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アルゴナウタイ  作者: 雨車誄
第一章:ロムニア王国

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4/10

生死を問わない

次の日、私とアレーティアはロムニアで一番大きい市場に買い物に出掛けていた。アレーティアの力を継いだのが何者であるにしろ、彼女は自身の使う"道具"とやらを買いに行きたいらしい。そしてそれが作戦の要にもなるんだとか。


「言っとくけど、ドラクマ銀貨はあと16枚しかないんだからね?」


「分かっている。安物の武器をいくつか買うだけだ」


これはアレーティアと出会う前、ロムニアの隣国「へラド」の街で竪琴を演奏して稼いだお金だ。ヘラドの人間は、音楽や舞踏のような芸能を嗜む人間が多い。そんなヘラドでも半日演奏して21ドラクマ。武器を何本か買われるだけで数日分の宿代が飛ぶ。


「おい、これと……これをくれ」


「姐さん本気かい?売っといてなんだが、この剣ひどいナマクラだぜ?それに、この異国の狩猟道具も、使い物にならないったらありゃしねえ」


悪いことは言わねえからやめときな。と後に続けた店主を無視して、アレーティアは代金を払って次の店へと移動していく。彼女が買ったのは、粗悪な両刃剣と、二つの鉄球を紐で繋いだ妙な狩猟道具だった。


「剣はともかく……その狩猟道具が何なのか分かってるの?使い方とか」


「いや、全く」


「は?」


「大方、歩行を妨げる道具だろう。安価だから買った」


安価。

その剣と狩猟道具で合わせて2ドラクマ銀貨。一人分の宿泊代が、使い方も知らない道具に消えた。まあロムニアでも路銀が稼げないわけではないし、元々宿代くらいしか使い道のなかった金だ。

流石に全部使わせるわけにはいかないが、暴れる継承者を止めるためだ。それくらいの出費は必要経費だと、自分に言い聞かせる。


「おい、それ何だ?」


「これかい?こりゃケムリダマって言う極東の国の道具でな、思い切り叩きつけると煙が舞って敵を撹乱するんだ。なんでもニンジャっつう諜報部隊が使うとか」


「無駄話はやめろ。二つ貰おう」


「ドライだねえアンタ……まいど」


結局その後、訳のわからない武具をいくつも買った。揃えた武具は合わせて8個、それらを入れる麻袋も含めれば9個だ。本当に役に立つのだろうか。


ドラクマ銀貨も残り8枚になってしまった。途中までは快くアレーティアに銀貨を握らせていたが、最後の方はどうにか彼女が銀貨を払うのを止める努力ばかりしていたような気がする。尤も、彼女の膂力に叶うはずもなかったのだが。


「ま、このくらいあれば十分だろう」


「そう……本当、良かったわ」


「ところで、気づいてるか?」


「……まあ」


()けられている。私の勘違いではなかったらしい。武具を見て回っていた途中から、明らかにこちらに向く不自然な気配を感じていた。それも一人や二人ではない、少なくとも五人は居る、それもその中の一人は嫌に気配が濃い。


心臓を細い枝で突かれているような、気色の悪い感覚。それが継承者にだけ分かる同族の気配。近づかなければ詳細な位置や人数は分からないが、確かにそこに居る。

尾けてきている継承者はアレーティアの能力を持っているのだろうか。だとすればかなり分が悪いな。


「……撒くぞ」


「えっ」


アレーティアは唐突に私を抱え、人混みを縫うように駆け出す。風を切りながら、角をいくつか曲がる。しかしそれでも、継承者の気配だけはしっかりと着いて来ているようだった。おそらく相手はロムニアの街に詳しい。土地勘の無い私たちでは、撒くことは出来ないだろう。


「ちっ」


裏路地に入ったところで、アレーティアはくるりと振り向き立ち止まった。彼女も逃げ切るのは困難だと感じたのだ。


「そう警戒すんなよ。ちょっと顔が見たかっただけだからさ。ま、殺せるんなら殺すけどね」


そこには、麻のローブに身を包んだ男が居た。どうやら他の四人は撒けたらしい。男が右手を空に掲げると、その手の中に見たことのない道具が現れた。細長い筒のような物に、持ち手がついている、小型の火縄銃のような形。この男が、アレーティアの力の一部……『りゅうこつ座(カリナ)』の継承者か。


独特の光沢を見るに金属なんだろうが……それよりも、その道具に彫られた模様の方が大事だ。迷路のように入り組み、ところどころが繋がっている、奇妙な模様。粘土型に熱した金属を流し込むように、模様の上を光が明滅しながら駆ける。


「アレーティア。あれ、多分遺失物(オーパーツ)よ」


「何?」


「見たところ火縄銃……まあ弓矢みたいに何かを打ち出すタイプね。でも、弦を引き絞る溜めは無いから注意して」


「了解。お前は周囲を警戒してろ」


アレーティアは両刃剣を構え、即座にローブの男に切り掛かるが、男は遺失物から光の粒のようなものを打ち出し接近を許さなかった。アレーティアが光の粒を避け、それが周囲の壁に直撃すると、壁が少し抉れ破片が舞った。


