36.レオスの過去③
それからすぐに、レオスは騎士団長から呼び出された。
半壊した城の応接室に入ると、そこには二人の少女がいた。
一人は、紺色のローブに身を包んだ少女だ。
ゆるくカールした黒髪が、束ねられている。
じろりと赤い瞳が、値踏みするようにレオスを見ている。
この少女は、明らかに魔法使いだろう。
首や指に、魔道具と思われるアクセサリーがついている。
それに腰のベルトには、虹色に光る石の杖が刺さっていた。
もう一人の少女は、真っ白なローブを着ている。
この色は間違いなく回復魔法士だ。
顎のラインにきっちり切られた金髪は、芸術品のように美しかった。
先ほどの魔法使いとは違い、紫の瞳は不安げに揺れている。
魔法使いの杖とは違い、回復魔法士の杖は少女の身長ほどもあった。
それを右手に携えている。
華奢な体には、不釣り合いな杖だ。
「おお、レオス。来てくれたか」
団長が、レオスを見てほんの少し口の端を上げる。
団長も、この戦争が起こってからすっかり老け込んでしまった。
顔のしわが増えて、真っ黒い髪にはたくさんの白が混じっている。
「どうして私は呼ばれたのでしょうか」
レオスは団長に尋ねる。
「まあ、もう少し待ってくれ。もう一人来るんだ。説明はそのあとにしよう」
団長が言い終わらないうちに、扉がノックされる。
「入りたまえ」
扉が開くと、そこにはセリオンが立っていた。
彼に会うのは久しぶりだが、ずいぶんと精悍な顔つきになっていた。
あの頃のやわらかい雰囲気は、すっかり消え去っていた。
セリオンがレオスの隣に並ぶと、見習い騎士のことを思い出した。
セリオンは今も、レオスより小さい。
しかし、それはわずかな差になっていた。
未だに細身ではあるが、見ただけで圧倒されるような気配を漂わせている。
「よし。全員そろったな」
団長は椅子から立ち上がって、話し始めた。
「実は諸君には、極秘任務を行ってもらいたい」
「極秘任務ですか?」
回復魔法士が、不安げな表情で聞き返す。
団長はうなずくと、そのまま話を続けた。
「そうだ。この四人で行うのは魔王の討伐だ」
二人の少女が息をのむのがわかった。
先ほどの雲に隠れた大魔法の使いが、脳裏にちらつく。
「所詮、相手は魔物だ。率いている頭さえ潰してしまえば、この戦争も終わるだろう」
「たった四人でですか……?」
回復魔法士の少女が不安げに尋ねる。
その不安はもっともだ。
危険な魔物だと、最低でも分隊で相手をするのが普通だ。
たった四人で魔物討伐をするなんて聞いたことがない。
「そうだ。君たちは、我が国の中でも抜きん出て才能のある者たちだ。これほどの人材が一度に集まることも、金輪際ないだろう。私は君たちならできると思っている」
団長は、レオスたち四人の顔を見ながら話す。
今ここでどれだけ褒められても、国のために死んでくれと言われているようにしか感じられない。
レオスたちが何も言わないのを確認すると、団長はまた話を続けた。
「君たちは基本的に隠密行動をとってほしい。あくまで魔王の討伐だけを考えるのだ。相手は所詮魔物だ。頭さえ叩けばこの戦争は終わるだろう」
確かに攻めてくる魔物たちは、統率がとれているだけで、魔物自体の知能が変わっただけではない。
操られているか、単純な命令を聞いているかの二択だろう。
「承知しました」
セリオンが、何の躊躇もなく答えた。
全員の視線が、一瞬でセリオンに向かう。
指先まで揃えた右手を胸に当てて、敬礼もしている。
レオスもセリオンに習って敬礼した。
所詮、レオスは騎士だ。
上長に死ねと言われたら、死ななければならない。
そこに自分の意思はないのだ。
少女二人も、おずおずと敬礼した。
ローブで隠れていたが、彼女たちの装備にはザルディアの国紋が刻まれている。
彼女たちにも、断る権利などない。
団長は満足げに四人を見ると、大きなテーブルに地図を広げた。
「先ほど、魔王を追跡していった者から情報が入った」
団長は、一つの場所を指さす。
「ベザクにあるオルダナ火山。そこまで行ったところで情報が途絶えた。諸君には、ベザクまで向かってもらおうと思う」
団長はまた全員の目を見た。
「これは人類の存亡をかけた戦いだ。頼んだぞ」
「承知しました」
そこから、レオスたち四人の魔王討伐の旅が始まった。
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