7.戦闘②
昼に差しかかるころ、街でゴブリンを売ってから、レオスが言った。
「そろそろ貯金もできたし、ロスカもそれなりに戦えるようになってきた。これからベザクへ向かおうぜ」
――ついに来た。
この街を出発する。
ロスカの心に、不安の影が下りた。
あくまでこれは、レオスをベザクに送り届ける旅だ。
勇者の落としものを集めに行く旅ではない。
いつかレオスの言っていた裁きが下るのではないか。
そもそも、魔物を単体で撃破はできるようになった。
それも弱い魔物だからだ。
もっと強い魔物が現れたら?
魔物の群れに出会ったら――
「大丈夫。いざというときは、俺が守る。それに、お前は勘がいい。きっと致命傷はもらわないはずだ」
ロスカの不安を見透かしたように、レオスが言った。
勘がいいとは、初めての戦闘のあとに言われたことだった。
相手はゴブリンだったが、どう攻撃していいかわからず、にらみ合いが続いた。
だが相手のゴブリンも痺れをきらして、襲いかかる。
なんとか剣で攻撃を防ぐ。
何度かのやりとりのあと、ゴブリンはフェイントを入れてきた。
剣で攻撃を受けた後に、蹴りを入れてきたのだ。
だが、ロスカは最初に剣で攻撃を受けた時点で、先ほどまでの攻撃となにか違うと感じていた。
そのため、その蹴りを避けることができた。
攻撃を外したゴブリンは、そのままバランスを崩す。
その隙を逃さずに、ロスカは渾身の一撃をたたき込んだ。
その戦いを見ていたレオスの言葉だった。
ロスカにもその実感はある。
なんとなく、これは危険だと本能が訴えかけてくる。
レオスは、今までの経験のおかげで死なないための行動を一瞬のうちに判断できるのだろうと言っていた。――村での経験が決して無駄ではなかった。
「わかった。早くレオスをベザクに届けないとね」
ロスカは改めて、決意を固めた。
荷物を準備してから、二人は街を出た。日差しも出て、ほどよいそよ風も吹く。まさしく旅日和だった。
「ベザクまで歩いたら結構かかるんだよね?」
「そうだな。途中、剣の修行時間をとることを考えると、半年くらいはかかるだろうな」
少なくとも半年は、生きていなければいけない。
いつもレオスに聞かれるまだ死にたいかどうかという質問。
ロスカには、まだ答えられないというのが正解だった。
まだ、死にたいという気持ちもある。
でも、今の生活が楽しい。
美味しいものを食べて、レオスと他愛のない話をする。
これが続くのなら、生きていくのも悪くない。
だけど、レオスがいなくなってしまったら、同じように生きていけるとは思えない。
ロスカは頭を振って、考えを頭から追い出した。
今は旅に集中しよう。
いつ魔物が襲ってくるとも限らない。
慣れた森を抜け、大草原を歩く。
レオスはよく冗談を言って、ロスカを笑わせた。
「今日はここまでにしょう」
レオスが言った。
今日は、街で買ったやわらかいパンに、牛の肉を挟んだサンドイッチを食べて、焚火のそばで眠った。
歩いた疲れからか、よく眠れた。
翌朝、レオスから言いつけられている素振りを行ってから、また出発した。
大草原を抜けると、また森があった。
「ロスカ、ここの森で出てくる魔物は今までのような弱い魔物だけじゃねぇ。気ぃ抜くなよ」
「わかった……」
レオスはそう言うが、ロスカには何となく危機感がなかった。
かつて村で魔物に襲われかけているときには恐怖を感じたが、今は全くその感情はない。
――結局、まだ死にたいってことなのかもしれない。
ロスカは、臆することなく前に進んだ。
その時、絶叫がこだました。男の声だ。
見ると、馬車が見える。
馬車の御者が叫んだようだ。
魔物が馬車を取り囲んでいる。
今までのようなゴブリンではない。それは、オークだった。
「……おい、ロスカ!」
ロスカは矢のように駆け出した。馬車の方へ。
「おい、ロスカまて!」
レオスの制止も聞かずに、馬車の元へとたどり着く。
――どうして走っているのだろう。
ロスカは、無意識で走っていた。
走らなければならないと感じた。
出発の前の不安な気持ちは、どこかに消え失せていた。
オークたちの目線が、一斉にロスカに集まる。
オークの数は、全部で五体。
全員、槍や棍棒、大剣などの武器を持っている。
「おい! 危ないぞ! 早く逃げなさい!」
馬車の中に逃げ込んだ御者が言う。
ロスカの姿を見て、子供なので危ないと判断したのだろう。
ロスカの胸元で、レオスがため息をついた。
「その行動力には本当にびっくりだが、飛び込んじまったもんは仕方がねぇ。絶対にこいつら全部倒すぞ」
「もちろんだよ。早く終わらせよう」
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