「なるほど、あの小さい武器から出る威力とは思えんな。おいお前、何者だ」


「さあな」


ローブの男の表情はよく見えなかったが、声や口元に皺がないことから、恐らく若い男だと分かる。

ニヤニヤと笑ったまま、男がもう何発か、遺失物から光の弾を放つ。

アレーティアは身を捻りながら辛うじて避け切るが、光の弾は奥にあった木箱に直撃し、砕け散った木箱の木片が危うくアレーティアに刺さりかけた。


「お前こそ何者だ?奥のガキは継承者なのは分かるが……お前は違うだろう」


「……さあな。私が聞きたいくらいだ。継承者でないのなら、私は一体何なのだろうな」


アレーティアは継承者じゃない。

本人からそう聞いているし、実際彼女からは継承者特有の気配はしない。だが目の前のに居る男の力は元々アレーティアのもので、これと同じような力を本来ならあと三つも持っている。それが本当だとすれば、彼女の力は神の領域に踏み込んでいる。そう言わざるを得ない。


「おい。逃げるぞ」


「もう居なくなっちまうのか?ま、顔が分かったしどーでも良いか」


アレーティアが先ほど店で買ったケムリダマを地面に叩きつける。勢いよく舞った煙幕の中、アレーティアは私を抱き抱えてその場から離脱した。男は私たちを追って来てはいないようだった。


「オルフィア。あの男に見覚えはあるか?」


「いえ……そもそも、ローブで顔がよく見えなかったわ」


「そうか。とりあえず、今後は慎重に動いたほうが良いな」


私は自身の羽織っているローブに付いたフードを深く被った。

相手は正体不明。頭数も向こうの方が数が多い上、遺失物を製造できるなら、恐らく全員が持っているだろう。


肝心の「こと座」の力も、何故か遺失物には通用しない。遺失物から射出される物も、実体のないエネルギーのような物だからだろうか、操ることはできない。私たちに勝機があるかどうか、考えるまでもなかった。


「おい、何だあの人だかりは?」


アレーティアの指差す方向には、街の掲示板に群がる民衆の姿があった。何か事件でもあったのだろうか。追手は近くに居ないようだが、事情が分かり次第とっとと宿に戻ろう。そう、思っていた。


「……なるほど、そういうことだったのね」


掲示板には、「生死問わず」「それぞれ1000ドラクマ銀貨」という文言と共に、私とアレーティアの人相書きがデカデカと貼り付けてあった。それに加え、人相書きの左下には「ロムニア王国第三王子より」と書いてあった。あの継承者の男は、どうやら王室の関係者だったらしい。


わざわざ追ってこなかったのも、恐らく人相書きを貼り出すことを優先したかったのだろう。とりあえず、人々が人相書きに夢中になっている間に、私たちはそそくさと宿に戻ることにした。



「面倒な状況になったな」


「最悪だけど、収穫もあったわ。あの男が王室関係者なら、居場所がある程度予測がつく」


「……城か?」


「ええ。王家と無関係ではないだろうからね、可能性は高いわ」


ロムニア王国の中央に位置する「ガロリング城」。ロムニアの軍事や政権など国の中枢を担う機関の拠点、かつ王族の住まう場所でもある。街の角の方にあるこの宿屋の窓からでも見えるほどに高い。その大きさはまさしく巨城と形容するに相応しいだろう。


以前のガロリング城は今ほど大きいわけではなかったが、遺失物による防衛システムを確立した後は、よほどそのシステムとやらに自信があったのか、徐々に巨大化していったらしい。今思えば、その防衛システムに用いられている遺失物も、件の継承者の功績なのだろうか。


「多分だが、もうあの男はわざわざ表に出てこないだろうな」


「そう?私が継承者ってわかってるなら、民間に任せるのは危険だと考えそうだけど。王家の人間なら尚更、民の犠牲を出したくないでしょ」


「そうであれば、あんな人相書きは出さない。恐らく製造した遺失物を支給して、数の暴力で潰すつもりだろう。多少の犠牲は顧みないタイプと見た」


「なら、相手が表に出てくるよう仕向けないと……ねえアレーティア。兵器の製造って、どのくらい大変なの?あの男は結構簡単に造ってたように見えたけど」


「私の能力で兵器を製造すること自体に、それほど時間はかからない。だが、その準備はかなり面倒だ。造る兵器の質感、重量、形状を完璧に理解し空に浮かべられなければ、兵器を造るに至れない。それに加え、造る兵器の重さ、複雑かどうかによって、作れる個数に限りが生まれる」


「あの遺失物ならどれくらい?」


「見るに、一日に三個が限界だな。四個目を造ったとて維持できない」


「じゃあ、とっとと動いた方が良さそうね。どうせ追われるんだから、こっちから会いに行ってあげましょう?」

読んでいただきありがとうございます。

良ければ評価や感想、お待ちしております。

次話は6月5日更新予定です。

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