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今日もヤベェよ! アリスさん!  作者: 錯乱坊☆ちぇりぃ丸
第8章 人生詰んだので異世界転生紹介所で新たな人生を希望しているけど、上手くいかないのは私だけなのでしょうか?
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第八章 転結編

「今日集まって頂いたのは、みなさんに意識改革して頂くのが狙いです」


 そう言うのは縁子さん。ここは紹介所にある大部屋。多くの登録者が席についております。前方にはホワイトボードがあり、なんだか塾のような感じです。縁子さんはさながら講師のようですね。


「みなさんは、こう感じているはずです。妥協しているにも関わらず良い異世界人に巡り合えないと」


 皆さんは一斉に頷きました。


「では今から、ある人物像を書いて頂きます。まずは紙をお配りします」


 そうやって配られたのは、いつか書いた『転生したい異世界人の人物像』の記入用紙でした。


「みなさん、今回は決して手が届かないであろう人物像をお書き下さい。こんな転生は贅沢すぎる。こんなこと願ったって無理だろう。こんな異世界人いないよ。そんな人物像をお書きになって下さい」

「縁子さん、一体なにを?」

「もちろん叶えることは無理ですが、意識改革には必要なことです。さぁ、贅沢な転生をお書き下さい。受験で言うなら東大医学部、初任給なら月収百万円、百点満点なら120点を狙う。それくらい強気に書いて下さい」


 縁子さんの狙いが分かりませんが、とりあえず書きますか。

 ある王国のお姫様で希少な魔法を複数所持。そんな魔法の力で不作や天災から人々を守り、感謝せれ、その名は世界全土に知れ渡り、周辺国の王子から何度も求婚の催促が……へへへ、なんて夢のような転生。


「みなさん、書けたようですね。きっと百点満点中120点な願望で溢れているでしょう。ではもう一枚、記入用紙をお配りします。」


 縁子さんは再び記入用紙を配り始めました。


「では、その記入用紙には百点中90点の願望を書いて下さい」


 90点。さっきのお姫様よりもひとつハードルを落とす感じでしょうか。お姫様の下となると、公爵令嬢で希少魔法はひとつあれば十分です……


「はっ!」

 大変なことに気付きました。私が普段抱いていた願望って。


「アリス様、いかがなされましたか?」


 目の前には縁子さんが立っていました。


「さぁ、90点の人物像を書いて下さい」

「それは……その」


 視線をそらせば、皆さん、ペンを持ったまま硬直しております。これは……。


「みなさん、もうお気づきですね。ここには普段から『普通』『妥協』そんな言葉を強調する登録者様を集めさせていただきました。みなさんに問います。アナタの願う転生は普通なのですか。妥協しているのですか。90点は平均点なのでしょうか。テストで90点を取ることは普通のことなのですか」


 私はもしや、高望みをしていた? 縁子さんは続けます。


「現状のままでは、いつまで経っても転生できません。是非とも意識を改めていただきたいのです」

「くだらない!」


 登録者の一人が立ち上がりました。ゴリラでした。


「こっちは身体を提供する身だ。高望みをして何が悪い。説教されるのであれば、こちらは紹介所を変えるまでだ。帰らせてもらう!」

「そうだそうだ。ふざけやがって」


 カラスも席を立ちました。いたのか。

 そのあとも、ぞろぞろと登録者が部屋を抜けていきました。じゃあ、私も帰ろうかな。

 縁子さんは微動だにせず、去っていく登録者を見つめていました。


「今日の経験がみなさんの意識を変えるものだと、私は信じています」


 その目からは本気の二文字が浮かんでいるように見えました。



 その後、ゴリラの言葉にならって別の異世界転生紹介所に登録してみましたが。


「どこも同じようなモノですね」


 さらに県内第4位と言われる紹介所に登録してみたところ。


「なんじゃこりゃ」


 独り暮らしのアパートで独りごともこぼれます。スマホには『紹介できる異世界人→ゼロ人』の表記。

 紹介所の人気ランキングの順位が下がれば下がるほど、ホームページやマイページのデザインや機能がショボくなるのが不思議です。

 この前の講習会。妥協だと思っていた私に願いが、妥協ではなかった。真の妥協とは一体何なのか。

妥協しなければ転生することはできない。妥協しなければ、ほかの登録者のように何年も、十年以上も。

 いや、私に残された時間はあと二ヶ月。このまま二ヶ月が経過したら。では誰でもいいから転生を。ダメだ。変なヤツに転生したら、現状以上の悲惨なことになる。異世界には異世界転生紹介所はないんだぞ。


