35.レオスの過去②
それから三年の月日が経った。
レオスはその間、死に物狂いで努力した。
だがそれでも、セリオンには一度も勝つことはできなかった。
セリオンは、敵なしだった。
教官も、この国最強と言わしめた騎士さえも、セリオンには敵わなかった。
セリオンは実力が認められ、わずか一か月で、早々に正騎士へと昇格した。
彼のための特殊な役職が設けられ、現在は全線で活躍している。
これは歴代新記録だそうだ。
そしてレオスも、また三か月という短期間で正騎士になった。
これも本来は新記録のはずだった。
何をしても、セリオンには勝てない。
周りはレオスが、精神的に折れないか心配していたようだった。
しかしレオスは、セリオンが未だに誰にも負けていないことに心底ほっとしていた。
セリオンにさえ勝ってしまえば、この国最強の名が手に入る。実に単純な話だ。
気付けばこの三年で、レオスは隊長を務めるまでになっていた。
ただの庶民が、異例の出世だった。
これ以上は貴族の存在があるので、昇格することは難しいだろう。
レオスにとっては、くだらない考えだった。
そんな忙しい日々の中、突如としてそれは起こった。
魔物たちとの全面戦争だ。
森や海、洞窟などの魔物たちの住む場所から、人間の村や街へ襲い掛かったのだ。
何の準備もなく襲われた人々は、抵抗空しく犠牲になっていった。
あっという間に、人間の数は減っていく。
レオスたちも、国中を走り回った。
魔物たちは、どこに潜んでいるのかわからない。
レオスの隊の仲間も、たくさん殉職した。
それでもレオスは踏ん張った。
ここで自分が頑張らなければ、レオスの暮らした村だって救えない。
魔物を一匹でも減らして、両親を救う。
それだけを考えていた。
久しぶりに城に戻ると、言いにくそうに部下が伝えてきた。
レオスの住む村は、とっくの昔に襲われて滅んでいた。
生き残りは、誰一人としていない。
それを聞いて、レオスは抜け殻のようになった。
必死になって強くなった意味は何だったのだろう。
ひたすらに最強を目指していたのに、自分の家族すらも守れない。
そんな人間が、最強になれるはずがない。
大きな満月がレオスを照らす。
どれだけ家族を思っても、涙は出てこなかった。
心の中に穴が空いている。それはわかっていたが、仕事はこなせた。
次の日には、いつも通り魔物を殲滅する日々が待っていた。
レオスは自分が本当に冷たい人間なのだと思った。
それから三か月。なんとか持ちこたえていたザルディアは、この戦争の元凶を知ることになる。
自らを魔王と名乗る存在が、ザルディアに声明を出したのだ。
ちょうどレオスも城に一度戻り、用事をこなしていた時のことだった。
空に真っ黒な雲が広がり、ゴロゴロと雷も鳴っている。
太陽の光は、一瞬にして消え去った。
その中から、地を這うような低い声が響き渡った。
「私は魔王。魔物を統べる者だ。このまま国を滅ぼされたくなければ、降伏せよ」
国中の人間が、それを聞いた。
姿は見えないが、強大な力が渦巻いているのは、誰もがわかっていた。
それでも、人類は降伏しなかった。
人々は黒い雲へ、石や瓶など投げつけた。
「誰が魔物の下につくか!」
「そうだそうだ! 人間をなめるな!」
様々な声が、空に向かって投げつけられる。
しばらくその様子を見ていた雲は、また一際大きい雷鳴を轟かせる。
レオスは、とんでもない魔力がそこに集まっているのを感じた。
辺り一面に、強い光が駆け抜ける。思わず目をつぶる。
轟音。
大きな音が、街中に響き渡った。
続いて、地震。いや、違う。
レオスは、慌てて窓から飛び降りる。
二階だったが、関係ない。
地面に着地して見上げると、城が崩壊しているところだった。
豪華だった装飾も、ただの石に変わりガラガラと崩れていく。
城の半分は、崩れてしまった。
もうもうと立ち上る砂埃の中から、悲鳴や泣き声が聞こえる。
セリオンに負けたあの時の記憶が蘇る。
「また何もできなかった……」
魔王の力の差を、人々は思い知った。
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