
受付嬢さんは追加注文したお酒が来るのが遅いと言いながら、私のお酒に手を伸ばしました。
「シーコさん、村に視察にきた伯爵の娘から貴族の生活というものを聞いてからというもの、ご自分の生活を卑下するようになったとのことです。同じ村の出身の冒険者から聞いた話ですけど」
「なんですかそれ。なんで私のお酒を飲んでしまうのですか」
「悲劇の女を演じることで、心の平穏を保っているのでは?」
なんじゃそりゃ。変な女のせいで人生逆転計画が台無しですよ。
私はお通しとして出されたウネウネワカメの御浸しを箸でつまみました。あ、まだウネウネしてる。死にきってないモノを出さないでほしいですよ。お酒も奪われちゃうし。
店員が受付嬢さんへお酒を持ってきました。こうなりゃ逆襲です。私は受付嬢さんのお酒を奪いとって一気に飲みしてやりました。
「アリスさん、それはアルコール度99パーセントの『魔王殺し』ですよ」
「ぎゅへぇぇぇ!」
★
「ああ、頭がギュンギュンする。お腹のワカメがウネウネする……」
いつものごとく、私は冒険者ギルドの軒先でブッ倒れながら朝を迎えます。
「きゃぁぁ! 大変! こんなことが! ああっ! なんてこと!」
受付嬢さんが走ってきます。大きな荷車を引きずりながら。寝込んでいた私は重い上半身を上げ、その場に座りました。
「このとおり生きていますよ。なんですか、その荷車。私を載せて医院まで連れて行ってくれようと?」
「なに寝ぼけているんですか。アリスさんは遅かれ早かれ死ぬでしょうから、今朝冒険者ギルドの軒先で死んでようと驚きませんよ。でも大変なんですよ」
「生きづらい世界で酷い受付嬢ですね。なにが朝から大変なんですか」
私は気だるい両腕を上にあげ、あくびをしながら伸びをしました。
受付嬢さんが深刻な表情を向けてきます。
「ドラゴンが……ドラゴンがこの領都に迫ってきているんです!」
ビシィ! 両腕がつりました。