「妥協……転生……希望……譲れない条件……時間切れ……妥協……」


 なんでこんな苦しい想いをしているのでしょう。だいたい転活なんて初めてなんだから、上手くいくわけないじゃん。

そんなことを考えていると……ピロリロリン。

 最初に登録した紹介所からメールが来ました。差し出し人は縁子さん。内容を要約すると、いつでも相談にのる、とのことでした。


「はぁ、私は結局、転生するような人間ではないということでしょうか」


 床に寝ころび、そして寝がえりをうった途端、棚に激突。棚の上の雑誌や郵便物が雪崩のように私を襲いました。


「うぎゃあっ。地味に痛い!」


 事態は快方に向かわないというのに、どうして私はこんな目に。散乱した雑誌の類をかき集めていると、ひとつの封筒が目に止まりました。開封しておりません。送り主は不動産屋。きっと今住んでいるアパートの部屋、つまりこの場所に関するお知らせでしょう。開封するのをすっかり忘れていました。


「なんだか嫌な予感がしますね」



 私はすぐさま縁子さん電話しました。


「もしもし縁子さんですか。大変です。悪い予感が的中したんです。今すぐ転生させて下さい」

『アリス様ですか。まずは落ちついて下さい』

「預金残高から逆算して、あと二ヶ月は耐えられると思っていたんです。だけど、今月末にアパートの契約更新があって、余計な出費が増えてしまたんです。このままではあと一ヶ月で一文無しです。ああ、早く転生しないと家賃不払いで追い出されてしまう。そうなればカクカクシカジカで、アレがコレしてソレなんです!」


 落ちつけと言われましたが、早口でまくしたてました。だって宿なし生活なんて嫌なんです。何が何でも転生しなければ。


『まずは会ってお話しましょう。私は残業して待っておりますので当社のほうに御足労願えますか』



 さっそく紹介所へ出向きました。時刻は夕方五時。本来受付は四時までなのですが、扉が開いておりました。縁子さんの采配でしょう。

 そこには意外な人物がおりました。


「ゴリラ! カラス!」


 この前の男性二名でした。どうして、ここに。


「勤めていた会社が不祥事を起こして倒産したんだ。この歳では再就職は難しい。家賃を払う余裕もない。すぐにでも転生させてもらわないと」


 ゴリラは重い溜息をつきました。


母親ババァが親父と結託して、この俺を家から追い出したんだ。俺には行く宛がない。ホームレスにもなりたくない。だから転生するしかないんだ」


 カラスは相当追いつめられている様子です。

 皆さん、似たような悩みをお持ちなのですね。そこに現れたのは縁子さんです。


「お待たせしました。みなさん、転生のご相談ですね」

「いますぐ転生させて下さい!」


 三人の声がハモりました。


「誰でもいいんです」

「今すぐ紹介できる異世界人なら、誰でもいいんだ」

「早くしてくれよ。それがアンタの仕事だろ」

「まずは落ちついて下さい」


 縁子さんが私たちを静めました。


「当社としてはシアワセな転生を心がけております。ですので、転生先は誰でも良いという条件では、ちょっと」

「でも、このままでは」


 私に詰め寄られた縁子さんは、こう返してきました。


「三人の実情は電話で聞いております。金銭面でお困りなのですよね。詳しく教えて頂けませんか」

「私は仕事が出来ないんです。こんな生きづらい世の中では、続けられる仕事なんてありません。だからお金がない。転生したいんです」

「この俺だって似たようなものだ。俺にあう仕事なんてない。でも転生先なら。早く紹介してくれ」


 カラスも縁子さんにすがります。ゴリラもジッと縁子さんの言葉を待っておりました。

 縁子さんはそんな私たちを前に、躊躇ためらうように口を開きます。


「そうでしたか。しかし転生させようにも、現在の当社の最先端技術はアップデート期間に入りまして、一ヶ月は転生できない状態なんです」

「な、なんだってぇぇぇ!」


 三人の声がハモりました。そんな、これでは宿なし生活確定ではないですか。

 悲嘆にくれる私たちに縁子さんが言います。


「あの、よろしければ異世界転移はいかがでしょうか」


 異世界転移? 


