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アルゴナウタイ 〜星海に挽歌を唄えば〜  作者: 雨車誄
序章

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2/6

アレーティア

「私は『アルゴ座』のアレーティア」

「私を目醒めさせたのはお前か?こと座(リラ)


石像から現れた女は、「アレーティア」と名乗った。

羊の毛皮のようなものを羽織っていて、右肩にはその羊の頭蓋骨と思われる装飾を身につけていた。腰には装甲がついていて、そこから分厚い革と金属の帯が垂れていた。


まるで戦場からそのまま現れたような姿をしていた。頭部や胸部を守る装甲が何もないのは、そんなもの必要ないとでも言いたげだった。「アレーティア」という名前の戦士にも、「アルゴザ」という言葉にも聞き覚えはなかったが、偉大な英雄だったのだろう。


「こと座じゃなくて……オルフィアよ」


「そうか。それでオルフィア、私はどうすれば良い?」


「……手伝ってくれるのね?ありがとう」


「忌々しい封印を解いてくれた恩に報いるだけだ」


「……なら、加勢してくれる?恩に報いるんでしょ?」


「図太い奴だな……だが構わん。恩に報いると言ったのは私だからな」

アレーティアは悪態を吐くようにそう言ったが、ほんの僅かに口元が緩んでいた。


「とりあえず、こいつは始末するか?私らに向ける殺気が鬱陶しい」


アレーティアは尻餅をついて動けなくなっているカルキノスの方へと歩いていき、彼の胸ぐらを掴んで持ち上げた。カルキノスとアレーティアの間には大きな体格差がある。持ち上げられたカルキノスの足はジタバタと暴れていたが、地面にも、どこにも触れることは叶わなかった。


「待って待って!」


そのままカルキノスに向かって殴りかかろうとした彼女を、慌てて制止する。

その拍子に、カルキノスはアレーティアの手から逃れ、距離を取った。


「殺さないでほしいの。その……情報とか欲しいから、できれば生け捕りでお願いできない?」

「骨は?」

「……まあ、腕ぐらいなら」


ここで何かを言ってアレーティアの機嫌を損ねさせるのもな。そう思い、渋々了承することにした。カルキノスには気の毒だが、まあ何かあれば転移能力で逃れてくれれば良いだろう。


「じっとしてれば痛くはしないぞ?」


「くっ……」


カルキノスは狼狽(うろた)えながらも、未だ諦めてはいない様だった。それを察したのか、アレーティアは拳を握り直し、構えを取る。そして片手の(てのひら)を上に、指先を相手に向けクイクイっとやってみせた。


「っナメるなよ!」


挑発されたことを感じ取ったカルキノスが先に仕掛けた。

……が、振るった拳はアレーティアの片手で簡単に止まり、もう片方の手でカルキノスは思い切り殴り飛ばされた。圧倒的。そう言えるほどの差が、両者にはあった。


「がふっ……!!」


地面に膝をついたカルキノスの口から、咳とともに真っ赤な血が吐き出された。

(どうして早く転移能力を……まさか、使えないの?!)


「どうした?星座の力を使わないのか?」


アレーティアは、地面に倒れたカルキノスをただ見下ろす。彼女は戦いを楽しんでいるのだろう。だから、彼が起き上がることを待っている。だがもう、彼は起き上がれな──


使()()()()()アレーティア()だって、使って良いんだよ」


口元の血を拭いながら、カルキノスが起き上がる。明らかに再起不能になるほどの外傷だというのに、どうして起き上がれる。一番可能性が高いのはカルキノスの星座……だが一体、どんな能力で立ち上がってるというのだろう。


「使わん。必要が無い」


「ナメられてるね。まあ、何でもいいけどさ……!」


そう言ってカルキノスは強く踏み込み、アレーティアに向かって素早い蹴りを何度も繰り出す。が、アレーティアはそれを軽くいなしていく。


「威力が上がったか……が、軽いな」


「ちっ……!」


めげずにカルキノスは拳をアレーティアの顔面目掛けて打ち込もうとするが、それも片手で止められ、返しに一発。腹部に重い一撃を貰い派手に吹っ飛んだ。


できれば加勢しようだなんて考えていたが、とても私が割り込めるレベルの戦いじゃなく、目で追うのが精一杯だった。


「ゲホッ……ゲホッ……!」


カルキノスが立ち上がった。

フラフラとした、おぼつかない足取り。それでも、立ち上がった。


「まだ立つのか。そろそろ死んでしまうぞ?」


「死ねないさ。()になるまではね」


そう言いながら、カルキノスは再度攻撃を仕掛けた。殴りかかるかと思いきや、地面が揺れるほどに強く踏み込んだ。その勢いのまま肘を曲げ、関節部分をアレーティアの横っ腹に()ち込む。


