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アルゴナウタイ  作者: 雨車誄
第一章:ロムニア王国

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5/10

共闘

「……お前、殺しは嫌いのはずだろう」


「誰も殺すなんて言ってないじゃない。気絶させるだけよ」


()ちた月の下、私たちは顔を隠しもせず堂々と表を歩いていた。

そうすると当然、賞金首である私たちを狙った連中が襲いかかってくるわけで、それらを数人ほど殴り倒していた。


「で、こいつらをどうするんだ?」


「そうね、ちょっと痛いけど我慢してね」

『あなた達、私たちを殴ってくれる?腕とか足は折らないでね』


竪琴を弾き命令を飛ばす。

気絶していた人々は、ゆっくりと立ち上がって、私やアレーティアに拳を打ち込んでくる。正直、全身に力を入れていてもかなり痛い。


「おい。どういうつもりだ」


「分からない?捕まったフリをするのよ……痛っ。私たちがあの男に顔を見られてから、第三王子が出したと言う人相書きが貼られるまで、そう時間はかかってなかった」


「ああ」


「あの連携を見るに、アイツは第三王子本人か、まあガロリング城に居るそれなりの立場にいる人間でしょうね……少なくとも、第三王子とは近しい仲にあると思うわ」


「だから捕まったフリをして城の中に?やめておけ、相手があの遺失物(オーパーツ)を複数持っているとしたら、敵わんぞ」


アレーティアの懸念はもっともだ。聞くに、アレーティアの能力で造った兵器は一定時間で消えることもなく、その場に残り続ける。あの男の能力の発現が私と同じ五年前だとしたら、今日までの間にどれくらいの遺失物を製造し保管しているか、分からない。


だがそれでも、今やるしかない。相手に、準備をする時間を与えてはならないのだ。


「大丈夫よ、少し無茶はするけれど。必ず成功させるわ」





少し経って、私たちはガロリング城の前まで来ていた。城門へと繋がる、水堀の上に掛かった橋を渡る。当然、私が操っている賞金稼ぎに連れられながら。念の為両腕をロープで縛ってはいるが、すぐに動けるよう緩めに結んである。


操られた人間の一人が、ゴンゴンと城門をドアノッカーで叩く。ドアノッカーに彫られた模様が明滅しているのを見るに、恐らくこれも遺失物の一種だ。


『こんな時間に何者だ?』


城門の奥から、衛兵の声がする。


「第三王子の張り紙の女二人を捕まえた。引き渡させてくれ」


あえて、「下まで見に来い」とは言わない。

しばらくして、木製の城門がゆっくりと開いた。そこには、昼間に見たローブの男が立っていた。その隣には衛兵が二人立っている。男はローブのフードを脱ぎ、ロープに縛られている私たちをジロジロと見始めた。


私はその顔に見覚えがあった。

ロムニア王国第三王子「ディース」類稀な商才を持つ青年で、ロムニアの財政を支えているらしい。好奇心旺盛かつ先見の明があり、金の匂いに敏感。何もかもを金銭的価値でしか考えられない哀れな男だ。


しかしそうか、『りゅうこつ座(兵器を生成できる能力)』でどうしてこの国で悪さをしていないかと思っていたが。能力を持つ者が王子で、しかも財政を任されているとあれば納得が行く。大方、造り出した兵器を貿易やら軍事強化やらに使っているのだろう。


「気絶させていないのか?」


「……ガキの方はともかく、デカいのは運ぶのが面倒でな。縄で縛ってあるんだから大丈夫だろ」


できることなら早めに中に入れて欲しいのだが……能力がいつまで持続するか分からない。言い訳させたりといった複雑な命令は単純な命令に比べて操れる時間が短くなる傾向がある。


「ところで、賞金稼ぎ達よ。そいつら、どうして武器を持ちっぱなしなんだ?」


まあ、バレるよな。私は特段、焦ってはいなかった。

攻め入る関係上、武器を携帯しないわけにはいかない。捕えられたはずの賞金首が武器を携帯したままでいる、ディースがその違和感に気づかないワケがない。


「アレーティア」


「分かっている」


アレーティアは即座に縄を千切り、両刃剣を構えて衛兵二人を蹴り飛ばした。

そのままディースにに切り掛かるも、ディースは軽々と避け、昼間見せた遺失物から光の弾を数発放つ。アレーティアは遺失物を握り潰さんばかりの力で掴み、銃口を横へ逸らした。おかげでアレーティアにも私にも当たることは無かったが、逸らした先にいた賞金稼ぎの一人に直撃し、辺りに血液と肉片が飛び散った。


「ディース!」


「そんな怒んなよ、オルフィア。役に立たない駒が死んだだけだぜ?昼間は知らないフリして悪かったな、できればお前は金になるから殺したくないんだが……」


「相変わらずね。全てを損得でしか考えられない」


「この世は利害関係で出来てるからな?損が大きくなる前に損切りしなきゃだろ?」


ディースは片手を空に(かざ)し、剣の形をした遺失物を造り出した。この至近距離で、アレーティア相手に銃身の長いあの遺失物を使うよりも、剣を用いた格闘戦の方が有利だと考えたのだろう。


