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第5章:自信の香り

荒い呼吸が漏れる。


ユイの胸が激しく上下する。


《ピュアエナジースーツ》はまだ彼女を包んでいる。


だが。


身体は限界に近かった。


全身が重い。


視界が霞む。


肺が焼けるように痛い。


上空ではウィンターが静かに浮かんでいる。


巨大な血雲を背負いながら。


まるで世界そのものを覆う災厄のように。


その存在感だけで息が詰まる。


(どうやって……)


ユイは唇を噛む。


(どうやって倒せばいいの……?)


神すら超越したと豪語する存在。


傷付けても再生する。


力を削っても蘇る。


終わりが見えない。


恐怖が胸を締め付ける。


その時だった。


ふと。


違和感が生まれる。


赤。


白。


血雲と光。


その対比を見つめるうちに。


何かがおかしいことに気付いた。


「……待って。」


ユイは目を細める。


呼吸が止まる。


血雲。


その巨大な塊を見上げる。


そして。


気付いた。


小さい。


以前より。


確実に。


血雲が縮んでいる。


「……!」


鼓動が跳ねる。


思考が加速する。


戦闘開始時より明らかに質量が減っている。


なぜ。


どこへ消えた。


ユイは視線を落とす。


戦場を見る。


無数の死体。


無数の血溜まり。


血。


どこまでも広がる血。


だが――


動いていない。


「そうか……!」


目が見開かれる。


血はそのままだ。


吸い上げられていない。


回収されていない。


血雲へ戻っていない。


ユイの脳裏で全てが繋がった。


「集めていないんじゃない。」


違う。


「集められないんだ。」


その瞬間。


稲妻のような閃きが走る。


(血雲。)


(血の鎧。)


(両方を同時に維持している。)


そして。


答えへ辿り着く。


「同時にはできない……!」


声が漏れる。


恐怖より早く。


希望が胸を満たした。


「攻撃と防御を同時にはできない!」


それが限界。


それが制約。


それが弱点。


ウィンターは無敵ではない。


万能ではない。


ただ圧倒的なだけだ。


ユイの瞳に光が戻る。


絶望が剥がれ落ちていく。


代わりに宿るのは確信。


勝機だ。


確かに存在する。


拳を握る。


光が弾ける。


エネルギーが呼応する。


まだ終わっていない。


まだ届く。


ユイはゆっくりと立ち上がった。


上空の血魔を見据える。


今なら見える。


力の綻びが。


システムの穴が。


「勝てる……!」


その言葉と共に。


両手へ光が集まり始める。


ユールス。


生命力。


希望。


無数の想い。


全てが彼女の掌へ収束する。


右手に一つ。


左手に一つ。


二つの光球が生まれる。


純白の輝き。


回転する光。


鼓動する力。


決意が込められるたびに大きくなる。


強くなる。


上空。


ウィンターはそれを見下ろしていた。


赤い瞳が細められる。


観察するように。


測るように。


そして。


口元がわずかに歪んだ。


「その匂い。」


低い声が響く。


「嫌いじゃない。」


ユイは眉をひそめる。


ウィンターは笑っていた。


ほんの僅かに。


楽しむように。


「自信の匂いだ。」


冷たい声。


だがその瞳は鋭い。


彼もまた理解している。


戦況が変わったことを。


ウィンターは視線を上げる。


血雲を見る。


残量を確認するように。


静かに計算する。


(まだ足りない。)


血雲は減っている。


確実に。


長引けば不利になる。


そして。


彼は視線を下げた。


戦場を見る。


そこには味方がいた。


彼に従う兵士たち。


彼を信じる者たち。


命を懸けて戦った者たち。


彼らを見つめる。


一瞬だけ。


本当に一瞬だけ。


考える。


(喰うか?)


静かな思考。


感情はない。


罪悪感もない。


彼らの血を吸えば。


時間を稼げる。


鎧を維持できる。


防御を強化できる。


生存率も上がる。


合理的だ。


極めて合理的。


だが。


「……いや。」


ウィンターは小さく呟いた。


価値がない。


時間を稼ぐだけ。


勝利には繋がらない。


必要なのは延命ではない。


解答だ。


勝つための手段。


それだけ。


彼の視線が再びユイへ戻る。


光球はさらに膨れ上がっていた。


先ほどまでの少女はいない。


恐怖に怯える戦士もいない。


そこにいるのは。


勝利を掴もうとする敵だ。


危険な敵だ。


ウィンターは静かに目を閉じる。


思考を加速させる。


探せ。


突破口を。


勝ち筋を。


終わらせる方法を。


時間稼ぎではない。


防御でもない。


必要なのは。


ただ一つ。


勝利だ。


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