ほっとして……?
「はぁーっ」
甲板に無事下りると同時に、レオンは深く息を吐き出した。
「頭っ、だいじょうぶっすか?!」
「ああ。サーバルは……」
甲板に置いてあった木箱の上にセレスティアを腰掛けさせながら、駆け寄った船員に問うと同時に、甲高い声がした。
「姫さまっ!」
ミリィだ。どうやら無事に船と合流出来たようだ。
「ミリィ……」
声をかけられ、前に立つレオンの横から顔をのぞかせると、駆け寄ったミリィはその勢いのまま容赦なくレオンを蹴り倒し、セレスティアから引き離す。見事なとび蹴りだった。
「いでっ!!」
思いっきり後頭部を甲板に打ち付け、痛みに声を殺し頭を抱え、しばしゴロゴロと転がる。
驚きに目をまんまるに見開き、アワアワと焦るセレスティアと、転がるレオンの間に仁王立ちしたミリィは、鬼の形相で床の上のレオンを見下ろす。
その様子に他の船員も手出しも声もかけられず、思わず後ずさる。
「姫様に……姫様を……なんと言う目に合わせてっ!!!」
ずだぁんんっ!!!!
振り下ろした足が甲板を大きな音を立てて踏みしめられる。
「ひっ?!」
その足をかろうじてかわしたレオンは、丈夫なはずの甲板の床板が割れるような音を聞いた、ような気がした。
「崖っ、崖…からっ…、と、とび、飛び降りるっ…な、んてっ……!!!」
興奮しているせいか、言葉がうまく出てこないらしい。
止めようにもセレスティアもおろおろするばかりで、そばに寄ってきた船員たちも一緒に見守るしかない。
もちろん、ミリィと行動を共にしていたサーバルもセレスティアの横に来て見守っている。
助け舟を頼もうと横を見たセレスティアは、サーバルの髪や衣服が乱れ、顔に引っ掻き傷らしきものを目に留め、逃げるときにどこかに引っ掛けたのかと心配して問うたが、彼は曖昧に大丈夫と言うのみだった。
「ま、まて、悪かったって!」
レオンが後ずさりしながら、ミリィをなだめようとする。
「これは予定外だったんだ! いや、万が一を想定して落ち合う場所は決めていたんだが」
この街はなじみでもあったが、毎度陸に降りる時は身分を偽っても自分たちが海賊である事には変わりがないので、用心に越した事はない。
逃げ道、落ち合う場所、航路などいくつも想定していた。
しかし、今回のはその中でも、最悪のパターンだ。
タイミングがズレれば良くて海に転落。最悪甲板に激突コースだった。しかもセレスティアが一緒で無傷で船に降りれたのには、正直、生まれてこのかたろくに祈った事のない神に感謝したいくらいだった。
これは、口が裂けてもミリィには言えないが……。
「まさか、あそこまであの男が食い下がってくると思わなかったんだ。うまく撒いてもう少し先で乗り込む手はずだったんだ」
必死にミリィに説明する。
「何なんだ、あの男。あんだけ振り回したのにぴったりついてきて、息も乱しやしねぇ」
傍にあった樽を持ち上げて落とそうとしていたミリィの動きが止まる。
あれ? その樽空だよね? 空だったよね? でも、女性が持ち上げるにはちょっと重かったと思うよ。そんな事を考えながら、笑顔を引きつらせながら、後ずさる。
動きが止まったと同時にすかさずサーバルや他の船員が駆け寄り、ミリィから樽を取り上げた。
レオンのほっとした顔を見たセレスティアも、つられてホッと息を吐いた。




