十三星宮
「話してあげるよ」
「……『十三星宮』についてね」
「十三星宮?」
「うん。十三人の継承者を頭に活動してる組織だよ」
「メンバーは勿論全員が継承者」
「今回連れてきてた、転移の子も組織の所属だよ。姿は見せなかったけどね」
「それから──」
「待って」
喋り続けようとしたカルキノスに待ったをかける。
この子……本当に私たちに協力する気があるのか?継承者のみで構成された組織で、転移能力の継承者が所属している事なんて、以前の会話で大体分かる事だ。
「……その転移能力の子って、今どこに居るの?」
この答えで、ハッキリする。
「……さあ?」
カルキノスは、情報を売る気なんて微塵もないのだ。雑な時間稼ぎの仕方だが、コイツに情報を吐かせる術を持たない私たちじゃ、どうにもならない。
転移能力者が近くに居て転移の機会を伺っているか、組織に増援を求めに行ったのだろう。どちらにせよ、やるべきことは一つだろう。
「アレーティア!」
「ああ……!」
私の意図を察したのだろう、アレーティアは縛られたカルキノスと私を抱えて走り出す。
……くそッ、もう一人の気配が探れない。カルキノスの気配が邪魔になっているのか。
オリュンポスの神め。戦争を強制するならもう少しマシな探知能力を寄越してほしいものだ。
「走ったって、もう遅いよ」
抱えられているカルキノスが、そう口にした瞬間だった。私たちはその発言の真意を探る必要なく、理解させられることになる。
((やられた……!))
「説明するより、見せた方が早いだろ?」
危険を冒してまで格上と戦ったのも、見え見えの時間稼ぎをしたのも、全てがこの為の布石!気づけば、森の中を走っていたはずの私たちは、見知らぬ場所に立っていた。
これを喰らうのは二度目だ、何をするべきかは分かっている。
周囲を囲むように並んだ椅子は全部で十三、空席が一つ。それぞれにこれまた見たことのない連中が座っていた。性別や年齢など、外見はバラバラだったが、共通しているのは全員が異人ということだった。もしくは、私と同じように異人の血が混じっているだけなのかもしれないが。
いきなり中心に私たちが現れたというのに、誰一人として立ちあがろうともしない。
異質な空気だ。殺気とも違う、もっと粘ついた何かがこの空間を満たしている。
「客人方」
「私はレグルス。どうか敵意を抑えてくれ」
嫌に冷静な口調で、金髪で髭面の男が「レグルス」と名乗った。
「抑える?殺されかけたし、これから殺されるかもしれない状況で?」
「我々は話がしたいだけだ」
「信用できないわ。ついさっきカルキノスに騙されたばかりだもの」
「……それについても、私が代表して謝ろう。彼は若く優秀だが、少し早計な所がある」
レグルスは、長くモサモサとした髭を撫でながら、カルキノスを一瞥する。次に私たちの方に視線を向け、返事を待つように瞬きをした。
「赦しはしないけれど、話くらいなら聞くわ」
「でも、何か妙な真似をしたら……彼の命は無いと思って」
レグルスはまた髭を撫で、鼻から大きく息を吐いた。
「分かった。とりあえず、単刀直入に言おう」
「アルゴ座にこと座。我々の仲間になってはくれないか?」
「……正気?刺客を遣わせた上で言ってる自覚はある?」
「もともと殺すつもりはなかった」
「聞いたところ、君もこの戦争に疑問を抱いているそうじゃないか」
「……目的とメンバーを教えて。仲間になるかどうかはそれから決める」
「分かった。交渉の席に着いてくれて感謝する」
そう言って、レグルスは話を始めた。
「知っての通り、我々は十三星宮と呼ばれている」
「メンバーは全部で四十六人。が、ほとんどは拠点の外に出ることはない。研究設備に勤めてもらっている」
「主な活動は継承者の拘束、怪物の退治」
レグルスは椅子の背に深く身体を預けた。
まるで、これから口にする言葉の重さを測るように。
「そして、これらの活動の先にあるもの」
「……それは、神々の死だ」
その言葉に、私を抱えるアレーティアが微かに反応したのが分かった。神々を殺そうだなんて、正気じゃない。彼らの力は絶大で、不死性も有している。国一つを、指を振り下ろすだけで滅ぼせる、絶対的な存在だ。
「どうして、神の死を望むの?」
「表面的に言えば『人類の為』、根本を言えば『恨みがある』からだ」
「恨み……」
なるほど、異人ばかりだったのはそういうワケか。千年前、ヘラスの神々は、他国の神々の力が自分らを上回ることを恐れ、戦争の末に神性を奪い冥界に幽閉したと言う。それ以来、均衡だった国々の勢力はヘラスに傾き、今はヘラスを中心に世界が回っている。
異人の言う「恨み」とは、そう言うことだろう。
「ヘラスの神々が何をしたか、君も知っているだろう」
「まあね……アレーティア、貴女はどう思う?」
「……神どもがお前らに何をしたかは知らんが、私も個人的な恨みを抱えている」
「それに、ここから無事に帰れたとて……お前らは追ってくるのだろう?」
「どうだろうか。ただ……」
「『アルゴ座』。君が蘇ったとなれば、神々は君を追うだろう」
「……だろうな」
アレーティアは「上等だ」と言ったふうに鼻で笑った。
「どうせ神を迎え撃つんだ。私は十三星宮の計画に乗ってやっても良いと思ってる」
「……決まりね」
「良いわ。仲間になってあげる……聞くけど、勝機はあるんでしょうね?」
「無論……!」
そう迷いなく言い切ったレグルスの口元は、ニヤリと笑っていた。