「それって、この姿のまま異世界に行くってヤツでしょうか」


 私の言葉に縁子さんは頷きます。


「当社の最先端技術でなら異世界転移も可能です。みなさんの転生の動機、それはこの世界に自分にできる仕事が存在しないからであると認識しました。ならば転生先で働いてみるのは如何でしょうか」

「そんな、うまくいくのかい」


 ゴリラが不安げな声色で聞きます。すると縁子さん。


「当社が異世界に仕事を用意しております。肉体労働ですが、年齢制限なし、学歴不問、未経験者歓迎です。なにより異世界なので新鮮な気持ちでお仕事できると思います」

「こんな俺でも、出来るかな」


 怯えるカラスに縁子さんは笑顔で答えます。


「異世界人も、転移してきた人間には寛容です。実は何人か、すでに異世界で働いております。みなさんも、転生は無理でも転移して新たな人生を踏みだしては如何でしょうか」


 異世界転移して新たな就業。異世界なら、私、働けるかもしれない。


「あの、転移したら戻って来られないのでしょうか」

「任期は三年となっております。衣食住は保障されます」

「三年ですか」

「給料も支払われますが、なにぶん異世界のお金なので、こちらに持って帰られても困るだけかと。しかし当社のサービスで百万円までなら換金できます。つまり異世界で三年働き、この世界に帰ってきたとき、百万円が手元に残ることになります」

「三年間、住み込みで肉体労働して、百万円ですか」


 この世界には居場所がないも同然。だったら異世界転移したほうがマシ。しかも転移先では仕事も衣食住も保障されている。三年経てば百万円がもらえる。百万円あれば、この世界に戻ってきても、なんとかなりそうな気がします。