「その両刃剣、我が国の鍛治職人が作ったものだろう。確か名はニッグとか言ったか……どうしてそんなナマクラを使うんだ?」


アレーティアに切り掛かり、互いの刃を何度も打ち合いながらディースは尋ねた。力ではアレーティアの方に分があったが、如何せん武器の質の差が大きいのか、すでにアレーティアの持つ剣は酷く刃こぼれしていた。


「どんな武器も使い方だ。凡人が使えば凡庸なまま、手練れが使えば大きく化ける」


「へえ?どう化けるのか、見せてもらおうか」


ディースの持つ剣の遺失物に彫られた模様が激しく明滅した。直後、ディースが剣を振るうと共に、剣から光の塊が押し出されるようにして此方へと飛んできた。アレーティアは両刃剣を光の塊に対して水平にし、軌道を逸らすように攻撃をいなした。


どうやら今のが剣の遺失物の効果らしい。先ほどの火縄銃もどきと良い、ディースは飛び道具が好きなのか?


「……チッ」


アレーティアの剣は、今の攻撃で完全にダメになってしまっていた。刃こぼれも酷い上、焦げ目やら亀裂やらが入ってしまっている。


「こうなったところで、使い道はある」


アレーティアはボロボロになった剣を、ディースに向かって思い切り投擲した。ディースはそれを自信満々に弾いたが、飛ばした剣をデコイに近づいてきていたアレーティアに思い切り蹴り飛ばされ、城門の奥に吹っ飛んでいった。


「がほッ……?!」


「返してもらうぞ、私の力」


「何……?」


吹っ飛んだ拍子にどこかの壁にでも激突したのか、戻ってきたディースは肩についた石の欠片をはたき落としていた。口の周りについた赤っぽい汚れを見るに、先ほどの攻撃で相当ダメージを負ったらしい。遺失物を使ったり、強がってはいるが、耐久力という面においては普通の人間なのだろう。


アレーティアは次に、鉾槍(ハルバード)を背中の大きな麻袋の中から取り出していた。これも今日市場で買った安物だ。しかし、それを見たディースの反応は意外なものだった。


「なるほど確かに、その武器は相当な上物だな」


「ほう、お前に分かるか」


「まあ……なっ!」


ディースは再びアレーティアに切り掛かっていく。が、リーチの長い鉾槍相手じゃ上手く立ち回れていない様子だった。しかし即座に先ほどの火縄銃の遺失物を構え引き金を引いた。光弾はアレーティアではなく、彼女の持つ鉾槍に命中した。


鉾槍は壊れることは無かったものの、衝撃でアレーティアの手から離れ後方にすっ飛んでいった。


「さてどうする?まさか終わりじゃないよな?」


ディースは銃口をアレーティアに向け、勝ち誇ったように笑った。

遺失物を構えたまま、顎をしゃくって、私たちに投降するよう促している。恐らく今日ディースの製造した兵器は二つ。今使っている銃と剣だ。アレーティアの推測によると同じ遺失物であればあと一つは製造できる。できれば、今持っている武器のうちのどちらかを封じたいが──


突如、破裂音と共に辺りに濃い煙が広がる。恐らくアレーティアのケムリダマだ。何も見えない上、焦るディースの声しか周囲からは聞こえない。アレーティアは何を考えているんだ。

煙が晴れた時、アレーティアはやはりというべきか、そこには居なかった。


「チッ……まあ良い、先に継承者のお前から殺しておくか。お前を殺すのは本当に心苦しいよ。何せ、最後の()()()()だものな」


「……殺すなら、さっさと殺せば?」


「はあ……お望み通りにしてやるよっ!」


そう言い、ディースが私に銃口を向けた瞬間だった。どこからかあの鉄球が二つ付いた狩猟道具が飛んで来て、銃に絡みつきながら、勢いのまま城の周りの水堀へと落ちていった。


「何ッ?!」


「悪いな、後で水抜きでもして探してくれ。お前が生きていたら、の話だがな」


姿を消していたアレーティアが、鉾槍を上からディースめがけて思い切り振り下ろしながら現れた。ディースは辛うじてその攻撃を剣で受け止めるが、動揺から隙が生じているのが、私にもよく分かった。すかさず竪琴を構え、思い切り弾く。


『思い切り殴りなさい!』


残っていた賞金稼ぎの一人が、私の命令通り、ディースの脇腹に強烈な拳を打ち込んだ。


「がっ……!!」


「よくやった!」


不意打ちによろけたディースに、アレーティアはもう一度鉾槍を、今度は横一文字に振るった。ディースの腹部は思い切り裂け、そこから吹き出した血の軌跡が、アレーティアの足元から飛ばされたディースのところまで伸びていた。


「ちょっと……やりすぎよ!」


慌ててディースを治療しようとしたが、アレーティアに肩を掴まれて止められる。


「阿呆か。この男は私たちを殺す気だったのだぞ。それに、私の能力を取り戻すには……殺す他無い」


「それでも、よ」

「今までは直接手を下すことも、差し伸べることもない傍観者であろうと思っていたけれど。貴女と出会って、この星海戦争に否が応でも巻き込まれることになったのなら……私は、手を握ってあげたいの」


「……勝手にしろ」


「……ありがとう」


私は大きくため息をつくアレーティアの横を通り抜け、血まみれになって倒れているディースの元へと駆けていった。


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