「……っ」

「神になるだと?」


今まで何ともなさそうだったアレーティアの顔が、僅かに歪む。


「知らないの?星海戦争で勝つと、願いを一つ叶えてもらえる上に、神の仲間入りを果たせるんだよ」

アレーティアの繰り出す拳を避け、カルキノスは距離を取る。


「くだらんな」

「くだらなくないさ、少なくとも僕にとってはね」


再びアレーティアとの距離を詰めたカルキノスは、くるりとアレーティアに背中を向けた。


「……何だ?」

「最後っ屁さ。何せ、腕がもうダメになったんでね……ッ!」


そのまま肘を入れた時同様に力強く踏み込み、背中を使って体当たりをかます。


喰らったアレーティアはその巨体に似つかぬほど大きく吹っ飛んだ。

カルキノスはその一撃で力尽きたか、そのまま地面に倒れ込んだ。


「ちょっと!聞きたいことが……」

倒れたカルキノスを強めに揺さぶってみるも、目を覚まさないどころか、急速に生気が薄れて行くのがわかる。よく見れば、身体中が痣だらけで、骨折している箇所もある。常人なら、意識を保つどころか、痛みで立つこともままならない程の傷だ。


「アレーティア!起きてる?!」


「ん……ああ、見慣れん技だったな。まともに喰らってしまった」


「お疲れ様のところ申し訳ないんだけど。動けそうなら少し手伝ってくれる?」


「ダメージは少しあるが、問題ない」


カルキノス(この子)を今から治療するの」

「オルフィアは医術の心得があるのか?」


「無いわ。道具も包帯ぐらいしか」

「だから霊薬(エリクサー)を作るの。錬金術を使ってね」


錬金術。私たちヘラスと異国の人間が共同で、神に近づく事を目的に設立した学問とされている。数十年前、「賢者の石」や「人造人間(ホムンクルス)」など、錬金術により生み出された発明は軒並み厳しく禁じられるようになった。


だがこの霊薬はその対象外。賢者の石とは違い永遠の命を得る効果は無いが、死にかけの命を救える程度には強力だ。「命を縫い付ける薬」なんて呼ばれていたりもするほどだ。


『木々よ、身体の一部を分けてくれる?』


周囲の木々から受け取った樹液やら枝やらを小瓶の中に入れる。カルキノスの傷口から血液を匙で掬って、小瓶の中に入れた。


霊薬は傷を治すわけではなく、魂をこの世に繋ぎ止める薬だ。植物を集めるのは大地との結びを強める為、本人の血液は効力の底上げに。


そして──


「アレーティア、血を少し分けて欲しいのだけれど」


「何だと?」


「必要なのよ、異性の血が」


「ならオルフィアでも良いだろう」


「私のはダメなの。余計なモノが入ってるから」

「訳が分からん……!」

「良いから、一滴で良いの。早くしないと死んじゃうわ」


アレーティアは渋々自身の親指の腹を噛み、血を数滴、小瓶の中に落とした。


「よし……」


小瓶を中心に、地面に円形の術式を木の枝で描いていく。


途端、術式から煙が吹き出し、小瓶を覆い隠す。次に小瓶が現れた時、木の枝やら血やらが詰まっていたはずの中身は、緑色で半透明な液体に変わっていた。


「……成功したのか?」

「即席の術式だから分からないけど……」


念の為縛ってから、瓶の中身をカルキノスの傷口に掛けていく。

すると、見る見る内に傷が治癒していった。擦り傷や打撲痕、折れた骨に、おそらく内臓までも修復されていっているのが分かる。同時に、カルキノスの顔に生気が戻った。


「ハッ……?!」

「……何だ、全然元気じゃん。良いの入ったと思ったんだけどな」

目を覚ましたカルキノスは、一瞬何が起きたのか理解が追いついていないようだったが、すぐに状況を把握できたようで、ピンピンしているアレーティアを見て不貞腐れているようだった。


「で、わざわざ治療なんかして。どうするつもり?」


「貴方の仲間について、知ってる事を話してくれる?」


カルキノスは少しだけ目を伏せた。


「……話さなかったら?」


「別に。無理にとは言わないわ」

「ただ、次は助けない」


「……」

少しの間、沈黙が流れる。


「臆病な君なら、どうせ助けると思うけど……」


「話してあげるよ」

「ただし、条件がある」


「条件?」


「君に同行させてほしい。見たところ戦争に興味はないみたいだし、問題はないだろ?」


「……『十三星宮(じゅうさんせいきゅう)』についてね」

最後までお読みいただきありがとうございました。

次回は5月7日19:30に投稿予定です。

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