「では異世界転移させて下さい」

「俺もお願いします」

「俺も」

「かしこまりました。書類を用意いたしますので、あちらの部屋に移動して下さい」


 そうして、用意された書類にサインをし、二日後に再び紹介所にくることになりました。カラスは紹介所からお金を借りて、どうにか二日を凌ぐようです。



 そして二日後。異世界転移当日。紹介所に集まった私とゴリラ、カラスを縁子さんが迎えてくれます。案内されたのは床に魔法陣が描かれた小部屋でした。


「この魔法陣で異世界に転移するのですね」

「はい。みなさん、これを」


 縁子さんは私たちに錠剤を配りました。


「当社の最先端技術で作った『異世界でも言葉がわかる薬』です。これを飲んで下さい。副作用で眠くなるとは思いますが」

「ありがとう。縁子さん」


 私たちは薬を飲みました。


「では皆さま。これより異世界転移の準備を進めます。途中で眠くなるとは思いますが、眠ってしまわれて構いません。起きたときには異世界に到着していることでしょう」


 私たちは魔法陣の上に移動。縁子さんはお香をたいたり、呪文を唱えたりしています。その呪文を聞いていたら眠くなってしまいました……。



 気がつけば、そこは見知らぬ小屋の中。床には魔法陣が描かれております。私同様、ゴリラやカラスも眠っていたようで、おもむろに立ち上がりました。


「よう、異世界から来た三人ってのは、オマエたちか」


 小屋の扉を開けたのは上半身裸の、ゴリマッチョなスキンヘッドでした。


「俺はこの島の開拓を任されているヤメイダって者だ。オマエたちに職場を案内するから、ついて来い」


 小屋を出れば、ゴツゴツとした足場。視界には蒼い海が広がっていました。空も高く、真っ青です。本当に異世界に来たんだ。私の胸は高鳴りました。


「この島はよ、国王の命で街や娯楽施設に生まれ変わるんだ。その仕事をオマエらに手伝ってもらうぜ」


 ヤメイダさんのあとをついていくと川が見えました。


「仕事のあとは、あの川で身体の汚れを落としてもらう。風呂なんて貴族が使うもんだ。ここには無い」

「うわぁ! 異世界だぁ!」


 私は感嘆の声を上げます。

 しばらく歩くと、パワーショベルやクレーン車が視界に入りました。


「どうして、重機が異世界にあるのでしょう」

「あれか? その昔、転移人がもたらした技術で作ったものだ。魔導エンジンで動いてんだ」


 重機を良く見れば、車体に見慣れぬ文字が書いてありました。


「きっと異世界文字なんですね」

「本当に異世界に来たんだな……」


 カラスが感動を声色に表します。


「さぁ、ついて来い」


 ヤメイダさんのあとをついていきます。それにしてもヤメイダさん、良い身体してますね。


「やはり、元冒険者なんでしょうか」

「ん? そうそう。俺は冒険者なんとかって所に所属してたんだ」

「冒険者ギルド?」

「それだ。俺はそこでAランクまでいったんだよ。でもな、たしか、そうそう、矢が足に当たって冒険者を続けられなくなっちまったんだ」

「本当に異世界なんだな」


 ゴリラが嬉しそうにしています。

 しばらく歩くと、多くの人間が手作業で石を運び、邪魔そうな樹木を引き抜いておりました。

その中で、現場監督と見られる男性が何人かおります。男性は私たちに気付くとヘルメットを脱ぎました。男性の頭には


「ケモ耳だぁ!」


 よく見たらズボンから尻尾が飛び出しています。すると、やはりここは


「獣人だ! 異世界だ! 私たちは異世界に来たんだ!」


 私たちは喜びあいました。ここは生きづらい世界なんかじゃない。異世界。異世界ならば、こんな私にも居場所がある、やれることがある、必要とされる。


「さぁ、ここがオマエらの仕事場だ。まずは石を運んで土砂をどかして平地を作るんだ。三年間キリキリ働いてもらうぞ」

「わぁい! 異世界!」


 私は喜んで労働者に混ざり、重たい石を運び出し、夕方まで雑草を引き抜いたのでした。



 皆さんこんにちは。私は異世界転生紹介所でスタッフをしている天瀬井縁子てんせい えんこと申します。

 今日は、とある離島の開発地区の視察に来ています。もちろん現代の日本です。


「天瀬井さん、ここにいたんですね」

「あらヤメイダ様。お邪魔しています」

「その名前はよして下さい。それに、なんなんですか、俺の格好。上半身裸なんて恥ずかしいんですが」

「あら、たくましい身体してらっしゃるんだから、良いではないですか。とっても似合いますよ。元冒険者役の山田様」


 私は双眼鏡で労働者たちを観察しました。みなさん、とても真面目に働いています。


「天瀬井さんが連れてくる工員は働き者です。ほかの派遣会社が連れてくる工員はキツイとか娯楽がないとか言って、すぐに本土に帰っちまうのに」

「私どもが紹介する者は、社会に居場所がない者ですから。それはそうと、派遣した者たちはいかがですか」

「とてもよくやってくれています。部屋は風呂なし、テレビなし、空調なし。食事なんて硬いパンと野菜の切れ端の入った塩味のスープだけ。これで文句も言わずに働くなんて、たいしたものですよ」

「先日やってきた三人の様子はどうでしょう」

「文句もありません。天瀬井さんが連れて来てくれる工員は誰もが立派だ」


 私は再び双眼鏡を覗き込みます。あ、先日お連れした森野様、黒鋤様、それにアリス様がいらっしゃいますね。アリス様、ブロックをせっせと運んでらっしゃる。重機で運べばいいのに。でも実に嬉しそう。


「あの……天瀬井さん。彼らが口にする『異世界』って何ですか。彼らの前では冒険者の格好やパーティ用の猫耳や尻尾をつけろとか。それに、どうして彼らは眠った状態で島に来るんです? 社員は不気味がっていますよ。もしかして変な宗教団体とか」

「御心配なさらず。洒落みたいなものです」

「そんなもんですか。それじゃあ新人三人の給料も、おたくの会社に振り込んどきますよ。そのあと毎月、おもちゃの金貨を渡しときます」

「いつもありがとうございます。では山田様、我が社に対する満足度を教えていただけませんか」

「もちろん満足度ナンバー1。百点満点中120点ですよ」

「フフ、ありがとうございます」


 人材派遣会社ナローは、これからもあらゆる職場に優秀な人材を提供することをお約束します。


 おわり


第8章終了です。

今日こそ読者様に正座してお願いを申し上げます。


もしも拙作を少しでも『面白かった』と思われたのなら・・・


ぜひ画面を下にスクロールして

☆☆☆☆☆

五つの星を・・・


・・・いえ、『面白い』と思われたのなら、画面を上にスクロールして、もう一度読んでいただけませんか。

何度でも読まれる物語を書くこと。それが作家としての、この上ない喜びなのです! なのです!


これで良いんだよね?



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