第4章:「私がいる」
ウィンターはゆっくりと上昇していく。
重力など存在しないかのように。
その姿を追うように、
頭上の血雲が渦を巻いた。
無数の血流が降り注ぐ。
傷口へ。
砕けた鎧へ。
失われた肉体へ。
血は彼を修復する。
癒やす。
再生する。
傷は閉じる。
装甲は蘇る。
失われた力が戻ってくる。
いや――
それ以上だった。
血雲は彼を強化していた。
より強く。
より深く。
より異形へ。
ユイは息を呑む。
終わらない。
どれほど傷付けても。
どれほど力を振り絞っても。
彼は立ち上がる。
まるで死そのものが拒絶されているかのように。
やがて。
ウィンターは戦場の遥か上空で静止した。
血雲を背負い。
世界を見下ろしながら。
その赤い瞳がユイを捉える。
そして。
静かに口を開いた。
「人がいる。」
声は小さい。
だが。
戦場全体へ響いた。
「不死者がいる。」
血雲が脈打つ。
「神がいる。」
空気が震える。
大地が軋む。
まるで世界そのものが、
彼の言葉へ耳を傾けているかのようだった。
ユイは動けない。
本能が警鐘を鳴らしている。
危険だと。
逃げろと。
だが視線を逸らせない。
ウィンターは両腕をゆっくり広げた。
血の翼のように。
世界を抱く王のように。
そして。
告げる。
「――そして、俺だ。」
沈黙。
誰も声を出せなかった。
誰も否定できなかった。
その言葉には根拠がない。
理屈もない。
証明もない。
だが。
それでも。
その瞬間だけは。
誰もが信じてしまった。
目の前にいる存在が。
人でもない。
不死者でもない。
神ですらない。
もっと別の何かだと。
ユイの背筋を冷たいものが走る。
胸が締め付けられる。
息が苦しい。
理解してしまったからだ。
あれは傲慢ではない。
虚勢でもない。
狂気ですらない。
ウィンターは本気でそう信じている。
自分だけが例外であると。
自分だけが理の外側に立つ存在であると。
そして何より恐ろしいのは――
その言葉を笑えなかったことだった。




