3.旅立ち③
ロスカの住むザルディア国の王都・ヴァルクに着いたのは、馬車での移動から四日目の昼すぎだった。
予定では早朝に着くはずだったが、ロスカの荷物も金もなく、途中で木の実をとって腹を満たしたため、到着は遅れた。
初老の御者は、ロスカの食料の調達に文句を言わず、ただ黙って待っていた。
回収者のために城に向かうとわかっていた御者は、同情したのだろう。
彼は無口なようで、食事の度にロスカにパンを何も言わずに一切れ渡した。
ロスカは受け取るが、結局半分以上を残してしまった。
体が、食べ物を拒絶していると気付いてからは、断るようにしていた。
――どうせもうすぐ死ぬのだから。
どんな行動をとっても最後にはこの言葉が待っていて、ロスカの気力を吸い取っていた。
街に入ると、見たこともないようなたくさんの人が歩いていた。
どんな人も、活気にあふれ、一歩一歩に力強さがある。
馬車の幌で隠れられていてよかったとロスカは思った。
誰の視界にも写りたくない。存在を認識されたくない。
街を見るのをやめて、顔を膝に埋めた。
馬車はそのまま、街を抜け、城に着いたようだった。
門番と御者が話をしている。
どうやら、ロスカは昼からの就任式に遅れてしまっていたので、小言を言われているようだった。
話を終えた御者は、わざわざ馬車の後ろへ回り、降りようとするロスカの手を取った。
ロスカは驚いたが、抵抗はせずにそのまま降りる。
しかし、ロスカが馬車を降りても、御者は手を離さない。
驚いたロスカの右手に、御者はぎゅっと両手で握手した。
大きな暖かい手だった。
その時、ロスカははじめて御者と目を合わせた。
そこにあった感情は、村人とは全く違うものだった。
慈愛に満ちた優しい瞳――だが、今のロスカは届かなかった。
「頑張れよ」
はじめて御者は口を開いた。
そして、言い終わると小走りで自分の馬車に戻っていった。
ロスカは、この御者の優しさを素直に受け取れなかった。
私にこんなことをしても無駄ですよと心の奥で叫んだ。
若い門番はロスカを見て一瞬ぎょっとしたが、すぐに元の仕事の顔になった。
そして、城の中へと案内する。
中に入ると、もう逃げられないとでもいうように、扉は固く閉ざされた。
ロスカは、ヴァルクの周囲に広がる森に来ていた。
この森は魔物が出るため、人と会うことはない。
ロスカを受け入れる準備ができているかのように、森は静まりかえっていた。
周囲を見渡すと、太い枝の木が目についた。
何をしてもそう簡単に折れないような木だ。
その木の真下に立つ。
「リゼル・テラ」
ロスカの足下が隆起し、枝の前に彼女を差し出した。
その枝に、腰につけられていたロープを巻き付ける。
そして、一つの輪ができあがった。
そこに顔が来るように、ロスカは隆起した地面を調整する。
「やっと死ねる……」
その輪に顔を通し、ロスカが魔法を解除しようとしたその時だった。
「ちょっと待ったー!」
その場に聞き慣れない声が響き渡った。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
そんなあなたに幸せが訪れますように。




